35 / 46
34
しおりを挟むまさか王太子自らが乗り込んで来るとは思いもしなかった。
それはエドナの兵士たちも同じようで、突然現れた高貴な男の正体がわからず、困惑の表情を向けていた。
「貴殿がエウレカの代表かな?出迎え感謝する」
イゴルも例に漏れずマヌエルの顔を知らないようだ。
しかしマヌエルはイゴルなど眼中にないといった様子で、シャロンに向かい真っ直ぐに進んでくる。
「おっ、おいっ!!」
ロートスの兵士が進んでマヌエルのために道を開けた事にシャロンは驚いた。
マヌエルはシャロンの前までくると、僅かに顔を歪めた。
「シャロン王女……良くご無事で……」
彼がどうしてそんな顔をするのかシャロンには見当もつかなかった。
運命の渦に巻き込まれ、なすすべもなかったシャロンに、同じ王族という立場から同情しているのだろうか。
「おっと、大事な取り引き材料に近付かれては困りますな」
二人の間に割って入ろうとしたイゴルの言葉にマヌエルは激昂した。
「取り引き材料だと……?黙れこの蛮族が!」
「な、何だと!?」
「暴力でしか物事を解決できない人間を蛮族以外に表現する言葉があれば教えて欲しいくらいだ。あまつさえ姫君を拐い、尊厳を踏み躙るような事を……お前たちのした事は畜生にも劣る下劣な行為だ!」
「失礼にもほどがある!我々はそちらが交渉に臨むというからわざわざここまで来てやったというのに!」
「落としどころを探っていたのはお前たちの方だろう。このままではあと数百年は蛮族の汚名を背負ったまま生きていく事になるとな」
イゴルはギリギリと奥歯を噛み、握り込んだ拳を震わせた。
「交渉するつもりはないと言うことか」
イゴルの背後にいるエドナの兵士らが一斉に拳の鞘に手を掛けた。
マヌエルの返答次第ではシャロンを取り囲むロートス兵に斬りかかり、人質を手に逃走を図るつもりだろう。
一触即発の空気にシャロンの喉が鳴る。
「勘違いするな。お前たちのした事は決して許されるものではないが、我々は無益な争いは望まない。交渉の席は設けるが──」
マヌエルは再びシャロンを見た。
「シャロン王女には自由を」
予想もしなかった言葉にシャロンは呆気にとられた。
(私に、自由を?)
そんな事、許されるわけがない。
だってシャロンは捕虜なのだから。
「シャロン王女を解放するのであれば、我々はお前たちに手出しはしない。交渉相手として丁重に扱うと約束しよう」
「そんな言葉が信じられると思うか。王女を解放した途端、我々に攻撃を仕掛けるつもりだろう」
「自分たちを基準にものを考えるのはやめてもらおう。繰り返し言うが、我々は無益な争いは望まない」
そしてマヌエルは、彼らの帯剣と城内を自由に出入りする許可を付け加えた。
イゴルはしばらくごねていたが、やがて渋々ながら承諾した。
「シャロン王女、どうぞこちらへ」
マヌエルは腕を出し、シャロンにエスコートの意志を見せた。
以前は日常だったそれも、今の自分には相応しくないように感じてならない。
(けれど、断るのも失礼だわ)
シャロンは戸惑いながらマヌエルの腕に手を添えたのだった。
213
あなたにおすすめの小説
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる