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王女の行く末と魔法の活用
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先日、エゼキエルに辛辣な言葉を浴びせられたヴィルジニー王女。
それでも彼女はまったく気にした様子もなく、更には自国の勅使まで連れて来て、正式に婚姻を結ぶにあたっての目録を渡して来た。
国王エゼキエルと摂政であり宰相のモリス侯爵に直接……。
その目録に記されていたのは、
まずはオリオルの数々の国費を半年間は賄えるほどの多額の持参金。
そしてオリオルに利があるように隣国との輸出入の関税の一時的な緩和。
加えて王家の至宝の一つとされるゴールドダイヤの譲渡……である。
その目録を見遣りながらモリス侯爵が言った。
「これは信じられない大盤振る舞いですなぁ。前国王が身罷れた際のこちらの足元を見た欲深さが嘘のようです」
「どんなに金銭を積まれようが、破格の好条件をつきつけられようが嫌なものは嫌だ。あんな王女を妃に迎えるくらいなら、叔父上に王位を明け渡す方がよっぽどマシだ」
エゼキエルが辟易とした表情を浮かべ、それらが記入されている書状を机の上に打ち捨てた。
「左様ですな。逆に考えればこれだけ払ってもいいから王女を引き取って欲しいという現れです。あの王女、自国でも相当やりたい放題の鼻摘まみ者らしいですからね」
「だろうな。自国のゴミを他国に押し付けようなんて厚顔無恥とはこの事だ。例の件は手筈通り進んでいるか?」
エゼキエルがモリス侯爵に訊くと、侯爵は飄々とした顔で答えた。
「もちろん。こちらが何もしなくても、まぁ色々とやってくれてるものですよ。言い逃れが出来ないよう、証拠も揃えております。まったくあの王女達…主従共々、本当に程度が低い」
「ではこの目録と一緒にそれらの罪状を上乗せして王女を送り返す事にしよう」
エゼキエルがそう言うと、モリス侯爵は満足そうに胸に手を当てて礼を執った。
「御意に」
◇◇◇◇◇
「え?それじゃあ、もう王女殿下は隣国へお帰りになったというの?」
王女が帰国したという知らせを受け、アンリエッタは驚き過ぎて思わずテーブルから立ち上がってしまった。
報告に来たタイラー=ベルファストがそれに答える。
「左様です妃殿下。ヴィルジニー王女殿下はこのオリオル王宮で禁止されている数々の違反行為をされた事により、正規の法に則りオリオルの司法局から退国命令を受けられました。そして今朝方、逃げるように転移魔法にて王宮を出立されましたよ」
「い、一体……王女殿下は何をされたの……?」
アンリエッタが問うと、タイラーは肩を竦めながら言った。
「王女とその付き人数名が王宮内では禁じられている賭け事を、滞在中毎日されていたようで。まあカードゲームなどで金品を賭けた訳ですね。隣国ではどうか知りませんが、オリオルではご法度です。王族だからとか関係ありません。しかも連中はオリオル王宮の物品を勝手に盗んでそれを賭けに用いていたようです。その他にも大陸法で禁じられている未成年の飲酒、喫煙など素行不良のオンパレードですよ。そこで陛下は王女を貴族院議会へ出頭させ、その場で処断なされました。その上でオリオルの刑罰に処すると告げられたら、あっという間にコソコソと逃げ帰って行きましたよ」
「っ~~~……!?」
アンリエッタは驚愕のあまり言葉を失う。
「あの王女も側付きの者達も、相当タチの悪い輩のようです。そんな者がこの国の国母にならなくて本当にようございました」
タイラーが呆れ果てた様子でそう言うと、一緒にお茶を飲んでいたユリアナが言った。
「タイラー様の仰る通りですわっ!あんな最低な人間が正妃になっていたらこの国は終わっていましたわよっ!」
ユリアナのその言葉に、今度はタイラーが頷く。
「誠に。我が国の国王はじつに女性を見る目がおありで喜ばしい限りです」
「本当ですわね。アンリエッタ様を正妃にと望まれるなんて実にお目が高いですわ!」
ユリアナとタイラーはうんうんと、満足そうに互いに頷き合っていた。
「それは……あ、ありがとうございます……」
アンリエッタは恥ずかしさで居た堪れずカップに口を付けた。
訪問中の他国にて罪を犯した事による強制退去と、オリオル王国への渡航禁止を受けたヴィルジニー王女は自国に戻ったが、もはや彼女の居場所はどこにもなかった。
押し付けようとした国から罪人として追い払われるという失態を犯した王女。
それまでの行いの悪さもあり、父王もさすがにもう庇いきれず、王女という身分を剥奪された上で戒律が厳しいと有名な修道院送りとなったのだった。
これからは自らが蔑んだ階級の者たちの中で生きてゆく事になる。
これを機会に心を入れ替えて、真っ当な人間になって貰いたいものだ。
それにはとてつもなく長い時が掛かりそうだが……。
それから後エゼキエルは、かつてオリオル王家が有してした魔法の復活を国内外に向けて公表した。
生殺与奪を司る生と死が表裏一体となった超古代魔法。
国王エゼキエルは命を殺奪する術式の凍結を明らかにするも、
オリオルが軍事的干渉や蹂躙を受けた際にはいつでも術式の発動は可能だとも示唆した。
この魔法の威力は具体的には明かされなかったが、軍の一個大隊くらいは一瞬で滅する事が出来るらしい。
その脅威はそれぞれの国の古い文献にも記されているという。
そのおかげで殺奪魔法その物の存在が他国への抑止力となったのだった。
それは勿論、他国に対してだけではなく国内の有力諸侯達に向けたものでもある。
姻戚であるベルファスト辺境伯家が統轄する辺境騎士団と古の強大な魔術。
この二つの力を持った事により、国王エゼキエルの権威は絶対的なものとなった。
だけど願わくば、その力を使わずに済む御代を築きたいとエゼキエルは皆に告げたという。
その言葉の真意を汲み、オリオルの上位貴族達は皆、若き君主に首を垂れ忠誠を誓ったという事が後の世にまで語り継がれる事となる。
そしてエゼキエルはもう一方の復活させた生与を司る魔法を平和的に活用し、それを新たな財源とする事も公にした。
生命力を高め、強くするこの魔法を用いて様々な緑化計画や生産性のある事業への発展を、国を推して進めてゆく計画も同時に提示する。
具体的に言うと、農作物や植物を育てるのには水や肥料や陽光が必要だが、この魔法を施術すれば痩せた土地や水のない場所や寒冷地でも容易に植物を栽培する事が可能になるのだ。
農作物の生産性を上げたり、
砂漠化が進む土地の緑化に役立てたり、
山火事により失われた森林を再生させたり。
そしてもちろんこの力は動物にも害はなく有効で、家畜の飼育や貴重な魔法生物の保護にも役立てられるという。
そこまで説明を受け、アンリエッタはふと気になった事を質問した。
「その魔法を使って生産した農作物や酪農事業を展開するというのは理解出来るのだけれど、この魔法は王族にしか扱えないのでしょう?毎回その現場にエルが行って魔法を掛けるの?それではキリがないし、効率が悪くないかしら?」
アンリエッタのその問いかけにエゼキエルは嬉しそうに笑って答えてくれた。
「さすがはアンリ、この魔法復活の立役者だね。
この魔法の術式を俺が作成して、それを信頼出来る王宮魔術師達によって現地で施術させるんだ。もちろん、その魔術師たちは守秘義務などの関係で誓約魔法をかけさせて貰うけどね」
「なるほど……って、ん?私が魔法復活の立役者とは?」
アンリが再び質問すると、エゼキエルはアンリの手を取り、その手を包み込みながら答えた。
「この生殺与奪の、奪うと与えるの両局面の力のバランスが安定しなくて研究が行き詰まっていたんだ。真逆の相反する力である癖に表裏一体で一つの力であるこの魔法を分離して使わなければ意味がなかったからだ。分離出来て初めて、この魔法が恐ろしいだけのものではなくなる。そうすれば祖先みたいに“殺奪”の方の力を恐れてこの魔法を手放さなくて良くなる筈だと思ったから」
「そうなのね……でもやっぱり私は何もしていないわよね?」
アンリエッタがそう言うと、エゼキエルは首を横に振った。
「二つの力の分離作業に失敗して魔力が暴走しそうになったんだ。それを無理やり抑えつけたから昏睡状態に陥ってしまった。でもアンリの事を思い浮かべただけで心が温かくなって……その時に押さえつけていた二つの魔力が急に安定したんだよ。それで解った。魔法とは術者が用いて初めて力として顕現出来る。力の安定は術者の心の安定だと気付いたんだよ。そしてそのおかげで意識を取り戻す事が出来た。アンリ、眠っている俺に何かした?」
それを言われ、アンリエッタは額にキスをした事を思い出し、頬を赤らめた。
「た、大した事はしていないわっ、ちょっとおでこにキスをしただけよっ……それが…私のおかげだというの?私を思い浮かべただけでバランスが安定したから?」
「口で言うのは簡単だけど、実際には精神が揺るがず安定するなんてかなり難しい事だよ?でも俺はアンリのおかげでそれが容易に出来るからね。だからアンリのお手柄だ。ていうかキスしてくれたんだ」
「早く目が覚める為の秘密のおまじないのつもりだったの……」
アンリエッタが恥ずかしそうに微笑み、エゼキエルを見た。
するとすぐ近くにエゼキエルの吐息を感じた、と思ったら唇を奪われていた。
初めて口づけを交わしてからというもの、今までのタガが外れたのかエゼキエルはしょっちゅう口づけをしてくるようになった。
アンリエッタは幸せな気持ちになるも、恥ずかしくて堪らない。
だってエゼキエルが蕩けるように優しい目で見つめてくるから。
そして近頃必ずこう言うのだ、早く成人の儀を済ませて、正式に婚姻式を挙げたいと。
その為には当然片付けなくてはならない問題がある訳で……
その問題を早々に片付ける為に、
エゼキエルは、国益を齎す魔法の復活を助力したとして、第一妃アンリエッタをその功績により正妃に迎える旨を公表した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンリを正妃にすると公表しただけの段階なのに、
王宮に勤める者たちは皆大喜びでお祭り騒ぎになったそうです。
次回、最終話です。
それでも彼女はまったく気にした様子もなく、更には自国の勅使まで連れて来て、正式に婚姻を結ぶにあたっての目録を渡して来た。
国王エゼキエルと摂政であり宰相のモリス侯爵に直接……。
その目録に記されていたのは、
まずはオリオルの数々の国費を半年間は賄えるほどの多額の持参金。
そしてオリオルに利があるように隣国との輸出入の関税の一時的な緩和。
加えて王家の至宝の一つとされるゴールドダイヤの譲渡……である。
その目録を見遣りながらモリス侯爵が言った。
「これは信じられない大盤振る舞いですなぁ。前国王が身罷れた際のこちらの足元を見た欲深さが嘘のようです」
「どんなに金銭を積まれようが、破格の好条件をつきつけられようが嫌なものは嫌だ。あんな王女を妃に迎えるくらいなら、叔父上に王位を明け渡す方がよっぽどマシだ」
エゼキエルが辟易とした表情を浮かべ、それらが記入されている書状を机の上に打ち捨てた。
「左様ですな。逆に考えればこれだけ払ってもいいから王女を引き取って欲しいという現れです。あの王女、自国でも相当やりたい放題の鼻摘まみ者らしいですからね」
「だろうな。自国のゴミを他国に押し付けようなんて厚顔無恥とはこの事だ。例の件は手筈通り進んでいるか?」
エゼキエルがモリス侯爵に訊くと、侯爵は飄々とした顔で答えた。
「もちろん。こちらが何もしなくても、まぁ色々とやってくれてるものですよ。言い逃れが出来ないよう、証拠も揃えております。まったくあの王女達…主従共々、本当に程度が低い」
「ではこの目録と一緒にそれらの罪状を上乗せして王女を送り返す事にしよう」
エゼキエルがそう言うと、モリス侯爵は満足そうに胸に手を当てて礼を執った。
「御意に」
◇◇◇◇◇
「え?それじゃあ、もう王女殿下は隣国へお帰りになったというの?」
王女が帰国したという知らせを受け、アンリエッタは驚き過ぎて思わずテーブルから立ち上がってしまった。
報告に来たタイラー=ベルファストがそれに答える。
「左様です妃殿下。ヴィルジニー王女殿下はこのオリオル王宮で禁止されている数々の違反行為をされた事により、正規の法に則りオリオルの司法局から退国命令を受けられました。そして今朝方、逃げるように転移魔法にて王宮を出立されましたよ」
「い、一体……王女殿下は何をされたの……?」
アンリエッタが問うと、タイラーは肩を竦めながら言った。
「王女とその付き人数名が王宮内では禁じられている賭け事を、滞在中毎日されていたようで。まあカードゲームなどで金品を賭けた訳ですね。隣国ではどうか知りませんが、オリオルではご法度です。王族だからとか関係ありません。しかも連中はオリオル王宮の物品を勝手に盗んでそれを賭けに用いていたようです。その他にも大陸法で禁じられている未成年の飲酒、喫煙など素行不良のオンパレードですよ。そこで陛下は王女を貴族院議会へ出頭させ、その場で処断なされました。その上でオリオルの刑罰に処すると告げられたら、あっという間にコソコソと逃げ帰って行きましたよ」
「っ~~~……!?」
アンリエッタは驚愕のあまり言葉を失う。
「あの王女も側付きの者達も、相当タチの悪い輩のようです。そんな者がこの国の国母にならなくて本当にようございました」
タイラーが呆れ果てた様子でそう言うと、一緒にお茶を飲んでいたユリアナが言った。
「タイラー様の仰る通りですわっ!あんな最低な人間が正妃になっていたらこの国は終わっていましたわよっ!」
ユリアナのその言葉に、今度はタイラーが頷く。
「誠に。我が国の国王はじつに女性を見る目がおありで喜ばしい限りです」
「本当ですわね。アンリエッタ様を正妃にと望まれるなんて実にお目が高いですわ!」
ユリアナとタイラーはうんうんと、満足そうに互いに頷き合っていた。
「それは……あ、ありがとうございます……」
アンリエッタは恥ずかしさで居た堪れずカップに口を付けた。
訪問中の他国にて罪を犯した事による強制退去と、オリオル王国への渡航禁止を受けたヴィルジニー王女は自国に戻ったが、もはや彼女の居場所はどこにもなかった。
押し付けようとした国から罪人として追い払われるという失態を犯した王女。
それまでの行いの悪さもあり、父王もさすがにもう庇いきれず、王女という身分を剥奪された上で戒律が厳しいと有名な修道院送りとなったのだった。
これからは自らが蔑んだ階級の者たちの中で生きてゆく事になる。
これを機会に心を入れ替えて、真っ当な人間になって貰いたいものだ。
それにはとてつもなく長い時が掛かりそうだが……。
それから後エゼキエルは、かつてオリオル王家が有してした魔法の復活を国内外に向けて公表した。
生殺与奪を司る生と死が表裏一体となった超古代魔法。
国王エゼキエルは命を殺奪する術式の凍結を明らかにするも、
オリオルが軍事的干渉や蹂躙を受けた際にはいつでも術式の発動は可能だとも示唆した。
この魔法の威力は具体的には明かされなかったが、軍の一個大隊くらいは一瞬で滅する事が出来るらしい。
その脅威はそれぞれの国の古い文献にも記されているという。
そのおかげで殺奪魔法その物の存在が他国への抑止力となったのだった。
それは勿論、他国に対してだけではなく国内の有力諸侯達に向けたものでもある。
姻戚であるベルファスト辺境伯家が統轄する辺境騎士団と古の強大な魔術。
この二つの力を持った事により、国王エゼキエルの権威は絶対的なものとなった。
だけど願わくば、その力を使わずに済む御代を築きたいとエゼキエルは皆に告げたという。
その言葉の真意を汲み、オリオルの上位貴族達は皆、若き君主に首を垂れ忠誠を誓ったという事が後の世にまで語り継がれる事となる。
そしてエゼキエルはもう一方の復活させた生与を司る魔法を平和的に活用し、それを新たな財源とする事も公にした。
生命力を高め、強くするこの魔法を用いて様々な緑化計画や生産性のある事業への発展を、国を推して進めてゆく計画も同時に提示する。
具体的に言うと、農作物や植物を育てるのには水や肥料や陽光が必要だが、この魔法を施術すれば痩せた土地や水のない場所や寒冷地でも容易に植物を栽培する事が可能になるのだ。
農作物の生産性を上げたり、
砂漠化が進む土地の緑化に役立てたり、
山火事により失われた森林を再生させたり。
そしてもちろんこの力は動物にも害はなく有効で、家畜の飼育や貴重な魔法生物の保護にも役立てられるという。
そこまで説明を受け、アンリエッタはふと気になった事を質問した。
「その魔法を使って生産した農作物や酪農事業を展開するというのは理解出来るのだけれど、この魔法は王族にしか扱えないのでしょう?毎回その現場にエルが行って魔法を掛けるの?それではキリがないし、効率が悪くないかしら?」
アンリエッタのその問いかけにエゼキエルは嬉しそうに笑って答えてくれた。
「さすがはアンリ、この魔法復活の立役者だね。
この魔法の術式を俺が作成して、それを信頼出来る王宮魔術師達によって現地で施術させるんだ。もちろん、その魔術師たちは守秘義務などの関係で誓約魔法をかけさせて貰うけどね」
「なるほど……って、ん?私が魔法復活の立役者とは?」
アンリが再び質問すると、エゼキエルはアンリの手を取り、その手を包み込みながら答えた。
「この生殺与奪の、奪うと与えるの両局面の力のバランスが安定しなくて研究が行き詰まっていたんだ。真逆の相反する力である癖に表裏一体で一つの力であるこの魔法を分離して使わなければ意味がなかったからだ。分離出来て初めて、この魔法が恐ろしいだけのものではなくなる。そうすれば祖先みたいに“殺奪”の方の力を恐れてこの魔法を手放さなくて良くなる筈だと思ったから」
「そうなのね……でもやっぱり私は何もしていないわよね?」
アンリエッタがそう言うと、エゼキエルは首を横に振った。
「二つの力の分離作業に失敗して魔力が暴走しそうになったんだ。それを無理やり抑えつけたから昏睡状態に陥ってしまった。でもアンリの事を思い浮かべただけで心が温かくなって……その時に押さえつけていた二つの魔力が急に安定したんだよ。それで解った。魔法とは術者が用いて初めて力として顕現出来る。力の安定は術者の心の安定だと気付いたんだよ。そしてそのおかげで意識を取り戻す事が出来た。アンリ、眠っている俺に何かした?」
それを言われ、アンリエッタは額にキスをした事を思い出し、頬を赤らめた。
「た、大した事はしていないわっ、ちょっとおでこにキスをしただけよっ……それが…私のおかげだというの?私を思い浮かべただけでバランスが安定したから?」
「口で言うのは簡単だけど、実際には精神が揺るがず安定するなんてかなり難しい事だよ?でも俺はアンリのおかげでそれが容易に出来るからね。だからアンリのお手柄だ。ていうかキスしてくれたんだ」
「早く目が覚める為の秘密のおまじないのつもりだったの……」
アンリエッタが恥ずかしそうに微笑み、エゼキエルを見た。
するとすぐ近くにエゼキエルの吐息を感じた、と思ったら唇を奪われていた。
初めて口づけを交わしてからというもの、今までのタガが外れたのかエゼキエルはしょっちゅう口づけをしてくるようになった。
アンリエッタは幸せな気持ちになるも、恥ずかしくて堪らない。
だってエゼキエルが蕩けるように優しい目で見つめてくるから。
そして近頃必ずこう言うのだ、早く成人の儀を済ませて、正式に婚姻式を挙げたいと。
その為には当然片付けなくてはならない問題がある訳で……
その問題を早々に片付ける為に、
エゼキエルは、国益を齎す魔法の復活を助力したとして、第一妃アンリエッタをその功績により正妃に迎える旨を公表した。
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アンリを正妃にすると公表しただけの段階なのに、
王宮に勤める者たちは皆大喜びでお祭り騒ぎになったそうです。
次回、最終話です。
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