29 / 44
29 選ぶのはわたし
しおりを挟む
魔王城・最上階が騒然となっていたその頃。
私は一人、机に向かっていた。
スネク先生から出された“宿題”に取り組み中である。
今日はスネク先生、メイドたちの研修があるから時間が取れないのか。それをさらっと私に伝えるあたり、呼ばれない私は、もう「メイド」じゃないってことなんだなあ。
神官見習いから魔王城のメイドになったと思ったんだけど、ゴミ山の処理が終わったら、わたし無職だよね。
頑張ってたのに。
淑女レッスンも、変なウォーキングも、紅茶の入れ方も。
お辞儀の角度だって完璧目指した。
ぜんぶ、魔王さまのそばでお役に立ちたくて――
――でも、まだ正式なお仕事はもらえない。
じわっと涙がにじむ。
……ダメダメ! 卑屈は罪!
スネク式・自己肯定感トレーニング!
毎日1000個、自分の素晴らしいところを書き出して、声に出して暗唱!
ええと、今日は――
・お日様がまぶしいと思えた!
・いわく付きゴミ山をひとつ減らせた!
・お城の瘴気にパタパタはたきをかけた!
・ネズミイさんに「おはよう」が言えた!
・厨房長に「ありがとう」が言えた!
・ごはんが美味しいと思えた!
ええと、ええと、あと994個は……
そのとき。
机の上の魔石が、ふわっと光ったかと思うと、エアリアが風ごと飛び出してきた。
「りんちゃん! たいへんだよー!!」
エアリアの様子がおかしい。
飛べない鳥みたいにバタバタ手を動かしている。
しかもいつも余裕の雰囲気なのに、なんか焦ってる。
「え? エアリアさん? どうしたんですか?」
「おちついて! 落ちついて聞いてね!!」
エアリアが息を吸い込んだ瞬間――
「――待った!!」
風と水がぶつかるような音とともに、今度はウンディーネが突入してくる。
「エアリア! ダメよ、それは魔王さまの口から言わせなきゃ!」
「でも!! リンちゃんだけが知らないの、絶対おかしいでしょ!? おかしいでしょ!!」
風がブワッと舞って、魔石がガタガタと震えた。
二人が言い合ってるなんて……ただ事じゃないことがあったんだ。
これは、きっと――自分と、魔王さまの間に何かが起きた。
スネク先生なら、こういうとき……なんて言ってたっけ……?
首をすくめるのは、蛇だけです!!
……だった? いや?違う!
不安? 焼き払え!
不信? 蹴り飛ばせ!
……だった、気がする。
うーん、どうやって??
「ええと……とりあえず、わたし、笑顔で聞くから……ゆっくり、教えて?」
ウンディーネが困ったように顔を見合わせたそのとき。
――すぅっ。
音もなく、ドアが開いた。
「廊下まで騒ぎ声が響いています。淑女として、あるまじき行為ですね」
そこに立っていたのは、スネク先生だった。
「リンさん、背筋はピンと! 胸は張ってお聞きなさい」
するするっと、音もなくリンの前に立つ。
リンは椅子から慌てて立ち上がり、姿勢を正す。
「はいっ! スネク先生! わたしが世界基準ですっ!」
スネクはにっこり微笑む。
「よろしい。さて、魔王さまから何かご連絡は?」
「え、いえ。何も……伺っておりません」
スネク先生まで??
これはいよいよ何かあったんだ。
気合を入れて、鼻の穴を広げて、胸を張ってきくわ。
さあ!ドンとくるがいい!
わたしが世界基準!!
わたしは覚悟を決めた。
「そう。ではお伝えします。先ほど魔王さまが魔王会議にて、あなたを妻にされると宣言なさいました」
「わかりました! 私が世界基準! 向こうがひざまずくまで、堂々と立ち続けま――す……???えっ??今なんて?」
「“えっ?”、ですって?」
ビシィッ!
スネクの蛇ムチが光ったと同時に、わたしの足元にバチンと打たれる。
「そこは、『私を選んだのは正解! でも、私が選ぶかは別よ』です!!」
「えええええ!!!」
「ええ、じゃありません! 淑女たるもの、魔王であろうと、あなたは求められる存在であるべきです! 選ぶのはこちら!」
「はいっ! スネク先生! 気合いが足りませんでした。わたしが世界基準ですっ!」
その様子を見ていたウンディーネとエアリアは、魔石の上で、ただ呆然とするしかなかった――。
私は一人、机に向かっていた。
スネク先生から出された“宿題”に取り組み中である。
今日はスネク先生、メイドたちの研修があるから時間が取れないのか。それをさらっと私に伝えるあたり、呼ばれない私は、もう「メイド」じゃないってことなんだなあ。
神官見習いから魔王城のメイドになったと思ったんだけど、ゴミ山の処理が終わったら、わたし無職だよね。
頑張ってたのに。
淑女レッスンも、変なウォーキングも、紅茶の入れ方も。
お辞儀の角度だって完璧目指した。
ぜんぶ、魔王さまのそばでお役に立ちたくて――
――でも、まだ正式なお仕事はもらえない。
じわっと涙がにじむ。
……ダメダメ! 卑屈は罪!
スネク式・自己肯定感トレーニング!
毎日1000個、自分の素晴らしいところを書き出して、声に出して暗唱!
ええと、今日は――
・お日様がまぶしいと思えた!
・いわく付きゴミ山をひとつ減らせた!
・お城の瘴気にパタパタはたきをかけた!
・ネズミイさんに「おはよう」が言えた!
・厨房長に「ありがとう」が言えた!
・ごはんが美味しいと思えた!
ええと、ええと、あと994個は……
そのとき。
机の上の魔石が、ふわっと光ったかと思うと、エアリアが風ごと飛び出してきた。
「りんちゃん! たいへんだよー!!」
エアリアの様子がおかしい。
飛べない鳥みたいにバタバタ手を動かしている。
しかもいつも余裕の雰囲気なのに、なんか焦ってる。
「え? エアリアさん? どうしたんですか?」
「おちついて! 落ちついて聞いてね!!」
エアリアが息を吸い込んだ瞬間――
「――待った!!」
風と水がぶつかるような音とともに、今度はウンディーネが突入してくる。
「エアリア! ダメよ、それは魔王さまの口から言わせなきゃ!」
「でも!! リンちゃんだけが知らないの、絶対おかしいでしょ!? おかしいでしょ!!」
風がブワッと舞って、魔石がガタガタと震えた。
二人が言い合ってるなんて……ただ事じゃないことがあったんだ。
これは、きっと――自分と、魔王さまの間に何かが起きた。
スネク先生なら、こういうとき……なんて言ってたっけ……?
首をすくめるのは、蛇だけです!!
……だった? いや?違う!
不安? 焼き払え!
不信? 蹴り飛ばせ!
……だった、気がする。
うーん、どうやって??
「ええと……とりあえず、わたし、笑顔で聞くから……ゆっくり、教えて?」
ウンディーネが困ったように顔を見合わせたそのとき。
――すぅっ。
音もなく、ドアが開いた。
「廊下まで騒ぎ声が響いています。淑女として、あるまじき行為ですね」
そこに立っていたのは、スネク先生だった。
「リンさん、背筋はピンと! 胸は張ってお聞きなさい」
するするっと、音もなくリンの前に立つ。
リンは椅子から慌てて立ち上がり、姿勢を正す。
「はいっ! スネク先生! わたしが世界基準ですっ!」
スネクはにっこり微笑む。
「よろしい。さて、魔王さまから何かご連絡は?」
「え、いえ。何も……伺っておりません」
スネク先生まで??
これはいよいよ何かあったんだ。
気合を入れて、鼻の穴を広げて、胸を張ってきくわ。
さあ!ドンとくるがいい!
わたしが世界基準!!
わたしは覚悟を決めた。
「そう。ではお伝えします。先ほど魔王さまが魔王会議にて、あなたを妻にされると宣言なさいました」
「わかりました! 私が世界基準! 向こうがひざまずくまで、堂々と立ち続けま――す……???えっ??今なんて?」
「“えっ?”、ですって?」
ビシィッ!
スネクの蛇ムチが光ったと同時に、わたしの足元にバチンと打たれる。
「そこは、『私を選んだのは正解! でも、私が選ぶかは別よ』です!!」
「えええええ!!!」
「ええ、じゃありません! 淑女たるもの、魔王であろうと、あなたは求められる存在であるべきです! 選ぶのはこちら!」
「はいっ! スネク先生! 気合いが足りませんでした。わたしが世界基準ですっ!」
その様子を見ていたウンディーネとエアリアは、魔石の上で、ただ呆然とするしかなかった――。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる