嘘つきな獣

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
31 / 46

30

しおりを挟む




 「それは本当の話か」

 「それはアイリーン様にお聞きになった方が早いでしょう」

 するとセシルは射殺すような視線をアイリーンに向けた。

 「おい、今の話は本当なのか!?いったいどういうことだ!」

 「私、そんなこと言ってませんわ!」

 「あら、お二人とも私に遠慮なさらなくてもよろしいのですよ。ですがアイリーン様、『売女』という表現は少し違いますわね。売女は自分の意志で身体を売る女性のこと。今の私をひと言で表現するなら、正しくは『慰み者』といったところでしょう」

 「シャロン!」

 声を荒らげるセシルとは反対に、シャロンの口からはまるで二人のやりとりを馬鹿にするような笑いが漏れた。

 「あら、どうしてそんなに恐ろしい顔をなさるの?だってその通りではありませんか。合意もなしに無理矢理自分のものにしておいて、ほんの少し異性と会話をしただけで、さも男好きかのような言われ方をされる。……侮辱もいいところです」

 「本当に……すべて思い出したのか……?」

 「ええ、残念でしたね」

 今のシャロンの頭を占めるのは、これまで自身がされてきたことへの恨みだけ。
 シャロンは身体の奥からふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑え、大きく息を吸ってセシルに向き直った。
 
 「セシル殿下、記憶をなくした私に真実を隠し、甘い言葉を囁いたのはなぜですか?」

 「それは……」

 「形だけの懺悔をしたあとに愛を囁いて、その気にさせれば扱いやすいとでも?」

 「そんなつもりじゃない!」

 「その言葉をどうやって信じろと?私の言うことなんて、なに一つ信じてくれなかったくせに」

 セシルは言葉に詰まった。
 シャロンは青い空を見上げ、懐かしい日々を思い返した。

 「私……あなたの花嫁になる日が待ち遠しかった。あなたは四歳年上の私のことが気に入らないのか、いつも不貞腐れたような顔をして、最低限しか口をきいてくれなかったけれど」

 もう、なにもかもがどうでもいい、
 シャロンは心底うんざりしていた。
 どこかで騒ぎを聞きつけたのか、周囲にはいつの間にか人だかりができてきた。
 
 「何度も手紙を送ったの……返事は来なかったけれど、何度も何度も。それだけじゃない。あなたの誕生日には欠かさずプレゼントも用意して贈ったわ。一生懸命刺繍したハンカチや、普段使いしてもらえるような乗馬用の手袋……。ここ数年はエドナが戦争続きで会うことも叶わないし、なにより戦場に出るあなたのことが心配だった。だから去年はね、お守りとして身につけて欲しくて、シルバーの耳飾りにしたのよ……でも届かなかったのよね。どうしてかしら。私は嘘なんてついていないわ。ならいったい、誰が嘘をついているの?」

 「シャロン、俺は──」

 「セシル殿下!アレン殿も、至急陛下のもとへお集まりください!」

 突如、王宮から駆けてきた兵士が叫ぶ。
 話を遮られたセシルは小さく舌打ちをし、兵士の方へ顔を向けた。

 「なにごとだ」

 敬礼をする兵士の緊張した顔から、非常事態が起こったのだと感じざるを得なかった。
 それも、かなり最悪の。

 「ロートスに駐留させていた軍が、エウレカにより制圧された模様です!これより軍議を開き、今後の対応を協議するとのこと」

 セシルの顔が凍りついた。
 花嫁を奪われたエウレカが、ついに動き出したのだ。
 このままエドナの蛮行を放置しておけば、エウレカは国の威信にかかわる。
 だが当然それを見越して、エドナ側も相当数の兵士をロートスに駐留させていたはず。
 海から陸を攻めるには、少なくとも相手側の三倍の兵力が必要だと言われている。
 ならば今回エウレカは、彼らが誇る海軍の、可能な限りの全戦力を投入してきたのは明白だ。
 彼らがロートスに駐留するエドナ兵を制圧するだけで国に帰るとは到底思えない。
 おそらくロートスを拠点にし、エドナへと攻め込む算段なのだろう。
 (また、血が流れるのね……)
 
 

 

 



 

 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...