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断罪と奈落の出会い
第5話:銀龍との邂逅
全身の骨が砕けたのではないかと思うほどの衝撃。 意識の混濁した闇の中で、私は死を確信していた。 だが、冷たく湿った地面に横たわる私の耳に、再びその重低音が響き渡る。
「……ほう。この高さから落ちて、まだ心臓が動いているか」
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。 視界に飛び込んできたのは、闇の中に浮かび上がる巨大な二つの黄金の瞳だった。
それは、私の想像を絶するほど巨大な『銀龍』だった。 月光を閉じ込めたような銀色の鱗が、微かな光を反射して怪しく輝いている。物語に登場する破壊の象徴――奈落の主が、目の前にいた。
(ああ……ようやく死ねるのね。この怪物に食べられて……)
私は恐怖を感じる気力さえなかった。ただ、焼けた右腕を抱え、荒い息を吐きながら龍を見上げる。 銀龍は、巨大な頭部を私のすぐ近くまで寄せると、その鼻先で私の体を執拗に嗅いだ。
「不快な『光』の残り香……だが、この右腕。これは面白い」
巨大な顎が迫る。鋭い牙が、私の炭化した腕に触れる。 噛み砕かれる――そう思って目を閉じた瞬間、走ったのは痛みではなく、言いようのない戦慄だった。
――ズズッ、と。 龍が、私の焼け爛れた腕を舐めとったのだ。
「あ……っ、やめ、て……」
激痛に耐え続けてきた腕に、熱く湿った感覚が広がる。 信じられないことに、龍が舌を滑らせるたび、私の腕に溜まっていた「毒」が吸い出されていく。 膿み、腐りかけていた部分が、龍の唾液によって強引に浄化されていくのが分かった。
「……美味だ。数千年もこの底で泥水を啜ってきたが、これほど凝縮された『負の魔力』を味わうのは初めてだ」
龍の瞳に、明らかな愉悦の色が浮かぶ。 私を「汚らわしい」と捨てた家族や婚約者。だが、この怪物は私の呪いを、まるで最高級の「蜜」であるかのように扱っている。
「人間よ。貴様、名を何という」
「……え、れな……」
「エレナか。ふふ、いいだろう。貴様のその毒、我に捧げよ。その代わり――貴様の命、我が繋ぎ止めてやろう」
龍がそう告げた瞬間、洞窟全体が目も眩むような銀色の光に包まれた。 巨大な龍の姿が揺らぎ、縮んでいく。
光が収まったあと、そこに立っていたのは――。 夜の闇を織り込んだような銀髪を背まで流し、冷酷なまでに整った顔立ちをした、一人の美しい青年だった。
「我が名はゼノス。光に背かれた者たちの、唯一の王だ」
彼は全裸のまま、動けない私を乱暴に抱き上げた。 その体温は驚くほど高く、凍えていた私の心を、強引に解かしていくようだった。
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「……ほう。この高さから落ちて、まだ心臓が動いているか」
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。 視界に飛び込んできたのは、闇の中に浮かび上がる巨大な二つの黄金の瞳だった。
それは、私の想像を絶するほど巨大な『銀龍』だった。 月光を閉じ込めたような銀色の鱗が、微かな光を反射して怪しく輝いている。物語に登場する破壊の象徴――奈落の主が、目の前にいた。
(ああ……ようやく死ねるのね。この怪物に食べられて……)
私は恐怖を感じる気力さえなかった。ただ、焼けた右腕を抱え、荒い息を吐きながら龍を見上げる。 銀龍は、巨大な頭部を私のすぐ近くまで寄せると、その鼻先で私の体を執拗に嗅いだ。
「不快な『光』の残り香……だが、この右腕。これは面白い」
巨大な顎が迫る。鋭い牙が、私の炭化した腕に触れる。 噛み砕かれる――そう思って目を閉じた瞬間、走ったのは痛みではなく、言いようのない戦慄だった。
――ズズッ、と。 龍が、私の焼け爛れた腕を舐めとったのだ。
「あ……っ、やめ、て……」
激痛に耐え続けてきた腕に、熱く湿った感覚が広がる。 信じられないことに、龍が舌を滑らせるたび、私の腕に溜まっていた「毒」が吸い出されていく。 膿み、腐りかけていた部分が、龍の唾液によって強引に浄化されていくのが分かった。
「……美味だ。数千年もこの底で泥水を啜ってきたが、これほど凝縮された『負の魔力』を味わうのは初めてだ」
龍の瞳に、明らかな愉悦の色が浮かぶ。 私を「汚らわしい」と捨てた家族や婚約者。だが、この怪物は私の呪いを、まるで最高級の「蜜」であるかのように扱っている。
「人間よ。貴様、名を何という」
「……え、れな……」
「エレナか。ふふ、いいだろう。貴様のその毒、我に捧げよ。その代わり――貴様の命、我が繋ぎ止めてやろう」
龍がそう告げた瞬間、洞窟全体が目も眩むような銀色の光に包まれた。 巨大な龍の姿が揺らぎ、縮んでいく。
光が収まったあと、そこに立っていたのは――。 夜の闇を織り込んだような銀髪を背まで流し、冷酷なまでに整った顔立ちをした、一人の美しい青年だった。
「我が名はゼノス。光に背かれた者たちの、唯一の王だ」
彼は全裸のまま、動けない私を乱暴に抱き上げた。 その体温は驚くほど高く、凍えていた私の心を、強引に解かしていくようだった。
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