聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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31 そばにいたい

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魔王さまがくる。
魔王さまと会える。

スネク先生には
「選ぶのは自分だ! 跪かせろ!」
って叩き込まれたけど――

みんながいなくなってシーンと静まり返った部屋はやっぱり寂しくて、今までの人生になかったわたしの動向を常に心配してくれる魔王さまとただ会いたいとしか思えなかった。

会えなかった時のことをいろいろお話ししたい。
また、魔王さまにコーヒーを入れてあげたい。
ただそばにいたい。


……わかってる。

魔王さまは、優しい人だ。
商店街で「嫁候補」と言っていたのは、わたしがこの世界にいる大義名分を作る必要があるからだ。

今回の魔王会議の嫁宣言は、いろんなこの世界の重鎮が集まる会議だという。
魔王さま本人が望まずとも、わたしを嫁にすると言わないといけなかったものかもしれない。

意地悪なメイドさんたちは、魔王さまには身分の高い魔族の女性からの結婚の申し出がたくさん来てるって言っていた。

この世界に私に身内がおらずら後ろ盾も何もないことを心配してくれているのもある。
魔界では人間の立場が弱いことも、嫌というほど知った。

だから。
どれだけスネク式で「選ぶのは私!」と訓練されても、
魔王さまが不利を被っているんじゃないかと思うと、申し訳なさで胸がつぶれそう。

……それでも。

会いたい。
魔王さまに、また会いたいよ。

わたしは胸が締め付けられそうになる。
しばらく、私はそのまま誰もいない部屋を何もせずぼんやりみていた。





ふと、振り向くと――
魔王さまが、そこに立っていた。

「あ……」
「その、ノックしようと思ったんだけど……いつものくせっていうか、気づいたら転移してた。」

気まずそうに目を逸らす魔王さまに、わたしはふっと胸が熱くなるのを感じる。

「髪も肌も、以前よりずっと健康的になっているね。少しだけ、顔色もいい。」
「オーガさんやネズミイさんが、気にしてくださってて...」
「そうか、あの二人が。肉付きも良くなって――というのは、女性には失礼か。いや、でもまだ痩せてる。オーガにまた頼んで、栄養があるものをもう少し食べよう。あと……」

魔王さまは、私から視線を逸らすようにして、ずっとつぶやくように私に話かけている。

わたしは、会いたかった魔王さまが......
聞きたかった声が.......
そう思うだけで気持ちが止まらなかった。

「魔王さま、魔王さま……っ!」

わたしの目に涙が溜まり、あっという間にこぼれ落ちる。
魔王さまは、はっとわたしの様子に気付き、何も言わずにぎゅっとわたしを抱きしめた。

「ああ――戻ってきたよ。ようやく、君のもとに。君は何も知らされず、いきなり魔王城の曰く付きの部屋に閉じ込められたんだ。つらかっただろうね。」

わたしの涙に濡れた頬に魔王さまが頬擦りする。

「頼れる人もいないし、周りからの嫌がらせにさらされていることも知っていた。理由もわからないまま、スネクの“理不尽特訓”を受けさせたのも俺だ。恨まれても仕方ない。」

「事情があるんだってちゃんとわかってました。それに、スネク先生のおかげで自分に自信も持てたから、感謝はしても恨むなんてとんでもない。ただ、魔王さまで住む世界が違うと思っても、会えなくて寂しかったんです」

魔王さまは、わたしを抱きしめる手に力を込めた。
今まで触れられなかった分、しっかりわたしのそばにいることが伝わるように。そして、わたしが安心できるように。
それがじわじわ感じられた。

「苦しかっただろう。俺は、何も伝えてやれなかったのに。
リン……ごめん。本当に、ごめんね……」

魔王さまも泣きはじめた。

「情けないな。リンに会えたらなんか、安心しちゃって涙が止まらない」

わたしは、ううんと首を振った。

「こんなふうに弱さを見せるなんて、魔王になってから初めてなんだ。今だけは、リンの前でだけは泣いてもいいかな。
君と過ごしたあの少しの期間は、家族と理不尽に別れなければならなかった自分にとって、とても愛しい瞬間だったんだ。」

  
お互い家族がいない。
お互いを心配したり、たわいもないことを話したり、一緒にただ眠ったり。そんな人がいない。
そんな心の安寧が、このままずっと続けばいいのにって。
魔王さまと一緒にいられたらいいのにって思っていた。

同じ気持ちだったんだ。

「わたしも一緒です。あの一緒にいた時間が嬉しくて、楽しくて、安心して。あのまま続けばいいのにって。」

それだけで嬉しい気持ちになる。

「俺は魔王だからね。いつも先頭切って指示をして、どんな時にも表情を崩さず、この立場で、全てを求めず諦めなければならないのに。リンとの過ごした日々を自分のものにしたかったんだ。君が断れない立場なのはわかっていても、君を嫁にしたかった。」

「嫌々じゃなくて、本当にわたしを?」

「もちろん、本当だよ。何がなんでも、俺が目をかけることで君が嫌な思いをすることが増えるとわかっていても止められなかった。俺が生きている限り、君のそばにいたい。一緒に過ごしたいんだ」

「嫌なわけないじゃないですか。断れないんじゃないです。求められたのを、わたしが、魔王さまを選ぶんです。わたしが、あなたの妻になりたいって、そばにいたいって選んでるんです。無理やりじゃない。わたしが望んでる」

私たちは二人で抱き合って、お互い声をあげて泣いていた。
やっと心許し合える人がそばにいる。
私たちは、孤独じゃない。

そして、泣き止んだ頃。
わたしは涙を拭って、ぽつりと笑った。

「スネクさんの指導って、泣いて、オーガさんのおにぎり食べるまでが成長のワンセットなんだって。オーガさんが言ってました」

その言葉に、魔王さまの行動が止まる。

「記憶にあるな。かつて、泣きながらオーガに厨房でにぎってもらっておにぎりを食べたんだ」

魔王は、ゆっくりとわたしの前にひざまずいた。

「リン。俺は、君に理不尽ばかり強いてきた。これからも、きっとたくさんつらい思いをさせると思う。でも、家族になって欲しい。これから、つらい時は一緒に泣いて、笑って、愚痴って、オーガのおにぎりを一緒に食べよう」

わたしは、嬉しくてすぐに笑って、頷いた。

「はいっ!」





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