フェイラー・オブ・ザ・ハイスクール

神谷樂楽

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修学旅行の英雄譚 Ⅰ

File.3 到着です!

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『まもなく、到着します。着陸しますので。席を立たれないようよろしくお願いします。なお、お降りの際はお忘れ物の無きようお気をつけ下さい』
飛行機の中で寝て、起きて、また更に三時間のフライトを経てようやくフランスに到着した。時差ボケ防止のために寝たがずっと座りっぱなしだったのでみんなお疲れのようだ。夜の十一時だということもあり外は暗く、それにつられてみんな眠そうにしている。
「 ほらー、もうすぐ宿だぞ。ダラダラしてないで早く集まれ」
自分の荷物を受け取り、眠い目を擦りながらも全員無事に宿の到着する。エントランスでクラスごとに点呼、及び明日からの注意事項を知らされ、今日は解散となった。
不思議なことに自由時間になった途端にクラスのほとんどが元気を取り戻す。修学旅行で友達と自由にいられるというのは確かに心躍る。
「おーいハル、久瀬と黒澤連れてきたぜ。俺とお前の部屋でいいよな?」
拓翔が二人を連れて俺の方に向かってくる。
あれ?ローランがいないようだけど、誘わなかったのか?
「なぁ、ローランはどうしたんだ?誘わなかったのか?」
久瀬がエントランスの出口を指差して言う。
「あぁ、なんかあいつなら外に用があるからって出ていったぞ?先生には言わないで欲しいとさ」
俺と氷翠は顔を見合わせる。この中で事情を知っている俺たち二人に緊張が走った。
「ちょっとちょっと、どうするのこれ?」
氷翠か俺だけに聞こえるような声で訊いてくる。
「どうするも何も今は隠し通すしかないだろ?こいつらに全部話すわけにもいかないし」
「それもそうだけどさぁ……」
氷翠は不満げな顔をしているが、本当にどうすることも出来ないのが現状なので仕方ない。
「どうした?なんかあったのか?」
拓翔が聞いてくる。
「い、いや、なんもないなんもない。外の風に辺りに行ったんだろ?なぁ、氷翠?」
急に振られた氷翠が明らかに動揺する。
「ふぇ?あぁ、うん!そうそう、多分そうだよ」
その氷翠の態度に余計怪しむ拓翔。こいつ感は鋭いからな、ちょっとでもこっちが隙みせたらその時点でアウトだぞ。頑張れ氷翠!
「そうか、それなら連絡だけして先行ってようぜ?」
………………。
……………………。
「ま、そういうことにしとくか。それじゃぁあいつが戻ってくるまでに荷物片しちまおうぜ?とりあえず解散で」
氷翠の顔から目を離して、俺たちに指示を出す。バレなくてよかった……よくやったぞ、氷翠!これでひとまずは安心と言ったところか。拓翔達にバレなくてよかったけど、今誤魔化したせいで余計動きづらくなった。今日はもう諦めるしかねぇな……。
「分かった、それなら今から十五分後に俺と拓翔の部屋集合な」
「「「「了解」」」」


「広くね!?」
部屋に入って拓翔の第一声がそれだった。その驚きは決して大袈裟なものではなく、二人で過ごすには持て余す広さをしている。
「おー、たしかに広いな。これだけ広かったら久瀬達が来ても余裕だろ。あいつら来るまで時間そんなに無いしさっさと整理しようぜ」
キャリーバッグから自分の荷物を取り出したり、部屋を散策したりする。広さ的には大体二十五畳程で外にはベランダが付いている。この部屋を二人で使うってのはどうなのだろうか?学校もよくそんなお金があったな。あれ?そういえばリーナ先輩が何か手回ししてくれるって言ってたような?まさか先輩が頼んだのか?後で聞いてみよう。
荷物を整理してベットの上でひと段落着いたところを休んでいる時に、拓翔が俺に聞いてきた。
「なぁ、ローランの話、あれ嘘ついただろお前?」
ドクンッ!と心臓が強く跳ねたのが分かった。
「お前との付き合いは短いかも知んねぇけどよ、俺一応お前の親友やってんだわ。だからお前の変化はすぐに気づくし隠し事があるってのもすぐに分かっちまう。別に隠し事してたことを怒ってるわけじゃねぇよ。話せよ、俺にもそれを手伝わせろ」
拓翔は半分真剣に、半分楽しそうにそう言う。
…………。
互いに何も言わずに目を合わせること少し、折れたのは俺だ。
「チッ、ほんとお前は無駄に勘が鋭いな。分かったよ、確かに人数が多いにこしたことないし拓翔にも手伝ってもらうか」
拓翔は勝ったと言わんばかりの笑顔で言う。
「最初からそれでいいんだよ。回りくどいんだよお前はよ。それで?このことを知ってるのはお前と氷翠ちゃんだけか?」
「それとあとリーナ先輩と結斗さんだよ。それとあと俺には氷翠の警護という仕事もある」
「は?警護ってなんでだよ?」
やっぱり言うべきだったか?……いや、もうここまで言ったんだし、全部話してしまってもいいだろう。
俺は拓翔にこれまで起こったことを全部話した。さてさて、一体どんな反応するのやら?
全て話し終えた後に拓翔の感想を待ってみるが、何も言わない。俺が話したことが信じられない様子だ。いきなり親友から魔法使いに殺されたとか、氷翠が一回死んでいるとか、神様と戦ったと言われても信じられない。俺が聞いてもそう思う。
「まぁ、これをすぐに全て信じろってのも無理な話なのは分かってるけど、これからのためにも今は受け止めてくれよ」
拓翔は自分のベットに力なく座った。信じられない様子は変わらないがその顔は笑っていた。
「違う違う、お前……そんなことになってたのかよ。そりゃあんだけ強くなるわな……はは、俺がしてきたことが馬鹿らしくなってくるぜ。なぁ、もっと聞かせろよその話。すげぇ興味あるぜ俺」
それから俺はもっと細かいところまで話した。そのついでにローランのことも。話が一区切りつく度に情報を整理してまとめていく。
「───それでそのアンリ・マンユてやつがそのお前の中にいる……なんだっけ?そいつを自分の分身を使って生み出したと」
「アジ・ダハーカな、そういうこと。話してみるか?」
すると拓翔はより興奮する。
「マジで!?そいつと話せるのか!?」
「まぁこいつが反応すればだけどな?おーい、聞こえてるか?拓翔がお前と話したいんだとよ。出てきてやってくれないか?」
左腕に三つ首の龍の紋様が浮かび上がりそこから声がする。
『なんだ?俺と話したいなど稀有なやつだな』
「そう言うなよ、お前もこの世代知り合いそんないないだろ?人間と仲良くなっとけって」
「ほんとに腕から声がする……ほんとにドラゴンなんていたんだな。いや、そもそも魔法とかその魔術とかも普通に考えればファンタジーだな。神様とかがいても全然おかしくないか」
俺の腕をじっと見て声をかける。
「あのぉ、俺の声聞こえてますかね?新條拓翔っていいます。なんか悠斗が迷惑かけたみたいで申し訳ありません」
親かお前は、どちらかと言えば俺がこいつに散々振り回されてるんだよ。
『お前は先日の蒼電使いか、相棒からは盟友であると聞いている。あの蒼い雷は見事なものだったぞ』
アジ・ダハーカという伝説の存在にに褒められて戸惑っている。こいつの実際の姿は三つ首の大きいドラゴンだが、拓翔の目の前にあるのはそれを模したような紋様。腕に褒められるってどんな気持ちなんだろう?
「すっげ、俺今ドラゴンと会話してるよ。ゲームとかでしか見たことないのに。しかもアジ・ダハーカなんてどんなゲームにも出てくる超有名どころじゃん」
『げーむ?あぁ、相棒が自室でよくやっているあれか。なんだ、あれは異形と戦うためのシュミレーションではないのか?相棒が戦いに意欲的だと思っていたのだが違うのか?』
なんかものすごい誤解をしてる!?
それを聞いた拓翔は大笑いしていた。
「なんだよゲーム知らねぇのか!あれは別に戦いとは関係ないよ。なんて言えばいいんだ?えぇ……あ!そうそう今の人間の娯楽ってやつだ」
『あの中に人間を閉じ込めて異形と戦わせるのが娯楽なのか。いつの時代もすることが変わらないな』
「違う違う、あの人たちは人間じゃねぇよ。それにあのモンスターも本物じゃないしな。あれは全部作り物だよ」
『なんと、今の人間は魔法無しであそこまで精巧なものを作るようになったのか!いやはや人間の進化とはやはり恐ろしいな』
お前俺がやってるゲームをそんなふうに思ってたのかよ、ドラゴンっぽい敵だったらできるかもしれないけど人間はゲームのキャラクターみたいに動けないからな?いや、そうでもないのか?ローラン、結斗さんに目の前のこいつ……結構人間離れした動きしてたわ。戦うところを直に見た事ないけどリーナ先輩も多分そうなんだろうね。
「なぁ悠斗、お前みたいにドラゴン宿してるやつって他にいないのか?」
これ教えてもいいのかな?でももうほとんど話しちまったしなぁ。
「いるぞ、リーナ・グランシェール先輩はファーブニルってドラゴンを宿してる」
「あの人か、最近お前が先輩といるところをよく見ると思ったらそういうことだったのね」
「さっきは話に出さなかったけど俺を助けてくれたりした人がリーナ先輩だからな。今もだいぶお世話に───」
その時、勢いよく部屋の扉が開かれる。
「おーい際神に新條!遊びに来たぞ!」
「久瀬君、そんなにしたら扉壊れちゃうよ?」
「うるさいわね、夜なんだしもっと静かにできないの?隣の部屋に迷惑よ」
その先にいたのは久瀬、氷翠そして黒澤だ。時計を確認すると既に約束の時間はすぎていた。そんなに話してたのか、まだひと段落ついだけで全部終わってないんだけど。それは拓翔も同じだったようで二人して急いで準備と片付けを済ませた。
「悪い待たせた、そんなところに立ってないで入ってくれ」
三人からの「待たせたのは誰だ」という視線を無視して中に入れる。
「なぁ際神、ローランはまだ来てないのか?」
「ん?あぁ、まだ来てないよあいつここの出身らしいからさ、昔を懐かしんでるんだろうよ」
今世のアイツがどこで産まれたのかは知らないけど英雄と呼ばれるあいつはフランスにいたわけだから嘘ではない。あいつが片仮名名でよかった。
「向こうからは行けたら行くって言われてるし、今夜はこの五人で遊ぼうぜ?明日になったらまた遊べばいいだろ?」
納得のいかない表情をしていた久瀬だがすぐに、
「それもそうだな」
と言って、トランプやボードゲームを広げ始める。
「それじゃぁ明日のことでも話しながらワイワイしますかね?みんなどれからやる?」
それからババ抜き、人生ゲーム、オセロ大会……と遊び、フランス時間で三時頃にお開きとなった。
「今日はここまでにするか。んじゃ、俺たちは自分の部屋に帰るよ」
久瀬が立ち上がりそれに続いて氷翠と黒澤もついて行く。
「おう、また明日な」
三人が部屋から出ていく最後、黒澤が「あっ」と言って立ち止まる。
「どうした黒澤?忘れ物か?」
「まぁ忘れ物といえば忘れ物ね。私あなたたちの班に参加することにしたからよろしく。それじゃぁおやすみ」
「分かったよ、おやすみ」
部屋の電気を消して寝る準備にはいる、明日からのこと考えると……ため息しか出ない。
「拓翔、起きてるか?」
隣からだるそうな声が聞こえる。
「起きてるぞー。俺ははしゃぎすぎて疲れたんだよ、早く寝かせてくれよ」
「お前俺に黒澤が参加すること言ってなかっただろ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ、そういう事は早く言ってくれよな。お前も知ったことだけど俺達には──」
「あーもー分かってるよ。大体だって、黒澤には悟られないように俺が上手く事を運んでやるから」
それならいいけど、心配だなぁ……俺よりも人の雰囲気を感づきやすいからとりあえず信用してやるか。
「それなら頼む。おやすみ」
「ん、おやすみ」


───Lorain

外は暗く、街灯はついてはいるが所々を照らしているだけで、ほとんど役に立たない。そんな中を僕は一人で歩いていた。
ここに帰るのはだいたい千五百年以上前か、当たり前かもしれないけれど千年も経つと何もかも変わってしまうものだ。今僕が知っている場所で残っているのはあの『聖剣の泉』とその近くにある洞窟くらいかな?
勝手に家を飛び出して、リーナ姉さんに怒られるんだろうな、悠斗君にも怒られるかな?うん、彼は絶対に怒るだろうね。
でも僕にはやらなければならないことがあるんだ。それを果たすまではどうしてもみんなの元に帰る訳にはいかない。それが僕の決めた自分への罪滅ぼしだから。
それにしてもさっきからしつこいな。そんなコソコソしてないで堂々と正面に来ればいいのに。君、そんな慎重な性格してないだろ?
「来なよ、それとも僕からいこうか?」
そう言うと暗闇から神父服を着た男が灯の元に現れる。
「あらまバレちゃってましたか?俺様ったら強すぎるせいでオーラビンビンなのね!いーやー!参っちゃいますなぁ?どうします?お近付きの印に自己紹介でもしちゃいます?」
なんて軽薄で、下品な神父なんだろうか。これが教会の現状か……やれやれ、これならまだ千年前の方がマシだったよ。
「僕は名乗る気はさらさらないね。でもそうだな、君の名前を知っておいて損は無いかもね」
神父服の男は甲高い声で笑うと本当に自己紹介を始めた。
「それならそれなら!私、ステイン・クリードと申します。以後!お見知りおきをというわけで!名乗らない貴方様にはおっんでいただきましょうかね!?」
ステインは腰に納めていた剣を抜き、自分の正面に構える。僕はその剣に見覚えがあった。
「そうか、君は千五百年経っても尚僕の前に立ちはだかるのか」
亜空間から剣を取り出して、僕も自分の正面に構える。
「その剣、コールブランドの模造品だね?今の教会はそんなものまで作れるようになったのか?ところで、エクスカリバーはどうしたのかな?」
教会の創始者の存在を考えれば与えられる聖剣はコールブランドではなくエクスカリバーであるのが普通だが、それがここにないということは奪われたか、あの剣が持ち主を選び直したか?
「あん時も言いましたがねぇ?俺っちみたいなペーペーには分からないことなんだよ!」
そう言うと同時に僕との距離を詰めて切りかかってくる。コールブランドを自分の剣で受けるが流石は模造品でも聖剣、僕の方が押されてしまっている。
「おおっと!これは受けられるんですか!?なかなかにお主やりおりますね!それなら俺様も?ギアを上げていきやしょうか!」
口は悪いが、言うに相当するほどには確かに強い。剣筋もよく切り込むスピードも速い。そして何よりその野生的な動きのせいで次の行動を読むことが難しく、こちらの攻撃もなかなか当たらない。
「ヒャー!当たりません、当たりませんなぁ!もしやもしやもしや?お主も教会の出ですかね?」
───ッ!
「その言葉は許せないな。僕を彼と同じにするな!」
怒りに任せて、さっきよりも数段早く剣をステインに打ち込む。しかしそれでも当たらない。
「何やら地雷でも踏んだようでな?ようやく貴方様が本気を出してくれたのですから?私めもコールブランドの力を見せてあげまっしょう!」
コールブランド──あの戦で折れた聖剣、あのレベルの剣を修復するのは不可能なはずだが……いや、現に目の前にあるんだ。変な憶測を立てるのはよそう。
彼の体と刀身が聖なるオーラに包まれる。感じられるプレッシャーが段違いに上がり、千五百年前の彼に似たものとなる。
もう一本の剣を取り出し二刀で攻めるが、彼の引き上げられたスピードについていくのがやっとといったところ。速さが取り柄だったんだけど、これじゃぁ構わないな。
「ついてこれるんですか!このスピードに生身でついてくるなんて……あ・な・た……人間じゃありませんねぇ!」
いちいち癇に障るというか、こちらの核心を突いてくる様な話し方だな。これも彼の作戦のうちなのか、それとも素でこれなのか?どちらにせよ僕の集中が切れそうだ、どうにかして早く勝負を決めないと。
左手で受けたコールブランドを強引にはじき飛ばして右に構えた剣を腹部めがけて突き刺す。しかしその剣は彼の纏うオーラによって弾き返され、刺さることはなかった。それでも再度左の剣を突き出すが、彼の動物的勘はその速さを上回っており、僕の剣の先をコールブランドの先に当てて彼も突きで剣を砕いてきた。完全に無防備となった僕の脇腹に刃が掠る。
「グッ……」
脇腹を押さえながらその場に蹲る。あの剣が放つ聖なるオーラは僕ら『魔』のものにとっては銀よりも注意しなければならないもの。触れるだけでその体を焦がし、そのオーラを見るだけで寒気がする。僕はそれによる精神の消耗に気づいていなかった。
僕を見下ろすステインはコールブランドを器用に回しながら言う。
「あらあらー?これまでですかねー?あんだけピーピー鳴いておいて結局はこの程度ですかい?弱いですねー?雑魚ですねー?あーあー可愛そうにねー?」
聖なるオーラを纏わせた刀身を少しづつ僕の首に近づける。近づいてくる度に肌にビリビリとしたものを感じる。
「このままゆーっくり、ゆーっくりと──」
そこで彼の言葉と剣が止まった。
「チッ、じゃませんといてくださいよ?……分かりましたよ、それじゃぁ今からそっちに向かいますんで」
誰だ?誰と話しているんだ?
「あー、ほんとはぶっ殺してやりたくて仕方ないんですけどね?呼ばれちまったもんで。また今度ぶっ殺してやりますからね?ほなさいなぁ!」
ステインが何かを地面に叩きつけるとそれが発光して視界を奪う。光が止むとステインの影と気配は完全に消えていた。
未だ聖剣のダメージが回復しておらず動けない僕は、その場で口から血が滲むほど歯を食いしばった。

僕の力はまだ彼を越えられないのか……!
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