15 / 15
エピローグ ポンコツ娘は初恋を諦めずに彼と幸せになる
しおりを挟む
「本当に……すみませんでした……」
ルゥカはその日、ドリーに付き添われて散々迷惑を掛けた図書館司書のパトリス=ダーヴィンに謝罪した。
ドリーを通して彼と連絡を取り、図書館近くのカフェで会い、知らなかった事とはいえ公共の場で「子種」を連呼する破廉恥な行いをした事と、それに関してパトリスに多大な心配と迷惑を掛けた事によるお詫びだ。
席に付くなり頭を深々と下げたルゥカにパトリスは慌てて頭を上げるように告げる。
「そんな、頭を上げてくださいルゥカさん。事情はドリーさんからお聞きして理解しておりますし、僕がした事といえば心配しただけだったんですから、謝って頂く必要はありません」
「でも……」
「いえ本当に。それよりも僕は勝手に勘違いをしてルゥカさんの大切な人に嫌な態度を取ってしまいました、本当にすみませんでした」
そう言ってパトリスは逆に頭を下げてきた。
ルゥカは当然それを慌てて制する。
「パ、パトリスさんの方こそ頭を上げてくださいっ…そんな誤解をさせたのも全て私が悪いのですから……」
ルゥカがそう言うと、隣の席座っていたドリーが言った。
「そうよね。この件に関しては、私の言いつけを守らずベラベラと喋ってパトリスさんに迷惑をかけたルゥカが全部悪いわよね」
「うっ……ホントに反省しております」
ぐぅのねも出ないルゥカがしおしおと項垂れる。
そんなルゥカを見ながらドリーはパトリスに言った。
「ルゥカの旦那のフェイトも、貴方に対し不遜な態度を取って申し訳なかったと言っていたわ。仕事の都合で今日は来れなかったけど、くれぐれも詫びておいて欲しいと頼まれているの」
「まだ旦那じゃないわよぅ」
ルゥカが小さく抗議するとドリーはにべも無く答える。
「明後日には入籍するんでしょ?ならもう旦那でいいじゃない」
「いいのかしら?」
「いいのよ」
「そう?」
そんなルゥカとドリーのやり取りを見ていたパトリスが柔らかい笑みを浮かべ、こう言った。
「お幸せそうで何よりです」
それはパトリスの本心であった。
正直、ルゥカに惹かれていた自分がいた。
だけど他の誰かから奪い取りたいと思うほどの情熱を抱えていた訳ではなかった。
そして何より素直にルゥカの幸せを喜べる、まだ友情と呼び直せるそんな淡い想いであった。
ルゥカはパトリスの言葉に心から感謝の気持ちを込めて、微笑んだ。
「ありがとうございます、パトリスさん」
「ルゥカの幸せを心から祈っています」
真に願う気持ちを込めてそう告げたパトリスを、ドリーは眩しそうに目を細めて見つめていた。
そして注文していたコーヒーやお茶が届き、三人でしばし歓談を続ける。
「それにしても教会の発表には驚きました。新たな聖女が見つかったなんて」
パトリスがそう言うとドリーが頷いた。
「よく見つかりましたよね。それも全て王弟殿下の執念でしょうね」
「執念?」
「いずれほとぼりが冷めたら教えてあげますよ」
悪戯をする前のような笑みを向けられ、パトリスは一瞬固まったようにドリーを凝視し、そして微笑んだ。
「ええ。いずれ必ず教えてください」
何気ない会話の中で、先の事を約束し合う二人。
ここから何かが始まりそうな、そんな瞬間であった。
パトリスが口にした教会の発表とは、
先日、聖女教会が次代を担う聖女が見つかったと公表した事である。
もう何年も前から、王弟アルフレッドの命を受け、聖女教会と魔術師協会は次世代を担う聖女の発見に力を尽くしていた。
従来の唯一無二の聖女制度ではなく、有事の際や、予期せぬ不幸に陥る事態を防ぐために複数名の聖女を認定しておく事や、一定の年齢がくれば本人の希望により引退も出来るようにするためである。
そのための法案もすでに貴族院で可決、国王にも承認されていた。
それを推し進めた王弟の私情による新制度だと反発する者も中にはいたが、癒し手が増える事に多くの者が安堵し、その制度を支持した。
王弟アルフレッドの狙い通りとなったわけだ。
しかし制度は整えど、聖女認定にクリア出来るほどの神聖力を持った者など早々現れるはずもない。
アルフレッドが新たな聖女探しを命じて八年越しにしてようやくそれが見つかったのであった。
しかも二人も。
一人は十五歳の農夫の娘、もう一人は七歳になる子爵家の令嬢であった。
二人は直ぐに聖女選定を受け、そして教会と国が認める聖女に任命された。
それにより王弟はここで初めて、聖女ルリアンナに真意を問う。
このまま聖女として生きるか、それとも……
それとも、聖女を引退してアルフレッドの妻として生きるか。
そしてその問いに対しルリアンナが出した答えは……
今まで数多の者を救ってきたその手で、愛するアルフレッドの手を取る事であった。
ルリアンナに恋をして、彼女と共に生きる道を模索し続けたアルフレッドの長年の願いが叶った瞬間であった。
願掛けとして髪を伸ばし続けた(ある程度の長さになると鋏を入れたが)アルフレッドは次の日にはその長い髪をバッサリと切り、兄である国王に婚約の報告に行ったという。
そしてルリアンナの引退を渋る教会を説き伏せた。
今後も常に聖女候補者を探し続け、一人の聖女に依存せずとも良い社会を構築してゆくのだとアルフレッドは語っているらしい。
「ルリアンナ様……よかった……うぅっ…よかったよぅ。やっぱり好きな人と結ばれるのって、とってもとっても幸せな事だものっ……」
ランチタイムにみんなでルリアンナと王弟の婚儀の事について語っていて、感極まったルゥカがそう言った。
それをメイド仲間であり、フェイトと付き合いたいと公言していたミラが冷ややかな目を向けて言う。
「フンッなによ、自分がちょっと入籍したからっていい気になって。何様のつもり?」
「へ?奥様だけど?」
と、ルゥカが言い返すと他のメイド仲間が笑った。
「そうそう!若奥様だ」
「ミラ、あんたフェイトさんにフラれたからってやっかまないの!」
「自称イイ女を豪語するなら次行きなさいよ次!」
「うるさいわねっ!ワタシはフェイトさんが良かったの!でもわかんないわよね?アンタなんか早々に飽きられるんじゃないかしら?そしたらまたワタシにもチャンスはあるわよね?」
「ムキー!フェイトはそんな不誠実な人じゃないからっ!真面目で優しくて素敵な、私の旦那様なんだからね!」
「なによ!調子にのるんじゃないわよっ!」
相変わらずフェイトに横恋慕するミラとバトルを繰り広げていたその時、ルゥカの名を呼ぶ優しい声がした。
「ルゥカ」
警護の交代で休憩に入ったであろうフェイトがルゥカに会いに来たのであった。
「フェイト!」
ルゥカはランチボックスを手に持って、フェイトの元へと駆け寄った。
その際ミラに、「旦那さまと一緒にランチするの。ごめんあそばせ?」と言って笑ってやった。
後ろから「なによ!」という負けん気の塊であるミラの声が追ってきたが当然無視だ。
その様子を見ていたフェイトが訊いた。
「どうした?」
「ううん。ちょっとした言い合いをしただけ。さ、お腹空いたね。中庭で食べよ?」
「ああ」
ルゥカの言葉にそう返事をし、フェイトはルゥカが持っていたランチボックスを代わりに持った。
そして二人で手を繋ぎ中庭へと向かう。
先日、ルゥカとフェイトはささやかながらも小さな結婚式をこの聖女教会にて挙げた。
聖騎士になり五年を迎えたと同時に入籍をし、二人は晴れて夫婦となった。
そしてそれから三ヶ月後に、祝福を申し出てくれたルリアンナの立ち会いの下に式を挙げたのであった。
十六の歳から側で仕えていたルゥカとフェイトの人生が幸多きものになるように祈りたいと、ルリアンナが言ってくれたのだ。
式にはその他教会に勤める皆や、今や友人となり少し前からドリーと恋人になったパトリスが参列してくれた。
そして故郷からはフェイトの両親とルゥカの祖母が、それぞれ王都までやって来て祝福してくれたのだった。
その中でフェイトがルゥカの祖母に、
「ばあちゃん、小さい家だけど一緒に暮らさないか?王都に出て来なよ」と同居を勧めた。
しかし今年七十五になるルゥカの祖母はそれをキッパリと断る。
「年寄り扱いするんじゃないよ。あたしゃまだまだ若いんだ。新婚夫婦に厄介になるほど落ちぶれちゃいないよ」
祖母の返事を聞き、ルゥカはふにゃりと情けない顔を祖母に向けた。
「でもおばあちゃん、何かあってもすぐには駆けつけられないのよ?そろそろ田舎に一人でいさせるのは心配なんだもん」
ルゥカがそう告げると、今度はフェイトの両親が新郎新婦に言った。
「カミラ(祖母の名前)さんの事なら心配いらないよ。私たちが近くにいるんだ。健康そのものだし、まだそんなに心配するほどの歳じゃない。それよりもせっかくの新婚夫婦なんだ、今のうちに二人だけの生活を満喫しておきなさい。子供が生まれたら余裕なんてなくなるんだから」
「ハ、ハイ………」
何気に恥ずかしい事を言われ、ルゥカは真っ赤になって小さな声で返事した。
ドリーにより叩き込まれた性教育が功を奏したのは……つまりルゥカとフェイトの初夜は、入籍した当日の夜であった。
それがどんな初めての夜になったのかは、
それぞれのご想像にお任せしよう。
そして結婚式を挙げた後もルリアンナが教会を去るまではと、ルゥカはメイドの仕事を続けていた。
こうして二人の休憩時間が重なれば一緒にランチを食べる事もある。
今日のランチボックスの中身は保冷庫の整理パエリアだ。
余りものの食材を放り込んでのパエリア。
冷めても美味しいように工夫してあるルゥカ自慢の一品なのだ。
「美味そうだ」
フェイトはパエリアを見て思わず顔が綻ぶ。
「ふふ、さぁ召し上がれ」
「いただきます」
「いただきます……オエッ」
「ルゥカっ?」
パエリアを口にした瞬間、鼻に抜ける食材の香りでルゥカは悪心を引き起こした。
「ルゥカっ?」
「ぼへっ……」(ごめっ……)
そしてそのまま口を手で押さえ建物の中へと駆け込んだ。
フェイトも慌てて後を追いかけたが、ルゥカが駆け込んたのが女性用のトイレであった為にどうする事も出来ない。
なので急遽ドリーに救援要請をかけた。
話を聞いたドリーは直ぐにトイレへと入って行き、吐き戻してぐったりしているルゥカを見つけた。
ドリーに呼ばれ、やむを得なしと女性用トイレへと足を踏み入れたフェイトがルゥカを抱き上げて医務室に運ぶ。
そして何故か飛んで来たのは医療魔術師ではなく聖女ルリアンナであった。
ルリアンナはルゥカの腹部に手を当てて何かを探るような仕草を見せた。
そして慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ルゥカとフェイトにこう告げる。
「おめでとう二人とも、ルゥカのお腹に新しい命の波動を感じたわ」
「それって……」
フェイトが呆然としながらもルリアンナに問う。
「ええ。ルゥカのお腹に赤ちゃんがいるわ」
「え……?あ、赤ちゃん……」
ルゥカが当たり前だがまだ平たい自身の腹部に手を当てる。
「ルゥカ……」
「フェイト……」
「ルゥカ!」
フェイトはそう言ってルゥカを抱きしめた。
「やった…やった!ルゥカ、ありがとな!」
「フェイトっ、私の方こそありがとうっ……!」
二人ひしと抱き合い、我が子の誕生の喜びを分かちあった。
そんな二人を見て、ルリアンナも心から嬉しそにこう告げた。
「良かったわねルゥカ。ところでルゥカはどうやってコウノトリさんから赤ちゃんを受け取ったの?」
「ん?」
「え?」
「なぁに?」
なんとも言えない既視感を感じる発言をした聖女を、ルゥカとフェイトはじっと見つめた。
ルリアンナとアルフレッドの結婚式は三ヶ月後の予定だ。
おしまい
───────────────────────
これにて完結です。
なんと最後のオチはルリアンナ様でした。
もう一人いましたよ、
純真すぎて何もしらない乙女が☆
まぁそれは結婚してからアルフレッドが頑張るのでしょう。
後に二人の間に可愛い男の子が生まれましたからね。
補足ですが、ルゥカとフェイトの第一子は可愛い男の子だったようです。
ドリーとパトリスも1年後にゴールイン。
可愛い女の子のママとパパになったそうな。
ミラは……あの後それなりに恋愛をして結婚したのでしょう。(おざなり)
今作も沢山の方にお読みいただき、そして感想とエールをありがとうございました!
やはり可視化できる反応というのはつい意識してしまいますね。
投稿のご褒美として、励みにさせていただいておりました。
本当にありがとうございます。
さて次回作です。
タイトルは
『嘘告のゆくえ』です。
罰ゲームと思われる嘘の告白を受けたヒロイン。
しかもそれが密かに思いを寄せていた学園イチのモテ男子で……と、よくあるシチュのお話ですが、ましゅろう流にドタバタと描いてゆきたいと思います。
投稿は土曜日の夜から。
お付き合いいただけましたら幸いでございます。
どうぞよろしくお願い致します!
さてさてフェスですが、
今回は対象者無しで強いていえばルゥカのお小言部屋の設置くらいで宜しいでしょうか?
そして今回はゲストとしてまたまたメロディ姐さんをお呼びしておりますので、彼女のワンマンショーをお楽しみくださいませ。
衣装よ自作で気合いが入っているそうですよ。
それでは。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回作もよろしくお願い申し上げます。
最後に
ルゥカとフェイト、ルリアンナとアルフレッドのウエディングのイラストをご紹介いたします♡
AI作成イラストですので、任意でご覧くださいませ。
ルゥカはその日、ドリーに付き添われて散々迷惑を掛けた図書館司書のパトリス=ダーヴィンに謝罪した。
ドリーを通して彼と連絡を取り、図書館近くのカフェで会い、知らなかった事とはいえ公共の場で「子種」を連呼する破廉恥な行いをした事と、それに関してパトリスに多大な心配と迷惑を掛けた事によるお詫びだ。
席に付くなり頭を深々と下げたルゥカにパトリスは慌てて頭を上げるように告げる。
「そんな、頭を上げてくださいルゥカさん。事情はドリーさんからお聞きして理解しておりますし、僕がした事といえば心配しただけだったんですから、謝って頂く必要はありません」
「でも……」
「いえ本当に。それよりも僕は勝手に勘違いをしてルゥカさんの大切な人に嫌な態度を取ってしまいました、本当にすみませんでした」
そう言ってパトリスは逆に頭を下げてきた。
ルゥカは当然それを慌てて制する。
「パ、パトリスさんの方こそ頭を上げてくださいっ…そんな誤解をさせたのも全て私が悪いのですから……」
ルゥカがそう言うと、隣の席座っていたドリーが言った。
「そうよね。この件に関しては、私の言いつけを守らずベラベラと喋ってパトリスさんに迷惑をかけたルゥカが全部悪いわよね」
「うっ……ホントに反省しております」
ぐぅのねも出ないルゥカがしおしおと項垂れる。
そんなルゥカを見ながらドリーはパトリスに言った。
「ルゥカの旦那のフェイトも、貴方に対し不遜な態度を取って申し訳なかったと言っていたわ。仕事の都合で今日は来れなかったけど、くれぐれも詫びておいて欲しいと頼まれているの」
「まだ旦那じゃないわよぅ」
ルゥカが小さく抗議するとドリーはにべも無く答える。
「明後日には入籍するんでしょ?ならもう旦那でいいじゃない」
「いいのかしら?」
「いいのよ」
「そう?」
そんなルゥカとドリーのやり取りを見ていたパトリスが柔らかい笑みを浮かべ、こう言った。
「お幸せそうで何よりです」
それはパトリスの本心であった。
正直、ルゥカに惹かれていた自分がいた。
だけど他の誰かから奪い取りたいと思うほどの情熱を抱えていた訳ではなかった。
そして何より素直にルゥカの幸せを喜べる、まだ友情と呼び直せるそんな淡い想いであった。
ルゥカはパトリスの言葉に心から感謝の気持ちを込めて、微笑んだ。
「ありがとうございます、パトリスさん」
「ルゥカの幸せを心から祈っています」
真に願う気持ちを込めてそう告げたパトリスを、ドリーは眩しそうに目を細めて見つめていた。
そして注文していたコーヒーやお茶が届き、三人でしばし歓談を続ける。
「それにしても教会の発表には驚きました。新たな聖女が見つかったなんて」
パトリスがそう言うとドリーが頷いた。
「よく見つかりましたよね。それも全て王弟殿下の執念でしょうね」
「執念?」
「いずれほとぼりが冷めたら教えてあげますよ」
悪戯をする前のような笑みを向けられ、パトリスは一瞬固まったようにドリーを凝視し、そして微笑んだ。
「ええ。いずれ必ず教えてください」
何気ない会話の中で、先の事を約束し合う二人。
ここから何かが始まりそうな、そんな瞬間であった。
パトリスが口にした教会の発表とは、
先日、聖女教会が次代を担う聖女が見つかったと公表した事である。
もう何年も前から、王弟アルフレッドの命を受け、聖女教会と魔術師協会は次世代を担う聖女の発見に力を尽くしていた。
従来の唯一無二の聖女制度ではなく、有事の際や、予期せぬ不幸に陥る事態を防ぐために複数名の聖女を認定しておく事や、一定の年齢がくれば本人の希望により引退も出来るようにするためである。
そのための法案もすでに貴族院で可決、国王にも承認されていた。
それを推し進めた王弟の私情による新制度だと反発する者も中にはいたが、癒し手が増える事に多くの者が安堵し、その制度を支持した。
王弟アルフレッドの狙い通りとなったわけだ。
しかし制度は整えど、聖女認定にクリア出来るほどの神聖力を持った者など早々現れるはずもない。
アルフレッドが新たな聖女探しを命じて八年越しにしてようやくそれが見つかったのであった。
しかも二人も。
一人は十五歳の農夫の娘、もう一人は七歳になる子爵家の令嬢であった。
二人は直ぐに聖女選定を受け、そして教会と国が認める聖女に任命された。
それにより王弟はここで初めて、聖女ルリアンナに真意を問う。
このまま聖女として生きるか、それとも……
それとも、聖女を引退してアルフレッドの妻として生きるか。
そしてその問いに対しルリアンナが出した答えは……
今まで数多の者を救ってきたその手で、愛するアルフレッドの手を取る事であった。
ルリアンナに恋をして、彼女と共に生きる道を模索し続けたアルフレッドの長年の願いが叶った瞬間であった。
願掛けとして髪を伸ばし続けた(ある程度の長さになると鋏を入れたが)アルフレッドは次の日にはその長い髪をバッサリと切り、兄である国王に婚約の報告に行ったという。
そしてルリアンナの引退を渋る教会を説き伏せた。
今後も常に聖女候補者を探し続け、一人の聖女に依存せずとも良い社会を構築してゆくのだとアルフレッドは語っているらしい。
「ルリアンナ様……よかった……うぅっ…よかったよぅ。やっぱり好きな人と結ばれるのって、とってもとっても幸せな事だものっ……」
ランチタイムにみんなでルリアンナと王弟の婚儀の事について語っていて、感極まったルゥカがそう言った。
それをメイド仲間であり、フェイトと付き合いたいと公言していたミラが冷ややかな目を向けて言う。
「フンッなによ、自分がちょっと入籍したからっていい気になって。何様のつもり?」
「へ?奥様だけど?」
と、ルゥカが言い返すと他のメイド仲間が笑った。
「そうそう!若奥様だ」
「ミラ、あんたフェイトさんにフラれたからってやっかまないの!」
「自称イイ女を豪語するなら次行きなさいよ次!」
「うるさいわねっ!ワタシはフェイトさんが良かったの!でもわかんないわよね?アンタなんか早々に飽きられるんじゃないかしら?そしたらまたワタシにもチャンスはあるわよね?」
「ムキー!フェイトはそんな不誠実な人じゃないからっ!真面目で優しくて素敵な、私の旦那様なんだからね!」
「なによ!調子にのるんじゃないわよっ!」
相変わらずフェイトに横恋慕するミラとバトルを繰り広げていたその時、ルゥカの名を呼ぶ優しい声がした。
「ルゥカ」
警護の交代で休憩に入ったであろうフェイトがルゥカに会いに来たのであった。
「フェイト!」
ルゥカはランチボックスを手に持って、フェイトの元へと駆け寄った。
その際ミラに、「旦那さまと一緒にランチするの。ごめんあそばせ?」と言って笑ってやった。
後ろから「なによ!」という負けん気の塊であるミラの声が追ってきたが当然無視だ。
その様子を見ていたフェイトが訊いた。
「どうした?」
「ううん。ちょっとした言い合いをしただけ。さ、お腹空いたね。中庭で食べよ?」
「ああ」
ルゥカの言葉にそう返事をし、フェイトはルゥカが持っていたランチボックスを代わりに持った。
そして二人で手を繋ぎ中庭へと向かう。
先日、ルゥカとフェイトはささやかながらも小さな結婚式をこの聖女教会にて挙げた。
聖騎士になり五年を迎えたと同時に入籍をし、二人は晴れて夫婦となった。
そしてそれから三ヶ月後に、祝福を申し出てくれたルリアンナの立ち会いの下に式を挙げたのであった。
十六の歳から側で仕えていたルゥカとフェイトの人生が幸多きものになるように祈りたいと、ルリアンナが言ってくれたのだ。
式にはその他教会に勤める皆や、今や友人となり少し前からドリーと恋人になったパトリスが参列してくれた。
そして故郷からはフェイトの両親とルゥカの祖母が、それぞれ王都までやって来て祝福してくれたのだった。
その中でフェイトがルゥカの祖母に、
「ばあちゃん、小さい家だけど一緒に暮らさないか?王都に出て来なよ」と同居を勧めた。
しかし今年七十五になるルゥカの祖母はそれをキッパリと断る。
「年寄り扱いするんじゃないよ。あたしゃまだまだ若いんだ。新婚夫婦に厄介になるほど落ちぶれちゃいないよ」
祖母の返事を聞き、ルゥカはふにゃりと情けない顔を祖母に向けた。
「でもおばあちゃん、何かあってもすぐには駆けつけられないのよ?そろそろ田舎に一人でいさせるのは心配なんだもん」
ルゥカがそう告げると、今度はフェイトの両親が新郎新婦に言った。
「カミラ(祖母の名前)さんの事なら心配いらないよ。私たちが近くにいるんだ。健康そのものだし、まだそんなに心配するほどの歳じゃない。それよりもせっかくの新婚夫婦なんだ、今のうちに二人だけの生活を満喫しておきなさい。子供が生まれたら余裕なんてなくなるんだから」
「ハ、ハイ………」
何気に恥ずかしい事を言われ、ルゥカは真っ赤になって小さな声で返事した。
ドリーにより叩き込まれた性教育が功を奏したのは……つまりルゥカとフェイトの初夜は、入籍した当日の夜であった。
それがどんな初めての夜になったのかは、
それぞれのご想像にお任せしよう。
そして結婚式を挙げた後もルリアンナが教会を去るまではと、ルゥカはメイドの仕事を続けていた。
こうして二人の休憩時間が重なれば一緒にランチを食べる事もある。
今日のランチボックスの中身は保冷庫の整理パエリアだ。
余りものの食材を放り込んでのパエリア。
冷めても美味しいように工夫してあるルゥカ自慢の一品なのだ。
「美味そうだ」
フェイトはパエリアを見て思わず顔が綻ぶ。
「ふふ、さぁ召し上がれ」
「いただきます」
「いただきます……オエッ」
「ルゥカっ?」
パエリアを口にした瞬間、鼻に抜ける食材の香りでルゥカは悪心を引き起こした。
「ルゥカっ?」
「ぼへっ……」(ごめっ……)
そしてそのまま口を手で押さえ建物の中へと駆け込んだ。
フェイトも慌てて後を追いかけたが、ルゥカが駆け込んたのが女性用のトイレであった為にどうする事も出来ない。
なので急遽ドリーに救援要請をかけた。
話を聞いたドリーは直ぐにトイレへと入って行き、吐き戻してぐったりしているルゥカを見つけた。
ドリーに呼ばれ、やむを得なしと女性用トイレへと足を踏み入れたフェイトがルゥカを抱き上げて医務室に運ぶ。
そして何故か飛んで来たのは医療魔術師ではなく聖女ルリアンナであった。
ルリアンナはルゥカの腹部に手を当てて何かを探るような仕草を見せた。
そして慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ルゥカとフェイトにこう告げる。
「おめでとう二人とも、ルゥカのお腹に新しい命の波動を感じたわ」
「それって……」
フェイトが呆然としながらもルリアンナに問う。
「ええ。ルゥカのお腹に赤ちゃんがいるわ」
「え……?あ、赤ちゃん……」
ルゥカが当たり前だがまだ平たい自身の腹部に手を当てる。
「ルゥカ……」
「フェイト……」
「ルゥカ!」
フェイトはそう言ってルゥカを抱きしめた。
「やった…やった!ルゥカ、ありがとな!」
「フェイトっ、私の方こそありがとうっ……!」
二人ひしと抱き合い、我が子の誕生の喜びを分かちあった。
そんな二人を見て、ルリアンナも心から嬉しそにこう告げた。
「良かったわねルゥカ。ところでルゥカはどうやってコウノトリさんから赤ちゃんを受け取ったの?」
「ん?」
「え?」
「なぁに?」
なんとも言えない既視感を感じる発言をした聖女を、ルゥカとフェイトはじっと見つめた。
ルリアンナとアルフレッドの結婚式は三ヶ月後の予定だ。
おしまい
───────────────────────
これにて完結です。
なんと最後のオチはルリアンナ様でした。
もう一人いましたよ、
純真すぎて何もしらない乙女が☆
まぁそれは結婚してからアルフレッドが頑張るのでしょう。
後に二人の間に可愛い男の子が生まれましたからね。
補足ですが、ルゥカとフェイトの第一子は可愛い男の子だったようです。
ドリーとパトリスも1年後にゴールイン。
可愛い女の子のママとパパになったそうな。
ミラは……あの後それなりに恋愛をして結婚したのでしょう。(おざなり)
今作も沢山の方にお読みいただき、そして感想とエールをありがとうございました!
やはり可視化できる反応というのはつい意識してしまいますね。
投稿のご褒美として、励みにさせていただいておりました。
本当にありがとうございます。
さて次回作です。
タイトルは
『嘘告のゆくえ』です。
罰ゲームと思われる嘘の告白を受けたヒロイン。
しかもそれが密かに思いを寄せていた学園イチのモテ男子で……と、よくあるシチュのお話ですが、ましゅろう流にドタバタと描いてゆきたいと思います。
投稿は土曜日の夜から。
お付き合いいただけましたら幸いでございます。
どうぞよろしくお願い致します!
さてさてフェスですが、
今回は対象者無しで強いていえばルゥカのお小言部屋の設置くらいで宜しいでしょうか?
そして今回はゲストとしてまたまたメロディ姐さんをお呼びしておりますので、彼女のワンマンショーをお楽しみくださいませ。
衣装よ自作で気合いが入っているそうですよ。
それでは。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回作もよろしくお願い申し上げます。
最後に
ルゥカとフェイト、ルリアンナとアルフレッドのウエディングのイラストをご紹介いたします♡
AI作成イラストですので、任意でご覧くださいませ。
404
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(322件)
あなたにおすすめの小説
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
私が消えたその後で(完結)
ありがとうございました。さようなら
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。
シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。
皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。
シビルの王都での生活は地獄そのものだった。
なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。
家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。




ひーーーっ
せ、せ、聖女様、、、、、コウノトリですと!?
まさか、聖女様も、、、、大変です💦
🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣
ふふふ🤭
聖女さまもでした💕
最後までお読みいただきありがとうございました!
ましゅろう様、完結お疲れ様でした。
少し(だいぶ?)遅くなりしたが本日一気読みしました。
最後の聖女様の言葉に大爆笑🤣してしまいました。純粋培養された少女がここにもう1人…笑笑
私の友人が、幼かった娘さんに自分はどうやって生まれたのか聞かれた時に「ダ○エーで卵を買ってきた」と答えていたのを思い出しました。私は「コウノトリにもらった」と言いましたが、皆さんは子供に何と答えてるんでしょう?きっと面白い答えがたくさんありそうですね笑
最後まで一気読み、お疲れ様&ありがとうございました!😊❤️
もう一人いましたよ〜✨コウノトリ信者の聖女サマが🤭
皆さん、色んな説があるんでしょうね。
ましゅろうは聞かれた事がないんですよね〜。
でも子供の頃に母に聞いたら、「いつの間に生まれとった」と言われた記憶が🤣
完結 お疲れ様でした😊
ルゥカの行動が、毎回気になって 気になって・・・
でもフェイトと幸せになって、念願の子種ももらい、あまつさえ赤ちゃんまで ホント〜に良かった😭
説教部屋も気になりますが、フェスがないとは・・・
次回作 ちょっとシビアなお話に思えたんですが、先生の手で、どんな風なお話になるのか 楽しみです❗
これからも、身体の事を一番に 無理せず素敵なお話、待っております❤️
最後までお読み頂きありがとうございました😊💕
今作は珍しくフェス対象者のいない終始のんびり(はしてないか)なお話になりましたね😁
次回作はフェス対象者が登場するかも?
こちらこそいつもお優しいお言葉をありがとうございます🥰
これからもよろしくお願いします💕