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政略結婚と思っていたので
彼女に気付いたのは、貴族学院の入学式だった。
護衛から
「新入生に気を付けてください」
と言われて周りを見渡すと、誰の事を言っているのか一目瞭然な程に私を見ている少女がいた。
薄茶色の髪をしたその子は、「信じられない」と言わんばかりに目を見開いて、口が半分開いている。腹に一物ある人間の態度では無いとは思うが、念のため警戒しよう。
その後、すぐに複数の友人から報告が入った。
「マジ王子様とお姫様見た!」「信じられない! まるで生きる宝石、動くお人形!」「お二人が尊い…。尊過ぎて後光がまぶしい!」「貴族学院に入って良かった~!」と、大騒ぎしている女生徒がいると。
“お二人”とは、私の婚約者のクラウディアも含んでいるのだろう。
私とクラウディアは、護衛の関係でいつも一緒にいる。私たちが動く時は、私たちと二人の護衛とクラウディアの侍女という大所帯だ。いくら望んでも、あの少女が近づく術は無いだろう。
私は、国に五家ある公爵家の次男・アンドリュー。容姿も頭脳もそこそこ優秀らしく、大人の受けがいい子供だった。
八歳になったころ、親が他の公爵夫妻と娘が来週我が家に来るから仲良くしなさい、と言った。
政略結婚のための見合いだな。まあ貴族なら仕方ないか。と思った私はかなりこまっしゃくれた子供だった。
やって来たクラウディア嬢は、本当に可愛らしかった。
兄様としか遊んだ事が無い私はかなりギクシャクしていたが、親たちは二人の婚約を決めて、私は喜んだ。両家の共同事業を確実なものにするための、クラウディアの意思は関係無い政略だと分かっていても。
時は流れ、15歳となった私たちは貴族学院に入学した。二人の仲は、「気が合う友人」くらいまでは進展した…と思う。
そんな私たちを熱い目で見ているのが、件の薄茶色の髪のレイチェル・レーモン男爵令嬢。入学式からしばらく経つが、近付こうという気配は無く、ひたすら見ている。
私が階段でクラウディアをエスコートしている時など、嬉しさが満ち溢れた目でプルプルしているが大丈夫なのか。
ある日、昼食後の食堂でいつものように給仕の持って来た紅茶にクラウディアがレモンを入れて渡してくれると、窓の外が騒がしくなった。
どうやら、中庭に先日の統一テストの成績優秀者が張り出されたようだ。
ガヤガヤとした声の中で「レイチェルが好きなお二人の名前が無いんじゃない?」と言うのが聞こえた。
「お二人」が自分たちの事だと気付くが、その口ぶりは私たちを貶めてるのでは無く、単にレイチェルをからかっているのが分かる。
「当ったり前じゃない!」
彼女は怒ったようだ。
「成績優秀者は卒業時に城の文官試験の推薦状が貰えるのよ! 試験を受ける必要の無いお二人が順位に割り込むような事をするわけ無いじゃない!」
……驚いた。
卒業時に、未だにコネと家柄がものを言う文官試験の推薦状が成績優秀者十名に渡される。私のせいで推薦状が必要な者が11位にならぬ様、答案用紙に空欄を作ったのだが、まさか推察されるとは。
驚いてるクラウディアの様子から、彼女も同じ事をしていたようだ。本当に私たちは気が合う。
数日後、外を歩いていると突然「失礼します!」と護衛に突き飛ばされ、たたらを踏んでると“ドサッ!!”と重い音がした。
見ると、向かい合った護衛が組み合わせた手の中に薄茶色の髪の女生徒が納まっていた。頭の上のざわつく声を見上げると、二階のベランダからたくさんの人が心配そうに見下ろしている。察するに、彼女はベランダから身を乗り出し過ぎて落っこちたのだな。
二階の人たちに「彼女は無事だ」と声をかけていると、彼女はあわてて護衛の腕の中から降りていた。
「ありがとうございました!!」
彼女は護衛の二人に膝に頭が付きそうなほど頭を下げた。
「いつかこうなりそうだと思ってましたから」
と言う護衛に
「クラウディア様でも落っこちることがあるんですねぇ…」
と返し、吹き出しそうになった護衛が息を詰まらせる。
「無事で良かったわ。危ない事はなさらないでね」
「はいっ! ……あのっ、すみません、実はいつもお二人を見ていました!」
いや、学院中が知ってますけど?
「お二人は絵本から飛び出した王子様とお姫様みたいで……。でも、見てるうちに本当は逆で、王子様とお姫様がお二人みたいだったんじゃないかと思えるようになったんです」
はい?
「どんな小さな段差でもすごく嬉しそうにエスコートしてたり、紅茶に給仕がレモンを入れてしまってしょんぼりしてたり、きっと王子様とお姫様もこんな風だったんだなって。だから見ていると………」
彼女の声が遠くなる。心臓がはくはくして何も言えない。クラウディアの顔が赤い。きっと私も同じ顔をしているのだろう。
政略結婚……だよね?
「ねえ、レイチェルさん」
「はい!」
「私たちと、お友達になってくださらない?」
やはり私たちは気が合う。
護衛から
「新入生に気を付けてください」
と言われて周りを見渡すと、誰の事を言っているのか一目瞭然な程に私を見ている少女がいた。
薄茶色の髪をしたその子は、「信じられない」と言わんばかりに目を見開いて、口が半分開いている。腹に一物ある人間の態度では無いとは思うが、念のため警戒しよう。
その後、すぐに複数の友人から報告が入った。
「マジ王子様とお姫様見た!」「信じられない! まるで生きる宝石、動くお人形!」「お二人が尊い…。尊過ぎて後光がまぶしい!」「貴族学院に入って良かった~!」と、大騒ぎしている女生徒がいると。
“お二人”とは、私の婚約者のクラウディアも含んでいるのだろう。
私とクラウディアは、護衛の関係でいつも一緒にいる。私たちが動く時は、私たちと二人の護衛とクラウディアの侍女という大所帯だ。いくら望んでも、あの少女が近づく術は無いだろう。
私は、国に五家ある公爵家の次男・アンドリュー。容姿も頭脳もそこそこ優秀らしく、大人の受けがいい子供だった。
八歳になったころ、親が他の公爵夫妻と娘が来週我が家に来るから仲良くしなさい、と言った。
政略結婚のための見合いだな。まあ貴族なら仕方ないか。と思った私はかなりこまっしゃくれた子供だった。
やって来たクラウディア嬢は、本当に可愛らしかった。
兄様としか遊んだ事が無い私はかなりギクシャクしていたが、親たちは二人の婚約を決めて、私は喜んだ。両家の共同事業を確実なものにするための、クラウディアの意思は関係無い政略だと分かっていても。
時は流れ、15歳となった私たちは貴族学院に入学した。二人の仲は、「気が合う友人」くらいまでは進展した…と思う。
そんな私たちを熱い目で見ているのが、件の薄茶色の髪のレイチェル・レーモン男爵令嬢。入学式からしばらく経つが、近付こうという気配は無く、ひたすら見ている。
私が階段でクラウディアをエスコートしている時など、嬉しさが満ち溢れた目でプルプルしているが大丈夫なのか。
ある日、昼食後の食堂でいつものように給仕の持って来た紅茶にクラウディアがレモンを入れて渡してくれると、窓の外が騒がしくなった。
どうやら、中庭に先日の統一テストの成績優秀者が張り出されたようだ。
ガヤガヤとした声の中で「レイチェルが好きなお二人の名前が無いんじゃない?」と言うのが聞こえた。
「お二人」が自分たちの事だと気付くが、その口ぶりは私たちを貶めてるのでは無く、単にレイチェルをからかっているのが分かる。
「当ったり前じゃない!」
彼女は怒ったようだ。
「成績優秀者は卒業時に城の文官試験の推薦状が貰えるのよ! 試験を受ける必要の無いお二人が順位に割り込むような事をするわけ無いじゃない!」
……驚いた。
卒業時に、未だにコネと家柄がものを言う文官試験の推薦状が成績優秀者十名に渡される。私のせいで推薦状が必要な者が11位にならぬ様、答案用紙に空欄を作ったのだが、まさか推察されるとは。
驚いてるクラウディアの様子から、彼女も同じ事をしていたようだ。本当に私たちは気が合う。
数日後、外を歩いていると突然「失礼します!」と護衛に突き飛ばされ、たたらを踏んでると“ドサッ!!”と重い音がした。
見ると、向かい合った護衛が組み合わせた手の中に薄茶色の髪の女生徒が納まっていた。頭の上のざわつく声を見上げると、二階のベランダからたくさんの人が心配そうに見下ろしている。察するに、彼女はベランダから身を乗り出し過ぎて落っこちたのだな。
二階の人たちに「彼女は無事だ」と声をかけていると、彼女はあわてて護衛の腕の中から降りていた。
「ありがとうございました!!」
彼女は護衛の二人に膝に頭が付きそうなほど頭を下げた。
「いつかこうなりそうだと思ってましたから」
と言う護衛に
「クラウディア様でも落っこちることがあるんですねぇ…」
と返し、吹き出しそうになった護衛が息を詰まらせる。
「無事で良かったわ。危ない事はなさらないでね」
「はいっ! ……あのっ、すみません、実はいつもお二人を見ていました!」
いや、学院中が知ってますけど?
「お二人は絵本から飛び出した王子様とお姫様みたいで……。でも、見てるうちに本当は逆で、王子様とお姫様がお二人みたいだったんじゃないかと思えるようになったんです」
はい?
「どんな小さな段差でもすごく嬉しそうにエスコートしてたり、紅茶に給仕がレモンを入れてしまってしょんぼりしてたり、きっと王子様とお姫様もこんな風だったんだなって。だから見ていると………」
彼女の声が遠くなる。心臓がはくはくして何も言えない。クラウディアの顔が赤い。きっと私も同じ顔をしているのだろう。
政略結婚……だよね?
「ねえ、レイチェルさん」
「はい!」
「私たちと、お友達になってくださらない?」
やはり私たちは気が合う。
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