聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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29 選ぶのはわたし

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魔王城・最上階が騒然となっていたその頃。

私は一人、机に向かっていた。
スネク先生から出された“宿題”に取り組み中である。

今日はスネク先生、メイドたちの研修があるから時間が取れないのか。それをさらっと私に伝えるあたり、呼ばれない私は、もう「メイド」じゃないってことなんだなあ。

神官見習いから魔王城のメイドになったと思ったんだけど、ゴミ山の処理が終わったら、わたし無職だよね。

頑張ってたのに。
淑女レッスンも、変なウォーキングも、紅茶の入れ方も。
お辞儀の角度だって完璧目指した。
ぜんぶ、魔王さまのそばでお役に立ちたくて――

――でも、まだ正式なお仕事はもらえない。

じわっと涙がにじむ。

……ダメダメ! 卑屈は罪!

スネク式・自己肯定感トレーニング!

毎日1000個、自分の素晴らしいところを書き出して、声に出して暗唱!

ええと、今日は――

・お日様がまぶしいと思えた!
・いわく付きゴミ山をひとつ減らせた!
・お城の瘴気にパタパタはたきをかけた!
・ネズミイさんに「おはよう」が言えた!
・厨房長に「ありがとう」が言えた!
・ごはんが美味しいと思えた!

ええと、ええと、あと994個は……

そのとき。

机の上の魔石が、ふわっと光ったかと思うと、エアリアが風ごと飛び出してきた。

「りんちゃん! たいへんだよー!!」

エアリアの様子がおかしい。
飛べない鳥みたいにバタバタ手を動かしている。
しかもいつも余裕の雰囲気なのに、なんか焦ってる。

「え? エアリアさん? どうしたんですか?」
「おちついて! 落ちついて聞いてね!!」

エアリアが息を吸い込んだ瞬間――

「――待った!!」

風と水がぶつかるような音とともに、今度はウンディーネが突入してくる。

「エアリア! ダメよ、それは魔王さまの口から言わせなきゃ!」
「でも!! リンちゃんだけが知らないの、絶対おかしいでしょ!? おかしいでしょ!!」

風がブワッと舞って、魔石がガタガタと震えた。

二人が言い合ってるなんて……ただ事じゃないことがあったんだ。
これは、きっと――自分と、魔王さまの間に何かが起きた。

スネク先生なら、こういうとき……なんて言ってたっけ……?

首をすくめるのは、蛇だけです!!
……だった? いや?違う!

不安? 焼き払え!
不信? 蹴り飛ばせ!

……だった、気がする。

うーん、どうやって??

「ええと……とりあえず、わたし、笑顔で聞くから……ゆっくり、教えて?」

ウンディーネが困ったように顔を見合わせたそのとき。

――すぅっ。

音もなく、ドアが開いた。

「廊下まで騒ぎ声が響いています。淑女として、あるまじき行為ですね」

そこに立っていたのは、スネク先生だった。

「リンさん、背筋はピンと! 胸は張ってお聞きなさい」

するするっと、音もなくリンの前に立つ。
リンは椅子から慌てて立ち上がり、姿勢を正す。

「はいっ! スネク先生! わたしが世界基準ですっ!」

スネクはにっこり微笑む。

「よろしい。さて、魔王さまから何かご連絡は?」
「え、いえ。何も……伺っておりません」

スネク先生まで??

これはいよいよ何かあったんだ。
気合を入れて、鼻の穴を広げて、胸を張ってきくわ。
さあ!ドンとくるがいい!
わたしが世界基準!!

わたしは覚悟を決めた。

「そう。ではお伝えします。先ほど魔王さまが魔王会議にて、あなたを妻にされると宣言なさいました」

「わかりました! 私が世界基準! 向こうがひざまずくまで、堂々と立ち続けま――す……???えっ??今なんて?」

「“えっ?”、ですって?」

ビシィッ!

スネクの蛇ムチが光ったと同時に、わたしの足元にバチンと打たれる。

「そこは、『私を選んだのは正解! でも、私が選ぶかは別よ』です!!」

「えええええ!!!」

「ええ、じゃありません! 淑女たるもの、魔王であろうと、あなたは求められる存在であるべきです! 選ぶのはこちら!」

「はいっ! スネク先生! 気合いが足りませんでした。わたしが世界基準ですっ!」

その様子を見ていたウンディーネとエアリアは、魔石の上で、ただ呆然とするしかなかった――。
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