いつか終わりがくるのなら

キムラましゅろう

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想い、希う

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「キミだよ」

「………え?“キミダヨ”って?」

「だから、俺の正妃になるのはキミしかいないと言ってるんだ」

「………え?へ?え?……」


既に正妃が決まっているというエゼキエルの口から、
それが自分だと聞かされても俄には信じられないアンリエッタにエゼキエルは言った。


「もうずっと前から、成人と同時にアンリを正妃にすると決めていたんだ」

「ずっと前からって……い、いつから?」

「十二歳くらいから」「そんなに前からっ?」

驚き過ぎて間髪入れずに素っ頓狂な声を出してしまう。

「そうだよ。そんなに前から、俺はアンリに、キミに恋してるんだ」

「ウソっ」

「嘘じゃないよ。結構態度ではわかり易くして来たと思うんだけどなぁ」

「態度で?わかり易く?そりゃあ確かにエルはいつでも優しかったけれど……」

「アンリにだけだよ。こんなにも無意識に優しく出来る相手なんて、アンリしかいないよ」

「そ、そうなの……?」

「いつも一緒にいたから当たり前の感じになってしまっていたか……でも俺も子どもだったからなんか恥ずかしいし照れてしまって、なかなか言葉に出来なかったんだ」

そう言ったエゼキエルは今でも照れくさそうに頭を掻いている。

そんな彼の様子をアンリエッタは目を瞬かせて見つめていた。

ーーエルが……恋をしてるって?わ、私にっ?
信じられない、だって、だって……

「そこは信じてよ。本心なんだから」

「わっ?声に出してたっ?」

「うん。思いっきり」

「だって……ダメよ…私は……私じゃエルの力になれない……」

「力になるって?」

「この先のエルを支える力。エルの足を引っ張っちゃうわ」

アンリエッタはそう言って俯いた。

本当は嬉しいのに。

自分と同じように想ってくれていたと知り、両想いだったと知り、本当に嬉しい。

だけど、ダメなのだ。

アンリエッタでは正妃として足りないものがある、それは婚姻を結ぶ時から分かっていた事。

アンリエッタの亡くなった母親は裕福な商家の娘だった。
つまりは平民だ。
父のアイザックはそんな事を気にせず大恋愛の末に結婚したし、アンリエッタとて母親の事が大好きで大切な存在だったが、血筋をたっとぶ貴族社会では、ましてや王族の正妃となる者としては歓迎されない出自だ。

それが分かっていたからこそ、いずれ終わりがくる婚姻と割り切って日々を大切に楽しんで暮らしてきたのだ。

それを、そんなアンリエッタを正妃にするなどと……


「エル。気持ちは嬉しい。本当に嬉しいわ。だけどダメよ、私を正妃にするなんてアバディ公爵の派閥や他の家門からも非難の声が上がるわ。それはきっとずっとよ。もし王子が生まれたら立太子に難癖をつけられ、いずれ即位する時にも絶対に争いが起こる。エルはそれらとずっと、戦い続ける人生となってしまうわ……」

アンリエッタの言葉を、エゼキエルは黙って聞き続けていた。

「私は嫌よ。私の所為でエルが苦労するなんて。だから……」


だから、非の打ち所のない令嬢を正妃に迎えて欲しい。

だけどその言葉をアンリエッタは口にする事が出来なかった。

今は自分が映るエゼキエルの瞳に、違う女性が映る事が堪らなく辛い。

言葉に出来なくても、どうかその気持ちを汲んで欲しいと思い、アンリエッタは勝手だなと自嘲する。


黙って話を聞いていたエゼキエルがふいにアンリエッタの手を取った。
そして肩の力を抜いた自然体な笑顔と声色でアンリエッタに告げる。

「そう言うと思っていたよ。だから俺は王家の力を底上げしたくて古の魔法を復活させたんだ」

「え?どういう事?」

「この世の全てのしがらみからアンリを守れる力が欲しくて。復活させた魔法で口煩い奴らを黙らせたかった。こうやって繋ぎ続けてきたアンリの手を離す事なく、これからもずっと繋ぎ続ける為に強くなりたかったんだ」

「エル……じゃあ、それじゃあ前に教えてくれた魔法が上手くいったの?」

「ああ。詳しい事は後で話すけど、それすらもアンリのおかげだよ。俺は本当に、昔からキミに守られて、助けられてばかりだ」

「そんな事っ……

“ない”と続けたかったのだが、エゼキエルが徐に跪いたのを見て、その言葉を継ぐ事は出来なかった。

「アンリエッタ」

「エル……」

いつになく真剣で熱の篭った眼差しで見つめられ、アンリエッタは思わず息を呑む。

エゼキエルはまるでアンリエッタのその吐息までも、全てを欲するようにこいねがう。

「アンリエッタ。有象無象が何を言っても必ず俺がすぐに黙らせてみせる。血筋なんて関係ない、俺にはどうしてもアンリエッタが必要なんだ。キミが隣に居ない人生なんて考えられない、そんな人生なんて耐えられない、だからお願いだ。お願いだから正妃になると言ってくれ。これからもずっと、俺の側に居て生涯を共にすると言って欲しい……!」

「……私でいいの?」

「キミがいい。アンリエッタじゃなきゃ嫌だ。明るくて優しくて逞しい、そんなアンリを愛しているから」

「エル……!」

目の前のエゼキエルの姿が滲んで朧げになる。

それは自分の目に溜まった涙の所為だと気付くと同時にアンリエッタは跪くエゼキエルの首に腕を回し抱きしめていた。

エゼキエルも力強く抱きしめ返してくれる。


ーーどうしよう、嬉しい。

いいの?本当にいいの?これからもずっとエルの側にいて。

諦めなくていいの?


「諦めなくていいんだ。というか諦めないでくれ。俺は諦めたくなくてずっと必死だったんだから」

「グスッ……また声に出してた?」

「出てたよ。そんな裏表のないアンリだから安心して側にいられるんだ。大好きだよアンリエッタ」

「私もっ……!私もずっとエルの事が大好きでっ、大切でっ、宝物でっ、とにかく本当に大好きなのっ……!」

そう言った瞬間、唇を塞がれていた。

はじめて触れたその唇は温かく、泣きたいくらい愛おしかった。

触れるだけの優しい口付け。それは少しだけ涙の味がした。

アンリエッタは今度は自分から唇を重ねる。

想いを込めて。

心も人生も重ねたい、その気持ちを込めて。

2回目の口づけを交わしあった後、額を付き合わせて思わず二人で笑ってしまった。

そして三度の口付けはエゼキエルからで、

それは眩暈がするほど深い、大人の口付けであった。




二人で王宮に戻ったら、

どうして分かったのだろう。

エルは認識阻害の魔術を辺りに張っていたというのに、

王宮中のみんなに「おめでとうございます!」とか

「お二人が結ばれるように祈っておりました!」とか

「末永くお幸せに!」とか言われた。


そして宰相のモリス侯爵には、

「あなた達のその姿を見て、あのクズ王女もとっとと諦めて帰ってくれませんかねぇ」

と言われた。


ーーなんで?どうして?

ていうかどんな姿っ?





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なんでも?アンリエッタ愛用のリップが

エゼキエルの唇にばっちり移っていたそうな?

一体何をしたらそうなるか、わかりやすいですよねぇ☆


最終話を含め、あと二話で完結です。




























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