聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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32 魔王を倒す者 (魔王視点)

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久しぶりに、リンと笑いながらしばらく会わない間にあったことを話した。

スネクの教育、なかなか...想像通りだな。

スネクは愛情はあるのだが、その迫力がすごいのだ。
その教育を受けたことがあるものは、誰もが叶わないと彼女にひれ伏す。

鞭も痛いというより、いや痛いんだけどそのしなり方と音が激しい。

そして、あの空間を全て支配する長。
もういっそ、代わりに魔王になって欲しいぐらいの恐怖感。
俺は相変わらずスネクには頭が上がらない。

それを溺愛するオーガにも、違った意味で頭が上がらない。

一通り話すと、相変わらず...

ごろん
3秒ーーーぐーっ!

早いな。相変わらず。
しかも大の字だよ。
今日、プロポーズしたらさ、普通は何かあるんじゃないかと思うものだよ。リン。

仕方ない。
時間をかけて、ゆっくり口説き落とそうかな。

俺のリンへの思いは恋情だけど、リンは俺に対して恋よりは家族愛に近いものを持っているようだ。

もちろん、彼女がそれを欲しているんだからすごく嬉しい。
好きだとか愛も大切だけど、そばにいた安心できる。話せる、一緒に過ごして眠れる。
それはこれ以上にない喜びなのを俺も知っている。


そして、リンに添い寝した夜――
俺は、驚きのあまり、思わず引き剥がしてしまった。

……寝相が、良くなっている!?!?

何を言っても、蹴りがこない。
肘鉄も、膝蹴りもない。
うそだろ!!リンだぞ!

むしろ――無意識に、そっと身を寄せてくる。

え? え? どうした!?
その動きのあとに必ずセットで来ていた拳がないぞ!?

(あの鉄拳なしで寄ってくるとか、そんな……!)

もちろん、基本スタイルの“両手バンザイ大の字”は変わらない。
かわいいけどさ。もう少し、大人にならないと...なぁ。

だが、あの攻撃的な寝方は、彼女の不安の現れだったのかもしれない。

「わたし、今まで寝相が悪いって言われたことはないんです!ほんとなんですよぉ!!」

俺とトミーとネズミイに力説してたけど。
誰も信用しなかったけどな。
だって、ゴミ山に転がりながら登るんだから。

「孤児院で誰かを蹴り飛ばすような寝方はしてたら、自分は生きていけないし、子供たちかわいそうじゃないですか!」

リンは教会の孤児院で育った後は、神官見習いでこき使われながら、孤児院の子供の世話もしていたそうだ。
だから、掃除と託児が特技なんだと...

ただ、リンのこんなに穏やかな寝顔を見たのは初めてかもしれない。あどけない子どものような顔だ。

今、どれだけ精神状態が落ち着いているのか。
逆に、これまでどれほど不安だったのか。
俺がいるだけで、ここまで安心してくれるなら

魔界で見たことない魔族が大量にいて、虐められたらそりゃ不安だよな

「今日からは俺がいるからね」

魔王は寝ているリンの髪をなでながら声をかけた。
が...

ん??

なんか?キラキラ光ってないか?

「おいおい。ゴミ山が、キラキラに浄化されてるんだが!!」


俺は思わず目を擦る。

リンの布団の奥にある、曰く付きのゴミ山が、何をしているわけでもないリンがただ、眠っている間にどんどん普通の“ただのモノ”に変わっていく。

え??いや、寝てるよな?えっ!!


俺はリンをじっと見つめた。
リンはただ万歳して寝ているだけだ。

それなのにいわくつきのモノそのものが消えていく。
割れたものが勝手に修復されていく
瘴気も怨念も綺麗さっぱり抜けている。

「必ず片方だけになる靴下」は――なぜか、セットで一体化になっている。

「絡まるイヤホン」は、いつの間にかレッドトゥース対応のワイヤレスイヤホンになって、グレードアップ!!

(……恐るべし、無自覚聖女。寝てても浄化するのか?)

その浄化の波にまぎれて、ウンディーネが“見ないようにしていたもの”まで露出していた。

完全にただの物質。何の力も残っていない。
物の方は何も残ってはいないが、ウンディーネの方の気持ちがどう残ってるかどうかわからない。

俺は冷や汗をかく。

ウンディーネ、すまない。
早く、マクライアとの決着をつけてくれ。
リンが、リンが止まらない!!

……無意識の浄化、強力すぎる。

そして、そっと添い寝しながら、どさくさに紛れてリンを抱きしめた瞬間だった。

「俺の身体の奥にこびりついていた瘴気まで!?」

ふっと抜けて、驚くほど体が軽くなっていく。
サラサラ自分の体から紫や黒の瘴気が抜けていくのが見える

(俺の瘴気まで!!おいおい!そんなの聞いたことない)

癒された感覚に、戸惑う。
けれどそれ以上に、怖くなる

リンが無意識に聖女として力を使っているなら――

彼女の命を削っている可能性だってある。
ウンディーネのように、力を使いすぎて命を落とすなんて、絶対にダメだ。

「触れたらダメとか、言われたら……発狂するぞ俺」

彼女の力を自覚に変えるためにも、ウンディーネに相談しなければ。
このまま、俺を無意識浄化して、命を縮められたら困る。



でも、今日“魔王の妻にしたい”って言われて、明日は“あなたは聖女でした”って……
さすがに伝えるにしても、情報量が多すぎるよな

リンの顔のすぐ近くに、そっと顔を寄せる。
寝息は落ち着いている。
けれど、身体はまだ少し痩せている。

(大丈夫。ちゃんと……生きてる)

思わず、ほっと息をついた。

これから彼女に降りかかるであろう嫉妬や嫌がらせからは、今度は俺が守らなければ。

この前、水をかけたメイドたちは、スネクが即クビにした。
そして俺は、彼女たちが二度と魔王城の仕事に就けないように、裏で手を回した。

……この夜、俺が彼女の部屋で一晩を過ごしたという事実も、広まるだろう。

“既成事実”は、勝手にできていく。
それでいい。

周囲の視線は、リンではなく、俺へと向かうようになる。
それが狙いだった。

なぜなら――

この魔界には、「魔王を殺した者が次の魔王になる」という掟がある。

魔王の座は、自身の血族に引き継がれる
瘴気で、狂化した状態になった父である魔王を、その子供は殺す。
そうしなければ、魔界の秩序は守られない。
魔王も長引けば長引くだけ苦しむ

「……たのむ、殺してくれ」
あのとき、かすれた叫びのように聞こえた父の声が――今も頭から離れない。

彼らは、俺の傍に立つリンが、
“魔王を殺す大切な後継ぎを産む可能性がある”
と捉えるだろう。

純粋な魔族の血にこだわっていても
迂闊に手が出せない
それで、リンの身が少しでも安全になるなら、それでいい。

俺は、リンに指先を向け、そっと防御魔法をかけた。

(……まさか、俺が聖女を守るようになるなんてな)

それでも、この子が隣にいてくれるのなら。

何だってやってやるさ。


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