私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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あり得ない

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ルーファスの指摘を聞きながら、私の心は煮えたぎっていた。
娘さんを陰湿なやりかたで危ない目にあわせた侯爵令嬢たちが許せない! 

と、怒りにふるえる私の前で、王女様が声をあげて笑った。

「まあ、ルーファスったら、おおげさね? 今、私が話したことは、単なる噂よ。なにも証拠がないわ。それに、たとえ誰かが盗んだとしても、たかがハンカチよ? ハンカチ一枚、なくしたところで、どうってことないでしょう? 王家のパーティーに参加している最中、そんなものひとつで大騒ぎする娘のほうがおかしいもの。いくら、平民で、しかも獣人じゃないからって、礼儀知らずで、ありえないわ」

なんて言い方……!

お守りとして大事にしていたハンカチをそんなものと笑う王女様のほうがあり得ない!

思わず、私は自分の頭に手をやって、髪留めをなでた。
私がお守りのように思っているこの髪留めまで笑われたような気がしたから。

「つまり、ジャナ国は罪を犯したものを野放しにしている……。なるほど、さっきから、王女が獣人、獣人と自慢気に話していたのは、力自慢の獣人じゃないと住めないほど、ジャナ国は危険ということなんだな」

淡々と言い放ったルーファス。

ええと、ルーファス……?
生粋の獣人しかいないジャナ国をぶったぎるような発言を、面と向かって、王女様に向かって言うのは大丈夫……じゃないよね?
まあ、怒っていた私としてはすっきりしたけど……。

おそるおそる王女様の反応を見る。
ルーファスの発言に驚いたのか、あっけにとられたように黙っている。

そんな王女様を放置して、ルーファスは私の方に向きなおると、にこっと笑った。

「ねえ、ララ。ララは絶対にジャナ国に行ったらダメだからね? 野獣ばかりの国に、心優しくて、なにもかもが愛らしいララが行くと危ないから。……まあ、どこの国だって、僕と一緒じゃないかぎり、行かせたりはしないけどね」

ルーファスが、なにやらおかしなことを言いだした。
いつもながら、きらきらした笑顔は天使なんだけど……。

「おい、ルーファス! 王女に失礼だぞ。おまえは黙ってろ! それより、王女。その後、番のふたりは結局どうなったんだ?」

第二王子の問いかけに、はっとしたように我に戻った王女様。
すぐさま自信ありげな笑みを浮かべて、私を見た。

「そうね。ここからのふたりの行く末が、私がララベルさんに教えたかったことなのよ。じゃあ、しっかり聞いておいてね、ララベルさん」

そう言われると、聞きたくなくなるんだけど……。

「完全に心が折れ、ひきこもったままの娘をみて、公爵子息がアルジロ国で娘と暮らすと、また、言い出したのよ。娘も、今度はその提案を受け入れた。でも、公爵夫妻は認めなかった。婚約は解消して、娘だけをアルジロ国に帰せばいいと言ったの。まあ、当然よね。だって、公爵子息がアルジロ国に娘と行くということは、公爵家をぬけて、平民になるということだもの。力の強い獣人で、しかも公爵家の子息なのよ? いくら番だからって、そこまでする?  信じられないわ」
と、あきれたように言った王女様。

いや、別に番じゃなくても、好きな人と一緒にいたいなら、そうすると思うけど……。
だって、平民とか貴族とかより、好きな人の幸せが大事だし。
ことごとく王女様とは考えが違うと思っていると、第二王子が苦々しい口調で言った。

「正常な判断ができなくなるのが番なんだ……」

いや、だから、公爵子息が娘さんと一緒にアルジロ国に行きたいというのは、別に番とか関係なく、この状況なら普通だと思うけど……。
と、心の中でつっこんでみる。

「ガイガー王子が言うと、説得力があるわね。とにかく、公爵子息はすぐにでも公爵家を出て行こうとしたの。でも、できなかった。公爵夫人が自死しようとしたから。公爵夫人は、自慢の息子が他国で平民になるなんて、到底許せなかったのよ。幸い命をとりとめた公爵夫人は公爵子息に迫ったの。私か娘か、どちらかを選べと。もし、娘を選び、アルジロ国に行くのなら、私は死ぬって言ったそうよ。まあ、私が公爵夫人の立場でもそうするわね。息子が平民になるのを見るくらいなら、死んだほうがましだもの」

喜々として話す王女様。

死んだ方がまし……? いや、なんで、そうなるの?
そもそも、命でひきとめようとするなんて卑怯だよ……。
そんな辛い選択を迫られた公爵子息を思うと、ずしんと気持ちが重くなる。

が、そんな私とは裏腹に、第二王子がくくっと笑った。

「ほお、それはおもしろいな……。それで、公爵子息はどっちを選んだんだ? やっぱり、番か? それとも、番をあきらめて、母親にしたのか?」

は? 今、おもしろいって言った……?
第二王子……じゃなくて、このバカ王子は一体、何を言ってるの!?

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