真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ

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幸せになりますので 前編

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 姉様に新しい侍女が付いた……なんて、僕にはどうでもいい事なのだけど、その新人の侍女が先輩の侍女をクビにさせたと聞いて流石に驚いた。

 ここは公爵家。使用人もそれなりに多いが、これは前代未聞だ。

「クラウディア様にあんな香料のきつい化粧水なんておかしいです!」
と、女中頭ハウスキーパーに訴えるので気をつけて見ていたら、先輩侍女は出入りの商会から「姉様に合う物」ではなく「何でもかんでも最も高価な物」を購入して、公爵家が支払った金額の一部を報酬として受け取っていたのだそうだ。彼女は公爵家を追い出され、商会は付き合いを絶たれた。

 そして今、応接室では新しく付き合う商会の人が持って来た化粧水などのサンプルのお試し会だ。母様と姉様とそれらの侍女たちと、自分たちも参加したくて僕を連れて来た僕の侍女たちで大賑わいだ。僕が13歳の思春期の男性である事など配慮する気はないらしい。

 姉の周りでちょこちょこ動いてる小さな薄茶色の髪の女性が噂の新人侍女なのだろう。

 結果、姉様が選んだ化粧水は、前回の物の二十分の一の値段。僕でも「さすがにそれは安物過ぎる…」と思ったのだが、新人侍女が
「クラウディア様は既に肌がお美しいから、補充する必要が無いということです!」
と、言い切った。
「奥様も十分お美しいので、無理して高価な物を使う必要は無いと思います」
と言われてしまえば、母様も機嫌が良くなる。

「安過ぎて我が公爵家の面目が立たないと言うのなら、数多く注文してはどうかしら? この価格なら、侍女やメイド、下働きの娘にも買えると思うわ。ハウスキーパー、注文を取りまとめてもらえる?」

 さすが姉様、うまく纏めた。美しい姉様が使う品なら自分だって使ってみたいと思う女性は多いはず。商会の人も嬉しそうだ。

「さすがお嬢さまはお目が高い。こちらは最近リバーシュ領で作られた商品で、まだ王都には流通が少ないのです」
「リバーシュ領? ああ、あそこなら品質は確実ね」
「きっとこれから人気になりますね!」
姉様と新人侍女がううなずいてる。そんなに有名な所だったろうか? 僕が記憶を探っているうちに、皆は白粉おしろいや口紅選びを始めていた。

 姉様に手招きされて近付けば、新人侍女を紹介された。レイチェル・レーモンといい、姉様と貴族学院の同級、と言う事は見えないけど姉様と同じ歳か。
「レイチェルとお呼びください。ぼっちゃま」
 この屋敷の人は皆、僕を「ぼっちゃま」と呼ぶ。もう子供じゃないんだからやめてくれと言っても、「分かりました」と笑顔で答えて三分後には「ぼっちゃま」と言うので、姉様が子供を産んで新しい「ぼっちゃま」が誕生するまで甘んじる(諦めるとも言う)事にした。

 そう、姉様はこの公爵家を継ぐ次期公爵だ。

 一応僕が長男なのだけど、何分僕は身体が弱い。夕方くしゃみをしたと思ったら翌日には高熱を出したり、季節の変わり目にはしっかり風邪で寝込み、最近調子がいいから体力作りをしようと頑張ったら一週間寝込むことになったり。こんなことを繰り返しつつ生きていると、周りはもう「健康にならなくても現状維持してくれればいい!」と諦めて、責務の多い公爵家は姉様に継いでもらうことになった。
そんなわけで、僕には男性の侍従はいなくて、看病の得意な侍女が付いている。

 姉様の婚約者のアンドリュー義兄様も婿入りを承諾してくれた。アンドリュー義兄様は、幼い頃からの姉様の婚約者だ。以前は貴公子然とした方だったのだが、貴族学院に入学したころから姉様への溺愛を隠さないようになった。僕としては残念な人になったと思うのだけど、姉様は嬉しいみたいだし、侍女やメイドたちは義兄様が姉様にする仕草にキャーキャー騒いでいるので、いつか参考にさせてもらおう。

 一度、義兄様に態度の変化の理由を聞いたら
「自分にクラウディアを愛する権利があるというのを見せびらかしたいんだよ」
と、よく分からない事を言われた。



 一週間後、リバーシュ子爵が今回の化粧水の大量購入の御礼を言いたいと公爵家を訪問した。母様と姉様とついでに僕でお迎えする。

「この度は、我が領の新規事業の化粧品をお気に召していただき、誠に光栄です」
 ああ、新しい事業なのでまずは平民向けの商品を作ったはずなのに、公爵家が釣れちゃったんだ。
「リバーシュ領は元々薬草やハーブの栽培で定評がある所ですもの、化粧品事業を始めたと王都の女性が知ったら『きっと肌に良いに違いない』と飛びつきますわ」
 さすが姉様、良く知ってるな。
「有り難いお言葉です。こちらはこれから発売する予定の美容クリームです。ぜひお二人に」
と、綺麗な小箱を二つ、母様と姉様の前に置く。発売前の商品と聞いて、母様が嬉しそうに手を出す。
 箱の中から、高級そうな繊細な仕様のガラス容器が出て来た。姉様とあれこれ言いながら開けて匂いを嗅いだり手の甲に塗ってみたり、気に入ったようだ。
 にこにこ顔のリバーシュ子爵は、
「こちらはお屋敷の皆様に」
と、薄くて大きな箱を出す。蓋を開けると小さな容器が沢山入っていた。
「ハンドクリームでございます」
 へえ、気が利いてる。ざっと数えたら使用人全員に行き渡りそうな数だ。

 そこに家令が入って来て、僕に来客だと告げた。
 僕に客だなんて珍しい、と玄関に行くとレイチェルが若い男性と僕を待っていた。

「ご紹介させていただきます。リバーシュ子爵令息のルイス様です。貴族学院で、私とクラウディア様の一年先輩だったんです」
 男性が頭を下げる。
「そうなんですか。よろしく」
…って、何をよろしくすればいいのか。
「ルイス様は有名な植物オタクなんです。ぼっちゃまの薬草園を見てもらっては如何ですか?」
「是非!」

 僕は裏庭の一角を貰って薬草園を作っている。僕が無理せずに世話できる規模なので、熱さましと頭痛と腹痛と喉の痛みの薬草だけのささやかなものだが。できた薬草は干したり煎じたりしてハウスキーパーに預けて、僕が寝付いた時だけではなく、使用人に使ったり使用人の家族のために持ち帰ってもいいようにしている。

 でも、あくまで素人の趣味の範囲なので、詳しい人のアドバイスがもらえるならすごく助かる。

 ご機嫌でルイスさんを薬草園に案内した。
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