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第一部:役立たずと捨てられた建築士、隣国で「聖域」を造って無双する
第一話:婚約破棄? 結構です。術式ごと失礼しますね
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「アニエス・ラ・トール!貴様のような華のない土木女は、我が王室に相応しくない。今この瞬間をもって、婚約を破棄し、国外追放を言い渡す!」
王城の鏡の間。煌びやかなシャンデリアの下で、婚約者である第一王子シグムンドが言い放った。
彼の腕には、桃色の髪を巻いた愛らしい少女がしなだれかかっている。隣国からやってきたという自称・聖女、クロエだ。
「あらあらシグムンド様。そんなに強く言っては、この可哀想な石ころ細工師さんが泣いてしまいますわ」
クロエがクスクスと、鈴を転がすような声で笑う。その指先が空をなぞると、派手な光の粒子が舞い、周囲の貴族たちから「おお……!」と感嘆の声が漏れた。
「ふん、クロエの神聖魔法に比べれば、お前の魔法は地味で泥臭いだけだ。毎日毎日、城の地下に潜って石を弄るばかり……。そんな無能に、将来の王妃が務まるはずもなかろう!」
無能。その言葉に、私は静かに目を伏せた。
私の家系、ラ・トール家が代々担ってきたのは【建築魔導】。
華やかな攻撃魔法でも、癒やしの光でもない。建物の構造を理解し、マナを流し込んで、摩耗を防ぎ、強度を数倍に高め、理想的な居住空間を維持する……。
この『至高の王城』を、建国当時の美しさのまま五百年もの間、維持してきたのは、他ならぬ私の建築魔法だ。
夏は涼しく、冬は暖かく。
どれほど地震が起きようとも、壁一枚にヒビすら入れさせない。
それを当たり前の『自然現象』だと思い込んでいるこの男に、何を言っても無駄なのだろう。
「……分かりました。婚約破棄、並びに国外追放、謹んでお受けいたします」
私はドレスの裾を摘み、完璧な礼を披露した。
「はっ、ようやく身の程を弁えたか。さっさと出ていけ!貴様の代わりなど、クロエの魔法があれば十分だ!」
「そうですわ。私がこの城を、もっとキラキラに作り変えて差し上げますもの!」
二人の嘲笑を背に、私は静かに言葉を返した。
「左様でございますか。では……本日をもちまして、私とこの城との『保守管理契約』は終了ということで、よろしいですね?」
「契約だと?そんなもの、勝手に解除しろ!」
シグムンドの吐き捨てるような言葉。それが、決定打だった。
私はそっと、城の壁に右手を触れた。
目を閉じれば、城の隅々にまで張り巡らされた私のマナが、血管のように鼓動しているのが分かる。
(長い間、お疲れ様。……みんな、戻ってきて)
瞬間、私の体から黄金の光が溢れ出した。
それは城全体を包み込み、そして一気に私の中へと収束していく。
――全術式、強制解除。
不可視の支柱、免震構造、防汚・防臭結界、そして室温を保つ恒温術式。
私がこの城に注ぎ込んできたすべての魔力が、根こそぎ引き剥がされていく。
「な、なんだ!?今のは……」
「光の無駄遣いですわ、シグムンド様。あんな地味な子の魔法なんて、放っておきましょう?」
クロエは気付かない。
今までアニエスの魔法によって『奇跡的な均衡』を保っていた古い石積みが、今、ただの重い岩に戻ったことに。
私は一度も振り返ることなく、必要最小限の荷物だけを手に城を後にした。
正門を潜り抜け、街へと続く石畳に足を踏み出した、その時。
――ガガ、ガシャアアアアアン!!
背後で、耳を劈くような破壊音が響き渡った。
王城の象徴である巨大な噴水が、その自重に耐えかねて崩落し、泥水を撒き散らしたのだ。
悲鳴が上がる。だが、これはまだ序章に過ぎない。
数百年分の『経年劣化』が、今この瞬間から、彼らに襲いかかるのだ。
「さようなら、シグムンド様。ご自分たちで瓦礫でも積んで、精々頑張ってくださいませ」
私は前だけを見据え、隣国へと続く荒野へと歩き出した。
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
王城の鏡の間。煌びやかなシャンデリアの下で、婚約者である第一王子シグムンドが言い放った。
彼の腕には、桃色の髪を巻いた愛らしい少女がしなだれかかっている。隣国からやってきたという自称・聖女、クロエだ。
「あらあらシグムンド様。そんなに強く言っては、この可哀想な石ころ細工師さんが泣いてしまいますわ」
クロエがクスクスと、鈴を転がすような声で笑う。その指先が空をなぞると、派手な光の粒子が舞い、周囲の貴族たちから「おお……!」と感嘆の声が漏れた。
「ふん、クロエの神聖魔法に比べれば、お前の魔法は地味で泥臭いだけだ。毎日毎日、城の地下に潜って石を弄るばかり……。そんな無能に、将来の王妃が務まるはずもなかろう!」
無能。その言葉に、私は静かに目を伏せた。
私の家系、ラ・トール家が代々担ってきたのは【建築魔導】。
華やかな攻撃魔法でも、癒やしの光でもない。建物の構造を理解し、マナを流し込んで、摩耗を防ぎ、強度を数倍に高め、理想的な居住空間を維持する……。
この『至高の王城』を、建国当時の美しさのまま五百年もの間、維持してきたのは、他ならぬ私の建築魔法だ。
夏は涼しく、冬は暖かく。
どれほど地震が起きようとも、壁一枚にヒビすら入れさせない。
それを当たり前の『自然現象』だと思い込んでいるこの男に、何を言っても無駄なのだろう。
「……分かりました。婚約破棄、並びに国外追放、謹んでお受けいたします」
私はドレスの裾を摘み、完璧な礼を披露した。
「はっ、ようやく身の程を弁えたか。さっさと出ていけ!貴様の代わりなど、クロエの魔法があれば十分だ!」
「そうですわ。私がこの城を、もっとキラキラに作り変えて差し上げますもの!」
二人の嘲笑を背に、私は静かに言葉を返した。
「左様でございますか。では……本日をもちまして、私とこの城との『保守管理契約』は終了ということで、よろしいですね?」
「契約だと?そんなもの、勝手に解除しろ!」
シグムンドの吐き捨てるような言葉。それが、決定打だった。
私はそっと、城の壁に右手を触れた。
目を閉じれば、城の隅々にまで張り巡らされた私のマナが、血管のように鼓動しているのが分かる。
(長い間、お疲れ様。……みんな、戻ってきて)
瞬間、私の体から黄金の光が溢れ出した。
それは城全体を包み込み、そして一気に私の中へと収束していく。
――全術式、強制解除。
不可視の支柱、免震構造、防汚・防臭結界、そして室温を保つ恒温術式。
私がこの城に注ぎ込んできたすべての魔力が、根こそぎ引き剥がされていく。
「な、なんだ!?今のは……」
「光の無駄遣いですわ、シグムンド様。あんな地味な子の魔法なんて、放っておきましょう?」
クロエは気付かない。
今までアニエスの魔法によって『奇跡的な均衡』を保っていた古い石積みが、今、ただの重い岩に戻ったことに。
私は一度も振り返ることなく、必要最小限の荷物だけを手に城を後にした。
正門を潜り抜け、街へと続く石畳に足を踏み出した、その時。
――ガガ、ガシャアアアアアン!!
背後で、耳を劈くような破壊音が響き渡った。
王城の象徴である巨大な噴水が、その自重に耐えかねて崩落し、泥水を撒き散らしたのだ。
悲鳴が上がる。だが、これはまだ序章に過ぎない。
数百年分の『経年劣化』が、今この瞬間から、彼らに襲いかかるのだ。
「さようなら、シグムンド様。ご自分たちで瓦礫でも積んで、精々頑張ってくださいませ」
私は前だけを見据え、隣国へと続く荒野へと歩き出した。
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