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ルゥカ、穴があったら入りたい
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作中、性描写は無いけど、行為を匂わす表現があります。
苦手な方は自衛をお願いします。
───────────────────────
性の何たるかをまったく知らなかったルゥカが、たった数時間でその全てを叩き込まれてフェイトの元へと戻ってきた。
真っ赤っかの茹でダコになって。
とりあえず部屋の中に入れたはいいものの、驚くくらいに顔が真っ赤になっているルゥカを見て、フェイトは心配になった。
「……ルゥカ、お前大丈夫か?」
「~~~~~………」
「ルゥカ?」
俯いたままのルゥカの頬に手を添えて、上を向かせる。
が、ルゥカのその表情を見てフェイトは思わず小さく息を呑んだ。
頬を真っ赤に染め上げ、涙で瞳を潤ませたルゥカの破壊力が凄まじかったからだ。
「…………」
フェイトはいつも以上に理性を総動員させ、ルゥカをソファーに座らせた。
そして冷やしておいた果実水を渡してやる。
ルゥカは果実水入りのグラスを受け取るとぐいっと仰いで一気に飲み干した。
そしてグラスを手にしたまま、また俯いてしまう。
フェイトは静かにルゥカの名を呼んだ。
「ルゥカ」
「………ふぇいとぉ……」
ルゥカは泣き出しそうな声で彼の名を呼び返す。
そしてややあって、ようやくルゥカは話し出した。
「……ごめんなさい……私、散々変な事を言って困らせて、ホントにごめんなさい……」
「……子種が何なのか知ったんだな?」
「はううぅっ………!!」
フェイトがそう言うとルゥカは奇声を発して両手で顔を覆った。
「っ~~~………!」
そしてまた黙り込んでしまう。
これは全て知ったんだな、とフェイトは確信した。
それにしてもドリーは、この短時間でどうやってルゥカに男女の営みについてや、子種が何たるかを叩き込んだのだろう。
フェイトはそれが気になって仕方なかった。
その事についてフェイトは後で知るのだが、
実はドリーはかなり手っ取り早く、そして荒い性教育をルゥカに施したのであった。
実家である酒屋と取り引きがあり、普段から何かと交友のある娼館の主へ事前に頼み込み、ルゥカに男女の営みを直接見せたのである。
まずは同性として、間違いなく生理現象を取り扱うとしか知らぬであろう女性の体についてや性交渉についてざっくりと座学を行った後、
快く見学を承諾してくれた特殊な性的嗜好のある娼婦と客の行為を、覗き鏡となっている続きの部屋からルゥカに見せたのだ。
ドリー曰く百聞は一見しかず、である。
(もちろんウブウブなルゥカの為に極めてあっさりとした淡白な、そして教本のような営みをしてくれるよう頼んでおいたらしい)
そこで全てを知ったルゥカ。
散々自分がコダネコダネと連呼していたモノの正体も知り、かなりショックを受けているようだ。
と、そんなこんなで完璧に知っちゃったルゥカが顔を隠したままフェイトに言う。
「………フェイト………私、穴があった入りたい……もうそこで生きていく……うぅん、もういっそ消えてしまいたい……」
「物騒な事を言うな、知らなかったんだから仕方ねぇだろ。それに、元はと言えばお前をそういったものから遠ざけ過ぎた俺が悪いんだ」
「え……?遠ざけたって……?」
そう言って手をのけて顔を出したルゥカがフェイトを見た。
「っ………」
その何とも言えない表情にフェイトはまたたじろぐ。
「……まぁそれはまた落ち着いてからな。とにかくこれでちゃんと話せる。どうしてお前は、俺の子種が欲しいと思ったんだ?」
「うぅ………」
“コダネ”と聞き、また居た堪れなくなったルゥカが小さく唸る。
「ルゥカ、恥ずかしがってちゃ埒が開かねぇぞ。ちゃんと答えるまで俺は引かねぇからな」
頑としたフェイトの意志を告げられ、ルゥカは観念してたどたどしくも言葉᷄を押し出した。
「……私は……ずっと、フェイトのお嫁さんになる事を夢見て生きてきたの。でもそれももう諦めなくちゃいけないとわかったから……でも、フェイト以外の男の人との結婚なんて考えられないし、だからせめて、フェイトの子どもを田舎で育てながら生きていこうと思ったの……」
あの図書館司書に惹かれたのではないと知り、ほっとする気持ちもあれど、それよりも何よりもルゥカの口から告げられたその心情は、フェイトが思っていたよりも意外で衝撃的な内容だった。
それでもフェイトはその衝撃を噯に出さずにルゥカに言う。
「……どうしてそんな事を思ったんだ?どうして、俺の嫁になる事を諦めようとした?」
「だってっ……フェイトはルリアンナ様の事が好きなんだってわかったから……」
フェイトにとってこれまた驚きの発言が出て来たが、
既にいっぱいいっぱいであろうルゥカをこれ以上追い詰めたくはなかった。
なのでフェイトは努めて淡々とした口調を心がけた。
「俺がルリアンナ様を?そんなわけねぇだろ……」
「えっ……?だ、だって、フェイトってばあんなに切なそうにルリアンナ様を見て……!だからフェイトは決して結ばれる事が許されないルリアンナ様への想いを抱えているのだと知ったのよっ……」
「…………」
本当にびっくりだった。
まさかルゥカにそんな風に思われていたなんて。
それで自己完結されてフラレそうになっていたなんて、フェイトにとってかなり衝撃的な事実であったのだ。
だが確かに聖女ルリアンナを憐憫の眼差しで見つめていた自覚のあるフェイトは、ルゥカがそう勘違いして思い詰めても仕方ないと思った。
全ては、もう本当に全ては、自分の行動の所為なのだとフェイトは理解した。
それが回り回って自身に辿りついた。
それをどうして腹立てたり悲しんだり出来よう。
この真っ直ぐで純粋なポンコツ娘がそのまんまの意味として捉え、自分のために諦めて身を引こうと考えたとしても仕方のない事だと、フェイトはそう思った。
フェイトはソファに座るルゥカの前に跪き、真摯に向き合う心を込めてその瞳を見つめた。
「ルゥカ。まずは俺の何の気ない行動でお前を傷付けた事を謝らせてくれ、本当に悪かった」
「フェイト?」
急に謝ってきたフェイトの真意が分からず、ルゥカはきょとんとする。
「その上できちんと言う。俺はルリアンナ様に対し恋情を抱いた事など一度もない。聖女としてのあの方を敬う心はあれど、女性として意識した事はただの一度もない」
「うそっ……!だって!」
「あぁそうだな。確かにお前が言う切なそうな眼差し…は向けた事があると思う。でもそれは、聖女様に対する憐憫の心からそんな眼差しになったんだと思う」
「憐憫の……眼差し……?」
言葉を繰り返すルゥカに対し頷きながらフェイトは話を続けた。
「ルリアンナ様が王弟アルフレッド様と恋仲である事はお前も知ってるよな?」
「う、うん……聖女様は婚姻が許されていないから、王弟殿下も独身を貫く事でお二人はその恋を大切にされていると……」
「そうだ。どんなに愛していても、聖女である限り結ばれる事は許されない。究極の癒し手を持つ聖女が私情のためにその力を失う事になれば、多くの者が救われる事なく死んでゆくか不自由な身体のまま生を終える事になる。それを誰よりも分かっておられるルリアンナ様だからこそ、ご自身の幸せは諦めて聖女としての責務を全うされておられるんだ」
その話を聞き、いつも優しく穏やかに、そして屈託のない笑顔で微笑むルリアンナの顔が脳裏に浮かぶ。
あの笑顔の奥に自らの幸せを諦めた悲しい心があるのかと思うとルゥカは何とも言えない気持ちになった。
「あ………」
そしてルゥカは気付く。
あの時のフェイトもまた、そんな気持ちでルリアンナを見ていたのだという事に。
「わかってくれたか?」
フェイトがいつになく穏やかな声で言う。
ルゥカはただ黙って頷くしか出来なかった。
「まぁそれもどうやら奇跡が起きたらしいのだが……また教会の方から発表があるだろう」
「そう……」
フェイトは優しい笑みを浮かべ、ルゥカの頭に手をぽんと置いた。
その手はとても温かく、心から安心できた。
一人で誤解し、空回りをして恥ずかしい発言を繰り返した自分が情けなくて泣けてくる。
でもそれよりも何よりも……
「じゃあフェイトは、ルリアンナ様を愛しているわけではないの?」
「ああ。心から尊敬し、お守りしたいと思う気持ちは誰にも負けないがな」
「じゃあ……私、フェイトのお嫁さんになる夢を諦めなくていいの?」
「俺だって昔から嫁にするならルゥカしか考えられなかったんだ。今さら結婚したくないなんて言われたら暴れるぞ」
「本当っ……?本当にそんな事思っててくれたの?じゃあどうして今まで何も言ってくれなかったの……?」
「それは…….本当に悪いと思ってる。聖騎士になってすぐに恋愛禁止の規則に縛られて、無責任な事は何も言えなかったんだ」
「それでも好きって事くらい言ってくれても……」
「それも本当に悪い。俺が規則に縛られるように、お前をそんな言葉で縛りたくなかった。もしかしたらお前には、この王都でもっと相応しい奴と出会えるかもしれないと思ったから……結局はお前に近付く男をみんな蹴散らして独占欲の塊の行動しか取れなかったくせにな。それなら最初から格好つけずに、お前を手放すつもりはないと言っときゃあよかったんだ……悪かった」
「フェイトぉ!」
その言葉を聞き終えると同時に、ルゥカはフェイトの首に手を回す。
ソファーの上から飛び込むように跪いていたフェイトに抱きついた。
フェイトは少し驚きながらも危なげなく受け止める。
そして必死にしがみつくルゥカの体を抱きしめ返した。
「フェイト……好きっ、大好きっ!私をお嫁さんにしてっ!」
「俺もルゥカが好きだ。昔から、お前だけが好きだ」
「ぅぅぅ……ふぅうっ……ふぇいとぉ……」
この世で一番嬉しい言葉を、聞きたかった言葉を耳にして、ルゥカの涙が溢れ出た。
フェイトは自身の肩をルゥカの温かい涙が濡らしてゆくのを感じながらその頭を撫でてやる。
そして抱き合いながらフェイトは言った。
「ルゥカ、再来月には聖騎士になって五年を迎える。そうしたらすぐにでも結婚しよう。あともう少し、待っててくれるか?」
「待つ!!いくらでも待つ!!フェイトのお嫁さんになれるなら、十年でも二十年でも待つ!!」
「ふ、さすがにそんなには待たさねぇよ。結婚したら、ルゥカの婆ちゃんも王都に呼ぶか」
「いいの……?」
「ルゥカは田舎で一人暮らす婆ちゃんが心配なんだろ?俺だって散々世話になったんだ。恩返しくらいさせてくれ。それに俺の両親はまだ若いが、ルゥカの婆ちゃんはそろそろいい年だもんな」
そう言ってフェイトが笑う。
ルゥカはその笑顔を見てまた泣いた。
「フェイトぉぉ~!ありがどう~!」
「ほらもう、泣きすぎだ」
次から次へと溢れ出る涙をフェイトが優しく拭ってくれる。
そして、ルゥカに触れるだけの優しい口づけを落とした。
「……!」
驚いて目を見開くルゥカに、フェイトは悪戯っぽい表情を浮かべた。
「このくらいは許されるだろ。五年の縛りが明けたら、また改めてな」
そう言われた瞬間、ルゥカの脳裏に先程娼館で見たディープな口づけが蘇った。
アレを、
フェイトと。
「っ~~~!」
「ルゥカっ!?」
ルゥカは再び茹でダコのように真っ赤になって倒れた。
本日のルゥカの精神バロメーターは完全に振り切れてしまったのであった。
───────────────────────
次回、最終話です。
苦手な方は自衛をお願いします。
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性の何たるかをまったく知らなかったルゥカが、たった数時間でその全てを叩き込まれてフェイトの元へと戻ってきた。
真っ赤っかの茹でダコになって。
とりあえず部屋の中に入れたはいいものの、驚くくらいに顔が真っ赤になっているルゥカを見て、フェイトは心配になった。
「……ルゥカ、お前大丈夫か?」
「~~~~~………」
「ルゥカ?」
俯いたままのルゥカの頬に手を添えて、上を向かせる。
が、ルゥカのその表情を見てフェイトは思わず小さく息を呑んだ。
頬を真っ赤に染め上げ、涙で瞳を潤ませたルゥカの破壊力が凄まじかったからだ。
「…………」
フェイトはいつも以上に理性を総動員させ、ルゥカをソファーに座らせた。
そして冷やしておいた果実水を渡してやる。
ルゥカは果実水入りのグラスを受け取るとぐいっと仰いで一気に飲み干した。
そしてグラスを手にしたまま、また俯いてしまう。
フェイトは静かにルゥカの名を呼んだ。
「ルゥカ」
「………ふぇいとぉ……」
ルゥカは泣き出しそうな声で彼の名を呼び返す。
そしてややあって、ようやくルゥカは話し出した。
「……ごめんなさい……私、散々変な事を言って困らせて、ホントにごめんなさい……」
「……子種が何なのか知ったんだな?」
「はううぅっ………!!」
フェイトがそう言うとルゥカは奇声を発して両手で顔を覆った。
「っ~~~………!」
そしてまた黙り込んでしまう。
これは全て知ったんだな、とフェイトは確信した。
それにしてもドリーは、この短時間でどうやってルゥカに男女の営みについてや、子種が何たるかを叩き込んだのだろう。
フェイトはそれが気になって仕方なかった。
その事についてフェイトは後で知るのだが、
実はドリーはかなり手っ取り早く、そして荒い性教育をルゥカに施したのであった。
実家である酒屋と取り引きがあり、普段から何かと交友のある娼館の主へ事前に頼み込み、ルゥカに男女の営みを直接見せたのである。
まずは同性として、間違いなく生理現象を取り扱うとしか知らぬであろう女性の体についてや性交渉についてざっくりと座学を行った後、
快く見学を承諾してくれた特殊な性的嗜好のある娼婦と客の行為を、覗き鏡となっている続きの部屋からルゥカに見せたのだ。
ドリー曰く百聞は一見しかず、である。
(もちろんウブウブなルゥカの為に極めてあっさりとした淡白な、そして教本のような営みをしてくれるよう頼んでおいたらしい)
そこで全てを知ったルゥカ。
散々自分がコダネコダネと連呼していたモノの正体も知り、かなりショックを受けているようだ。
と、そんなこんなで完璧に知っちゃったルゥカが顔を隠したままフェイトに言う。
「………フェイト………私、穴があった入りたい……もうそこで生きていく……うぅん、もういっそ消えてしまいたい……」
「物騒な事を言うな、知らなかったんだから仕方ねぇだろ。それに、元はと言えばお前をそういったものから遠ざけ過ぎた俺が悪いんだ」
「え……?遠ざけたって……?」
そう言って手をのけて顔を出したルゥカがフェイトを見た。
「っ………」
その何とも言えない表情にフェイトはまたたじろぐ。
「……まぁそれはまた落ち着いてからな。とにかくこれでちゃんと話せる。どうしてお前は、俺の子種が欲しいと思ったんだ?」
「うぅ………」
“コダネ”と聞き、また居た堪れなくなったルゥカが小さく唸る。
「ルゥカ、恥ずかしがってちゃ埒が開かねぇぞ。ちゃんと答えるまで俺は引かねぇからな」
頑としたフェイトの意志を告げられ、ルゥカは観念してたどたどしくも言葉᷄を押し出した。
「……私は……ずっと、フェイトのお嫁さんになる事を夢見て生きてきたの。でもそれももう諦めなくちゃいけないとわかったから……でも、フェイト以外の男の人との結婚なんて考えられないし、だからせめて、フェイトの子どもを田舎で育てながら生きていこうと思ったの……」
あの図書館司書に惹かれたのではないと知り、ほっとする気持ちもあれど、それよりも何よりもルゥカの口から告げられたその心情は、フェイトが思っていたよりも意外で衝撃的な内容だった。
それでもフェイトはその衝撃を噯に出さずにルゥカに言う。
「……どうしてそんな事を思ったんだ?どうして、俺の嫁になる事を諦めようとした?」
「だってっ……フェイトはルリアンナ様の事が好きなんだってわかったから……」
フェイトにとってこれまた驚きの発言が出て来たが、
既にいっぱいいっぱいであろうルゥカをこれ以上追い詰めたくはなかった。
なのでフェイトは努めて淡々とした口調を心がけた。
「俺がルリアンナ様を?そんなわけねぇだろ……」
「えっ……?だ、だって、フェイトってばあんなに切なそうにルリアンナ様を見て……!だからフェイトは決して結ばれる事が許されないルリアンナ様への想いを抱えているのだと知ったのよっ……」
「…………」
本当にびっくりだった。
まさかルゥカにそんな風に思われていたなんて。
それで自己完結されてフラレそうになっていたなんて、フェイトにとってかなり衝撃的な事実であったのだ。
だが確かに聖女ルリアンナを憐憫の眼差しで見つめていた自覚のあるフェイトは、ルゥカがそう勘違いして思い詰めても仕方ないと思った。
全ては、もう本当に全ては、自分の行動の所為なのだとフェイトは理解した。
それが回り回って自身に辿りついた。
それをどうして腹立てたり悲しんだり出来よう。
この真っ直ぐで純粋なポンコツ娘がそのまんまの意味として捉え、自分のために諦めて身を引こうと考えたとしても仕方のない事だと、フェイトはそう思った。
フェイトはソファに座るルゥカの前に跪き、真摯に向き合う心を込めてその瞳を見つめた。
「ルゥカ。まずは俺の何の気ない行動でお前を傷付けた事を謝らせてくれ、本当に悪かった」
「フェイト?」
急に謝ってきたフェイトの真意が分からず、ルゥカはきょとんとする。
「その上できちんと言う。俺はルリアンナ様に対し恋情を抱いた事など一度もない。聖女としてのあの方を敬う心はあれど、女性として意識した事はただの一度もない」
「うそっ……!だって!」
「あぁそうだな。確かにお前が言う切なそうな眼差し…は向けた事があると思う。でもそれは、聖女様に対する憐憫の心からそんな眼差しになったんだと思う」
「憐憫の……眼差し……?」
言葉を繰り返すルゥカに対し頷きながらフェイトは話を続けた。
「ルリアンナ様が王弟アルフレッド様と恋仲である事はお前も知ってるよな?」
「う、うん……聖女様は婚姻が許されていないから、王弟殿下も独身を貫く事でお二人はその恋を大切にされていると……」
「そうだ。どんなに愛していても、聖女である限り結ばれる事は許されない。究極の癒し手を持つ聖女が私情のためにその力を失う事になれば、多くの者が救われる事なく死んでゆくか不自由な身体のまま生を終える事になる。それを誰よりも分かっておられるルリアンナ様だからこそ、ご自身の幸せは諦めて聖女としての責務を全うされておられるんだ」
その話を聞き、いつも優しく穏やかに、そして屈託のない笑顔で微笑むルリアンナの顔が脳裏に浮かぶ。
あの笑顔の奥に自らの幸せを諦めた悲しい心があるのかと思うとルゥカは何とも言えない気持ちになった。
「あ………」
そしてルゥカは気付く。
あの時のフェイトもまた、そんな気持ちでルリアンナを見ていたのだという事に。
「わかってくれたか?」
フェイトがいつになく穏やかな声で言う。
ルゥカはただ黙って頷くしか出来なかった。
「まぁそれもどうやら奇跡が起きたらしいのだが……また教会の方から発表があるだろう」
「そう……」
フェイトは優しい笑みを浮かべ、ルゥカの頭に手をぽんと置いた。
その手はとても温かく、心から安心できた。
一人で誤解し、空回りをして恥ずかしい発言を繰り返した自分が情けなくて泣けてくる。
でもそれよりも何よりも……
「じゃあフェイトは、ルリアンナ様を愛しているわけではないの?」
「ああ。心から尊敬し、お守りしたいと思う気持ちは誰にも負けないがな」
「じゃあ……私、フェイトのお嫁さんになる夢を諦めなくていいの?」
「俺だって昔から嫁にするならルゥカしか考えられなかったんだ。今さら結婚したくないなんて言われたら暴れるぞ」
「本当っ……?本当にそんな事思っててくれたの?じゃあどうして今まで何も言ってくれなかったの……?」
「それは…….本当に悪いと思ってる。聖騎士になってすぐに恋愛禁止の規則に縛られて、無責任な事は何も言えなかったんだ」
「それでも好きって事くらい言ってくれても……」
「それも本当に悪い。俺が規則に縛られるように、お前をそんな言葉で縛りたくなかった。もしかしたらお前には、この王都でもっと相応しい奴と出会えるかもしれないと思ったから……結局はお前に近付く男をみんな蹴散らして独占欲の塊の行動しか取れなかったくせにな。それなら最初から格好つけずに、お前を手放すつもりはないと言っときゃあよかったんだ……悪かった」
「フェイトぉ!」
その言葉を聞き終えると同時に、ルゥカはフェイトの首に手を回す。
ソファーの上から飛び込むように跪いていたフェイトに抱きついた。
フェイトは少し驚きながらも危なげなく受け止める。
そして必死にしがみつくルゥカの体を抱きしめ返した。
「フェイト……好きっ、大好きっ!私をお嫁さんにしてっ!」
「俺もルゥカが好きだ。昔から、お前だけが好きだ」
「ぅぅぅ……ふぅうっ……ふぇいとぉ……」
この世で一番嬉しい言葉を、聞きたかった言葉を耳にして、ルゥカの涙が溢れ出た。
フェイトは自身の肩をルゥカの温かい涙が濡らしてゆくのを感じながらその頭を撫でてやる。
そして抱き合いながらフェイトは言った。
「ルゥカ、再来月には聖騎士になって五年を迎える。そうしたらすぐにでも結婚しよう。あともう少し、待っててくれるか?」
「待つ!!いくらでも待つ!!フェイトのお嫁さんになれるなら、十年でも二十年でも待つ!!」
「ふ、さすがにそんなには待たさねぇよ。結婚したら、ルゥカの婆ちゃんも王都に呼ぶか」
「いいの……?」
「ルゥカは田舎で一人暮らす婆ちゃんが心配なんだろ?俺だって散々世話になったんだ。恩返しくらいさせてくれ。それに俺の両親はまだ若いが、ルゥカの婆ちゃんはそろそろいい年だもんな」
そう言ってフェイトが笑う。
ルゥカはその笑顔を見てまた泣いた。
「フェイトぉぉ~!ありがどう~!」
「ほらもう、泣きすぎだ」
次から次へと溢れ出る涙をフェイトが優しく拭ってくれる。
そして、ルゥカに触れるだけの優しい口づけを落とした。
「……!」
驚いて目を見開くルゥカに、フェイトは悪戯っぽい表情を浮かべた。
「このくらいは許されるだろ。五年の縛りが明けたら、また改めてな」
そう言われた瞬間、ルゥカの脳裏に先程娼館で見たディープな口づけが蘇った。
アレを、
フェイトと。
「っ~~~!」
「ルゥカっ!?」
ルゥカは再び茹でダコのように真っ赤になって倒れた。
本日のルゥカの精神バロメーターは完全に振り切れてしまったのであった。
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次回、最終話です。
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通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。
二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど───
一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた……
追記:
あと少しで完結予定ですが、
長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)
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