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本編
16話 残された者達 前編
しおりを挟む「国王によりアルガリータ家は国に害をなす危険分子と判断し本日をもって爵位剥奪の命が下りました」
人知れずガルヴァン国第一王子エドワードから王位継承権が剥奪された次の日、国王が送った使者のうち1人が公爵アルガリータ家へと赴きアルガリータ公に爵位剥奪を告げた。
この日は珍しくアルガリータ夫人も屋敷におり夫人は爵位剥奪の命を使者から聞くも状況が理解できず目を大きく開き口をパクパクとさせながら立ちすくんでいた。
「わ、私はっ、王子から裁判でリリゼットが不利になる証言をすれば爵位を剥奪しないと言われて証言しただけだ!」
アルガリータ公は爵位剥奪に納得いかないと使者に掴みかかっていた。
国王から爵位剥奪を言い渡されたのは国王が気に入り我が息子の婚約者にと指名したリリゼットを陥れたからだと女遊びしか頭にないアルガリータ公にも理解できたようだ。
「第一、王子に爵位がどうこうという発言力があるわけがないでしょう?この屋敷は国王の所有物ですから早く出て行ってくださいね」
と使者は言い捨てるとアルガリータ家を後にした。
「ちょ、ちょっと!貴方がリリゼットを陥れからこうなったってことですか!?何のために腹を痛めて貴方と死んだ妹に似た娘を生んだと思っているの!?私の公爵夫人としての地位と生活はどうなるのです!?」
爵位剥奪をようやく理解できたアルガリータ夫人はヒステリックに喚き散らす。
アルガリータ夫人は隣国ユーフォニムの中流貴族の出身で今となっては故人の自分に似ていない美しく性格も良い淑女の中の淑女だと呼ばれた妹がいた。
その妹を両親はとても可愛がり自分よりも良家の縁談の数が多かった妹に夫人は劣等感を抱いていた。
妹は良家との縁談を蹴り先の戦争で優秀な戦歴を納めた卑しい出自の軍人上がりに惚れ込みその男を婿養子に迎え、夫人がリリゼットを生んだ数年後に男との間に子を宿したが死産しその時に妹も死んだ。
以来、その男は後妻を迎えることなく夫人の実家がある領地で良き領主として切り盛りしていると風の噂で聞いた。
妹と両親を見返すために公爵家に嫁いだ夫人はさっさと女癖が悪い夫が夫人を切り捨て愛人を正妻にする前に公爵夫人としての地位を確立するためにリリゼットを生んだ。
生まれたばかりのリリゼットの髪は夫人似、瞳はアルガリータ公に似ており誰がどう見てもアルガリータ夫妻の子だと分かる容姿だった。
だが好きでもなかった夫と似た瞳が気に入らぬと夫人はリリゼットに愛情がわかず娘の世話は使用人達に丸投げした。
その娘が成長すると憎い妹に似てきたことで夫人はリリゼットを憎むようになりリリゼットが獄中で自害したと聞いた時は悲しみもなく長年の胸のつかえが取れたと思っていたというのに今度は夫の爵位剥奪。
夫が爵位を剥奪されれば夫人は公爵夫人としての地位も無くなり平民となる。
夫人の40代に差し掛かる年齢では例え夫を捨て元中流貴族出身でも他家に後妻、愛人となるのは極めて難しい。
平民として暮らすのも両親は死に卑しい出自の男が実権を握っている実家を頼ることが何よりも夫人には耐え難く屈辱だった。
喚いても夫の地位が回復するわけでもなく時間だけが無駄に浪費していくことなど理解できぬ夫人は只々目の前にいる平民となってしまった夫にカン高く不快な声で喚き散らし続けていた。
アルガリータ家の使用人達はその様子など目にも入れず雇い主が爵位を剥奪されるやいなやまだ屋敷にきて間もない若いメイドや従者達、日本で言えば定年に差し掛かる年齢の者は故郷へ帰る支度を始めていた。
そして、この屋敷の使用人で古参の帰る実家もないメイド長のメアリー、バトラーのアルバス、料理長のジャン、メイドのエリー、従者のエリック、庭師のマークの6人は使用人同士の話し合いに打ってつけの部屋で話し合いをしていた。
「メアリー、『例の話』は本当なのか?」
「ええ…、私に薬を渡した者の仲間からの手紙にはそうありました…」
バトラーのアルバスがいう『例の話』とは自害した筈のリリゼットが実は存命しておりメアリーに仮死状態にする薬を渡した男が他国へ連れて行ったこととアルガリータ家の使用人達も希望した者はグレンを連れて同じ国での安全と生活を保証することとそのための迎えを寄越すということである。
彼が『例の話』と言ったのは部屋の外の者にリリゼット存命を知られぬようにするためだろう。
「そのうまい話は信用できるものなのか?」
料理長のジャンは雇い主よりも主らしかったリリゼットが生きていれば嬉しいがそんなうまい話がある訳がないと不信感があるようだった。
「で、でも例え嘘であってもグレン様のことを思えば此処にグレン様を残すよりは良いのではないでしょうか…」
アルガリータ家に使えて5年目のメイドのエリーが言った。
実母どころか実父、義母から愛情を注がれず家族では異母姉リリゼットしか味方がいないグレンは姉が自害したと知ってから部屋に閉じこもっており使用人達は心配していた。
そしてアルガリータ家から爵位剥奪された今、グレンをこのまま屋敷に残せばあの2人により着の身着のまま路頭に迷わせられるか当分の生活費の足しに奴隷商に売られるということが予想できたからだ。
それから使用人達は少しばかり話し合い『集合場所』へ向かう準備を始めた。
「グレン様、メアリーでございます。部屋へ入らせていただきますね」
メアリーはグレンの部屋へ行くと部屋主の了解も得ずに部屋へ入って行くと窓際に置かれたベッドにて毛布に包まり姉の死を悲しむグレンの姿が見えた。
「グレン様…、良くお聞きください。本日よりアルガリータ家は公爵の位を剥奪されこのお屋敷を出て行かなくてはならなくなりました…」
そのままメアリーはアルガリータ家が公爵家でなくなった事実をグレンに告げたがグレンの反応は変わらない。
「グレン様…このお話を聞いても大声を出したり他者には話してはなりませんよ…。実は…お嬢様は…遠くの国で生きておいででいらっしゃいます」
リリゼット、姉が生きていると聞くとグレンの体がビクンッと反応し毛布から栗色の髪と黄緑色の瞳をした少年の顔が見えた。
「姉さんが…生きているの…?」
「はい、これからグレン様と私達使用人もお嬢様がいらっしゃる国へと行くことになります」
自分に無関心な両親もいない、大好きな姉と使用人達と一緒にまた暮らすことが出来ると聞いたからだろうグレンの先程まで悲しみに満ちていた目に輝きが戻り始めた。
グレンはメアリーと一緒に旅の準備を始め、未だ夫婦喧嘩をしているアルガリータ夫妻に気付かれぬうちに、クリスティア行きを希望した使用人達と集合場所へと向かって行った…。
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