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しおりを挟む「姫様……よくぞご無事で……!」
侍女たちはシャロンの側に駆け寄ると跪き、恭しく手を取った。
「わ、わたくしたちが不甲斐ないばかりにつらい思いを……お守りする事ができず、申し訳ありませんでした!」
見れば彼女たちの頬は溢れた涙でいくつもの筋ができていた。
目の前でシャロンが拐われ、今日までどれほど心を痛めてきたのだろう。
「あなたたちのせいではないわ。だからどうか泣かないで。それよりみんな、あの後はどうしていたの?」
話を聞くと侍女たちは、シャロンが連れ去られた後すぐにエドナ兵に捕まり、厳重な監視のもと、城内で働かされていたという。
「エドナ兵を唯一褒められるとしたら、婦女子に乱暴を働かなかった事でしょうか……まだ全体の被害確認が済んでいないため、あくまで私が聞き及んだ範囲で──ですが」
マヌエルの言葉で、侍女たちが無体を強いられなかったという事実に安堵するとともに、それがセシルの命令だとしたら、なぜ自分はあんな乱暴に扱われたのかというやるせない思いが込み上げてくる。
複雑な表情で俯くシャロンの頭上から、マヌエルの穏やかな声が降り注いだ。
「時間は気にせず、どうぞゆっくりと整えられてください」
身なりをではなく、心を──なぜかそう言われたような気がした。
湯浴みの最中、シャロンは世話役の侍女からエウレカの軍隊が乗り込んできた時の様子を聞くことができた。
島国であるエウレカは、海軍の強さは有名だが、陸軍力については公に知られていない。
よって、陸地での戦いについてはその実力を低く見積もる国が多かった。
エドナも例に漏れず、エウレカが上陸したとの急報が届いた時も、城内は楽勝ムードが漂っていたそうだ。
しかし蓋を開けてみればエウレカ兵は頑強で、ただでさえ隙をつかれた上に油断も手伝い、エドナ兵はあっさりと制圧されてしまったとか。
おそらく主戦力であるセシルの部隊が早々にロートスを離れたことも影響しているのだろう。
「マヌエル殿下は本当にご立派でした。捕虜として囚われていたロートス兵やわたくしどもを真っ先に気遣ってくださって、混乱の中だというのに、希望者は家族のもとに帰してくださったのです」
そう話す侍女も、家族の無事を確認しに帰ったものの、再び城へ戻ってきたのだとか。
「どうして戻ってきてくれたの?怖い思いもたくさんしたでしょうに」
「マヌエル殿下が仰っていたんです。必ずや姫様を取り戻すと」
「わたしを……?」
「はい。ですからわたくしたちもここで、姫様のお帰りを待とうと決めたのです」
マヌエルがそこまでする理由は何なのだろう。
シャロンとの婚姻の裏に、誰も知らない重大な取引のようなものがあったのだろうか。
エドナと事を構えてまでエウレカが欲するものとは?
(何か新しい資源でも見つかったのかしら……でもそんな話は聞いた事がないし……わからないわ……)
確かにロートスは富める国として有名だが、エウレカの民の生活水準は同じくらいだと聞いている。
海から陸地を攻めるには敵の三倍の兵力が必要とされる。当然遠征費用も莫大な額だ。
どう考えてもエウレカは、この戦いで得るものはなく、失うものの方が多いとしか思えないのだが。
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