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夜明けの幻想曲 1章 黄金蝶の予言者
2 流れ着いたのは救世主か、疫病神か
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目を覚ますと、視界いっぱいに白い世界が広がっていた。……いや、これは壁、でもなく天井だ。そして、身体は柔らかくて暖かいベッドの上だ。
少女はゆっくりと意識を浮上させていく。それに伴って頭の中に火の粉がちらつき始めた。黒い空、誰かの叫び声……少女は目を見開き、飛び起きた。
まず確認したのは自分の身体。全身に負っていた火傷や擦り傷は丁寧に手当てされ、白い包帯やガーゼに覆われている。埃や煤にまみれたはずのワンピースは洗濯されたらしく、きれいに整えられた状態で壁にかけられていた。今身に着けているのは少々サイズが大きめの白いネグリジェ。よく手入れされているのか、肌触りもよくかすかに良い香りがする。
(ここは……どこ?)
ぐるりと見渡せば、そこはこぢんまりとした部屋のようだ。家具や装飾品の類は少ないが、木の香りが心地よい。部屋に据えられた扉は開け放たれたままだ。その向こうで誰かが作業をしているのか、ごそごそと物音が聞こえる。
そして。少女が眠っていたベッドの脇に置かれていた丸いサイドテーブルに突っ伏して寝ている見知らぬ青年の姿がそこにあった。腕を枕代わりにしている顔はとても気持ちよさそうだ。
「あら、起きたのね」
困惑していたところに、盆を持った女性が現れた。
美しい女性だ。淡藤の長い髪を頭の高い位置でまとめられ、透き通った白い肌を持ち、知性的で落ち着いたアメジストの瞳が優しく少女を見つめていた。
「あ……」
「驚かせてしまったかしら。だとしたらごめんなさいね」
女性はクスリと優美に笑って、盆をサイドテーブルに置いた。青年が寝ている位置はしっかり避けている。盆の上に乗っていたのは水差しと三つのコップだ。そのうちの二つに水を注ぎ、女性は一つ少女に差し出す。
少女は素直に受け取り、何の疑いもせずに一口飲んだ。それほどまでに、喉が渇いていた。
「私の名前はソフィア。貴女は?」
少女がホッと息をついたタイミングで女性――ソフィアは名乗る。少女は少し悩んだ後に、口を開いた。
「私はシャルロット。あの、ソフィアさん。ここは?」
「私のことはソフィアと呼んでくれて構わないわよ。ここには……名前はないわ」
予想外の返答に目を丸くした少女にシャルロットに、ソフィアは困ったように微笑む。
「場所的にはシアルワ王国の東、迷いの森の中……なのだけど」
「ま、迷いの森…」
「迷いの森といってもとても広いだけよ。通り方さえ覚えてしまえば、通り抜けることも不可能ではないと思うわ」
「でも、迷いの森に人が住んでいるなんて聞いたことがない……」
「ええ。ここは国にも伝えていない隠された集落だから。知らないのも無理はないわ」
口元に人差し指を添えてしい、と言うソフィアは少し色っぽい。本人にその気はないのだろうが、その大人びた美しさにシャルロットは思わず口を尖らせそうになる。
(私もいつか、素敵な女性に……)
話していた内容とは的外れな考えが浮かぶが、ぶんぶんと勢いよく頭を振ることで落ち着きを取り戻す。
「ここはね、精霊たちから逃げてきた人々が作った場所なの。普段は凶暴な生き物が住み着いていたり、鉱石みたいな金目のものもないし、人も近づかないから精霊も近づかない。だから隠れるには絶好の場所なのよ。……シャルロットも、そうなの?」
「えっと……」
ソフィアの質問にシャルロットは惑う。それは精霊に村を焼かれ、襲われたとはいえ、その後の記憶がないからだった。あの大精霊ビエントに背を向けたことまでははっきりと覚えているのだが。しかし、こうして無事だったのも精霊から逃げきったから以外には考えられない。ここは素直に話しておいて損はないだろう。
「……私は、シャーレに住んでいたの。そこはもう精霊に襲われて、なくなってしまったのだけど。ごめんなさい、精霊に見つかってもうだめだって思ったところまでは覚えているのだけど、どうやって逃げてきたかまでは覚えていないみたい。あの、私はどうしてここにいるの?」
「ああ、そうね。それも説明しなきゃね。貴女はこの集落のはずれにある川辺に倒れていたらしいのよ。それをそこに寝ている彼が見つけてここに連れてきたの。もちろん手当は私がしておいたから安心してね」
ソフィアは寝ている青年へ手を伸ばし、セピア色の髪を遠慮なしに撫でる。わしゃわしゃと勢いよく撫でるのでとうとう青年はうめき声をあげながら目を覚ました。柔らかそうな髪はぼさぼさに乱れてしまっている。。
「ううん……?」
ソフィアの手から解放された髪を適当に整えながら顔を上げ、寝ぼけ眼を瞬く。蒼穹を閉じ込めたかのような瞳がシャルロットを映した瞬間、パッと見開かれ、表情が華やいだ。
「あ、起きたの?」
「貴方が一番の寝坊助よ、レイ」
「仕方ないだろ、夜通し看病してたんだから」
レイと呼ばれた青年はソフィアへ軽口をたたいた後、シャルロットに向き直る。端正な顔立ちから生まれる品の良い笑顔は貴族のそれを思わせる。まあ要するに、整った顔立ちの優しそうな青年だった。
「この子はレイ」
「私はシャルロット。えっと、私を助けてくれたのね。ありがとう」
ソフィアの口ぶりはまるでかわいい弟を紹介する姉のようだった。シャルロットが頭を下げて礼を言うと、レイはいやいや、と手を振って応える。
「水汲みに来たら君が倒れているのを見かけたから……。人を助けるのって当たり前だろう? 無事に目が覚めて良かったよ」
腰かけていた椅子から立ち上がり、軽くストレッチをするレイ。関節が鳴るかすかな音が聞こえた。横になって寝ていなかったせいだろう。彼を見つめながらシャルロットは今後どうするべきか考える。
いつまでもここで世話になるわけにはいかないだろう。傷が癒えたらここから出てあの日はぐれてしまった兄を捜しに行かなければならない。しかし、助けてくれたソフィアとレイに何かお礼をしなければ。ああ、でもあのビエントはシャルロット自身を狙っていたようだし、長居するのも危険なのかもしれない。
「レイ、私またマグナロアへ行ってくるわ。次の満月の日の朝ごろには帰ってくるから」
「ん、分かった」
「シャルロットもまだ回復しきっていないし、彼女のこと見ていてあげてね」
「大丈夫。俺がきちんと留守番できなかったことなんてなかっただろ?」
「ええそうね」
「いつまでも子ども扱いはやめてくれよ~」
「してないわよ。子ども扱いしている人に何日も留守番任せたり家事頼んだりはしないわ」
シャルロットがもんもんと悩んでいる間に家主である二人は何やら話をしていた。それを終えるとソフィアはシャルロットに声をかける。
「シャルロット、目覚めたばかりで申し訳ないのだけど私しばらくでかけないといけないの。けど、好きなだけゆっくりしてちょうだいね」
「俺はいるから分からないことがあれば遠慮なく聴いてくれても構わないよ」
「えっ。あ、分かった……」
「ごめんなさいね。それじゃあレイ、あとはよろしくね」
「いってらっしゃい」
ソフィアはそそくさと部屋を出ていく。くるりと後ろを向いた時の陰った表情は誰にも見せることなく。
ぱたん、と扉がしめられ足音が遠ざかる。それを確認したあと、レイは困ったように微笑んでシャルロットに補足説明をする。
「ソフィアはさ、定期的にここから出かけて行って剣の修行をしているんだ。マグナロアっていう街らしいんだけど」
「マグナロアって戦闘民族が暮らす街だよ。マグナロアで修行するにも厳しい試験に合格しないといけないって聞いたことがあるよ。そんなところに定期的に通っているってことはソフィアって相当すごい人なんじゃあ……」
「確かにソフィアの剣の腕前はすさまじいけど……マグナロアってそんな凄いところだったんだ……」
「有名な場所だと思うんだけど」
目を丸くして驚くシャルロットを見て気まずそうな顔をするレイ。ムムム、と唸った後に頭を掻きながら言う。
「俺、この集落に来てからというものの外に出たことがなくて。それ以前のことは全く覚えていないし、ソフィアは外は恐ろしいものしかないから絶対に出るなって言うし……」
ものすごく世間知らずそうなのも、集落から出たことのない箱入り息子だったからなのか。シャルロットは勝手に納得してうなずく。
「レイも、精霊から逃げてここに来たんだね」
「うん、まあそんな感じ」
どこか曖昧に微笑んでから、レイは身を乗り出す。
「シャルロットは森の外から来たんだろう? 俺さ、外のこと全く知らないからシャルロットが知ってること、教えてくれないか?」
シャルロットを真っすぐに見つめるレイの瞳にはまるで興味津々と言わんばかりの光が宿っている。あまりの勢いに苦笑いを浮かべながらシャルロットは軽くうなずく。
「私が知っていることもそんなに多くはないけれど。それでも良ければ」
シャルロットはレイに語った。この世界のことを。
まずは西の大国シアルワのことを。都のこと、周辺の街や村のこと、湖で毎年開かれる祭りのこと。次いで東の大国ラエティティアのことを。ラエティティアに伝わる伝説のこと。簡単な歴史。そして自らが暮らしていたシアルワの高地に存在した村シャーレのこと。
気が付けば朝日は天高く昇り、昼餉の時間が近づいていた。
シャルロットの話を熱心に聴いていたレイは窓の外を見て時の経過に気づき、名残惜しそうに話を遮った。
「そろそろこんな時間だ。軽くご飯でも作るよ……って言いたいところだけど、食材を切らしてしまってて。貰いに行ってくるからシャルロットはここで待ってて。話の続きは食事の後で」
「うん、分かった」
「あ、そうそう。ないとは思うけど家の外には出ちゃだめだよ。ここには気難しい人が多いから」
「?? ……うん、それも分かった」
頭の上に疑問符を浮かべながらもシャルロットがうなずいたのを確認してレイは家から出て行った。窓越しに駆けていく姿を眺めていると、近くの家から壮年の男性が出てくるのに出くわしてしまったようだ。遠目で分かりづらいが、レイは足を止めて頭を下げたようだった。動きがぎこちなかったように見えたのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではなかったらしい。壮年の男性がレイにつかみかかったのだ。例え遠目であったとしても、レイが大きくよろめいているのは分かる。
「ああ!!」
シャルロットは進んで人を助けようとするお人よしではない。が、先ほどまで和気あいあいとおしゃべりを楽しんでいた身だ。助けないと、という曲がらぬ考えがシャルロットを埋め尽くしていた。
白いネグリジェのまま、はだしのままで彼女は家を飛び出した。
初めて見た隠された集落は森と一体化したような作りになっていてシャルロットの興味を引いたが、今はそれどころではない。
どうやら男性はレイに対して恐喝しているらしい。レイは無反応のまま顔を俯かせている。
「ちょっと!! 何やってるの!! レイを離して!!」
「シャルロット!? どうしてここに」
「なんだお前は!!!」
レイと男性の間に割り込むようにして突進する。慌てて立ち止って、両腕を広げてレイをかばうような体制を取る。
「レイが何をしたっていうの?」
「小僧!! まさかお前がこの小娘を連れてきたのか!!」
男性はさらに激昂し、声が大きく響き渡る。その声に反応して大木を利用して造られた建物から住人が顔を覗かせた。その誰もが壮年を超えた人間たちであり、さほど人数は多くなさそうだった。
レイはまずい、と声をもらした。
キッと男性を睨みつけたままのシャルロットの手をつかんで駆けだした。急に引っ張られたシャルロットは気の抜けた悲鳴をあげて引きずられていく。
後ろでは男性が何かを喚き散らして近寄ってきた住人になだめられているのが見えた。そのうちの何人かがこちらを見ていたが、どの視線もが冷たくて鋭利なものだった。もしくは、逃げる二人に対する怯え、恐怖か。
家に二人がなだれ込む。ふう、と息をつくレイに、ようやく冷静になったシャルロットが恐る恐る声をかけた。
「ご、ごめんなさい。私、ついかっとなってしまって……」
「ん? ああ、それは全然構わないよ。むしろ嬉しかった。――本当に」
嬉しそうな笑顔を見せながらレイは立ち上がる。そして、床に座り込んでいたシャルロットに向けて手を差し伸べた。
「助けてくれてありがとう。それよりも、ここの人たちについて説明してなくてごめん」
レイの手をとって同じく立ち上がり、シャルロットはネグリジェを軽くはたく。レイに誘導されて玄関、居間、キッチン、食堂の役割を兼ねた一部屋の中央に据えられた木製のテーブルに向かう。一緒に置かれた椅子に腰かけて、レイに渡された白い布で泥のついた足を拭う。床にはらはらと落ちた土や枯れ葉の欠片を掃除しなきゃ、と考えた矢先にテーブルに水が注がれたコップが置かれた。
「ねえ、どうしてあの人たちは貴方に冷たくするの? レイは、悪い人じゃないと思うのだけど……」
布をたたんで膝に置き、シャルロットは問う。思ったよりもあっさりと答えてくれた。――おそらくは、
冗談交じりで。
「俺が本当は悪い人間だったから」
「え?」
「いや、今のは本気にしないでくれ。……話した通り、ここの住人たちはみんな故郷を精霊に奪われた。シャルロットと同じだよ。知っているだろう? 精霊は人間の子供たちを欲している。人口に甚大な被害が出ない程度に、計算して街や村を襲っては、赤ん坊から成人の儀を迎える前までの若者を連れていく。何のためかは知らないけれど、それが現状。ここのみんなは、信じているんだよ。若者さえいなければ自分たちは無事に生きていられる。だから、まだ成人していない俺やソフィアを疎ましく思っているんだ。俺が連れてきた君のことも……ね。人間性なんて関係ないよ。彼らが俺たちを邪魔に思っている理由はそれだけ。まあ、ここに置いてくれてお金さえ払えば物資を分けてくれることは、ありがたいと思っているよ」
「そんな……それだけで?」
「仕方ないよ。彼らだけが悪い訳じゃない。どうか許してやってほしい」
「レイが言うなら……」
一瞬だけ曇った表情はすぐさま苦笑に塗り替えられる。そんなレイに、シャルロットは不服そうに眉をひそめる。
彼を助けたかったとは言え、この集落の事情を知らずに口を出してしまったことに申し訳なさを感じながらも、お礼を言われて嬉しかったことは事実である。シャルロットはコップの水を一口飲む。
「今日はもう外に出たくないし、ご飯は家にあるもので何とか作ってみるよ。後でまた話を聞かせてくれ。祭りのこと、気になってて」
「うん。ありがとう」
レイはシャルロットの正面にある小さなキッチンに立つ。
しばらくして出来上がったのは、野菜がたっぷりと入ったリゾットだった。乾燥させたハーブがのせられていて、とても良い香りがした。
「わあ、おいしそう……!」
「口に合うといいけど」
ソフィアが長期で出かけることが多いためレイは自然と自炊をすることになったそうだ。リゾットは薄味に仕上げられており、病み上がりの身体に暖かく染み渡った。
大変満足して平らげ、皿洗いを一緒にして食器を片付けた後は再びシャルロットの話が始まった。
「シアルワの祭りのことだよね」
「そうそう」
「私も小さい頃に一度しか行ったことがないから、そんなに詳しくはないけれど。お兄ちゃんと行ったの。夜華祭り。アズ湖で開かれる豊穣を祈るお祭りだよ。昼間はたくさんのお店がアズ湖を囲むように開かれて、劇団や音楽隊が来てくれるの。夜華祭りの目玉はね、名前の通り夜にあるのよ。夜空にね、光の花が咲くの。たくさん、たくさん。色とりどりの大きな花が、一瞬だけ咲いて、光の粉になって消えていく。とても綺麗な光景だったことはいまでも忘れられない。……ああ、また行きたいなあ」
「夜空に光の花なんて聞いたことがないよ。どうなってるんだ?」
「ええと、たしかね、火薬を使ったと思う。種類や配合を変えたりしてね、球を作って火をつけて……ごめんね、そこはよくわからない」
「そっか。でもすごいなあ。想像しただけでも綺麗。本物も見てみたいな」
「なら、見に行こうよ」
「へ?」
予想外の返答にレイの目が見開かれる。
「今年の夜華祭りは三日後に開かれるの。ソフィアが帰ってくるのは次の満月の朝ごろでしょう? 明日からでも出かければ十分余裕をもって帰ってこられると思う。……あ、でもここって迷いの森のどのあたりなのかにもよるけれど」
「そんなに深い位置じゃないよ。一応、出るための道は知っているけど」
「なら大丈夫!行ってみようよ。私も行きたいし……もしかしたらお兄ちゃんも来るかもしれない……」
シャルロットの言葉の最後の方は聞き取りづらかったが、好意からの提案であることに間違いはなさそうだった。
どうするべきかレイは悩む。ソフィアには外に出るなと念押しされているが、レイだって護身程度はできるように鍛えられている。行って帰ってくるだけならば大丈夫なのではないか。何よりもシャルロットの言う光の花を、見てみたい。ここに越してきて8年弱が経とうとしているが、その間一度も森の外に出たことがないのだ。もう弱いだけの子供ではないのだし、少しくらいなら。
何より、初めて出会ったこの心優しい少女となら――。
結局のところ、レイは誘惑に負けてしまったのだった。
あったばかりのシャルロットに簡単について行っても良いのかという疑問はあったものの、レイは彼女を悪人だとはこれっぽちも思ってはいなかった。
それは先ほどの言葉に出てきた「お兄ちゃん」という単語。シャルロットが森で倒れていた時に、不安そうにお兄ちゃんと声を発していたのだ。彼女は兄想いの優しい少女なのだとレイは認識している。
「……行ってみようかな」
レイの返事にシャルロットは笑顔を浮かべて大きく頷いた。
「決まり! なら明日の朝出発ね!」
それから二人はしばらく話を続け、ありもので夕食を作って食べて皿を洗い、洗濯をして、軽く荷物を準備した。持っていくものは多くはない。
レイは綺麗に洗ったもののほつれてしまっていたシャルロットのワンピースを繕い、シャルロットはレイから手渡された地図とにらめっこをしていた。
いよいよ就寝の時間が近づいて、シャルロットはソフィアの部屋を借りて寝ることにした。初めに寝ていたベッドはレイのものだったらしい。白に近い金の髪をベッドに散らして眠るシャルロットを微笑ましく見てから、レイは自室に戻りソフィアへの置手紙を書いた。
念のため、というやつだ。読まれることはまあないだろうが、ソフィアの予定が変わって早めに帰宅するかもしれない。シャルロットと夜華祭りに出かける旨を簡潔に書いておく。
翌朝、彼らは朝食の後に家を出た。置手紙は居間のテーブルにきちんと置いておいた。
幸か不幸か、その置手紙は後に読まれることとなる。
一人はソフィア。そして、もう一人。
そんな未来をレイとシャルロットが知る由もないが、とにかく二人は旅立った。
国の陰謀や精霊の思惑に巻き込まれることなんて、夢にも思わずに。
少女はゆっくりと意識を浮上させていく。それに伴って頭の中に火の粉がちらつき始めた。黒い空、誰かの叫び声……少女は目を見開き、飛び起きた。
まず確認したのは自分の身体。全身に負っていた火傷や擦り傷は丁寧に手当てされ、白い包帯やガーゼに覆われている。埃や煤にまみれたはずのワンピースは洗濯されたらしく、きれいに整えられた状態で壁にかけられていた。今身に着けているのは少々サイズが大きめの白いネグリジェ。よく手入れされているのか、肌触りもよくかすかに良い香りがする。
(ここは……どこ?)
ぐるりと見渡せば、そこはこぢんまりとした部屋のようだ。家具や装飾品の類は少ないが、木の香りが心地よい。部屋に据えられた扉は開け放たれたままだ。その向こうで誰かが作業をしているのか、ごそごそと物音が聞こえる。
そして。少女が眠っていたベッドの脇に置かれていた丸いサイドテーブルに突っ伏して寝ている見知らぬ青年の姿がそこにあった。腕を枕代わりにしている顔はとても気持ちよさそうだ。
「あら、起きたのね」
困惑していたところに、盆を持った女性が現れた。
美しい女性だ。淡藤の長い髪を頭の高い位置でまとめられ、透き通った白い肌を持ち、知性的で落ち着いたアメジストの瞳が優しく少女を見つめていた。
「あ……」
「驚かせてしまったかしら。だとしたらごめんなさいね」
女性はクスリと優美に笑って、盆をサイドテーブルに置いた。青年が寝ている位置はしっかり避けている。盆の上に乗っていたのは水差しと三つのコップだ。そのうちの二つに水を注ぎ、女性は一つ少女に差し出す。
少女は素直に受け取り、何の疑いもせずに一口飲んだ。それほどまでに、喉が渇いていた。
「私の名前はソフィア。貴女は?」
少女がホッと息をついたタイミングで女性――ソフィアは名乗る。少女は少し悩んだ後に、口を開いた。
「私はシャルロット。あの、ソフィアさん。ここは?」
「私のことはソフィアと呼んでくれて構わないわよ。ここには……名前はないわ」
予想外の返答に目を丸くした少女にシャルロットに、ソフィアは困ったように微笑む。
「場所的にはシアルワ王国の東、迷いの森の中……なのだけど」
「ま、迷いの森…」
「迷いの森といってもとても広いだけよ。通り方さえ覚えてしまえば、通り抜けることも不可能ではないと思うわ」
「でも、迷いの森に人が住んでいるなんて聞いたことがない……」
「ええ。ここは国にも伝えていない隠された集落だから。知らないのも無理はないわ」
口元に人差し指を添えてしい、と言うソフィアは少し色っぽい。本人にその気はないのだろうが、その大人びた美しさにシャルロットは思わず口を尖らせそうになる。
(私もいつか、素敵な女性に……)
話していた内容とは的外れな考えが浮かぶが、ぶんぶんと勢いよく頭を振ることで落ち着きを取り戻す。
「ここはね、精霊たちから逃げてきた人々が作った場所なの。普段は凶暴な生き物が住み着いていたり、鉱石みたいな金目のものもないし、人も近づかないから精霊も近づかない。だから隠れるには絶好の場所なのよ。……シャルロットも、そうなの?」
「えっと……」
ソフィアの質問にシャルロットは惑う。それは精霊に村を焼かれ、襲われたとはいえ、その後の記憶がないからだった。あの大精霊ビエントに背を向けたことまでははっきりと覚えているのだが。しかし、こうして無事だったのも精霊から逃げきったから以外には考えられない。ここは素直に話しておいて損はないだろう。
「……私は、シャーレに住んでいたの。そこはもう精霊に襲われて、なくなってしまったのだけど。ごめんなさい、精霊に見つかってもうだめだって思ったところまでは覚えているのだけど、どうやって逃げてきたかまでは覚えていないみたい。あの、私はどうしてここにいるの?」
「ああ、そうね。それも説明しなきゃね。貴女はこの集落のはずれにある川辺に倒れていたらしいのよ。それをそこに寝ている彼が見つけてここに連れてきたの。もちろん手当は私がしておいたから安心してね」
ソフィアは寝ている青年へ手を伸ばし、セピア色の髪を遠慮なしに撫でる。わしゃわしゃと勢いよく撫でるのでとうとう青年はうめき声をあげながら目を覚ました。柔らかそうな髪はぼさぼさに乱れてしまっている。。
「ううん……?」
ソフィアの手から解放された髪を適当に整えながら顔を上げ、寝ぼけ眼を瞬く。蒼穹を閉じ込めたかのような瞳がシャルロットを映した瞬間、パッと見開かれ、表情が華やいだ。
「あ、起きたの?」
「貴方が一番の寝坊助よ、レイ」
「仕方ないだろ、夜通し看病してたんだから」
レイと呼ばれた青年はソフィアへ軽口をたたいた後、シャルロットに向き直る。端正な顔立ちから生まれる品の良い笑顔は貴族のそれを思わせる。まあ要するに、整った顔立ちの優しそうな青年だった。
「この子はレイ」
「私はシャルロット。えっと、私を助けてくれたのね。ありがとう」
ソフィアの口ぶりはまるでかわいい弟を紹介する姉のようだった。シャルロットが頭を下げて礼を言うと、レイはいやいや、と手を振って応える。
「水汲みに来たら君が倒れているのを見かけたから……。人を助けるのって当たり前だろう? 無事に目が覚めて良かったよ」
腰かけていた椅子から立ち上がり、軽くストレッチをするレイ。関節が鳴るかすかな音が聞こえた。横になって寝ていなかったせいだろう。彼を見つめながらシャルロットは今後どうするべきか考える。
いつまでもここで世話になるわけにはいかないだろう。傷が癒えたらここから出てあの日はぐれてしまった兄を捜しに行かなければならない。しかし、助けてくれたソフィアとレイに何かお礼をしなければ。ああ、でもあのビエントはシャルロット自身を狙っていたようだし、長居するのも危険なのかもしれない。
「レイ、私またマグナロアへ行ってくるわ。次の満月の日の朝ごろには帰ってくるから」
「ん、分かった」
「シャルロットもまだ回復しきっていないし、彼女のこと見ていてあげてね」
「大丈夫。俺がきちんと留守番できなかったことなんてなかっただろ?」
「ええそうね」
「いつまでも子ども扱いはやめてくれよ~」
「してないわよ。子ども扱いしている人に何日も留守番任せたり家事頼んだりはしないわ」
シャルロットがもんもんと悩んでいる間に家主である二人は何やら話をしていた。それを終えるとソフィアはシャルロットに声をかける。
「シャルロット、目覚めたばかりで申し訳ないのだけど私しばらくでかけないといけないの。けど、好きなだけゆっくりしてちょうだいね」
「俺はいるから分からないことがあれば遠慮なく聴いてくれても構わないよ」
「えっ。あ、分かった……」
「ごめんなさいね。それじゃあレイ、あとはよろしくね」
「いってらっしゃい」
ソフィアはそそくさと部屋を出ていく。くるりと後ろを向いた時の陰った表情は誰にも見せることなく。
ぱたん、と扉がしめられ足音が遠ざかる。それを確認したあと、レイは困ったように微笑んでシャルロットに補足説明をする。
「ソフィアはさ、定期的にここから出かけて行って剣の修行をしているんだ。マグナロアっていう街らしいんだけど」
「マグナロアって戦闘民族が暮らす街だよ。マグナロアで修行するにも厳しい試験に合格しないといけないって聞いたことがあるよ。そんなところに定期的に通っているってことはソフィアって相当すごい人なんじゃあ……」
「確かにソフィアの剣の腕前はすさまじいけど……マグナロアってそんな凄いところだったんだ……」
「有名な場所だと思うんだけど」
目を丸くして驚くシャルロットを見て気まずそうな顔をするレイ。ムムム、と唸った後に頭を掻きながら言う。
「俺、この集落に来てからというものの外に出たことがなくて。それ以前のことは全く覚えていないし、ソフィアは外は恐ろしいものしかないから絶対に出るなって言うし……」
ものすごく世間知らずそうなのも、集落から出たことのない箱入り息子だったからなのか。シャルロットは勝手に納得してうなずく。
「レイも、精霊から逃げてここに来たんだね」
「うん、まあそんな感じ」
どこか曖昧に微笑んでから、レイは身を乗り出す。
「シャルロットは森の外から来たんだろう? 俺さ、外のこと全く知らないからシャルロットが知ってること、教えてくれないか?」
シャルロットを真っすぐに見つめるレイの瞳にはまるで興味津々と言わんばかりの光が宿っている。あまりの勢いに苦笑いを浮かべながらシャルロットは軽くうなずく。
「私が知っていることもそんなに多くはないけれど。それでも良ければ」
シャルロットはレイに語った。この世界のことを。
まずは西の大国シアルワのことを。都のこと、周辺の街や村のこと、湖で毎年開かれる祭りのこと。次いで東の大国ラエティティアのことを。ラエティティアに伝わる伝説のこと。簡単な歴史。そして自らが暮らしていたシアルワの高地に存在した村シャーレのこと。
気が付けば朝日は天高く昇り、昼餉の時間が近づいていた。
シャルロットの話を熱心に聴いていたレイは窓の外を見て時の経過に気づき、名残惜しそうに話を遮った。
「そろそろこんな時間だ。軽くご飯でも作るよ……って言いたいところだけど、食材を切らしてしまってて。貰いに行ってくるからシャルロットはここで待ってて。話の続きは食事の後で」
「うん、分かった」
「あ、そうそう。ないとは思うけど家の外には出ちゃだめだよ。ここには気難しい人が多いから」
「?? ……うん、それも分かった」
頭の上に疑問符を浮かべながらもシャルロットがうなずいたのを確認してレイは家から出て行った。窓越しに駆けていく姿を眺めていると、近くの家から壮年の男性が出てくるのに出くわしてしまったようだ。遠目で分かりづらいが、レイは足を止めて頭を下げたようだった。動きがぎこちなかったように見えたのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではなかったらしい。壮年の男性がレイにつかみかかったのだ。例え遠目であったとしても、レイが大きくよろめいているのは分かる。
「ああ!!」
シャルロットは進んで人を助けようとするお人よしではない。が、先ほどまで和気あいあいとおしゃべりを楽しんでいた身だ。助けないと、という曲がらぬ考えがシャルロットを埋め尽くしていた。
白いネグリジェのまま、はだしのままで彼女は家を飛び出した。
初めて見た隠された集落は森と一体化したような作りになっていてシャルロットの興味を引いたが、今はそれどころではない。
どうやら男性はレイに対して恐喝しているらしい。レイは無反応のまま顔を俯かせている。
「ちょっと!! 何やってるの!! レイを離して!!」
「シャルロット!? どうしてここに」
「なんだお前は!!!」
レイと男性の間に割り込むようにして突進する。慌てて立ち止って、両腕を広げてレイをかばうような体制を取る。
「レイが何をしたっていうの?」
「小僧!! まさかお前がこの小娘を連れてきたのか!!」
男性はさらに激昂し、声が大きく響き渡る。その声に反応して大木を利用して造られた建物から住人が顔を覗かせた。その誰もが壮年を超えた人間たちであり、さほど人数は多くなさそうだった。
レイはまずい、と声をもらした。
キッと男性を睨みつけたままのシャルロットの手をつかんで駆けだした。急に引っ張られたシャルロットは気の抜けた悲鳴をあげて引きずられていく。
後ろでは男性が何かを喚き散らして近寄ってきた住人になだめられているのが見えた。そのうちの何人かがこちらを見ていたが、どの視線もが冷たくて鋭利なものだった。もしくは、逃げる二人に対する怯え、恐怖か。
家に二人がなだれ込む。ふう、と息をつくレイに、ようやく冷静になったシャルロットが恐る恐る声をかけた。
「ご、ごめんなさい。私、ついかっとなってしまって……」
「ん? ああ、それは全然構わないよ。むしろ嬉しかった。――本当に」
嬉しそうな笑顔を見せながらレイは立ち上がる。そして、床に座り込んでいたシャルロットに向けて手を差し伸べた。
「助けてくれてありがとう。それよりも、ここの人たちについて説明してなくてごめん」
レイの手をとって同じく立ち上がり、シャルロットはネグリジェを軽くはたく。レイに誘導されて玄関、居間、キッチン、食堂の役割を兼ねた一部屋の中央に据えられた木製のテーブルに向かう。一緒に置かれた椅子に腰かけて、レイに渡された白い布で泥のついた足を拭う。床にはらはらと落ちた土や枯れ葉の欠片を掃除しなきゃ、と考えた矢先にテーブルに水が注がれたコップが置かれた。
「ねえ、どうしてあの人たちは貴方に冷たくするの? レイは、悪い人じゃないと思うのだけど……」
布をたたんで膝に置き、シャルロットは問う。思ったよりもあっさりと答えてくれた。――おそらくは、
冗談交じりで。
「俺が本当は悪い人間だったから」
「え?」
「いや、今のは本気にしないでくれ。……話した通り、ここの住人たちはみんな故郷を精霊に奪われた。シャルロットと同じだよ。知っているだろう? 精霊は人間の子供たちを欲している。人口に甚大な被害が出ない程度に、計算して街や村を襲っては、赤ん坊から成人の儀を迎える前までの若者を連れていく。何のためかは知らないけれど、それが現状。ここのみんなは、信じているんだよ。若者さえいなければ自分たちは無事に生きていられる。だから、まだ成人していない俺やソフィアを疎ましく思っているんだ。俺が連れてきた君のことも……ね。人間性なんて関係ないよ。彼らが俺たちを邪魔に思っている理由はそれだけ。まあ、ここに置いてくれてお金さえ払えば物資を分けてくれることは、ありがたいと思っているよ」
「そんな……それだけで?」
「仕方ないよ。彼らだけが悪い訳じゃない。どうか許してやってほしい」
「レイが言うなら……」
一瞬だけ曇った表情はすぐさま苦笑に塗り替えられる。そんなレイに、シャルロットは不服そうに眉をひそめる。
彼を助けたかったとは言え、この集落の事情を知らずに口を出してしまったことに申し訳なさを感じながらも、お礼を言われて嬉しかったことは事実である。シャルロットはコップの水を一口飲む。
「今日はもう外に出たくないし、ご飯は家にあるもので何とか作ってみるよ。後でまた話を聞かせてくれ。祭りのこと、気になってて」
「うん。ありがとう」
レイはシャルロットの正面にある小さなキッチンに立つ。
しばらくして出来上がったのは、野菜がたっぷりと入ったリゾットだった。乾燥させたハーブがのせられていて、とても良い香りがした。
「わあ、おいしそう……!」
「口に合うといいけど」
ソフィアが長期で出かけることが多いためレイは自然と自炊をすることになったそうだ。リゾットは薄味に仕上げられており、病み上がりの身体に暖かく染み渡った。
大変満足して平らげ、皿洗いを一緒にして食器を片付けた後は再びシャルロットの話が始まった。
「シアルワの祭りのことだよね」
「そうそう」
「私も小さい頃に一度しか行ったことがないから、そんなに詳しくはないけれど。お兄ちゃんと行ったの。夜華祭り。アズ湖で開かれる豊穣を祈るお祭りだよ。昼間はたくさんのお店がアズ湖を囲むように開かれて、劇団や音楽隊が来てくれるの。夜華祭りの目玉はね、名前の通り夜にあるのよ。夜空にね、光の花が咲くの。たくさん、たくさん。色とりどりの大きな花が、一瞬だけ咲いて、光の粉になって消えていく。とても綺麗な光景だったことはいまでも忘れられない。……ああ、また行きたいなあ」
「夜空に光の花なんて聞いたことがないよ。どうなってるんだ?」
「ええと、たしかね、火薬を使ったと思う。種類や配合を変えたりしてね、球を作って火をつけて……ごめんね、そこはよくわからない」
「そっか。でもすごいなあ。想像しただけでも綺麗。本物も見てみたいな」
「なら、見に行こうよ」
「へ?」
予想外の返答にレイの目が見開かれる。
「今年の夜華祭りは三日後に開かれるの。ソフィアが帰ってくるのは次の満月の朝ごろでしょう? 明日からでも出かければ十分余裕をもって帰ってこられると思う。……あ、でもここって迷いの森のどのあたりなのかにもよるけれど」
「そんなに深い位置じゃないよ。一応、出るための道は知っているけど」
「なら大丈夫!行ってみようよ。私も行きたいし……もしかしたらお兄ちゃんも来るかもしれない……」
シャルロットの言葉の最後の方は聞き取りづらかったが、好意からの提案であることに間違いはなさそうだった。
どうするべきかレイは悩む。ソフィアには外に出るなと念押しされているが、レイだって護身程度はできるように鍛えられている。行って帰ってくるだけならば大丈夫なのではないか。何よりもシャルロットの言う光の花を、見てみたい。ここに越してきて8年弱が経とうとしているが、その間一度も森の外に出たことがないのだ。もう弱いだけの子供ではないのだし、少しくらいなら。
何より、初めて出会ったこの心優しい少女となら――。
結局のところ、レイは誘惑に負けてしまったのだった。
あったばかりのシャルロットに簡単について行っても良いのかという疑問はあったものの、レイは彼女を悪人だとはこれっぽちも思ってはいなかった。
それは先ほどの言葉に出てきた「お兄ちゃん」という単語。シャルロットが森で倒れていた時に、不安そうにお兄ちゃんと声を発していたのだ。彼女は兄想いの優しい少女なのだとレイは認識している。
「……行ってみようかな」
レイの返事にシャルロットは笑顔を浮かべて大きく頷いた。
「決まり! なら明日の朝出発ね!」
それから二人はしばらく話を続け、ありもので夕食を作って食べて皿を洗い、洗濯をして、軽く荷物を準備した。持っていくものは多くはない。
レイは綺麗に洗ったもののほつれてしまっていたシャルロットのワンピースを繕い、シャルロットはレイから手渡された地図とにらめっこをしていた。
いよいよ就寝の時間が近づいて、シャルロットはソフィアの部屋を借りて寝ることにした。初めに寝ていたベッドはレイのものだったらしい。白に近い金の髪をベッドに散らして眠るシャルロットを微笑ましく見てから、レイは自室に戻りソフィアへの置手紙を書いた。
念のため、というやつだ。読まれることはまあないだろうが、ソフィアの予定が変わって早めに帰宅するかもしれない。シャルロットと夜華祭りに出かける旨を簡潔に書いておく。
翌朝、彼らは朝食の後に家を出た。置手紙は居間のテーブルにきちんと置いておいた。
幸か不幸か、その置手紙は後に読まれることとなる。
一人はソフィア。そして、もう一人。
そんな未来をレイとシャルロットが知る由もないが、とにかく二人は旅立った。
国の陰謀や精霊の思惑に巻き込まれることなんて、夢にも思わずに。
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