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やがて外が静かになったので、ドアの鍵を開けてそっと外を覗くと、捕縛された黒装束の男たちが馬車に詰め込まれる所だった。
騎士様が私に気付く。
「アイリスさん、ご無事ですか」
「はい、皆様もご無事でしたか」
「おかげさまで、無事に全員捕らえる事ができました」
「それは良かったです」
騎士様の前に一歩踏み出して、深くカーテシーをする。
「カーライル王弟殿下におかれましては、此度の懸案の完遂、神以て重畳、豊寿く申し上げます。残りうる憂惧の晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします」
目を見開いてる騎士様に背を向けて、最後に注意する。
「早く行かないと、シモンズ伯爵が計画失敗に気付いて逃げ出しますわよ」
騎士達の目が私に集中するが、私はさっさと家に入る。その時、
「ケリー! 後は任せた!」
と言って、騎士様、いえカーライル王弟殿下がドアから滑り込んできた。
ドアの外で、馬車や馬が走り出す音が聞こえる。それらが遠ざかっても馬のいななきが聞こえるので、一頭残して行ったのだろう。
ドアの前で立っていても仕方ないので、元いた椅子に座ってもらう。私たちは、冷めた夕食を挟んで見つめ合った。
「……いつから気付いてた……?」
「最初にお会いした時、眼鏡をかけていらっしゃいませんでしたわね。その金色に光るサファイアの瞳は、ベータムの王族に現れると聞きました。年齢から、ベータム国王の末の弟のカーライル殿下だと」
「そう…だったのか」
「なので、最初、あの派手な馬車はあなたの警護のためなのだと思いましたわ。でも、王城の皆はあなたの正体を知らないご様子。ただの騎士を警護する必要はありませんわね。じゃあ、何のためにわざわざ派手な馬車を用意したのでしょう?」
「……」
「私を守るため? いえ、平民を護衛する必要など無い。なら考えられるのは、わざわざアルファス王家の馬車で迎えに行った女性だと、私を目立たせるため。案の定、城に着いたら応接室では無く執務室に案内され、皆の前で私がアズール様の婚約者だったとか、王家の血を引いてるとか、ベータムの王族と結婚しろとか言われて、ああ、これは部屋にいる誰かに聞かせようとしているんだと確信いたしましたの」
「いや……」
「あなた方が直接話せない人と言えば、終戦後逃走しているシモンズ伯爵でしょう。アズール様を洗脳して思い通りにしてこの戦争を引き起こしたのに、真っ先に姿を消して処刑から免れた男」
「洗脳だと気付いてたのか……」
「分かってはいても、渦中にいると何も出来ませんでしたわ。ただ、婚約破棄されてから、『何故アズール様はもっと早く婚約破棄しなかったのだろう』と疑問に思ったのです。その答えは、『シモンズ伯爵が、私を敵に設定して、アズール様をどれだけ操れるか試していた。つまり、シモンズ伯爵は、パトリシア様をアズール様と結婚させる事が最終目的では無い』……」
「そこまで分かっていたのか」
「私が思いつくのですから、他にも気付いた方はいらっしゃるでしょう。シモンズ伯爵はアズール様が王位に就いたら何かするだろう、と。父はこの国を出る準備を始めましたし、宣戦布告後、ベータムに寝返った貴族も多かったのでしょうね」
だから、戦争はあっという間に敗戦になって被害が少なくてすんだ。
「それはちょっと言えないな」
「ええ、平民が知らなくてもいい事ですね。とにかく、どこかに隠れて反撃を狙っているシモンズ伯爵が、アズール様の婚約者の座から蹴落としたはずの私が王妃になると知ったら手を下さずにいられないだろうという計画だと推察しました。だから、食堂ではベータムのヒキンジェさんに取り入っているように振る舞いましたわ。きっとシモンズ伯爵に報告が行くと思って」
「そ…、そんなつもりで誘ったんじゃなかった…」
そんなつもりが無いというのも、詰めが甘いと言うか…。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
此度の懸案の完遂、神以て重畳、豊寿く申し上げます。残りうる憂惧の晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします。
訳「今日の計画が上手く行って本当に良かったね! おめでとう! 残ったシモンズ伯爵が捕まるといいですねってお祈りしてるよ! じゃあバイバイ!」
騎士様が私に気付く。
「アイリスさん、ご無事ですか」
「はい、皆様もご無事でしたか」
「おかげさまで、無事に全員捕らえる事ができました」
「それは良かったです」
騎士様の前に一歩踏み出して、深くカーテシーをする。
「カーライル王弟殿下におかれましては、此度の懸案の完遂、神以て重畳、豊寿く申し上げます。残りうる憂惧の晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします」
目を見開いてる騎士様に背を向けて、最後に注意する。
「早く行かないと、シモンズ伯爵が計画失敗に気付いて逃げ出しますわよ」
騎士達の目が私に集中するが、私はさっさと家に入る。その時、
「ケリー! 後は任せた!」
と言って、騎士様、いえカーライル王弟殿下がドアから滑り込んできた。
ドアの外で、馬車や馬が走り出す音が聞こえる。それらが遠ざかっても馬のいななきが聞こえるので、一頭残して行ったのだろう。
ドアの前で立っていても仕方ないので、元いた椅子に座ってもらう。私たちは、冷めた夕食を挟んで見つめ合った。
「……いつから気付いてた……?」
「最初にお会いした時、眼鏡をかけていらっしゃいませんでしたわね。その金色に光るサファイアの瞳は、ベータムの王族に現れると聞きました。年齢から、ベータム国王の末の弟のカーライル殿下だと」
「そう…だったのか」
「なので、最初、あの派手な馬車はあなたの警護のためなのだと思いましたわ。でも、王城の皆はあなたの正体を知らないご様子。ただの騎士を警護する必要はありませんわね。じゃあ、何のためにわざわざ派手な馬車を用意したのでしょう?」
「……」
「私を守るため? いえ、平民を護衛する必要など無い。なら考えられるのは、わざわざアルファス王家の馬車で迎えに行った女性だと、私を目立たせるため。案の定、城に着いたら応接室では無く執務室に案内され、皆の前で私がアズール様の婚約者だったとか、王家の血を引いてるとか、ベータムの王族と結婚しろとか言われて、ああ、これは部屋にいる誰かに聞かせようとしているんだと確信いたしましたの」
「いや……」
「あなた方が直接話せない人と言えば、終戦後逃走しているシモンズ伯爵でしょう。アズール様を洗脳して思い通りにしてこの戦争を引き起こしたのに、真っ先に姿を消して処刑から免れた男」
「洗脳だと気付いてたのか……」
「分かってはいても、渦中にいると何も出来ませんでしたわ。ただ、婚約破棄されてから、『何故アズール様はもっと早く婚約破棄しなかったのだろう』と疑問に思ったのです。その答えは、『シモンズ伯爵が、私を敵に設定して、アズール様をどれだけ操れるか試していた。つまり、シモンズ伯爵は、パトリシア様をアズール様と結婚させる事が最終目的では無い』……」
「そこまで分かっていたのか」
「私が思いつくのですから、他にも気付いた方はいらっしゃるでしょう。シモンズ伯爵はアズール様が王位に就いたら何かするだろう、と。父はこの国を出る準備を始めましたし、宣戦布告後、ベータムに寝返った貴族も多かったのでしょうね」
だから、戦争はあっという間に敗戦になって被害が少なくてすんだ。
「それはちょっと言えないな」
「ええ、平民が知らなくてもいい事ですね。とにかく、どこかに隠れて反撃を狙っているシモンズ伯爵が、アズール様の婚約者の座から蹴落としたはずの私が王妃になると知ったら手を下さずにいられないだろうという計画だと推察しました。だから、食堂ではベータムのヒキンジェさんに取り入っているように振る舞いましたわ。きっとシモンズ伯爵に報告が行くと思って」
「そ…、そんなつもりで誘ったんじゃなかった…」
そんなつもりが無いというのも、詰めが甘いと言うか…。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
此度の懸案の完遂、神以て重畳、豊寿く申し上げます。残りうる憂惧の晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします。
訳「今日の計画が上手く行って本当に良かったね! おめでとう! 残ったシモンズ伯爵が捕まるといいですねってお祈りしてるよ! じゃあバイバイ!」
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