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断罪と奈落の出会い
第3話:ゴミ箱と呼ばれた日々
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神殿から引きずり出されるようにして運ばれた先は、煌びやかな公爵邸ではなく、その地下深くにある冷え切った牢獄だった。
石壁からは湿り気が滴り、不衛生な藁が敷かれただけの空間。右腕の火傷は、適切な処置もされないまま黒く膿み始め、熱に浮かされる私の意識を何度も現実に引き戻す。
「お父様……お母様……助けて……」
暗闇に向かって、届くはずのない救いを求める。だが、牢の格子戸が開く音と共に現れたのは、慈悲深い両親ではなく、着飾った妹のセリナだった。
セリナは鼻を摘まみ、不快そうに私の姿を眺めている。
「お姉様、まだ生きていたの? もう死んでいるかと思ったのに、意外としぶといのね」
「……セリナ。どうして……みんなに、あんな嘘を……っ」
私が弱々しく問いかけると、セリナはまるで可笑しな冗談を聞いたかのように、コロコロと鈴を転がすような声で笑い出した。
「嘘? 何を言っているの。お姉様はずっと、私の光を吸い取って生きる寄生虫だったじゃない。今回のことで、それがようやく公になっただけよ。お父様もお母様も、お姉様のことを『我が家の恥』だって言っているわ。名前も家系図から消すんですって」
胸が、引き裂かれるように痛んだ。肉体の激痛など、比ではない。幼い頃から、セリナの魔力が暴走するたびに、私は彼女の体に触れてその毒を吸い取ってきた。私の体中に刻まれた無数の小さな痣は、すべて妹を守るために得た勲章だと思っていた。両親も「エレナがいてくれて助かるよ」と言ってくれていたはずだった。
「お疲れ様、ゴミ箱さん。でもね、もう新しい『中和剤』が見つかったのよ。教団が開発した聖なる薬があれば、お姉様の不気味な能力なんて必要ないの」
セリナはゆっくりと私に近づくと、牢の格子越しに、私の炭化した右腕を、履き慣れた革靴の先で執拗に踏みつけた。
「……っ! あああああ!」
「ふふ、いい声。その醜い腕、いっそ切り落としてしまえばよかったのに。でも、そんな必要もないわね。明日、お姉様は処分されることが決まったわ」
「処分……?」
恐怖で声が震える。セリナは満悦至極といった様子で、唇を歪めた。
「『死の森』の亀裂に、生贄として放り込まれるのよ。不浄な魔女としてね。あそこなら、お姉様のような汚い生き物にお似合いだわ」
セリナは満足げに背を向けると、牢から去り際に一度だけ振り返った。そこにあったのは、かつて一緒に遊んだ面影など一切ない、狂気と愉悦に満ちた瞳。
「さようなら、お姉様。地獄の底で、自分の無能さを呪いながら死んでね」
バタン、と重い鉄扉が閉まる音が地下室に響き渡る。私は、踏みつけられた右腕を抱きしめ、暗闇の中でただ絶望に震えることしかできなかった。
家族のために尽くしてきた私の人生は、ただの「ゴミ箱」として消費されるだけの、無価値なものだったのだ。
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石壁からは湿り気が滴り、不衛生な藁が敷かれただけの空間。右腕の火傷は、適切な処置もされないまま黒く膿み始め、熱に浮かされる私の意識を何度も現実に引き戻す。
「お父様……お母様……助けて……」
暗闇に向かって、届くはずのない救いを求める。だが、牢の格子戸が開く音と共に現れたのは、慈悲深い両親ではなく、着飾った妹のセリナだった。
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胸が、引き裂かれるように痛んだ。肉体の激痛など、比ではない。幼い頃から、セリナの魔力が暴走するたびに、私は彼女の体に触れてその毒を吸い取ってきた。私の体中に刻まれた無数の小さな痣は、すべて妹を守るために得た勲章だと思っていた。両親も「エレナがいてくれて助かるよ」と言ってくれていたはずだった。
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セリナはゆっくりと私に近づくと、牢の格子越しに、私の炭化した右腕を、履き慣れた革靴の先で執拗に踏みつけた。
「……っ! あああああ!」
「ふふ、いい声。その醜い腕、いっそ切り落としてしまえばよかったのに。でも、そんな必要もないわね。明日、お姉様は処分されることが決まったわ」
「処分……?」
恐怖で声が震える。セリナは満悦至極といった様子で、唇を歪めた。
「『死の森』の亀裂に、生贄として放り込まれるのよ。不浄な魔女としてね。あそこなら、お姉様のような汚い生き物にお似合いだわ」
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