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事件
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「それから、すぐだったわね。王室主催のガーデンパーティーで事件が起きたの。公爵子息と参加していた娘が、いなくなったのよ。公爵子息が少し離れたすきにね。王室主催で私も参加していたから、その時のことはよく覚えているけれど、公爵子息が娘がいないと騒ぎだしたの。庭も広いし、参加者も多いから、まぎれているだけなんじゃないかとまわりがなだめたけれど、公爵子息は必死に探しだした。鼻のきく種の獣人なら、かなり遠くまで、番の匂いをたどることもできるけれど、クロヒョウの獣人である公爵子息にはできなかった。ただ、番の匂いが消えたことはわかるから、尋常じゃないほど、取り乱していたわ。つくづく、番って、厄介よね? 結局、娘は見つからず、パーティーは中止になった。王宮の護衛や騎士たちが、パーティーを開いていた庭だけじゃなく、王宮の中も捜索しはじめたのよ」
娘さんの不穏な状況とは裏腹に、王女様は歌でも口ずさむように、楽しそうに話していく。
「で、翌日になって、娘は見つかった。王宮の庭から続く森の中で、娘が倒れていたのよ。かなり衰弱していて、娘は話せる状態じゃなかった。でも、体は無傷で、誰かに無理やりつれてこられた形跡もない。だから、自ら森に入って、迷ったんだろうということになったの。結局、私が娘を見たのは、ガーデンパーティーの日が最後になったわ」
え? 最後ってどういう意味……?
嫌な予感にドキッとすると、私の気持ちを見越したように、王女様が言った。
「ああ、ララベルさん、心配しないで? 別に、娘が死んだとかじゃないから。まあ、ただの人だから、たかが1日、森でさまよったくらいで、いかにも死にそうだったけれどね」
良かった、生きてた……。
ほっとすると同時に、娘さんを侮辱する言い方に猛烈に腹が立つ。
「その後、娘は、公爵家の屋敷から外にでなくなったのよ。数日後、王宮に迷惑をかけたと謝罪にきていた公爵夫人から聞いた話によると、娘は部屋にこもって、でてこない。勝手に森に入って迷ったくせに、謝りもせずに恥ずかしいって、あきれたように言っていたわ」
公爵夫人のあまりの冷たさに、娘さんの気持ちを思うと、胸がぎゅーっとしめつけられる。
テーブルの下で、こぶしをにぎりしめていると、ふわっと、あたたかいものに包まれた。
ん……? あ、ルーファス……?
ルーファスの手が、私のにぎりしめた拳にのせられている。
びっくりして、ルーファスを見ると、優しく微笑まれた。
一気に、体から力がぬけた。
いつのまにか、王女様の話を聞きながら、こぶしだけじゃなくて、体中に力が入っていたみたい。
私、王女様の話に、のみこまれそうになっていた……。
王女様の話す娘さんの姿が真実とはかぎらないのに……。
はあああ……。
やっぱり、ルーファスは天使だ。私の癒しの天使。
「ありがとう」という気持ちをありったけこめて、ルーファスに微笑む。
すると、ルーファスが私のほどけたこぶしを優しくにぎってきた。
ルーファスは私の手をにぎったまま、王女様に向きなおった。
「いくら本人が話さないとしても、当然、森のなかに入った理由は調べたんですよね? 王家主催のパーティーで森に入って見つからないなど、いったい警備はどうなっているのか、そちらのほうが問題ですから。それに初めて王宮でのガーデンパーティーに参加した他国の令嬢が、勝手に森に入るなど普通は考えられない。森の中に入るよう誘導した者たちがいたんでしょう? おそらく、公爵子息を狙っていた侯爵令嬢がらみで」
冷たい視線を向けて、淡々と言ったルーファス。
なるほど……!
娘さんの気持ちを思って辛くなっていただけで、そんなことは考えてもいなかったけれど、確かにおかしいよね。
すると、王女様がルーファスに嬉しそうに微笑んだ。
「さすが、ルーファスね! 噂として聞いたところによると、娘は持っていたハンカチを落としてしまったと焦っていたんですって。公爵令息が娘から離れたのも、そのハンカチを探してのことだったみたい。あとで、アジュお姉さまに聞いたのだけれど、娘は母親が刺繍したというハンカチを、いつも茶会やパーティーには持っていて、お守りみたいににぎりしめていたそうよ。ほんと、そんな物に頼るなんて、やっぱりただの人は弱いんだわ。侯爵令嬢のお友達の令嬢が、風で森の方に白いものが飛んでいくのを見たって話しているのを聞いたようだから、追いかけて、森に入って迷い込んだじゃないかしらね」
「つまり、侯爵令嬢が全て仕組んだことか……。取り巻き令嬢にハンカチを盗ませ、令嬢を森に誘い込み、迷っていることを知りながら放置した。盗難に殺人未遂だ。もちろん、処罰されたんでしょう?」
と、ルーファスが鋭い声で王女様に言った。
娘さんの不穏な状況とは裏腹に、王女様は歌でも口ずさむように、楽しそうに話していく。
「で、翌日になって、娘は見つかった。王宮の庭から続く森の中で、娘が倒れていたのよ。かなり衰弱していて、娘は話せる状態じゃなかった。でも、体は無傷で、誰かに無理やりつれてこられた形跡もない。だから、自ら森に入って、迷ったんだろうということになったの。結局、私が娘を見たのは、ガーデンパーティーの日が最後になったわ」
え? 最後ってどういう意味……?
嫌な予感にドキッとすると、私の気持ちを見越したように、王女様が言った。
「ああ、ララベルさん、心配しないで? 別に、娘が死んだとかじゃないから。まあ、ただの人だから、たかが1日、森でさまよったくらいで、いかにも死にそうだったけれどね」
良かった、生きてた……。
ほっとすると同時に、娘さんを侮辱する言い方に猛烈に腹が立つ。
「その後、娘は、公爵家の屋敷から外にでなくなったのよ。数日後、王宮に迷惑をかけたと謝罪にきていた公爵夫人から聞いた話によると、娘は部屋にこもって、でてこない。勝手に森に入って迷ったくせに、謝りもせずに恥ずかしいって、あきれたように言っていたわ」
公爵夫人のあまりの冷たさに、娘さんの気持ちを思うと、胸がぎゅーっとしめつけられる。
テーブルの下で、こぶしをにぎりしめていると、ふわっと、あたたかいものに包まれた。
ん……? あ、ルーファス……?
ルーファスの手が、私のにぎりしめた拳にのせられている。
びっくりして、ルーファスを見ると、優しく微笑まれた。
一気に、体から力がぬけた。
いつのまにか、王女様の話を聞きながら、こぶしだけじゃなくて、体中に力が入っていたみたい。
私、王女様の話に、のみこまれそうになっていた……。
王女様の話す娘さんの姿が真実とはかぎらないのに……。
はあああ……。
やっぱり、ルーファスは天使だ。私の癒しの天使。
「ありがとう」という気持ちをありったけこめて、ルーファスに微笑む。
すると、ルーファスが私のほどけたこぶしを優しくにぎってきた。
ルーファスは私の手をにぎったまま、王女様に向きなおった。
「いくら本人が話さないとしても、当然、森のなかに入った理由は調べたんですよね? 王家主催のパーティーで森に入って見つからないなど、いったい警備はどうなっているのか、そちらのほうが問題ですから。それに初めて王宮でのガーデンパーティーに参加した他国の令嬢が、勝手に森に入るなど普通は考えられない。森の中に入るよう誘導した者たちがいたんでしょう? おそらく、公爵子息を狙っていた侯爵令嬢がらみで」
冷たい視線を向けて、淡々と言ったルーファス。
なるほど……!
娘さんの気持ちを思って辛くなっていただけで、そんなことは考えてもいなかったけれど、確かにおかしいよね。
すると、王女様がルーファスに嬉しそうに微笑んだ。
「さすが、ルーファスね! 噂として聞いたところによると、娘は持っていたハンカチを落としてしまったと焦っていたんですって。公爵令息が娘から離れたのも、そのハンカチを探してのことだったみたい。あとで、アジュお姉さまに聞いたのだけれど、娘は母親が刺繍したというハンカチを、いつも茶会やパーティーには持っていて、お守りみたいににぎりしめていたそうよ。ほんと、そんな物に頼るなんて、やっぱりただの人は弱いんだわ。侯爵令嬢のお友達の令嬢が、風で森の方に白いものが飛んでいくのを見たって話しているのを聞いたようだから、追いかけて、森に入って迷い込んだじゃないかしらね」
「つまり、侯爵令嬢が全て仕組んだことか……。取り巻き令嬢にハンカチを盗ませ、令嬢を森に誘い込み、迷っていることを知りながら放置した。盗難に殺人未遂だ。もちろん、処罰されたんでしょう?」
と、ルーファスが鋭い声で王女様に言った。
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