33 / 70
33 それぞれの視点、それぞれの朝
しおりを挟む
「ごめん、あなたたちに進展があると思った私がバカだったわ」
翌朝、魔石から出てきたウンディーネは、頭を抱えて深く溜息をついた。
「せっかく気を利かせて、お城の水回りで遊んだり、エアリアと遊んできたのに帰ったら何も変わってないじゃないのよ」
「何を言って? 僕は彼女にプロポーズまでしたんだよ。進展してないわけがない。まったく君といい、オーガやネズミイといい……」
魔王はぶちぶち文句を言いながら、私に「ねえ」って同意を求める。
◇
今朝、こっそり二人の様子を見に行ったウンディーネは、ひと目見て悟った。
――進展、ゼロ。
なぜなら、そこには何もなかった顔で、仲良く並んで、おにぎりを食べている二人の姿があったからだ。
なんでそんなに、いつも通りなのよ……!!!
あんたたち一夜を過ごしたんでしょうよ!
あれだけのことがあった翌朝だというのに、恥じらうでもなく、顔を赤らめるでもない。
なんで、ただただ真剣におにぎりを頬張るリンと、淡々と「おにぎり握って」と台所のオーガにおにぎりを注文した魔王。
揶揄う隙も、ときめく隙も、微笑ましくなる隙もなかった!
◇
その少し前に遡るーー厨房でも同じ空気が流れていた。
前日は、魔王がリンを嫁にするって宣言したんだよな
うーん、あの服を脱がそうとした段階で恋心があったのか?
あの要素のどこに??
わかんないもんだが、あんなに魔王城はやばかったのに、あんなに穏やかな顔でくつろいでる魔王様をみるのも初めてだったな
ネズミイは回想する。
二人のラブラブ姿か?
想像できるような、出来ないような。
「おはようございます」
「へっ!!」
ネズミイは思わず、声の方を振り返る。
お前たち、何朝からやってきてるんだよ!
オーガも飛び出てくる。
「まだ早朝だぞ!二人でいるなら、いろいろ、ほらいろいろあるだろ」
一人で突っ込みながら、赤くなるオーガ。
だが、二人には伝わってない。
「おにぎり握って」と仲良く並んだその姿を見てオーガとネズミイは顔を見合わせる。
進展、あったか?
だが――その空気感は、前と何も変わっていなかった。
いや、むしろ“元に戻っただけ”という感じすらする。
察した瞬間。
ガシャンッ。
二人同時に、無言で、情緒も一緒に鍋ごと落とした。
ネズミイは震える声で、うわごとのように呟く。
「……進展ゼロかよぉぉおぉぉ……!!」
そのまま、両手で顔を覆って、二人そろって床に崩れ落ちた。
◇
「あ、あの……すいません! 急いで食べますね!!」
リンは、ウンディーネの視線に気づき、「なにだらだら食べてるのよ」という圧に焦っておにぎりを頬張る。
「いいの。ゆっくり食べてて……スネクですら、気を遣って今日のレッスンは休みにしたっていうのに。明日から間違いなく、鞭が飛ぶに決まってるんだからね!」
そして、ため息をつきながらふと振り返ったウンディーネの視線が、ゴミ山で止まる。
えっ??えっ!!
「……ああ、そうなんだよ。ごめんね。なんか一気に浄化されちゃって……。ゴミ山の下に隠したかったんだけど、もう隠すほどモノが残ってないのさ」
魔王が謝る。
どう見ても、どの角度から見ても、いや目を閉じても、あれは見える。
――あれは、かつてマクライアからもらった婚約指輪。
しかも、魔王城の空気が良いせいか、ピカピカに輝きを取り戻している。
見る勇気がなかった。
触れるのも怖かった。
心の整理に数日かけて、ようやく踏ん切りをつけようとしていた、その矢先。
ウンディーネは、わなわなと震えた。
「わたしの……わたしの……貴重な心のざわめきを返せー」
その叫びとともに、怒りの感情を込めた鉄拳級の水流魔法が、魔王の頭上に容赦なく降り注いだ。
「ああ!すぐ床を拭きますね!!」
リンがそれを見てモップを持って慌てて走り出す。
魔王はずぶ濡れになりながらも苦笑いし、
「リン、まず僕を拭くのが先だよ」
と軽くツッコんだ。
翌朝、魔石から出てきたウンディーネは、頭を抱えて深く溜息をついた。
「せっかく気を利かせて、お城の水回りで遊んだり、エアリアと遊んできたのに帰ったら何も変わってないじゃないのよ」
「何を言って? 僕は彼女にプロポーズまでしたんだよ。進展してないわけがない。まったく君といい、オーガやネズミイといい……」
魔王はぶちぶち文句を言いながら、私に「ねえ」って同意を求める。
◇
今朝、こっそり二人の様子を見に行ったウンディーネは、ひと目見て悟った。
――進展、ゼロ。
なぜなら、そこには何もなかった顔で、仲良く並んで、おにぎりを食べている二人の姿があったからだ。
なんでそんなに、いつも通りなのよ……!!!
あんたたち一夜を過ごしたんでしょうよ!
あれだけのことがあった翌朝だというのに、恥じらうでもなく、顔を赤らめるでもない。
なんで、ただただ真剣におにぎりを頬張るリンと、淡々と「おにぎり握って」と台所のオーガにおにぎりを注文した魔王。
揶揄う隙も、ときめく隙も、微笑ましくなる隙もなかった!
◇
その少し前に遡るーー厨房でも同じ空気が流れていた。
前日は、魔王がリンを嫁にするって宣言したんだよな
うーん、あの服を脱がそうとした段階で恋心があったのか?
あの要素のどこに??
わかんないもんだが、あんなに魔王城はやばかったのに、あんなに穏やかな顔でくつろいでる魔王様をみるのも初めてだったな
ネズミイは回想する。
二人のラブラブ姿か?
想像できるような、出来ないような。
「おはようございます」
「へっ!!」
ネズミイは思わず、声の方を振り返る。
お前たち、何朝からやってきてるんだよ!
オーガも飛び出てくる。
「まだ早朝だぞ!二人でいるなら、いろいろ、ほらいろいろあるだろ」
一人で突っ込みながら、赤くなるオーガ。
だが、二人には伝わってない。
「おにぎり握って」と仲良く並んだその姿を見てオーガとネズミイは顔を見合わせる。
進展、あったか?
だが――その空気感は、前と何も変わっていなかった。
いや、むしろ“元に戻っただけ”という感じすらする。
察した瞬間。
ガシャンッ。
二人同時に、無言で、情緒も一緒に鍋ごと落とした。
ネズミイは震える声で、うわごとのように呟く。
「……進展ゼロかよぉぉおぉぉ……!!」
そのまま、両手で顔を覆って、二人そろって床に崩れ落ちた。
◇
「あ、あの……すいません! 急いで食べますね!!」
リンは、ウンディーネの視線に気づき、「なにだらだら食べてるのよ」という圧に焦っておにぎりを頬張る。
「いいの。ゆっくり食べてて……スネクですら、気を遣って今日のレッスンは休みにしたっていうのに。明日から間違いなく、鞭が飛ぶに決まってるんだからね!」
そして、ため息をつきながらふと振り返ったウンディーネの視線が、ゴミ山で止まる。
えっ??えっ!!
「……ああ、そうなんだよ。ごめんね。なんか一気に浄化されちゃって……。ゴミ山の下に隠したかったんだけど、もう隠すほどモノが残ってないのさ」
魔王が謝る。
どう見ても、どの角度から見ても、いや目を閉じても、あれは見える。
――あれは、かつてマクライアからもらった婚約指輪。
しかも、魔王城の空気が良いせいか、ピカピカに輝きを取り戻している。
見る勇気がなかった。
触れるのも怖かった。
心の整理に数日かけて、ようやく踏ん切りをつけようとしていた、その矢先。
ウンディーネは、わなわなと震えた。
「わたしの……わたしの……貴重な心のざわめきを返せー」
その叫びとともに、怒りの感情を込めた鉄拳級の水流魔法が、魔王の頭上に容赦なく降り注いだ。
「ああ!すぐ床を拭きますね!!」
リンがそれを見てモップを持って慌てて走り出す。
魔王はずぶ濡れになりながらも苦笑いし、
「リン、まず僕を拭くのが先だよ」
と軽くツッコんだ。
10
あなたにおすすめの小説
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる