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第一章 拠点作り
第5話:森の恵みと、結晶の輝き
しおりを挟む【黒鋼のしなり、銀鱗の台】
『Infinite Realm』の朝は、システムの冷徹なアナウンスではなく、自身の指先が覚えている「予感」で始まった。
ケンタロウは朝霧が晴れるよりも早く起き出すと、銀鱗松の鞣し樽へと歩み寄った。
蓋を開け、昨日から漬け込んでいたフォレスト・ディアの皮を引き上げる。
「……よし、いい色だ」
アイアンオークのタンニンが繊維の奥まで浸透したその皮は、もはや腐敗を待つだけの「生皮」ではない。
赤茶色に染まり、しなやかさと重厚な弾力を備えた、本物の「革」へと昇華していた。
彼はその革を清流ですすぎ、余分な成分を洗い流すと、乾燥台へと丁寧に広げた。
「さて、こいつが乾くまでに、今日の仕事を済ませるか」
ケンタロウは、腰に下げた手斧と自作の解体ナイフを確かめ、森へ入った。
最初に見つけたのは、昨日目星をつけていた岩場の影。
現実のバジルとミントを掛け合わせたような清涼感を持つ『青銀草(せいぎんそう)』。
そして、舌を刺す辛味を持つ『炎実(ほむらみ)』。
これらはこれからの「食」を支える重要なピースだ。
さらに、弓の素材として狙っていた『黒鋼樺(くろがねかば)』に出会う。
細身ながら引き絞っても折れる気配がなく、強烈な反発力を持つその枝を、彼は「いただくぞ」と短く呟いて切り出した。
昼過ぎ、拠点に戻ったケンタロウは、すぐさま「作業台」の製作に取り掛かった。
「家を建てるにも、まずは正確な仕事ができる場所が要る」
地面に膝をつく作業ではミリ単位の狂いが出る。
彼は銀鱗松の厚板を使い、水平器代わりに湖の水を使いながら、一滴の狂いもない平滑な天板を持つ作業台を組み上げた。
職人にとって、作業台は聖域だ。
完成したばかりの作業台の上に、昨日仕留めたホーンラビットの皮を広げる。
こちらはメインのディアの革とは違い、小物用の予備だ。
ケンタロウの動きに迷いはない。
肉剥ぎヘラ(スクレイパー)を手に取ると、裏側に残ったわずかな脂肪や繊維を、流れるような手つきで削ぎ落としていく。
(ホーンラビットの皮は薄い。力を入れすぎれば裂けるが、抜きすぎれば不純物が残る)
長年の経験が、システム上の「スキル」を追い越す精度で刃を走らせる。
掃除を終えた皮を、今日採ってきた樹皮から抽出した新しい鞣し液へと淡々と沈めていく。
彼にとっては呼吸をするのと同じ、日常の一部としての「仕込み」だった。
乾燥棚には青銀草や炎実が並び、湖を渡る風がハーブの香りを運んでくる。
作業台の傍ら、乾燥を待つディアの革を眺めながら、ケンタロウは黒鋼樺の枝を手に取った。
「準備は整ったな。……次は、本格的な弓の製作と、『塩』の確保だ」
辺境のスローライフは、静かに、しかし着実に「職人の工房」としての色彩を濃くしていた。
――塩の湖への道、職人の足跡――
朝、ケンタロウは乾燥台に広げたディアの革の状態を確認した。
指先で弾くと、適度な水分を残しながらも、タンニンがしっかりと落ち着いた重い音が返ってくる。
「……仕上げは、あの『塩』を手に入れてからだな」
彼は作業台に置いた空の革袋を手に取った。
目指すは、村長から噂に聞いた「白き沈黙の湖」。
そこはかつて海だった場所が隆起し、取り残された海水が濃縮された場所だという。
拠点を離れ、川を遡るのとは逆に、西の湿地帯を抜けて乾燥した岩場へと向かう。
道中、ケンタロウの鋭い目は、ただの雑草にしか見えない植物の中から、新たな「宝」を見つけ出した。
「……ほう、こいつは強いな」
最初に見つけたのは、乾燥した土壌に這うように生える、灰色の葉を持つハーブだ。千切ってみると、清涼感の中にどこか燻製のような香ばしさが混じる。
『スモークセージ(燻り賢草)』。
「肉の臭みを消すだけじゃない。火を通せば、独特のコクが出るはずだ」
さらに歩みを進めると、岩の裂け目から黄金色の花を咲かせる小さな草が顔を出していた。その根を慎重に掘り起こすと、生姜に似た鮮烈な香りが周囲に広がった。
『山金姜(やまこんぎょう)』。
「炎実(ほむらみ)の辛さとはまた違う、身体の芯を温める辛味だ。……冬に備えるなら、こいつの乾燥粉末は欠かせない」
新たな香辛料を背負い袋に詰めながら、ケンタロウは尾根を越えた。
すると、突如として視界が開けた。
そこには、周囲の緑を拒絶するように広がる、真っ白な縁取りを持った湖があった。
「あれか……」
湖畔には、干上がった水際から結晶化した塩が、まるで宝石の原石のように太陽の光を跳ね返して輝いている。
ケンタロウは水際に膝をつき、指を浸した。水は重く、驚くほど澄んでいる。
「淡水の湖とは、全く別の生き物だな」
彼は付近の流木を集めると、慣れた手つきで焚き火を熾した。そのまま塩を削り取るだけでなく、上澄みの水を煮詰めることで、不純物の少ない「一番塩」を作ろうというのだ。
煮詰まるのを待つ間、彼は背負い袋から、先日仕留めた角兎の端肉を取り出した。今日採取したばかりの『スモークセージ』と『山金姜』をすり込み、炭火の端でゆっくりと炙る。
やがて、土鍋(交易所で購入したもの)の底に、雪のように白い結晶が浮かび上がった。
「……いい。この純度なら、革の繊維を痛めることなく、余計な脂を吸い出してくれる」
結晶を一つまみ、炙った肉に振りかける。
口に運べば、強烈な塩気が肉の甘みを爆発させ、ハーブと生姜の香りがそれを完璧に調和させていた。
「これだ。このサイクル……素材を求め、歩き、自分の手で形にする。……たまらんな」
バツイチのオヤジが独り、誰もいない塩湖のほとりで、至福の溜息をつく。
大量の「命の塩」を袋に詰め、ケンタロウは再び自分の拠点へと、確かな足取りで引き返していった。
【ケンタロウのスキル熟練度】
• レザークラフト:Lv.16 (45/100)
• 解体:Lv.10 (70/100)
• 木工:Lv.8 (10/100)
• 鍛冶:Lv.5 (60/100)
• 採取・伐採:
• 伐採:Lv.4 (20/100)
• 採取:Lv.5 (65/100) [+30] ※特殊ハーブ・根菜の採取
• キャンプ:Lv.2 (45/100) [+35] ※塩湖での製塩キャンプ
• 弓:Lv.1 (85/100)
• 短剣:Lv.1 (40/100)
• 建築:Lv.1 (80/100)
• 料理:Lv.2 (10/100) [+38] Level Up! ※製塩と新香辛料の使用
• 追跡:Lv.1 (45/100)
• 体力向上:Lv.2 (40/100) [+30] ※山越え・長距離探索
• 目利き:Lv.2 (45/100) [+35] ※塩湖の判別
• 接着・加工:Lv.1 (45/100)
• 道具鑑定:Lv.1 (20/100)
• 味覚研磨:Lv.2 (05/100) [+69] Level Up! ※極上塩と新薬草の調和
• 薬草学:Lv.1 (55/100) [+40] ※スモークセージ等の発見
• 自然探索:Lv.2 (15/100) [+51] Level Up! ※塩湖ルートの開拓
【新規取得スキル】
• なし
【今回の獲得素材】
• 湖塩(こえん): 煮詰めて精製した純度の高い塩。
• スモークセージ: 燻製のような香りのハーブ。消臭・コク出し用。
• 山金姜(やまこんぎょう): 生姜に似た根菜。身体を温め、鮮烈な辛味を持つ。
【設定資料・状況の確認】
• 移動: 拠点から西の湿地を越えた「塩湖」へのルートを確保。
• 革の状況: 帰宅後、この塩を使ってディアの革の最終揉み・乾燥工程に入る準備が完了。
• 弓: 素材(黒鋼樺)は確保済み。次は「革」と組み合わせての製作。
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