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30 【サイド】魔王の恋わずらい
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「さて、これからどうしようかな」
魔王は執務室に戻ると、椅子に腰を下ろし、机に肘をついて息を吐いた。
号外がすでに出回っている。
誰かがリークしたのだろう。手回しが良すぎる。
「え? 考えて宣言したんじゃないんですか?」
トミーが目を丸くする。
「考えたさ。とびきり打算的に、な」
魔王はかすかに笑った。
「けど――リンを嫁にする。……これ以上マシな手が、あるか?」
これで堂々と、会いに行ける。
今までは、魔王がわざわざ一人の女性のもとに行くなら、それなりの理由がなければ顔を出せなかった。
理由はちゃんと作った。
リンは俺の嫁になる。
これ以上にない理由だ。
寝顔を盗み見るしかできなかった日々が、やっと終わる。
……会える。
それだけで、どうしようもなく、胸が高鳴る。
顔が見たい。
声が聞きたい。
ちゃんと眠れてるか、ごはんを食べてるか。
…それだけだ。ただ、それだけ。
何度もそう思い込もうとしている。
けれど、心のどこかでは気づいている。
これはもう、ただの情じゃない。
とっくに――好きになっている。
彼女が魔王だからと特別扱いしないでくれること。
自分がどんなに望んでも、手に入れられない家庭的な雰囲気を体験させてくれたこと。
瘴気に飲まれて死ぬしかないと俺が覚悟を決めた城の中で、無邪気に瘴気を浄化してくれたこと。
そこに、魔王に好かれようと媚を売るなどは全くない。
彼女の世界は、自分も、魔王も、魔族も精霊もみんなフラットで、それが心地よい。
けれど、かつての人間の世界で彼女の境遇は悲惨だ。
自分は「この世界に来て初めて守ってくれた大人」なのだ。
この異世界で頼れる存在が、自分以外他にいない。
そんな立場の自分が想いを告げたら――
それは、愛じゃなくて命令になる。
しかも、彼女は自分が聖女だと知らない。
知った時、聖女だから嫁にされたと、利用されたと悲しむだろうか。
「リンさんに会ったら、なんて言うつもりなんですか?」
「……さあな。“愛してないけど、結婚してくれ”……とか?」
俺は心にも思ってないことを言おうか迷っていた。
魔王の立場で、彼女を気にとめたことで、彼女の危険が増していることはエアリアからも聞いていた。
いっそ、聖女だから結婚するふりをしてしまうほうが、彼女の笑顔や安全を守れるのでは……
「最低ですね、それ」
トミーが肩をすくめた。
「ていうか、本当に愛してないんですか?リンさんのこと好きでしょう」
魔王は言葉を飲み込んだ。
トミーとの付き合いは長い。
しっかり悟られている。
「ごはん、ちゃんと食べてるか。眠れてるか。魔王さま、毎日リンさんのことを気にしてますよね?普通、そこまで他人のこと見ませんよ」
「……恋っていうのはもっとこう、触れたいとか、抱きしめたいとか、そんな感じじゃないのか?そういうのをイメージしてるんだったら違う」
そういうのはない。
少なくとも、自分はリンにそういう欲を抱いたことがない。
そばにいて欲しい存在で、ただ好きな存在なのだ。
でも、そんな思いを表面に出して許されるのか?
「でも、“隣にいてほしい”って願ってるんですよね?それ、十分すぎるほどの愛情だと思いますけど」
やっぱり隠せてなかったか。
俺は、トミーを真剣な顔で見つめた。
「……ただ、笑っていてほしいだけなんだ」
それが、自分の唯一の願いだ。
トミーは静かに笑った。
「それが“好き”じゃなかったら、たぶん、もう何も信じられませんよ」
俺は目を伏せた。
どうやら、自分がリンに恋をしているのは、トミーにもバレバレだったようだ。
ーー
夜。リンには、人目を避けて行くと伝えてある。
それだけで緊張が走る。
今日の会議なんかより、よっぽど怖い。
絶望的な状況のはずなのに、
会えると思うと、どこか嬉しくて。
でも――嫌われたら?
泣かれたら?
一つ、息を吐いた。
「……だいじょうぶだ。大丈夫」
根拠のない言葉を呟いて、俺はリンの部屋へと転移した。
魔王は執務室に戻ると、椅子に腰を下ろし、机に肘をついて息を吐いた。
号外がすでに出回っている。
誰かがリークしたのだろう。手回しが良すぎる。
「え? 考えて宣言したんじゃないんですか?」
トミーが目を丸くする。
「考えたさ。とびきり打算的に、な」
魔王はかすかに笑った。
「けど――リンを嫁にする。……これ以上マシな手が、あるか?」
これで堂々と、会いに行ける。
今までは、魔王がわざわざ一人の女性のもとに行くなら、それなりの理由がなければ顔を出せなかった。
理由はちゃんと作った。
リンは俺の嫁になる。
これ以上にない理由だ。
寝顔を盗み見るしかできなかった日々が、やっと終わる。
……会える。
それだけで、どうしようもなく、胸が高鳴る。
顔が見たい。
声が聞きたい。
ちゃんと眠れてるか、ごはんを食べてるか。
…それだけだ。ただ、それだけ。
何度もそう思い込もうとしている。
けれど、心のどこかでは気づいている。
これはもう、ただの情じゃない。
とっくに――好きになっている。
彼女が魔王だからと特別扱いしないでくれること。
自分がどんなに望んでも、手に入れられない家庭的な雰囲気を体験させてくれたこと。
瘴気に飲まれて死ぬしかないと俺が覚悟を決めた城の中で、無邪気に瘴気を浄化してくれたこと。
そこに、魔王に好かれようと媚を売るなどは全くない。
彼女の世界は、自分も、魔王も、魔族も精霊もみんなフラットで、それが心地よい。
けれど、かつての人間の世界で彼女の境遇は悲惨だ。
自分は「この世界に来て初めて守ってくれた大人」なのだ。
この異世界で頼れる存在が、自分以外他にいない。
そんな立場の自分が想いを告げたら――
それは、愛じゃなくて命令になる。
しかも、彼女は自分が聖女だと知らない。
知った時、聖女だから嫁にされたと、利用されたと悲しむだろうか。
「リンさんに会ったら、なんて言うつもりなんですか?」
「……さあな。“愛してないけど、結婚してくれ”……とか?」
俺は心にも思ってないことを言おうか迷っていた。
魔王の立場で、彼女を気にとめたことで、彼女の危険が増していることはエアリアからも聞いていた。
いっそ、聖女だから結婚するふりをしてしまうほうが、彼女の笑顔や安全を守れるのでは……
「最低ですね、それ」
トミーが肩をすくめた。
「ていうか、本当に愛してないんですか?リンさんのこと好きでしょう」
魔王は言葉を飲み込んだ。
トミーとの付き合いは長い。
しっかり悟られている。
「ごはん、ちゃんと食べてるか。眠れてるか。魔王さま、毎日リンさんのことを気にしてますよね?普通、そこまで他人のこと見ませんよ」
「……恋っていうのはもっとこう、触れたいとか、抱きしめたいとか、そんな感じじゃないのか?そういうのをイメージしてるんだったら違う」
そういうのはない。
少なくとも、自分はリンにそういう欲を抱いたことがない。
そばにいて欲しい存在で、ただ好きな存在なのだ。
でも、そんな思いを表面に出して許されるのか?
「でも、“隣にいてほしい”って願ってるんですよね?それ、十分すぎるほどの愛情だと思いますけど」
やっぱり隠せてなかったか。
俺は、トミーを真剣な顔で見つめた。
「……ただ、笑っていてほしいだけなんだ」
それが、自分の唯一の願いだ。
トミーは静かに笑った。
「それが“好き”じゃなかったら、たぶん、もう何も信じられませんよ」
俺は目を伏せた。
どうやら、自分がリンに恋をしているのは、トミーにもバレバレだったようだ。
ーー
夜。リンには、人目を避けて行くと伝えてある。
それだけで緊張が走る。
今日の会議なんかより、よっぽど怖い。
絶望的な状況のはずなのに、
会えると思うと、どこか嬉しくて。
でも――嫌われたら?
泣かれたら?
一つ、息を吐いた。
「……だいじょうぶだ。大丈夫」
根拠のない言葉を呟いて、俺はリンの部屋へと転移した。
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