聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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27 成長のおにぎり

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夜。
魔王城の台所には、かすかな鼻すすりの音がこだましていた。

「うぅ……しくしく……」
すすり泣いていたのは、わたしだった。
人気のない台所の隅で、テーブルに突っ伏して肩を震わせている。
残っていた鬼のオーガの厨房長が、あたふたと手をふっている。その隣には、ネズミイがちょこんと座っていた。

「みんなと仲良くしたかっただけなのに……っ」
「言い方がキツかったかもしれない? いやいや、相手に水ぶっかけられたんだろ?そりゃ当然の反応だって」

ネズミイが、耳をしょんぼり垂らして肩をすくめる。

「しかもスネクから“それは世界基準の対応ですわ”って言われたんだろ? だったらお前、よくやったよ。むしろプロだよプロ」
「そうそう!」
オーガは無骨な手で、ちんまりとしたおにぎりを差し出した。

「つらい時はな、まず食え! お前ちっこいから、指先でちまちま握るの大変なんだぞ。はやく育って、俺の拳サイズのおにぎり食えるようになれ! そしたら誰もいじめねこねぇ!」
「オーガの握り飯って、俺の頭よりでけぇんだけど……」
ネズミイが突っ込む。

「よし、ネズミイも食え! ビッグマウスになれ!」
「ちょ、俺関係ないじゃん!?」

ネズミイの前にネズミイの頭サイズのおにぎりが置かれる。

うわぁっ!デカすぎ!

そんなやりとりを聞きながら、私は、ぽろぽろ涙をこぼしつつ、おにぎりをひとくち、またひとくちと口に運ぶ。

おいしい。

味付けなんてされていない、ただの塩むすび。
でも、不思議と、胸の奥がじんわりあたたかくなる。
わたしのためにわざわざ握ってくれたおにぎりだからだ。

「昔な、魔王さまもここでよく泣いてたんだ」
「えっ……!?」
「魔王さまが!?」

ふたりの視線が一斉にオーガへ向く。

「ああ。スネクが魔王さまの教育係でな。帝王学に表情訓練、あれやこれや。ちっこい頃から毎日ビシバシよ。……でも、ほんとは魔王さまも、リンみたいに、ただの純粋な子どもだったんだよ」

「魔王さまもあの訓練を……でも、立場的にみんなの前で泣くことも許されない立場だったんですね。ここで泣くしかなかったんだわ」

私は、ぽつりとつぶやく。
この年齢でもつらいのに、小さい時からなんて。

オーガは少し照れくさそうに頭を掻いた。

「まあ、俺の前ではな、いくらかは子どもらしかったよ」
「……そっか。オーガさんって、昔からの家臣なんですね」
「いや、違う」

と、唐突に言い放たれた。

「うーん、有名な話だから。一応伝えるとスネクは俺の妻だ」

――沈黙。

「えええええええええええ!!!!!」
「え、あの、蛇ムチスネクが!?」
ネズミイが思わず食べていたおにぎりを吹き出す。

「そう! 俺が夜な夜なビシビシ鞭をうたれてるのはそういう理由だ!」

わたしとネズミイはそろって変な顔になった。
いや、違う意味で涙が出そうである。

「……だからな」
オーガは、にっと笑った。

「スネクの教育でヘコんで、泣いて、俺のおにぎり食って、また頑張る――それが、ひとつの成長セットなんだよ。魔王さまもそうやって大きくなった。……お前も泣ききったら、明日からまた行ってこい」

わたしは、鼻をすする。
涙はもう止まっていた。

「……うん」

小さく、でもしっかりとした声だった。
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