【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
31 / 70

31 そばにいたい

しおりを挟む
魔王さまがくる。
魔王さまと会える。

スネク先生には
「選ぶのは自分だ! 跪かせろ!」
って叩き込まれたけど――

みんながいなくなってシーンと静まり返った部屋はやっぱり寂しくて、今までの人生になかったわたしの動向を常に心配してくれる魔王さまとただ会いたいとしか思えなかった。

会えなかった時のことをいろいろお話ししたい。
また、魔王さまにコーヒーを入れてあげたい。
ただそばにいたい。


……わかってる。

魔王さまは、優しい人だ。
商店街で「嫁候補」と言っていたのは、わたしがこの世界にいる大義名分を作る必要があるからだ。

今回の魔王会議の嫁宣言は、いろんなこの世界の重鎮が集まる会議だという。
魔王さま本人が望まずとも、わたしを嫁にすると言わないといけなかったものかもしれない。

意地悪なメイドさんたちは、魔王さまには身分の高い魔族の女性からの結婚の申し出がたくさん来てるって言っていた。

この世界に私に身内がおらず後ろ盾も何もないことを心配してくれているのもある。
魔界では人間の立場が弱いことも、嫌というほど知った。

だから。
どれだけスネク式で「選ぶのは私!」と訓練されても、
魔王さまが不利を被っているんじゃないかと思うと、申し訳なさで胸がつぶれそう。

……それでも。

会いたい。
魔王さまに、また会いたいよ。

わたしは胸が締め付けられそうになる。
しばらく、私はそのまま誰もいない部屋を何もせずぼんやり見ていた。





ふと、振り向くと――
魔王さまが、そこに立っていた。

「あ……」
「その、ノックしようと思ったんだけど……いつものくせっていうか、気づいたら転移してた。」

気まずそうに目を逸らす魔王さまに、わたしはふっと胸が熱くなるのを感じる。

「髪も肌も、以前よりずっと健康的になっているね。少しだけ、顔色もいい。」
「オーガさんやネズミイさんが、気にしてくださってて...」
「そうか、あの二人が。肉付きも良くなって――というのは、女性には失礼か。いや、でもまだ痩せてる。オーガにまた頼んで、栄養があるものをもう少し食べよう。あと……」

魔王さまは、私から視線を逸らすようにして、ずっとつぶやくように私に話かけている。

わたしは、会いたかった魔王さまが......
聞きたかった声が.......
そう思うだけで気持ちが止まらなかった。

「魔王さま、魔王さま……っ!」

わたしの目に涙が溜まり、あっという間にこぼれ落ちる。
魔王さまは、はっとわたしの様子に気付き、何も言わずにぎゅっとわたしを抱きしめた。

「ああ――戻ってきたよ。ようやく、君のもとに。君は何も知らされず、いきなり魔王城の曰く付きの部屋に閉じ込められたんだ。つらかっただろうね。」

わたしの涙に濡れた頬に魔王さまが頬擦りする。

「頼れる人もいないし、周りからの嫌がらせにさらされていることも知っていた。理由もわからないまま、スネクの“理不尽特訓”を受けさせたのも俺だ。恨まれても仕方ない。」

「事情があるんだってちゃんとわかってました。それに、スネク先生のおかげで自分に自信も持てたから、感謝はしても恨むなんてとんでもない。ただ、魔王さまと住む世界が違うと思っても、会えなくて寂しかったんです」

魔王さまは、わたしを抱きしめる手に力を込めた。
今まで触れられなかった分、しっかりわたしのそばにいることが伝わるように。そして、わたしが安心できるように。
それがじわじわ感じられた。

「苦しかっただろう。俺は、何も伝えてやれなかったのに。
リン……ごめん。本当に、ごめんね……」

魔王さまも泣きはじめた。

「情けないな。リンに会えたらなんか、安心しちゃって涙が止まらない」

わたしは、ううんと首を振った。

「こんなふうに弱さを見せるなんて、魔王になってから初めてなんだ。今だけは、リンの前でだけは泣いてもいいかな。
君と過ごしたあの少しの期間は、家族と理不尽に別れなければならなかった自分にとって、とても愛しい瞬間だったんだ。」

  
お互い家族がいない。
お互いを心配したり、たわいもないことを話したり、一緒にただ眠ったり。そんな人がいない。
そんな心の安寧が、このままずっと続けばいいのにって。
魔王さまと一緒にいられたらいいのにって思っていた。

同じ気持ちだったんだ。

「わたしも一緒です。あの一緒にいた時間が嬉しくて、楽しくて、安心して。あのまま続けばいいのにって。」

それだけで嬉しい気持ちになる。

「俺は魔王だからね。いつも先頭切って指示をして、どんな時にも表情を崩さず、この立場で、全てを求めず諦めなければならないのに。リンと過ごした日々を自分のものにしたかったんだ。君が断れない立場なのはわかっていても、君を嫁にしたかった。」

「嫌々じゃなくて、本当にわたしを?」

「もちろん、本当だよ。何がなんでも、俺が目をかけることで君が嫌な思いをすることが増えるとわかっていても止められなかった。俺が生きている限り、君のそばにいたい。一緒に過ごしたいんだ」

「嫌なわけないじゃないですか。断れないんじゃないです。求められたのを、わたしが、魔王さまを選ぶんです。わたしが、あなたの妻になりたいって、そばにいたいって選んでるんです。無理やりじゃない。わたしが望んでる」

私たちは二人で抱き合って、お互い声をあげて泣いていた。
やっと心許せる人がそばにいる。
私たちは、孤独じゃない。

そして、泣き止んだ頃。
わたしは涙を拭って、ぽつりと笑った。

「スネクさんの指導って、泣いて、オーガさんのおにぎり食べるまでが成長のワンセットなんだって。オーガさんが言ってました」

その言葉に、魔王さまの行動が止まる。

「記憶にあるな。かつて、泣きながらオーガに厨房でにぎってもらっておにぎりを食べたんだ」

魔王は、ゆっくりとわたしの前にひざまずいた。

「リン。俺は、君に理不尽ばかり強いてきた。これからも、きっとたくさんつらい思いをさせると思う。でも、家族になって欲しい。これから、つらい時は一緒に泣いて、笑って、愚痴って、オーガのおにぎりを一緒に食べよう」

わたしは、嬉しくてすぐに笑って、頷いた。

「はいっ!」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

処理中です...