月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜  嘘つきの妹に成敗を、ざまあ

しょくぱん

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断罪と奈落の出会い

第4話:奈落の底へ

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 翌朝、私を待っていたのは「処刑」という名の、無慈悲なだった。

 視界を黒い布で覆われ、両手には魔力を封じる重い枷をはめられる。  右腕の激痛はもはや麻痺し、ただ熱い塊を引きずっているような感覚しかなかった。

「歩け、この魔女め!」

 背中を乱暴に押され、私はガタガタと揺れる馬車に乗せられた。  向かう先は、この国の禁忌――『死の森』の最奥にある巨大な亀裂。一度落ちれば二度と戻れぬと言われる、世界の奈落だ。

「……セリナ、お父様……お母様……」

 目隠しの中で、私は名前を呼ぶ。  かつて私を愛してくれたはずの人々。だが、馬車の外から聞こえてきたのは、私を呪い、石を投げつける民衆の怒号だった。

「呪われた女を殺せ!」 「聖女セリナ様を苦しめた罰だ!」

 私が命を削って守ってきた国の人々が、私を死へ追いやることを望んでいる。  その事実が、炭化した腕よりも深く、私の心を焼き尽くした。

 やがて馬車が止まり、私は外へ引きずり出された。  冷たく湿った風が吹き荒れている。奈落の底から這い上がってくる、死の匂いだ。

「目隠しを外してやれ。最期に、己の落ちる場所を拝ませてやるのが王太子殿下の慈悲だ」

 乱暴に布が剥ぎ取られる。  眩しさに目を細めると、そこには奈落の淵に立つカイル様と、彼に寄り添うセリナがいた。  セリナは、美しい絹のハンカチで口元を覆い、悲しげなふりをしながら、その瞳の奥で私の絶望をいた。

「エレナ、何か言い残すことはあるか?」

 カイル様が冷たく問いかける。私は乾いた唇を震わせ、彼を見つめた。

「……いつか、後悔することになっても……私は、あなたを……」

 恨みたかった。だが、言葉にならなかった。  私の献身も、愛も、すべてはこの巨大な穴に捨てられるゴミと同じだったのだ。

「フン、まだそんなことを。……突き落とせ」

 カイル様の短い合図。  背後にいた兵士たちが、容赦なく私の背中を蹴り飛ばした。

「あああああ!」

 浮遊感。そして、重力に引かれる猛烈な速度。  見上げた視界の端で、セリナが声を出さずに、勝利の笑みを浮かべて手を振るのが見えた。

(ああ、私は……ここで終わるのね)

 真っ暗な闇が、私を飲み込んでいく。  風の音だけが耳を打ち、冷たい虚無が私を包み込む。  意識が遠のく中、私はただ、誰にも愛されなかった自分を哀れみ、涙を流した。

 ドォォォォォォン!

 全身を打ちのめすような、凄まじい衝撃。  だが、その冷たい闇の底で、私は聞いてしまったのだ。

「……人間か? それとも、我への捧げ物か。――珍しい、極上の・・を連れた獲物だ」

 地響きのように響く、美しくも恐ろしいその声を。

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