13 / 27
アンリエッタとエゼキエル、十七歳 いつか優しい魔法になる
しおりを挟む
アンリエッタとエゼキエルは十七歳になった。
デビュタントの夜会が終わって程なくしてから、以前にも増してエゼキエルは研究室に篭りがちになった。
十七歳になり政務も普通に熟すようになったエゼキエルだが、
それ以外の時間は寝る間を惜しんで何やら取り憑かれた様に魔術の研究?開発?に没頭しているのだ。
もともとエゼキエルが学者気質であるとは思っていたが、これでは王様と魔術師、どちらが本業か分からなくなりそうだ。
アンリエッタはそんなエゼキエルが心配で心配で堪らない。
魔術にのめり込み過ぎて体を壊さないか、明るいとは言えない室内にばかりいて視力を落とさないか、運動不足にならないか、とにかく心配で堪らなかった。
今日も昼食も摂ろうとしないエゼキエルの為にアンリエッタは料理長に頼んでサンドウィッチを作って貰い、研究室を訪ねた。
そして扉をドンドンと叩く。
「エル!エゼキエル!食事も摂らないで何をやっているの!ここを開けなさいっ、開けないとユリアナ様にお願いして魔術で扉を破壊して貰うわよっ」
アンリエッタが大声で部屋の外から告げる。
するとややあって扉が開いた。
「破壊されるのは困るなぁ……ごめん、また時間の事を忘れてた」
「もう。政務がない時はすぐにそうなってしまうんだから」
アンリエッタはぷんすこしながら言う。
そして側にいた侍女のマヤからサンドウィッチをのせたトレイを受け取った。
「食べ易いようにサンドウィッチを作ってもらったの。お願いだからちゃんと食べて」
「ごめん、ありがとう」
エゼキエルはそう言って扉を大きく開いてアンリエッタに入室を促す。
マヤに下がるように告げた後、「お邪魔しまーす」と言いながらアンリエッタは研究室へと入った。
エゼキエルの研究室には様々な魔導書や各国の魔術に関わる古い文献や魔法学関連の書籍、そして難しい古代文字で書かれた古文書などが沢山置いてある。
机の上には術式が書き殴られた紙が散乱しており、
床や壁にはチョークで魔法陣や術式陣が乱雑に書かれていた。
不思議な色の液体の入った瓶や魔石、用途が分からなか魔道具なども転がっている。
いつもすっきり整えられた執務室や清潔なエゼキエル自身の自室とはあまりにもかけ離れた光景に、アンリエッタは絶句した。
「呆れた……このお部屋、いつからお掃除してないの?」
アンリエッタが問うとエゼキエルは肩を竦めながら答える。
「他者に触れられると困る物も多々あるしね、ここには誰も入れてない」
「私は入っても良かったの?」
押しかけおいて言うのもなんだがアンリエッタがそう言うと、エゼキエルは小さく笑った。
「アンリならいつでも歓迎さ。でも本当に危ない物もあるから、決して何も触れないでくれ」
「わかったわ。トレイはそこに置いてもいい?」
辛うじて空いてるデスクのスペースを目で示しながらアンリエッタが訊く。
「トレイを受け取るよ。アンリはその椅子にでも座って」
エゼキエルはアンリエッタからトレイを受け取りデスクの空きスペースへと置いた。
「では失礼して」
と言いながらアンリエッタは一人掛け用の分厚いクッションシートの椅子に腰掛けた。
「じゃあいただきます」
エゼキエルがそう告げてもぐもぐとサンドウィッチを食べ始めたのを見ながら、アンリエッタは気になっていた事をエゼキエルに尋ねた。
「エルは一体何の研究をしているの?まるで何かを追い求めているような、そんな感じに見えるのだけれど……」
「オリオル王家に伝わる、失われた力の復活……それを目指しているんだ」
「王家に伝わる、失われた力?」
「うん。大昔、まだ古の血族の力を色濃く残していた時代に、王族だけが扱えた古代魔術の事だよ。俺は先祖返りと言われ程魔力が高いからその力を手に出来ると自負している。そして実際に手にする段階まで来たよ」
「えぇっ!?す、凄いじゃないっ!!」
まさかそんな凄い事をこの狭い部屋に篭って行っていたとは思いもしなかったアンリエッタである。
しかもそれをもう成しているとは……
さすがはエゼキエルだ、とアンリエッタは羨望の眼差しでエゼキエルを見た。
しかし当のエゼキエルは浮かない顔をしている。
それがとても気になってアンリエッタは問いかけた。
「どうしたの?とても苦しそうな顔をしているわ……」
アンリエッタのその言葉に、エゼキエルは俯いて答えた。
「実際に手にしてみて、その力がどれほど恐ろしいものかがわかったんだ。王家はきっと保有魔力量とは関係なく、その術を持たない、使わないという選択をしたんだ。だから失われた。だから今では文献の中だけに残る力になったんだ……」
「でも……エルはそれを手に入れたいと思っているのね?必要だと思っているから、諦められないのね?」
「……何故そう思った?」
「だって、手にしたと言いながらも、その力が怖いものだと分かっていても、祖先のように手放そうとはしていない。何かを模索していて、だからこの部屋から出て来ないのでしょう?」
その言葉を聞き、エゼキエルはふ、っと息を吐くように微笑んだ。
「まったく……アンリには敵わないな」
「これでも七年間も貴方の妃をやっていますからね」
「あはは、そうだね」
エゼキエルはそう言って笑い、そしてアンリエッタを見た。
「この力は下手をすれば何も生み出さない。言わば恐ろしい魔法だ。だけど使い方によってはきっと、国を民を守り、生産性もある魔法になると思うんだ。俺はそれを探し続けている」
「恐ろしい魔法……」
エゼキエルがそんな物と向き合っていると思うと不安になる。
だがそれでもエゼキエルが自身を信じてそれに挑もうとしているなら、
アンリエッタに出来る事はただ一つである。
「エル。エルならきっと成し遂げられると信じているわ。きっとエルなら、いつかそれを安全なものとして使いこなす。私はそう信じるわ」
「アンリ……」
エゼキエルは少し驚いた様子でアンリエッタを見ている。
アンリエッタは優しく微笑みかけ、
両手を胸に当てて祈る様に告げた。
「信じてる。それが皆の幸せに繋がる、いつか優しい魔法になる事を……」
そしてその魔法で、エゼキエルの御世が盤石なものとなり、安寧を齎す事を。
それを心から願う、アンリエッタであった。
デビュタントの夜会が終わって程なくしてから、以前にも増してエゼキエルは研究室に篭りがちになった。
十七歳になり政務も普通に熟すようになったエゼキエルだが、
それ以外の時間は寝る間を惜しんで何やら取り憑かれた様に魔術の研究?開発?に没頭しているのだ。
もともとエゼキエルが学者気質であるとは思っていたが、これでは王様と魔術師、どちらが本業か分からなくなりそうだ。
アンリエッタはそんなエゼキエルが心配で心配で堪らない。
魔術にのめり込み過ぎて体を壊さないか、明るいとは言えない室内にばかりいて視力を落とさないか、運動不足にならないか、とにかく心配で堪らなかった。
今日も昼食も摂ろうとしないエゼキエルの為にアンリエッタは料理長に頼んでサンドウィッチを作って貰い、研究室を訪ねた。
そして扉をドンドンと叩く。
「エル!エゼキエル!食事も摂らないで何をやっているの!ここを開けなさいっ、開けないとユリアナ様にお願いして魔術で扉を破壊して貰うわよっ」
アンリエッタが大声で部屋の外から告げる。
するとややあって扉が開いた。
「破壊されるのは困るなぁ……ごめん、また時間の事を忘れてた」
「もう。政務がない時はすぐにそうなってしまうんだから」
アンリエッタはぷんすこしながら言う。
そして側にいた侍女のマヤからサンドウィッチをのせたトレイを受け取った。
「食べ易いようにサンドウィッチを作ってもらったの。お願いだからちゃんと食べて」
「ごめん、ありがとう」
エゼキエルはそう言って扉を大きく開いてアンリエッタに入室を促す。
マヤに下がるように告げた後、「お邪魔しまーす」と言いながらアンリエッタは研究室へと入った。
エゼキエルの研究室には様々な魔導書や各国の魔術に関わる古い文献や魔法学関連の書籍、そして難しい古代文字で書かれた古文書などが沢山置いてある。
机の上には術式が書き殴られた紙が散乱しており、
床や壁にはチョークで魔法陣や術式陣が乱雑に書かれていた。
不思議な色の液体の入った瓶や魔石、用途が分からなか魔道具なども転がっている。
いつもすっきり整えられた執務室や清潔なエゼキエル自身の自室とはあまりにもかけ離れた光景に、アンリエッタは絶句した。
「呆れた……このお部屋、いつからお掃除してないの?」
アンリエッタが問うとエゼキエルは肩を竦めながら答える。
「他者に触れられると困る物も多々あるしね、ここには誰も入れてない」
「私は入っても良かったの?」
押しかけおいて言うのもなんだがアンリエッタがそう言うと、エゼキエルは小さく笑った。
「アンリならいつでも歓迎さ。でも本当に危ない物もあるから、決して何も触れないでくれ」
「わかったわ。トレイはそこに置いてもいい?」
辛うじて空いてるデスクのスペースを目で示しながらアンリエッタが訊く。
「トレイを受け取るよ。アンリはその椅子にでも座って」
エゼキエルはアンリエッタからトレイを受け取りデスクの空きスペースへと置いた。
「では失礼して」
と言いながらアンリエッタは一人掛け用の分厚いクッションシートの椅子に腰掛けた。
「じゃあいただきます」
エゼキエルがそう告げてもぐもぐとサンドウィッチを食べ始めたのを見ながら、アンリエッタは気になっていた事をエゼキエルに尋ねた。
「エルは一体何の研究をしているの?まるで何かを追い求めているような、そんな感じに見えるのだけれど……」
「オリオル王家に伝わる、失われた力の復活……それを目指しているんだ」
「王家に伝わる、失われた力?」
「うん。大昔、まだ古の血族の力を色濃く残していた時代に、王族だけが扱えた古代魔術の事だよ。俺は先祖返りと言われ程魔力が高いからその力を手に出来ると自負している。そして実際に手にする段階まで来たよ」
「えぇっ!?す、凄いじゃないっ!!」
まさかそんな凄い事をこの狭い部屋に篭って行っていたとは思いもしなかったアンリエッタである。
しかもそれをもう成しているとは……
さすがはエゼキエルだ、とアンリエッタは羨望の眼差しでエゼキエルを見た。
しかし当のエゼキエルは浮かない顔をしている。
それがとても気になってアンリエッタは問いかけた。
「どうしたの?とても苦しそうな顔をしているわ……」
アンリエッタのその言葉に、エゼキエルは俯いて答えた。
「実際に手にしてみて、その力がどれほど恐ろしいものかがわかったんだ。王家はきっと保有魔力量とは関係なく、その術を持たない、使わないという選択をしたんだ。だから失われた。だから今では文献の中だけに残る力になったんだ……」
「でも……エルはそれを手に入れたいと思っているのね?必要だと思っているから、諦められないのね?」
「……何故そう思った?」
「だって、手にしたと言いながらも、その力が怖いものだと分かっていても、祖先のように手放そうとはしていない。何かを模索していて、だからこの部屋から出て来ないのでしょう?」
その言葉を聞き、エゼキエルはふ、っと息を吐くように微笑んだ。
「まったく……アンリには敵わないな」
「これでも七年間も貴方の妃をやっていますからね」
「あはは、そうだね」
エゼキエルはそう言って笑い、そしてアンリエッタを見た。
「この力は下手をすれば何も生み出さない。言わば恐ろしい魔法だ。だけど使い方によってはきっと、国を民を守り、生産性もある魔法になると思うんだ。俺はそれを探し続けている」
「恐ろしい魔法……」
エゼキエルがそんな物と向き合っていると思うと不安になる。
だがそれでもエゼキエルが自身を信じてそれに挑もうとしているなら、
アンリエッタに出来る事はただ一つである。
「エル。エルならきっと成し遂げられると信じているわ。きっとエルなら、いつかそれを安全なものとして使いこなす。私はそう信じるわ」
「アンリ……」
エゼキエルは少し驚いた様子でアンリエッタを見ている。
アンリエッタは優しく微笑みかけ、
両手を胸に当てて祈る様に告げた。
「信じてる。それが皆の幸せに繋がる、いつか優しい魔法になる事を……」
そしてその魔法で、エゼキエルの御世が盤石なものとなり、安寧を齎す事を。
それを心から願う、アンリエッタであった。
72
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
ガネット・フォルンは愛されたい
アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。
子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。
元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。
それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。
私も誰かに一途に愛されたかった。
❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。
❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる