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夢は聖騎士、そして フェイトside
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こんなに神聖なものを目の当たりにしたのは初めてであった。
「……すげぇ………」
故郷で起きた山崩れで慕っていた従兄を亡くし、慰霊のために訪れた教会で鎮魂歌を歌う聖女を見た。そして心が震えたのだ。
その時まだ五歳であったフェイトに聖女という存在が何なのか、何を背負い何を捧げて生きているのかは分からなかったが、ただこの尊い人を守れる人間になりたい、そう思ったのであった。
「……おれ、しょうらいは、ぱらでぃんになって、せいじょさまをおまもりする……」
と思わずそう呟いた時、引き会わされたばかりだったルゥカが「せいじょさま、よろこぶね!」と言って笑った。
それまで聖女を夢中になって見つめていたフェイトだが、なぜかルゥカのその笑顔の方が印象的に感じたのを今でも覚えている。
「フェイトだいすき!」
「おおきくなったらぜったいにフェイトのおよめさんになる!」
生家の斜向かいに住んでいたルゥカには不思議なくらい昔から懐かれていた。
山崩れで両親を一度に亡くした寂しさもあったのだろう。
祖母に引き取られ新しい区域に移った不安もあったのだろう。
とにかく子供ながらに依存されているとわかるほどに、ルゥカはフェイトにベッタリであった。
フェイトの両親は領主の屋敷に奉公していて共働きであったし、その為にルゥカの祖母に預けられる事もしばしばあった。
だから否が応なしに一緒にいる事になったのも、その要因であったと思う。
ルゥカはとにかく寝ても覚めてもフェイトの側に居たがった。
「まぁ今だけさ。ルゥカも大きくなったら世界が広がって同性の友達が出来るよになったら、自然とアンタから離れていくよ」
いつしかルゥカの祖母がそう言った。
フェイトもそうなんだろうな…とぼんやり思ったが、その時一抹の寂しさを感じた気がした。
その感情が何なのか分からず終いでその日を意識していたが、結局そんな日は訪れなかったのだった。
顔の良さからか昔から女の子によく付き纏われた。
だがその度にルゥカがどこに居ても直ぐに飛んで来てその女の子たちと舌戦を繰り広げた。
フェイトを取られまいと必死になるルゥカに腹を立てて殴ろうとする相手もたまにいて、その度にフェイトはルゥカを庇ったりもしたものだ。
しかしルゥカを殴ろとした女の子に対し酷く嫌悪と苛立ちを感じている自分に気が付いた時、それが恋心を自覚した瞬間だった。
その頃には逆にルゥカにちょっかいを出してくる男子が増え出して、いつしかその行動は逆になっていた。
ルゥカは可愛い。
明るい艶々の栗毛に澄んだグリーンアイズ。
穏やかで柔らかい、ぽやぽやした雰囲気は男子の庇護欲を刺激した。
今までつるペタだった胸が日に日にブラウスを押し上げて行く様を周囲の男子どもが羨望の眼差しで見つめていたのを、当の本人は知らない。
ルゥカの気を引きたいのか恥ずかしがるルゥカを見たいのか、バカな奴らがルゥカにスケベな話をわざと聞かせようとする度にフェイトはルゥカの耳を塞いできた。
どうしてそんなバカの口から出た汚い言葉でルゥカの鼓膜を汚さなくてはならないのだ。
そう思ったフェイトは極力、ルゥカの耳に変な言葉が入らないように気を配って来たのであった。
その為にバカな奴と度々喧嘩になる。
幼い頃から聖騎士を目指して鍛錬してきたフェイトの敵ではなかったが、おかげで荒事にもすっかり慣れた。
そうして十六歳の時に準騎士の試験に合格し、同時に王都の聖女教会の聖騎士候補にも任じられた。
夢がかなった瞬間であった、が、同時に故郷を離れてルゥカとも離れるという事が確定した瞬間であった。
昔から嫁にしてくれと言い続けてきたルゥカ。
フェイトもまた、いつのまにかルゥカ以外の娘を嫁に貰うつもりはなかったのだ。
いっそルゥカも連れていくか?
そんな考えがフェイトの頭を過ぎる。
しかし互いにまだ十六。成人していない身で、しかも内定している聖女付きの聖騎士ともなると五年間は結婚は愚か交際も、強いては恋愛もご法度となる。
そんなルゥカに対しなんの責任も持てない自分が彼女を王都へと連れて行くなどと、あまりに無責任だ。
加えてあのぽやぽやなポンコツが都会で暮らし、自分の目の届かない場所で勝手にピンチになられては非常に困る。
───必ず迎えにくるから田舎で大人しく待っててくれ……と、プロポーズを告げるだけなら許されるだろうか。
そんな事を真剣に考えていたフェイトに、次に会ったルゥカがとんでもない事を口にした。
「私も王都に行くから!」
しまった。どこで王都に行く事を知られたのだろう。
そしてポンコツのくせに無駄に行動力があるということを忘れていた。
聞けばルゥカの祖母も王都行きを許したというではないか。
ルゥカが王都で暮らす事に不安は感じないのかと、フェイトが彼女の祖母に抗議すると、
「あんたが一緒なんだ。何を不安に感じる事がある?これまで通り、全力でルゥカを守ってくれるんだろ?」
としたり顔で返された。
さすがは昔聖女教会で長年メイド長を務めていただけの事はある人だ。
山崩れの慰霊での聖女の訪問もルゥカの祖母が一役買ったと聞いている。
とにかくルゥカが聖女教会でメイドとして働くのは既に決まった事で、今更覆すなんて信用問題に関わると言われしまった。
まぁ本当はルゥカと離れずに済むと、どこかほっとした自分がいる事をわかっているフェイトであったが。
しかし一緒に王都に行くとなると、フェイトの行動に迷いはなかった。
ルゥカの住むアパートは当然自分のすぐ側に決め、メイドとして働き出したルゥカにちょっかいを出そうとする騎士や下男や周辺の男共を片っ端から牽制、または腕力にものを言わせ追い払ってきた。
それこそルゥカの友人となったメイドのドリーに呆れられるくらいに。
だがルゥカを守る事に、文句を言われる筋合いはない。
騎士として真面目に務め、王都に来て一年で正聖騎士に叙任された。
同じく聖女付きの先輩騎士たちに、五年間の恋愛ご法度でも隠れてのたまの息抜きは必要だぞと言われ、何度も娼館に誘われたがその度に断った。
先輩たちは、規則は規則だが騎士とて人間だ。しかも若い盛りの男子に教会側も見て見ぬふりをしてくれると諭されても、頷く気持ちにはなれなかった。
規則を破る事を簡単に許してしまう自分になりたくなかったし、
自分へと一心に心を寄せてくれるルゥカを裏切りたくもなかった。
それに、触れたいのはルゥカだけだ。
今だって結構必死に堪えている自分がいる。
あのポンコツは何度くっ付くなと制しても無防備に体を寄せてくる。
その度に自制して己を律してきたのだ。
五年間の縛りがある自分とは違い、ルゥカは自由だ。
王都に来てますます綺麗になり、世界も広がったルゥカを縛りつけてはいけない。
五年間待ってろ、なんて言葉を簡単に言ってはいけないとフェイトは思っていた。
自分でもくそ真面目過ぎるとは思うが、簡単な口約束やいずれ結婚するするといい続ける詐欺のような状態も良くないと思ったのだ。
だが、その思いと裏腹にルゥカを束縛する気持ちは抑えられない。
それなのに聖女の騎士である限り、ルゥカを優先する事が出来ない自分がもどかしかった。
ルゥカの身に何か起こった時、何も知らずに駆けつけてやれない状態になるのも恐ろしかった。
聖女を守る聖騎士である誇りとルゥカを一番に出来ない自分との間で葛藤した。
だからフェイトは、
倫理的な批判は承知の上で、一度だけルゥカに触れた。
教会に勤める者たちで呑み会があった日、初めて呑んだ酒に酔いつぶれたルゥカにキスをした。
そして、自分の魔力でマーキングをしたのだ。
ルゥカの中に自分の魔力を入れ、その消える事なく残った残滓が目印となるマーキング。
これがあればルゥカが何処にいようが必ず駆けつけられる。
そんなに魔力量が多いわけではないから転移魔法は使えないが、それでもルゥカの居場所さえ分かれば、もしくは自分から距離が離れて行ってるとわかれば対処の仕様がある。
そうやってその時々で対処しながらなんの約束も出来ないまま、ルゥカを守り、ルゥカの側で生きてきた。
あともう少し、あともう少しで五年の縛りから抜け出せる。
やっとルゥカに、思いを告げてプロポーズが出来る、そう思っていた矢先に晴天の霹靂が訪れた。
ドリーはよほど急いで走って来たのだろう、肩で息をしてフェイトに告げた。
「フェイトっ……!ルゥカを止めて!あの子、盛大な勘違いから迷惑を掛けた男の人と何処かに行こうとしているのっ!!」
瞬間、足を踏み出していた。
走りながら理解が追いつくというほど、フェイトは瞬発的に走り出していたのだった。
恐れていた事が現実に起こったのかもしれない。
ルゥカが一心に想ってくれていた事は知っているが、何の約束も出来ない自分より、分かりやすく愛を囁いて触れてくれる相手の方が良くなったとしても彼女を責める事は出来ない。
だからこそそんな相手が現れる事を恐れていたのだが、それがとうとう現実に訪れたのかと思うと焦りと共に身勝手な怒りもわいてくる。
心惹かれる相手なのかもしれないが、どうしてそんな簡単によく知らない男に着いて行けるのかという怒りが。
どうしてそんな危機感のない行動が出来るのかと。
結局は間に合い、ルゥカを止めた上で相手を見る事が出来たのだが。
そしてドリーに勧められ、二人きりで話しをし始めた時にフェイトはルゥカの口からとんでもない言葉を聞かされる。
「フェイトのコダネを!コダネを私に頂戴っ!!」
───ルゥカは、こいつは今、なんと言った?
コダネ?コダ…まさか子種の事ではないよな?
そんな事を考えたフェイトが、ようやく押し出せた言葉はこれであった。
「……………………………………………………は?」
その後のルゥカの反応では、残念な事にコダネはやり子種で間違いないようだ。
だけどルゥカは子種がなんたるかはわかっていない様子だった。
しかもそれを他の男に聞かせたという。
フェイトは思わず頭を抱えたくなった。
いや気がつけば実際に頭を抱えていた。
それなのにルゥカはただ訳も話さず子種だけをくれという。
───子種が何かもわかってない様子で何を言う!!
フェイトは子種が何たるかを説明しようとしたが上手い言葉が見つからない。
困り果てている時にドリーがやって来た。
そして自分がルゥカに性教育を叩き込むと言う。
若干不安になるが、ここは同性であるドリーに任せた方がいいだろう。
どうせ自分じゃ上手く説明出来ない。
ドリーに釘を刺された通り、実地になってしまうのは間違いない。
そうしてフェイトはルゥカをドリーに託した。
それから仕事を終え、夜番の仲間と交代してアパートへと帰る。
簡単なものしか作れないが夕食も用意してルゥカの帰りを待った。
が、待てど暮らせど帰って来ない。
心配になって魔力を辿ると方向的に王都の繁華街にいる事が分かる。
そろそろ迎えに行くかと考えた時に、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると……ルゥカを連れて行く時にドリーが言った通り、茹でダコになったルゥカがそこにいた。
涙目になり、フェイトと目が合った途端に俯いてしまう。
───一体何を聞かされたんだ。いや見たのか?
と思ったフェイトに、ルゥカを連れ帰ったドリーが言った。
「ちゃぁぁんと、子作りがどういったものが叩き込んで、オトナの階段をマッハで登らせたからね♪あとはあんたの仕事。この茹でダコちゃんの処理を頼むわね~」
と、ルゥカの背中をドンと軽く押した。
そんなに強い力ではないと思うが、今のルゥカは茹でダコでフニャフニャだ。
あれよあれよとフェイトの胸に飛び込む形となった。
フェイトは難なくルゥカを抱きとめる。
それをニヤリと見届けて、ドリーは「じゃあね~」と言って去って行った。
後に残されたフェイトと茹でダコ。
「まぁとりあえず部屋に入ろう」
フェイトがそういうと、ルゥカは顔が上げられないのか俯いままで頷く。
そうしてフェイトはフニャフニャの体を支えながら、部屋の扉をバタンと閉めた。
───────────────────────
次回、ようやく二人で向き合います。
聖女様を辛そうに見ていたフェイトの心情もわかりますよ。
あと2~3話(曖昧)で最終話です。
「……すげぇ………」
故郷で起きた山崩れで慕っていた従兄を亡くし、慰霊のために訪れた教会で鎮魂歌を歌う聖女を見た。そして心が震えたのだ。
その時まだ五歳であったフェイトに聖女という存在が何なのか、何を背負い何を捧げて生きているのかは分からなかったが、ただこの尊い人を守れる人間になりたい、そう思ったのであった。
「……おれ、しょうらいは、ぱらでぃんになって、せいじょさまをおまもりする……」
と思わずそう呟いた時、引き会わされたばかりだったルゥカが「せいじょさま、よろこぶね!」と言って笑った。
それまで聖女を夢中になって見つめていたフェイトだが、なぜかルゥカのその笑顔の方が印象的に感じたのを今でも覚えている。
「フェイトだいすき!」
「おおきくなったらぜったいにフェイトのおよめさんになる!」
生家の斜向かいに住んでいたルゥカには不思議なくらい昔から懐かれていた。
山崩れで両親を一度に亡くした寂しさもあったのだろう。
祖母に引き取られ新しい区域に移った不安もあったのだろう。
とにかく子供ながらに依存されているとわかるほどに、ルゥカはフェイトにベッタリであった。
フェイトの両親は領主の屋敷に奉公していて共働きであったし、その為にルゥカの祖母に預けられる事もしばしばあった。
だから否が応なしに一緒にいる事になったのも、その要因であったと思う。
ルゥカはとにかく寝ても覚めてもフェイトの側に居たがった。
「まぁ今だけさ。ルゥカも大きくなったら世界が広がって同性の友達が出来るよになったら、自然とアンタから離れていくよ」
いつしかルゥカの祖母がそう言った。
フェイトもそうなんだろうな…とぼんやり思ったが、その時一抹の寂しさを感じた気がした。
その感情が何なのか分からず終いでその日を意識していたが、結局そんな日は訪れなかったのだった。
顔の良さからか昔から女の子によく付き纏われた。
だがその度にルゥカがどこに居ても直ぐに飛んで来てその女の子たちと舌戦を繰り広げた。
フェイトを取られまいと必死になるルゥカに腹を立てて殴ろうとする相手もたまにいて、その度にフェイトはルゥカを庇ったりもしたものだ。
しかしルゥカを殴ろとした女の子に対し酷く嫌悪と苛立ちを感じている自分に気が付いた時、それが恋心を自覚した瞬間だった。
その頃には逆にルゥカにちょっかいを出してくる男子が増え出して、いつしかその行動は逆になっていた。
ルゥカは可愛い。
明るい艶々の栗毛に澄んだグリーンアイズ。
穏やかで柔らかい、ぽやぽやした雰囲気は男子の庇護欲を刺激した。
今までつるペタだった胸が日に日にブラウスを押し上げて行く様を周囲の男子どもが羨望の眼差しで見つめていたのを、当の本人は知らない。
ルゥカの気を引きたいのか恥ずかしがるルゥカを見たいのか、バカな奴らがルゥカにスケベな話をわざと聞かせようとする度にフェイトはルゥカの耳を塞いできた。
どうしてそんなバカの口から出た汚い言葉でルゥカの鼓膜を汚さなくてはならないのだ。
そう思ったフェイトは極力、ルゥカの耳に変な言葉が入らないように気を配って来たのであった。
その為にバカな奴と度々喧嘩になる。
幼い頃から聖騎士を目指して鍛錬してきたフェイトの敵ではなかったが、おかげで荒事にもすっかり慣れた。
そうして十六歳の時に準騎士の試験に合格し、同時に王都の聖女教会の聖騎士候補にも任じられた。
夢がかなった瞬間であった、が、同時に故郷を離れてルゥカとも離れるという事が確定した瞬間であった。
昔から嫁にしてくれと言い続けてきたルゥカ。
フェイトもまた、いつのまにかルゥカ以外の娘を嫁に貰うつもりはなかったのだ。
いっそルゥカも連れていくか?
そんな考えがフェイトの頭を過ぎる。
しかし互いにまだ十六。成人していない身で、しかも内定している聖女付きの聖騎士ともなると五年間は結婚は愚か交際も、強いては恋愛もご法度となる。
そんなルゥカに対しなんの責任も持てない自分が彼女を王都へと連れて行くなどと、あまりに無責任だ。
加えてあのぽやぽやなポンコツが都会で暮らし、自分の目の届かない場所で勝手にピンチになられては非常に困る。
───必ず迎えにくるから田舎で大人しく待っててくれ……と、プロポーズを告げるだけなら許されるだろうか。
そんな事を真剣に考えていたフェイトに、次に会ったルゥカがとんでもない事を口にした。
「私も王都に行くから!」
しまった。どこで王都に行く事を知られたのだろう。
そしてポンコツのくせに無駄に行動力があるということを忘れていた。
聞けばルゥカの祖母も王都行きを許したというではないか。
ルゥカが王都で暮らす事に不安は感じないのかと、フェイトが彼女の祖母に抗議すると、
「あんたが一緒なんだ。何を不安に感じる事がある?これまで通り、全力でルゥカを守ってくれるんだろ?」
としたり顔で返された。
さすがは昔聖女教会で長年メイド長を務めていただけの事はある人だ。
山崩れの慰霊での聖女の訪問もルゥカの祖母が一役買ったと聞いている。
とにかくルゥカが聖女教会でメイドとして働くのは既に決まった事で、今更覆すなんて信用問題に関わると言われしまった。
まぁ本当はルゥカと離れずに済むと、どこかほっとした自分がいる事をわかっているフェイトであったが。
しかし一緒に王都に行くとなると、フェイトの行動に迷いはなかった。
ルゥカの住むアパートは当然自分のすぐ側に決め、メイドとして働き出したルゥカにちょっかいを出そうとする騎士や下男や周辺の男共を片っ端から牽制、または腕力にものを言わせ追い払ってきた。
それこそルゥカの友人となったメイドのドリーに呆れられるくらいに。
だがルゥカを守る事に、文句を言われる筋合いはない。
騎士として真面目に務め、王都に来て一年で正聖騎士に叙任された。
同じく聖女付きの先輩騎士たちに、五年間の恋愛ご法度でも隠れてのたまの息抜きは必要だぞと言われ、何度も娼館に誘われたがその度に断った。
先輩たちは、規則は規則だが騎士とて人間だ。しかも若い盛りの男子に教会側も見て見ぬふりをしてくれると諭されても、頷く気持ちにはなれなかった。
規則を破る事を簡単に許してしまう自分になりたくなかったし、
自分へと一心に心を寄せてくれるルゥカを裏切りたくもなかった。
それに、触れたいのはルゥカだけだ。
今だって結構必死に堪えている自分がいる。
あのポンコツは何度くっ付くなと制しても無防備に体を寄せてくる。
その度に自制して己を律してきたのだ。
五年間の縛りがある自分とは違い、ルゥカは自由だ。
王都に来てますます綺麗になり、世界も広がったルゥカを縛りつけてはいけない。
五年間待ってろ、なんて言葉を簡単に言ってはいけないとフェイトは思っていた。
自分でもくそ真面目過ぎるとは思うが、簡単な口約束やいずれ結婚するするといい続ける詐欺のような状態も良くないと思ったのだ。
だが、その思いと裏腹にルゥカを束縛する気持ちは抑えられない。
それなのに聖女の騎士である限り、ルゥカを優先する事が出来ない自分がもどかしかった。
ルゥカの身に何か起こった時、何も知らずに駆けつけてやれない状態になるのも恐ろしかった。
聖女を守る聖騎士である誇りとルゥカを一番に出来ない自分との間で葛藤した。
だからフェイトは、
倫理的な批判は承知の上で、一度だけルゥカに触れた。
教会に勤める者たちで呑み会があった日、初めて呑んだ酒に酔いつぶれたルゥカにキスをした。
そして、自分の魔力でマーキングをしたのだ。
ルゥカの中に自分の魔力を入れ、その消える事なく残った残滓が目印となるマーキング。
これがあればルゥカが何処にいようが必ず駆けつけられる。
そんなに魔力量が多いわけではないから転移魔法は使えないが、それでもルゥカの居場所さえ分かれば、もしくは自分から距離が離れて行ってるとわかれば対処の仕様がある。
そうやってその時々で対処しながらなんの約束も出来ないまま、ルゥカを守り、ルゥカの側で生きてきた。
あともう少し、あともう少しで五年の縛りから抜け出せる。
やっとルゥカに、思いを告げてプロポーズが出来る、そう思っていた矢先に晴天の霹靂が訪れた。
ドリーはよほど急いで走って来たのだろう、肩で息をしてフェイトに告げた。
「フェイトっ……!ルゥカを止めて!あの子、盛大な勘違いから迷惑を掛けた男の人と何処かに行こうとしているのっ!!」
瞬間、足を踏み出していた。
走りながら理解が追いつくというほど、フェイトは瞬発的に走り出していたのだった。
恐れていた事が現実に起こったのかもしれない。
ルゥカが一心に想ってくれていた事は知っているが、何の約束も出来ない自分より、分かりやすく愛を囁いて触れてくれる相手の方が良くなったとしても彼女を責める事は出来ない。
だからこそそんな相手が現れる事を恐れていたのだが、それがとうとう現実に訪れたのかと思うと焦りと共に身勝手な怒りもわいてくる。
心惹かれる相手なのかもしれないが、どうしてそんな簡単によく知らない男に着いて行けるのかという怒りが。
どうしてそんな危機感のない行動が出来るのかと。
結局は間に合い、ルゥカを止めた上で相手を見る事が出来たのだが。
そしてドリーに勧められ、二人きりで話しをし始めた時にフェイトはルゥカの口からとんでもない言葉を聞かされる。
「フェイトのコダネを!コダネを私に頂戴っ!!」
───ルゥカは、こいつは今、なんと言った?
コダネ?コダ…まさか子種の事ではないよな?
そんな事を考えたフェイトが、ようやく押し出せた言葉はこれであった。
「……………………………………………………は?」
その後のルゥカの反応では、残念な事にコダネはやり子種で間違いないようだ。
だけどルゥカは子種がなんたるかはわかっていない様子だった。
しかもそれを他の男に聞かせたという。
フェイトは思わず頭を抱えたくなった。
いや気がつけば実際に頭を抱えていた。
それなのにルゥカはただ訳も話さず子種だけをくれという。
───子種が何かもわかってない様子で何を言う!!
フェイトは子種が何たるかを説明しようとしたが上手い言葉が見つからない。
困り果てている時にドリーがやって来た。
そして自分がルゥカに性教育を叩き込むと言う。
若干不安になるが、ここは同性であるドリーに任せた方がいいだろう。
どうせ自分じゃ上手く説明出来ない。
ドリーに釘を刺された通り、実地になってしまうのは間違いない。
そうしてフェイトはルゥカをドリーに託した。
それから仕事を終え、夜番の仲間と交代してアパートへと帰る。
簡単なものしか作れないが夕食も用意してルゥカの帰りを待った。
が、待てど暮らせど帰って来ない。
心配になって魔力を辿ると方向的に王都の繁華街にいる事が分かる。
そろそろ迎えに行くかと考えた時に、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると……ルゥカを連れて行く時にドリーが言った通り、茹でダコになったルゥカがそこにいた。
涙目になり、フェイトと目が合った途端に俯いてしまう。
───一体何を聞かされたんだ。いや見たのか?
と思ったフェイトに、ルゥカを連れ帰ったドリーが言った。
「ちゃぁぁんと、子作りがどういったものが叩き込んで、オトナの階段をマッハで登らせたからね♪あとはあんたの仕事。この茹でダコちゃんの処理を頼むわね~」
と、ルゥカの背中をドンと軽く押した。
そんなに強い力ではないと思うが、今のルゥカは茹でダコでフニャフニャだ。
あれよあれよとフェイトの胸に飛び込む形となった。
フェイトは難なくルゥカを抱きとめる。
それをニヤリと見届けて、ドリーは「じゃあね~」と言って去って行った。
後に残されたフェイトと茹でダコ。
「まぁとりあえず部屋に入ろう」
フェイトがそういうと、ルゥカは顔が上げられないのか俯いままで頷く。
そうしてフェイトはフニャフニャの体を支えながら、部屋の扉をバタンと閉めた。
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次回、ようやく二人で向き合います。
聖女様を辛そうに見ていたフェイトの心情もわかりますよ。
あと2~3話(曖昧)で最終話です。
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