王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範

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第4話 アドリアン②

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 オリビアとの食事──!!
 それは激務の間の癒し。だが苦しみでもある。

 オリビアと共にいられることはうれしいことだが、彼女の余に気のない顔はどうだ。それは苦しい。
 これほどそばにいて手を伸ばせば届くのに、彼女の肌はおろか、ドレスの上からも抱いたことなどないのだから。

 余は誰より先に食事の間に行ってしまう。それほど楽しみなのだ。侍女たちは慌てて食膳を用意し、オリビアを呼びに行った。
 ああん、もう。早く来ないかなァー!

 やがて扉が開き、あの美しき女神と見紛うオリビアがやって来る。いよ! 待ってましたァー! あー。抱き締めたい。

 しかし、余の気持ちとは裏腹に目も合わさず席に着いた。どこかに心を置いてきてしまったかのように。人形が座ったかのようだ。

 何か話すことはないだろうか? うーん。国境に異民族が現れて境を侵しそうだとかはおかしいよな。橋を架ける話もどうだろう。色気がないぞ。

「あ~。う、うん。宰相の提案でスザンヌという側室を得たわけだが、我々より三つも年下らしい」

 ん? 側室──。いやヤバくね? もっと気の利いた話はないのかよぉ。
 だがオリビアは顔を上げた。

「左様でございますか。私は本日会いました」

 お。会話が続いた。奇跡かよ。悪い感触じゃないぞ。

「ほうそうか。どうであった」
「はつらつにして気品があり、美しく魅力的な話し方であります。陛下のお相手に丁度よろしいかと」

「丁度いいだと……?」

 クソ! オリビアは余に自分以外の女を抱けというのだ。それはないだろう。キミは余の妻ではないか。そんな余計な一行はいらないんだよ!

「気に入らんな」

 その時僅かにオリビアの肩が震えた。反応があったのだ。怒ることによって反応が得れるからますます口調を荒げてしまった。
 本当なら今すぐ彼女のそばにいって抱き締めて慰めてやりたいのに、その原因を作ったのは他ならぬ自分。はぁ。余のバカ。大バカ野郎……。





 イラつきながら自室に戻ろうとすると、近侍がスザンヌが初登城したのだから部屋に行くようにと勧めるので、何も考えずに彼女の部屋へと行くと、桃色のカーテンが幾重にも下げられ甘い芳香が焚かれている。そして彼女の侍女の声だった。

「国王陛下、姫様の部屋にお渡りィ……」

 そこにスザンヌとおぼしき女が後ろに侍女を二人引き連れてしずしずと桃色カーテンの奥から現れて跪いた。

「お待ちしておりました陛下。今宵は陛下の思うがままに楽しんでくださいませ」

 しまった。これは伝えに聞く初夜の所作だ。これでは流されるままに彼女と関係しなくてはならなくなる。

 彼女の侍女たちは、静かにカーテンの向こうに消える。彼女は跪いたままだ。私がエスコートしなくてはならない。
 とりあえず彼女の手をとって立たせると、スザンヌは小さく熱い吐息を漏らす。

 いやちょっと待て。キミはその気でも、余にその気はないのよ。好きな妻がいるのに、他の女性となど……。

「スザンヌか。噂通りの美しさだな」
「ええ。父に私の勤めのことは聞いておりますが何事も初めてです。無礼があったら平にご容赦を」

「いや言うに及ばぬ。時に王宮はどうか?」
「はい。とても広いです。華美な場所で目がくらむ思いです」

「なに目がくらむと? おうさようか。目眩はよくない。そうそうに休んだほうがよい」
「──いえ陛下。そういう意味では」

「いやオリビアに比べたらキミは若い。無理してはいけないよ」

 そう言って余は両腕に彼女を抱えベッドに運んだ。スザンヌは両腕を首に回したが、スマン。その気はない。
 彼女をそこに置いて、毛布を掛ける。そして髪を撫でてやった。

「陛下。なんてお優しい──」
「気にする必要はない。早く良くなってくれ。お休みスザンヌ」

「あのぅ。陛下」
「うむ。気にするな。余はいつもの部屋に戻るとしよう」

 私は彼女の部屋を出て自室へと帰った。側室を二人もどうしよう……。相当なご乱行君主の絶倫王じゃないか。オリビアはどう思ってるだろう……?
 いや軽蔑してるに決まってる。あの冷ややかな態度を見れば一目瞭然だ。側室二人いたら当たり前だよな。
 でも違うんだよオリビア。余はキミだけを愛しすぎて未だに未経験。それでいいのか、余よ?

 オリビアをこの腕に抱き締めたい。壊すくらい抱き締めたい。彼女は許してくれるだろうか? せめて彼女の部屋に入ることが叶えば──。ああ……。





 次の日の朝食。いつもより早く朝食の場に来てしまった。なんとかオリビアに自分の気持ちを伝えなくては。
 そして今度こそ彼女を抱き締めるのだ。

 しかし彼女は一向に来る気配は無い。余は楽しみに毎朝早くにここに来ているのに。
 悲しい。結局彼女を好きなのは……。愛しているのは余だけなのだ。
 沸々と悲しい思いが余を押し潰す。彼女が嫌いな余と閨を共にするだろうか? そんなわけはない。

 その時、朝食の間の扉が開いた。そしてオリビア付きの侍女が声高く宣言する。

「王妃さまのお成りィ」

 その声に余以外の者たちは跪いて身を低くする。私は先ほどの苛立ち。彼女が自分を受け入れないという思いをそのままぶつけた。

「遅い。いつまで待たせるのだ」

 しまったぁ! つい思っていたことがそのまま出てしまった。これではさらに嫌われてしまう。
 ああ、着席する姿もなんと美しい。クソ! 余のクソ! なんとか挽回する言葉を──。

「ぃゃ、王室の礼儀だからついそのぅ……。余も早く来てるから、キミも早く来た方がいいかなぁと。まぁなんだ。そう。王室の礼。王室の礼なのだからキミもそう心得たまえ」

 ふぅ~、こんなんでどうだ。なかなかいいセリフじゃないか。急場しのぎながらよく出来たほう?
 えーと、何を話そう。いつも話すことをメモろうと思ってるのにまた忘れたぞ?
 あー、水路の話とか? 下水の話とか。いや食事中に汚いぞ? 盗賊討伐とか、国境の兵士の話……。

 なんて色気がない。
 色気と言えばスザンヌだな。スザンヌの話をすればオリビアも嫉妬とかするだろうか? 声を荒げて聞きたくないと言えばこちらのもの。オリビアは余の妻の意識があるってことだものな。
 そーだ、そーだ。それでいこう。

「あ~うん。そのぉ、なんだ。スザンヌはいい女だなァ。神が作った最高傑作だ。あんな女を抱けるとは余は幸せ者だ。……なぁんちゃってぇ──」

 うんうん、いいぞ。これでオリビアに動きがあれば、彼女は嫉妬したことになるな。アレ? これってカーラの時もやったことなかったっけ? あの時は無反応で……。うーん。じゃやらないほうがよかったかなぁ。

 そう思いながらオリビアを見つめると、彼女は持っていたフォークを落とした。そちらに目を奪われていると、次にオリビアが床に倒れたのだ。

 余は驚いて周りに命じた。

「あわわわ! オリビアが昏倒した! 誰かある! すぐに医者を呼べ!」

 途端に慌ただしくなる中、余は彼女の元へと急ぐと、廊下に控えていた近衛兵二人が彼女を部屋に運ぶという。

「よし、頼む。だがおい! そっと運べ! そっと運べよ! 傷付けたりしたらただじゃおかないからな!」

 彼らは余の声に驚き、彼女に触れるのをためらっていたものの、そっと彼女を抱えたが問題は足を持つ者だ。
 余も触れたことのない場所に触れれるものがいていいわけがない! 余は叫んだ。

「あー! おい、そなた! オリビアに触るな! 触るなよ。もういい。余が運ぶ──」

 そう言って夕べスザンヌにしたように、オリビアを抱きかかえ、彼女の部屋へと運んだ。その後ろに近衛兵や侍従たちがついてきたが、待ってるヒマはない。急いで彼女の部屋を開けて彼女をベッドに寝かせたのだ。





 そして一息。周りには顔を青くした侍従や侍女たち。そしてハッとした。

 ここは念願のオリビアの部屋ではないか! あーいい匂い。ここでオリビアは寝起きして一日を過ごしているんだねぇ。
 ふーん。調度品もオシャレだし、あそこにお茶のカップがあるぞ。朝食に来る前にお茶を飲んでいたのか。
 余は待ってるのに、あれで時間を遅らせてるなんて悲しい。

 余は立ち上がってオリビアの顔を見ると、白い顔が青みがかっていた。具合が悪いのであろう。
 余は近くの彼女付きの侍女へと質問した。

「オリビアは体調が悪かったのか?」
「い、いえ。突然のことで私たちも驚いております」

「さようであるか……」

 それ以上は何も出来ない。医者に任すことしか。

 そうだ。お見舞いに花をやったらどうだろう。花が嫌いな女性はいないだろう。早速手配しよう。

 余は彼女の部屋へと美しい花々を贈ることとした。その時の彼女はどんなに喜ぶだろう。



「陛下。嬉しいですわ」
「そうか。キミはもっと美しいぞ」

「まぁ陛下ったらお上手」
「いやぁそんな。キスしていいか?」

「私は陛下のものなんですからどうぞどうぞ」
「うえーい。じゃ遠慮なく」



 うへへへへ。やった、やったぁ。

「なにがやったんです陛下?」

 う。オリビアの侍女が変な目で見てる。余はさっさと部屋を出て花を手配することとした。
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