役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん

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第一部:役立たずと捨てられた建築士、隣国で「聖域」を造って無双する

第二話:契約解除は計画的に

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 背後で轟く崩壊の音を、私は冷めた気持ちで聞いていた。 王城のシンボルであった『女神の噴水』。あそこに施していた水質浄化すいしつじょうかと水圧制御の術式は、私が十歳の頃に初めて城へ捧げたものだ。 管理者の承認なく術式を引き抜けば、溜まっていた数十年分の負荷が一気に噴き出すのは道理だった。

「ひっ、ひぃい!?水が、水が泥に変わったぞ!」 「シグムンド様、お洋服が汚れてしまいますわ!キャッ!」

会場から漏れ聞こえるシグムンド様の情けない叫びと、クロエの耳障りな悲鳴。 豪華だった鏡の間は、今や逆流した排水の腐臭と、止まった空調による熱気に包まれていることだろう。 だが、それは自業自得というものだ。

「アニエス様!お待ちください、アニエス様!」

城の通用口へ向かう私を、一人の老兵が呼び止めた。 城の警備隊長を務めるボリスさんだ。彼は崩れゆく噴水を蒼白な顔で見つめ、それから私に縋るような視線を向けた。

「これは一体……何が起きているのですか!噴水だけではない、壁の隙間から不気味な音が響き、床が小刻みに震えている!」 「ボリスさん、お世話になりました。……単なる契約の終了ですよ」

私は足を止めず、淡々と告げる。

「私が施していた『構造維持こうぞういじ』の術式をすべて引き上げました。この城は元々、無理な増築を繰り返した欠陥建築です。私の魔力が柱の代わりをしていたのですが……王子が『不要だ』と仰ったので」 「そ、そんな馬鹿な!では、この城はどうなるのです!?」 「さあ。支えを失った石積みが、重力に従うだけではないでしょうか。……一週間もすれば、まともに住むことも叶わなくなるでしょうね」

ボリスさんが絶句する。 私は彼にだけ聞こえる声で「早めに非難したほうがいいですよ」と付け加え、足早に自室へと向かった。

部屋に着くなり、私は準備しておいたマジックバッグに必要最低限の荷物を詰め込む。 先祖代々受け継がれた建築魔導の古文書、愛用の製図道具、そして私が私費で買い揃えた魔石の予備。 王家から与えられたドレスや宝石には目もくれない。そんなものは、明日には埃にまみれる瓦礫と同じ価値しかない。

(……これで、本当に終わり)

がらんとした部屋を見渡す。 ふと、窓の外に目をやれば、王都の美しい街並みが見えた。 この街の区画整理、地下水道の補強。そのすべてに私の魔力が関わっている。 城の術式を解いた影響は、じわじわと街全体にも波及するはずだ。 急激な崩壊はしないまでも、下水の逆流や道路の陥没が頻発するようになるだろう。

そこへ、荒々しく扉が開かれた。

「アニエス!貴様、何をした!噴水が壊れ、広間のシャンデリアが落下したぞ!すぐに直せ!」

現れたのは、顔を真っ赤にしたシグムンド様だった。 自慢の金髪は泥水で汚れ、高価な礼服からは下水の臭いが漂っている。

「直せ?お言葉ですが、私は国外追放を言い渡された身。この国の資産に触れることは禁じられているはずですが」 「黙れ!これは命令だ!王族の命令が聞けないのか!」 「いいえ。私はもう、あなたの婚約者でも、この国の魔導師でもありません。に無償で働けと仰るのですか?そんな道理、建築学の基礎にもございませんわ」

私はバッグを肩にかけ、シグムンド様の横を通り過ぎようとする。

「待ちやがれ!衛兵!この女を捕らえろ!」

彼が叫ぶが、衛兵たちは動かなかった。 それどころか、足元の床が『ミシミシ』と不気味な音を立てて撓み始め、彼らは恐怖に顔を引き攣らせている。

「……シグムンド様。その床、あまり強く踏まないほうがよろしいですよ。今のこの城は、積み上げただけの積み木つみきも同然なのですから」

私が冷たく言い放つと、シグムンド様は「ひっ」と短い悲鳴を上げて飛び退いた。 その無様な姿を最後に、私は今度こそ王城を後にした。

目指すは国境。 私の力を「泥臭い」と蔑む場所ではなく、真に「技術」を必要とする場所へ。  王国が誇る『不落の王城ふらくのおうじょう』。 それが、ただの『瓦礫の山がれきのやま』へと変わっていく音を背中で聞きながら、私は軽やかな足取りで歩き続けた。

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