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しおりを挟む「それは本当の話か」
「それはアイリーン様にお聞きになった方が早いでしょう」
するとセシルは射殺すような視線をアイリーンに向けた。
「おい、今の話は本当なのか!?いったいどういうことだ!」
「私、そんなこと言ってませんわ!」
「あら、お二人とも私に遠慮なさらなくてもよろしいのですよ。ですがアイリーン様、『売女』という表現は少し違いますわね。売女は自分の意志で身体を売る女性のこと。今の私をひと言で表現するなら、正しくは『慰み者』といったところでしょう」
「シャロン!」
声を荒らげるセシルとは反対に、シャロンの口からはまるで二人のやりとりを馬鹿にするような笑いが漏れた。
「あら、どうしてそんなに恐ろしい顔をなさるの?だってその通りではありませんか。合意もなしに無理矢理自分のものにしておいて、ほんの少し異性と会話をしただけで、さも男好きかのような言われ方をされる。……侮辱もいいところです」
「本当に……すべて思い出したのか……?」
「ええ、残念でしたね」
今のシャロンの頭を占めるのは、これまで自身がされてきたことへの恨みだけ。
シャロンは身体の奥からふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑え、大きく息を吸ってセシルに向き直った。
「セシル殿下、記憶をなくした私に真実を隠し、甘い言葉を囁いたのはなぜですか?」
「それは……」
「形だけの懺悔をしたあとに愛を囁いて、その気にさせれば扱いやすいとでも?」
「そんなつもりじゃない!」
「その言葉をどうやって信じろと?私の言うことなんて、なに一つ信じてくれなかったくせに」
セシルは言葉に詰まった。
シャロンは青い空を見上げ、懐かしい日々を思い返した。
「私……あなたの花嫁になる日が待ち遠しかった。あなたは四歳年上の私のことが気に入らないのか、いつも不貞腐れたような顔をして、最低限しか口をきいてくれなかったけれど」
もう、なにもかもがどうでもいい、
シャロンは心底うんざりしていた。
どこかで騒ぎを聞きつけたのか、周囲にはいつの間にか人だかりができてきた。
「何度も手紙を送ったの……返事は来なかったけれど、何度も何度も。それだけじゃない。あなたの誕生日には欠かさずプレゼントも用意して贈ったわ。一生懸命刺繍したハンカチや、普段使いしてもらえるような乗馬用の手袋……。ここ数年はエドナが戦争続きで会うことも叶わないし、なにより戦場に出るあなたのことが心配だった。だから去年はね、お守りとして身につけて欲しくて、シルバーの耳飾りにしたのよ……でも届かなかったのよね。どうしてかしら。私は嘘なんてついていないわ。ならいったい、誰が嘘をついているの?」
「シャロン、俺は──」
「セシル殿下!アレン殿も、至急陛下のもとへお集まりください!」
突如、王宮から駆けてきた兵士が叫ぶ。
話を遮られたセシルは小さく舌打ちをし、兵士の方へ顔を向けた。
「なにごとだ」
敬礼をする兵士の緊張した顔から、非常事態が起こったのだと感じざるを得なかった。
それも、かなり最悪の。
「ロートスに駐留させていた軍が、エウレカにより制圧された模様です!これより軍議を開き、今後の対応を協議するとのこと」
セシルの顔が凍りついた。
花嫁を奪われたエウレカが、ついに動き出したのだ。
このままエドナの蛮行を放置しておけば、エウレカは国の威信にかかわる。
だが当然それを見越して、エドナ側も相当数の兵士をロートスに駐留させていたはず。
海から陸を攻めるには、少なくとも相手側の三倍の兵力が必要だと言われている。
ならば今回エウレカは、彼らが誇る海軍の、可能な限りの全戦力を投入してきたのは明白だ。
彼らがロートスに駐留するエドナ兵を制圧するだけで国に帰るとは到底思えない。
おそらくロートスを拠点にし、エドナへと攻め込む算段なのだろう。
(また、血が流れるのね……)
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