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夜明けの幻想曲 1章 黄金蝶の予言者
3 王子の午後
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頬を撫でる優しい風が心地よい午後のこと。
西の大国シアルワの王が住まう巨大城に幾重にもそびえたつ塔のひとつ、その最上階の一室には紅茶と菓子の甘い香りが漂っていた。
窓際に置かれたテーブルにはティーセットと皿に盛られたクッキーやマフィンなどの焼き菓子、そして書類が散らばっている。
ふたつ用意されたティーカップのうち、ひとつは全く手を付けられておらず湯気が弱まりつつあった。もうひとつに注がれた紅茶は既に半分ほど飲み干されており、飲んだ本人が繊細な文様が描かれたソーサーへとカップを置いた。
この部屋にいる人物は二人。一人は紅茶を飲んでは菓子をつまみ、一枚の紙をのんびりと読んでいる。一人は散らばった書類に噛り付くようにして何かを書き込んでいる。
いくらか時間が過ぎたあと、ポットに並々とあったはずの紅茶をいつの間にか飲み干してしまったことに気づいた黒髪の青年の一筋だけはねた髪ががっかりしたようにへなる。この銘柄の紅茶はとても好みなのだが、高級故に値段が高い。飲みすぎると知り合いのメイドに小言を言われてしまうだろう。正直言ってそれは面倒くさいのでおかわりは諦めることにした。王宮勤めなのだから、いつかまた飲めるだろう。
今度は残ったクッキーに手を出して小麦とバターの風味を感じながら食べていると、もう一人の青年が唸り声をあげながら金赤色の髪に覆われた頭を掻きむしった。
「だああああ終わらない!!」
「ファイトですよ~殿下~」
「お前はのん気だなあセラフィ!!」
シアルワ王国第三王子フェリクス。それがこの部屋の主の名だ。明日十七歳になる若き王子である。若くして王の補佐を務め、民のため公共事業にも力を入れており民からの信頼も厚い。
そんな王子に対して座っているのはフェリクスおつきの執事兼護衛役のこれまた若い青年である。名はセラフィ。普段は高く結い上げている黒髪は今は背に流れている。服もゆったりとした私服であり、王直属の堅苦しい大臣が見たら卒倒しそうなほどラフな姿である。それでも国の象徴である赤銅色の生地を使用した服である辺りは、シアルワに従順な騎士であることが窺える。
「まあまあ、このお仕事が終わって寝てみればもう殿下の誕生祭ですよ。美味しいもの食べ放題、きれいな女性とダンスし放題。街で買い物し放題」
「いや、そこまでは流石に……」
「ふふ、好奇心旺盛な割に堅実な殿下はそんなことしないでしょうけど。あ、誕生日ケーキは僕にも分けてくださいね! 約束ですよ!」
「はいはい……。明日は誕生祭、三日後は夜華祭り。シアルワの民は忙しいなあ」
「殿下も行っちゃいます? 夜華祭り」
「馬鹿言え、王族はそんな簡単に遊びには行けないんだぞ。もちろん、お前もな」
「ぐぬぬ……」
フェリクスは手にしていた書類を置いてようやく紅茶に口をつけた。冷めてしまってはいるが美味しい。集中力も切れてしまったことだし、しばらく文字は見たくない。すっかりセラフィに食べられてしまった焼き菓子の残りにも噛り付きながら、フェリクスは頬杖をつく。
窓から外を覗けば下の広場では騎士見習いたちがそろって訓練をしている。まだ少し動きにばらつきがあるが、彼らはきっと良い騎士として王国騎士団に貢献することだろう。巨大城は城下町から橋を渡った先にある離島に建てられている。故にここから街を見下ろすことは難しい。家々の赤い屋根や時計塔は何とか見えるのだが……街と城を隔てる門が邪魔でそのくらいしか見えないのだ。
小さい頃はよく脱走して街で遊んだりしたものだ、とひとりごちる。
午前中から昼食を抜かしてペンを握り続けた手がひりひりと痛む。それを誤魔化すようにして手を振っていると、セラフィが何かを思いついたかのようにポンと両手を合わせた。
「あ、そうだ殿下。明日、午後の6の鐘が鳴るころに展望室に来てください」
「いいけど……展望室?」
「ええ。シェキナと用意した誕生日サプライズがあるので、それを見せたいと思いまして。三人でプチお誕生日パーティーをしましょう」
「シェキナさんがいるなら安心だな。分かった、ありがとう。そのころに展望室に向かうよ」
「安心ってどういうことですか」
む、と口を尖らせたセラフィに噴き出しながらフェリクスは最後のクッキーをつまみ上げた。
主人が一口でクッキーを平らげた様を見届けて、セラフィは立ち上がる。部屋の隅に立てかけていた白銀の意匠が凝らされた槍を手に取る。セラフィ自慢の獲物だ。
「殿下、そろそろお時間です。もう少ししたらシェキナが迎えに来るでしょう」
「ん、分かった」
紅茶を飲み干してカップをソーサーに置き、濃い赤地に黄色の縁取りのジャケットを羽織る。シルクのタイを整えて王族の証である文様が刻まれたブローチをつける間に、槍を背負ったセラフィがフェリクスの乱れた髪を櫛で梳く。
こうしてフェリクスが少しは王子様らしい格好になって数十秒後、扉がノックされてメイド……シェキナが入ってくる。
肩あたりで切りそろえられた栗色の髪に鋭いトパーズの瞳が印象的な美女である。豊かな胸は露出度の低いメイド服を纏ってもなお存在を主張している。低いヒールの靴を脱いでも彼女の背丈はスラリと高い。この城に勤める男衆の中にはシェキナのファンクラブを結成している者もいると聞く。
「失礼します、殿下。お時間です」
「ああ、準備はできているよ」
「いってらっしゃい殿下。僕はしばし休憩をいただきます。夕食の時にまた会いましょう」
「さっきまで菓子を食ってただけだろ」
気の抜けた笑顔を浮かべてひらひらと手を振るセラフィに背を向けてシェキナの方を向く。
「それじゃあシェキナ、頼むよ」
窓もなく、光源もない暗い螺旋階段を上る。シェキナの持つランタンのか弱い光だけが白いレンガがむき出しの壁を照らしていた。
壁には時折額縁がかかっている箇所がある。そのどれもが黄金で作られた豪奢なものだったが、長年手入れされていないためか埃を被っている。中に飾られているのは歴代の王族だ。
二人のいる場所は歴代の王族たちの墓の役割を果たす塔だ。現王ゼーリッヒの命令で何人たりとも立ち入れないようになっている。この塔の管理責任者にはフェリクスが任命されており、シェキナは彼に塔の見回り・報告をするよう命じられたメイドということになっている。……表向きには。
この塔には、別の役割がある。
しばらく黙々と階段を上っていき、やがて最上階へとたどりつく。最上階にあるのは一部屋だけ。たったひとつの扉は鋼鉄で作られている。
シェキナはフェリクスに目配せした後、扉を叩く。余談だが、鋼鉄の扉を素手で叩いてもシェキナは痛くないらしい。
「姫様、シェキナです。……フェリクス様もいらしています」
部屋の主からの返事はない。
「失礼します」
シェキナは腰に括り付けていた鍵束のうちひとつを鍵穴に差し込み、開かぬ扉を解放する。
促されるままに部屋へと入るフェリクス。表情はどこか硬く、発した声は少し震えていた。
「姉さん、調子はどう……かな」
またもや返事はない。いつも通り寝台に腰かけて同じ本を読んでいた。
フェリクスと同じ金赤色の長い髪は今朝シェキナが整えてから少しの乱れもないまま豊かに背中を流れている。彼は随分とみていないが、瞳の色も同じ石榴石なのだろう。
彼女はフェリクスの姉。第一王女だ。
しかし、その存在は秘匿されたものだった。公式ではゼーリッヒ王の血を引く子供たちは三人の息子とされている。
なぜ王女が存在をないことにされて幽閉されているのかと言えば、それはゼーリッヒ王にしかわからない。王に信頼されているフェリクスですら語られたことはない。王はただ、娘を死なせないでくれ、とだけ懇願した。フェリクスは訳の分からぬまま命令を受け、王女の幽閉に加担している。
彼女を逃がそうと思えば逃がすことはできるのだろう。
……王女自身から発せられた言葉さえなければ。
『貴方は国を滅ぼしたいのね』
今でも脳に残る暗く淀んだ声が蘇る。
意味は分からなかったが、今は姉を解放する時ではないのだと理解した。
「姉さん、明日俺の誕生日なんだ。美味しいもの、何か貰ってくるよ。そうしたら食べてほしいなあ」
フェリクスもシェキナも、いつもと同じく返事はないのだろうと思っていた。
しかし、その日は違った。
「誕生祭、楽しんできてね」
フェリクスは目を見開く。
何日、何か月、何年振りか。あの日に向けられた言葉以来だったかもしれない。王女の声はそれほど久しいものだ。
「あ、ああ! ありがとう姉さん!」
声が少し上ずってしまったかもしれない。でもそれでも良かった。
いつかは助けたいと願うフェリクスは、少なからず姉を慕っている。返事をしてもらえただけでも嬉しいことだ。
(ほんの少しでも心を開いてくれたのか?良かった、嬉しい……)
「……殿下、お時間です」
ごくわずかな時間だが、得られたものは大きく感じた。
フェリクスを呼ぶシェキナの声も心なしかホッとしたように聞こえる。
こうして姉弟が会える時は限られているので、もうこの部屋から去らねばならないこと、夕食が終わればまた仕事の続きをしなければならないことに憂鬱な気分になるが、これで頑張れそうだ。
「姫様、後ほど夕食をお持ちいたします。殿下、どうぞ」
シェキナは鋼鉄の扉をゆっくりと開けて、退室を促す。
「それじゃあ姉さん、明日また来るから」
それに対しての返事はなかったが、気にせずにフェリクスは空気の淀んだ部屋から出る。ある意味牢獄とも言える最上階の部屋。今はただの姉の自室に見えた。
西の大国シアルワの王が住まう巨大城に幾重にもそびえたつ塔のひとつ、その最上階の一室には紅茶と菓子の甘い香りが漂っていた。
窓際に置かれたテーブルにはティーセットと皿に盛られたクッキーやマフィンなどの焼き菓子、そして書類が散らばっている。
ふたつ用意されたティーカップのうち、ひとつは全く手を付けられておらず湯気が弱まりつつあった。もうひとつに注がれた紅茶は既に半分ほど飲み干されており、飲んだ本人が繊細な文様が描かれたソーサーへとカップを置いた。
この部屋にいる人物は二人。一人は紅茶を飲んでは菓子をつまみ、一枚の紙をのんびりと読んでいる。一人は散らばった書類に噛り付くようにして何かを書き込んでいる。
いくらか時間が過ぎたあと、ポットに並々とあったはずの紅茶をいつの間にか飲み干してしまったことに気づいた黒髪の青年の一筋だけはねた髪ががっかりしたようにへなる。この銘柄の紅茶はとても好みなのだが、高級故に値段が高い。飲みすぎると知り合いのメイドに小言を言われてしまうだろう。正直言ってそれは面倒くさいのでおかわりは諦めることにした。王宮勤めなのだから、いつかまた飲めるだろう。
今度は残ったクッキーに手を出して小麦とバターの風味を感じながら食べていると、もう一人の青年が唸り声をあげながら金赤色の髪に覆われた頭を掻きむしった。
「だああああ終わらない!!」
「ファイトですよ~殿下~」
「お前はのん気だなあセラフィ!!」
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「いや、そこまでは流石に……」
「ふふ、好奇心旺盛な割に堅実な殿下はそんなことしないでしょうけど。あ、誕生日ケーキは僕にも分けてくださいね! 約束ですよ!」
「はいはい……。明日は誕生祭、三日後は夜華祭り。シアルワの民は忙しいなあ」
「殿下も行っちゃいます? 夜華祭り」
「馬鹿言え、王族はそんな簡単に遊びには行けないんだぞ。もちろん、お前もな」
「ぐぬぬ……」
フェリクスは手にしていた書類を置いてようやく紅茶に口をつけた。冷めてしまってはいるが美味しい。集中力も切れてしまったことだし、しばらく文字は見たくない。すっかりセラフィに食べられてしまった焼き菓子の残りにも噛り付きながら、フェリクスは頬杖をつく。
窓から外を覗けば下の広場では騎士見習いたちがそろって訓練をしている。まだ少し動きにばらつきがあるが、彼らはきっと良い騎士として王国騎士団に貢献することだろう。巨大城は城下町から橋を渡った先にある離島に建てられている。故にここから街を見下ろすことは難しい。家々の赤い屋根や時計塔は何とか見えるのだが……街と城を隔てる門が邪魔でそのくらいしか見えないのだ。
小さい頃はよく脱走して街で遊んだりしたものだ、とひとりごちる。
午前中から昼食を抜かしてペンを握り続けた手がひりひりと痛む。それを誤魔化すようにして手を振っていると、セラフィが何かを思いついたかのようにポンと両手を合わせた。
「あ、そうだ殿下。明日、午後の6の鐘が鳴るころに展望室に来てください」
「いいけど……展望室?」
「ええ。シェキナと用意した誕生日サプライズがあるので、それを見せたいと思いまして。三人でプチお誕生日パーティーをしましょう」
「シェキナさんがいるなら安心だな。分かった、ありがとう。そのころに展望室に向かうよ」
「安心ってどういうことですか」
む、と口を尖らせたセラフィに噴き出しながらフェリクスは最後のクッキーをつまみ上げた。
主人が一口でクッキーを平らげた様を見届けて、セラフィは立ち上がる。部屋の隅に立てかけていた白銀の意匠が凝らされた槍を手に取る。セラフィ自慢の獲物だ。
「殿下、そろそろお時間です。もう少ししたらシェキナが迎えに来るでしょう」
「ん、分かった」
紅茶を飲み干してカップをソーサーに置き、濃い赤地に黄色の縁取りのジャケットを羽織る。シルクのタイを整えて王族の証である文様が刻まれたブローチをつける間に、槍を背負ったセラフィがフェリクスの乱れた髪を櫛で梳く。
こうしてフェリクスが少しは王子様らしい格好になって数十秒後、扉がノックされてメイド……シェキナが入ってくる。
肩あたりで切りそろえられた栗色の髪に鋭いトパーズの瞳が印象的な美女である。豊かな胸は露出度の低いメイド服を纏ってもなお存在を主張している。低いヒールの靴を脱いでも彼女の背丈はスラリと高い。この城に勤める男衆の中にはシェキナのファンクラブを結成している者もいると聞く。
「失礼します、殿下。お時間です」
「ああ、準備はできているよ」
「いってらっしゃい殿下。僕はしばし休憩をいただきます。夕食の時にまた会いましょう」
「さっきまで菓子を食ってただけだろ」
気の抜けた笑顔を浮かべてひらひらと手を振るセラフィに背を向けてシェキナの方を向く。
「それじゃあシェキナ、頼むよ」
窓もなく、光源もない暗い螺旋階段を上る。シェキナの持つランタンのか弱い光だけが白いレンガがむき出しの壁を照らしていた。
壁には時折額縁がかかっている箇所がある。そのどれもが黄金で作られた豪奢なものだったが、長年手入れされていないためか埃を被っている。中に飾られているのは歴代の王族だ。
二人のいる場所は歴代の王族たちの墓の役割を果たす塔だ。現王ゼーリッヒの命令で何人たりとも立ち入れないようになっている。この塔の管理責任者にはフェリクスが任命されており、シェキナは彼に塔の見回り・報告をするよう命じられたメイドということになっている。……表向きには。
この塔には、別の役割がある。
しばらく黙々と階段を上っていき、やがて最上階へとたどりつく。最上階にあるのは一部屋だけ。たったひとつの扉は鋼鉄で作られている。
シェキナはフェリクスに目配せした後、扉を叩く。余談だが、鋼鉄の扉を素手で叩いてもシェキナは痛くないらしい。
「姫様、シェキナです。……フェリクス様もいらしています」
部屋の主からの返事はない。
「失礼します」
シェキナは腰に括り付けていた鍵束のうちひとつを鍵穴に差し込み、開かぬ扉を解放する。
促されるままに部屋へと入るフェリクス。表情はどこか硬く、発した声は少し震えていた。
「姉さん、調子はどう……かな」
またもや返事はない。いつも通り寝台に腰かけて同じ本を読んでいた。
フェリクスと同じ金赤色の長い髪は今朝シェキナが整えてから少しの乱れもないまま豊かに背中を流れている。彼は随分とみていないが、瞳の色も同じ石榴石なのだろう。
彼女はフェリクスの姉。第一王女だ。
しかし、その存在は秘匿されたものだった。公式ではゼーリッヒ王の血を引く子供たちは三人の息子とされている。
なぜ王女が存在をないことにされて幽閉されているのかと言えば、それはゼーリッヒ王にしかわからない。王に信頼されているフェリクスですら語られたことはない。王はただ、娘を死なせないでくれ、とだけ懇願した。フェリクスは訳の分からぬまま命令を受け、王女の幽閉に加担している。
彼女を逃がそうと思えば逃がすことはできるのだろう。
……王女自身から発せられた言葉さえなければ。
『貴方は国を滅ぼしたいのね』
今でも脳に残る暗く淀んだ声が蘇る。
意味は分からなかったが、今は姉を解放する時ではないのだと理解した。
「姉さん、明日俺の誕生日なんだ。美味しいもの、何か貰ってくるよ。そうしたら食べてほしいなあ」
フェリクスもシェキナも、いつもと同じく返事はないのだろうと思っていた。
しかし、その日は違った。
「誕生祭、楽しんできてね」
フェリクスは目を見開く。
何日、何か月、何年振りか。あの日に向けられた言葉以来だったかもしれない。王女の声はそれほど久しいものだ。
「あ、ああ! ありがとう姉さん!」
声が少し上ずってしまったかもしれない。でもそれでも良かった。
いつかは助けたいと願うフェリクスは、少なからず姉を慕っている。返事をしてもらえただけでも嬉しいことだ。
(ほんの少しでも心を開いてくれたのか?良かった、嬉しい……)
「……殿下、お時間です」
ごくわずかな時間だが、得られたものは大きく感じた。
フェリクスを呼ぶシェキナの声も心なしかホッとしたように聞こえる。
こうして姉弟が会える時は限られているので、もうこの部屋から去らねばならないこと、夕食が終わればまた仕事の続きをしなければならないことに憂鬱な気分になるが、これで頑張れそうだ。
「姫様、後ほど夕食をお持ちいたします。殿下、どうぞ」
シェキナは鋼鉄の扉をゆっくりと開けて、退室を促す。
「それじゃあ姉さん、明日また来るから」
それに対しての返事はなかったが、気にせずにフェリクスは空気の淀んだ部屋から出る。ある意味牢獄とも言える最上階の部屋。今はただの姉の自室に見えた。
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