15 / 27
私に出来る事
しおりを挟む
アンリエッタとエゼキエルが十七歳になって三ヶ月が過ぎた。
とうとう成人まであと一年を切ったわけで、そして二人が形だけでも夫婦でいられるのもあと一年を切っているわけで……。
そろそろ今後の事を視野に入れて……と思っているのだが、
アンリエッタの周りもエゼキエルの周りも至って通常、特に何の変化もないのだ。
まぁアンリエッタの方は、既にタイラー=ベルファストという再嫁する相手が決まっているから、あとは離縁の手続きをしてベルファスト領に帰ればいいだけの話なのでこれといってする事はないのだが。
だけど国王であるエゼキエルの今後の動きが何も見られないのが解せぬのだ。
もうとっくに正妃候補者の中から誰か的を絞られ、公式でも非公式でもお見合い的な場が設けられていてもおかしくないのだが、一向にそのような気配が見られないのだ。
ーーもしかして皆さん私に気兼ねして秘密裏に行われているとか?
だが周りの人間にそういった雰囲気は一切感じない。
エゼキエルに至っては近頃ますます研究室に篭っている。
宰相のモリスもそれを容認しているくらい、エゼキエルは例の王家の失われた魔法の復活に心血を注いでいた。
ーーひょっとして今はそれを最優先にして、縁談はその後で……となっているのかしら?
人生の伴侶を選ぶ大切な時にそんな事でいいのかと心配になる。
あまりに何の動きも見られないので不安になったアンリエッタは、義母である王太后ベルナデットにこっそりエゼキエルの正妃選びの進捗状況を聞いてみた。
だけどベルナデットは、
「え?……それは…何とかなっているのではないかしら?だ、大丈夫よ、アンリちゃんは何も心配せずにただ毎日楽しく過ごしていればいいと思うの」
としか答えてくれない。
ただ楽しく過ごすとはどういう事なのだ。
先の事が決まらないと落ち着かず、楽しく過ごす事なんて出来ないのだが……。
それほど今はエゼキエルが向き合っている魔法の方が最優先事項という事なのか?
そんな事でいいのだろうか。
エゼキエルの、この国の国王の将来の事なのに。
優しく真面目で責任感の強いエゼキエルの事だ、自分の事を後回しにして国の益となる魔法の復活の事しか頭に無いのだろう。
ーーここはひとつ、やはりまだ妃である私が人肌脱がなくては!
エゼキエルが自分の事を後回しにし、周りもそれに従っているというのなら、自分が色々と動くべきだとアンリエッタは考えた。
十七歳になってから常々エゼキエルの為に何か出来る事はないかと考えていたのだ。
今までアンリエッタを大切にしてくれたエゼキエルが幸せになれるお手伝い。
それこそが王室を離れる自分が残せるものなのではないかと、アンリエッタは思った。
まぁ具体的に何をすればいいのかなんてアンリエッタには分からないが、いつどう急に事が動き出しても良いように状況は整えておく事にした。
まずアンリエッタはその決意を侍従長や侍女長や専属侍女のマヤに話し、皆の協力を要請する。
皆、一様に思うところが有るのだろうが、アンリエッタの気持ちを一番に汲んで協力を約束してくれた。
ーー良かった。情けないけど自分一人の力では何も出来ないものね。
王宮を去る前にみんなにも何か恩返しが出来ればいいのだけれど。
アンリエッタはそう思いながらもまずは急なお見合いのセッティングとなっても大丈夫なようにエゼキエルの服を新調する事にした。
最近のエゼキエルの体の寸法は王室専属の針子が分かっているので、アンリエッタはデザインや生地選びをするだけだ。
二度三度会う事を踏まえて最低でも三着は用意したい。
そしてそれに合わせる服飾品も。
ーーあぁ…お相手の方の髪色や瞳の色が分かっていればそれを取り入れた色味を選べるのに……
とにかく情報が欲しい。
アンリエッタは常にそう思っていた。
そんな時、侍従長が耳寄りの情報を入手して来てくれた。
なんでも王太后ベルナデットの祖国の第三王女がエゼキエルに会いたいと来訪を希望しているのだとか。
ベルナデットの姪にあたる王女のご来臨を無下に断れる筈もなく……宰相のモリスは承諾の旨を返し、どうやら近々その王女がオリオルにやって来るというのだ。
ーーい、いよいよね……!
お相手は隣国の第三王女殿下……。
やはりちゃんと時がくれば動きはあるのね……!
アンリエッタはそう思い、引き続きそれに向けての準備を行った。
ベルナデットはちょっと遊びに来るだけだからそんな大層にしなくて良いと言うが、そんな訳にはいかない。
エゼキエルの正妃となる確率が一番高い人だ。
完璧なおもてなしをしてお迎えせねば……!
アンリエッタの闘志に火がついた。
その王女の容姿を聞き、
新調するエゼキエルの服の生地の色を変更したり、
歓迎の意を表す為に王宮の庭園に王女の好きな花を植えて貰ったり。
滞在して頂く客室を王女が好きだというピンクの色調で統一したり。
そうやってアンリエッタはエゼキエルの幸せの為に心を砕き、心を込めて用意をした。
それに……
これは自分の為でもあるのだ。
忙しくしている方が変な事を考えずに済む。
今は自分が繋いでいるエゼキエルの手が離れ、他の女性と繋ぎ直す……
そんな光景を頭の中に思い浮かべる暇も無いほど忙しくしていたいのだ。
そしてその気持ちが突っ走り過ぎて、
アンリエッタはベルナデットの祖国である隣国との国境警備にあたるベルファスト国境騎士団に王女の警護の要請も出す。
その打ち合わせと称して、タイラー=ベルファストが王宮を訪ねて来たのは要請して五日後の事であった。
とうとう成人まであと一年を切ったわけで、そして二人が形だけでも夫婦でいられるのもあと一年を切っているわけで……。
そろそろ今後の事を視野に入れて……と思っているのだが、
アンリエッタの周りもエゼキエルの周りも至って通常、特に何の変化もないのだ。
まぁアンリエッタの方は、既にタイラー=ベルファストという再嫁する相手が決まっているから、あとは離縁の手続きをしてベルファスト領に帰ればいいだけの話なのでこれといってする事はないのだが。
だけど国王であるエゼキエルの今後の動きが何も見られないのが解せぬのだ。
もうとっくに正妃候補者の中から誰か的を絞られ、公式でも非公式でもお見合い的な場が設けられていてもおかしくないのだが、一向にそのような気配が見られないのだ。
ーーもしかして皆さん私に気兼ねして秘密裏に行われているとか?
だが周りの人間にそういった雰囲気は一切感じない。
エゼキエルに至っては近頃ますます研究室に篭っている。
宰相のモリスもそれを容認しているくらい、エゼキエルは例の王家の失われた魔法の復活に心血を注いでいた。
ーーひょっとして今はそれを最優先にして、縁談はその後で……となっているのかしら?
人生の伴侶を選ぶ大切な時にそんな事でいいのかと心配になる。
あまりに何の動きも見られないので不安になったアンリエッタは、義母である王太后ベルナデットにこっそりエゼキエルの正妃選びの進捗状況を聞いてみた。
だけどベルナデットは、
「え?……それは…何とかなっているのではないかしら?だ、大丈夫よ、アンリちゃんは何も心配せずにただ毎日楽しく過ごしていればいいと思うの」
としか答えてくれない。
ただ楽しく過ごすとはどういう事なのだ。
先の事が決まらないと落ち着かず、楽しく過ごす事なんて出来ないのだが……。
それほど今はエゼキエルが向き合っている魔法の方が最優先事項という事なのか?
そんな事でいいのだろうか。
エゼキエルの、この国の国王の将来の事なのに。
優しく真面目で責任感の強いエゼキエルの事だ、自分の事を後回しにして国の益となる魔法の復活の事しか頭に無いのだろう。
ーーここはひとつ、やはりまだ妃である私が人肌脱がなくては!
エゼキエルが自分の事を後回しにし、周りもそれに従っているというのなら、自分が色々と動くべきだとアンリエッタは考えた。
十七歳になってから常々エゼキエルの為に何か出来る事はないかと考えていたのだ。
今までアンリエッタを大切にしてくれたエゼキエルが幸せになれるお手伝い。
それこそが王室を離れる自分が残せるものなのではないかと、アンリエッタは思った。
まぁ具体的に何をすればいいのかなんてアンリエッタには分からないが、いつどう急に事が動き出しても良いように状況は整えておく事にした。
まずアンリエッタはその決意を侍従長や侍女長や専属侍女のマヤに話し、皆の協力を要請する。
皆、一様に思うところが有るのだろうが、アンリエッタの気持ちを一番に汲んで協力を約束してくれた。
ーー良かった。情けないけど自分一人の力では何も出来ないものね。
王宮を去る前にみんなにも何か恩返しが出来ればいいのだけれど。
アンリエッタはそう思いながらもまずは急なお見合いのセッティングとなっても大丈夫なようにエゼキエルの服を新調する事にした。
最近のエゼキエルの体の寸法は王室専属の針子が分かっているので、アンリエッタはデザインや生地選びをするだけだ。
二度三度会う事を踏まえて最低でも三着は用意したい。
そしてそれに合わせる服飾品も。
ーーあぁ…お相手の方の髪色や瞳の色が分かっていればそれを取り入れた色味を選べるのに……
とにかく情報が欲しい。
アンリエッタは常にそう思っていた。
そんな時、侍従長が耳寄りの情報を入手して来てくれた。
なんでも王太后ベルナデットの祖国の第三王女がエゼキエルに会いたいと来訪を希望しているのだとか。
ベルナデットの姪にあたる王女のご来臨を無下に断れる筈もなく……宰相のモリスは承諾の旨を返し、どうやら近々その王女がオリオルにやって来るというのだ。
ーーい、いよいよね……!
お相手は隣国の第三王女殿下……。
やはりちゃんと時がくれば動きはあるのね……!
アンリエッタはそう思い、引き続きそれに向けての準備を行った。
ベルナデットはちょっと遊びに来るだけだからそんな大層にしなくて良いと言うが、そんな訳にはいかない。
エゼキエルの正妃となる確率が一番高い人だ。
完璧なおもてなしをしてお迎えせねば……!
アンリエッタの闘志に火がついた。
その王女の容姿を聞き、
新調するエゼキエルの服の生地の色を変更したり、
歓迎の意を表す為に王宮の庭園に王女の好きな花を植えて貰ったり。
滞在して頂く客室を王女が好きだというピンクの色調で統一したり。
そうやってアンリエッタはエゼキエルの幸せの為に心を砕き、心を込めて用意をした。
それに……
これは自分の為でもあるのだ。
忙しくしている方が変な事を考えずに済む。
今は自分が繋いでいるエゼキエルの手が離れ、他の女性と繋ぎ直す……
そんな光景を頭の中に思い浮かべる暇も無いほど忙しくしていたいのだ。
そしてその気持ちが突っ走り過ぎて、
アンリエッタはベルナデットの祖国である隣国との国境警備にあたるベルファスト国境騎士団に王女の警護の要請も出す。
その打ち合わせと称して、タイラー=ベルファストが王宮を訪ねて来たのは要請して五日後の事であった。
82
あなたにおすすめの小説
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ガネット・フォルンは愛されたい
アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。
子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。
元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。
それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。
私も誰かに一途に愛されたかった。
❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。
❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる