私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ

文字の大きさ
5 / 7

しおりを挟む
 やがて外が静かになったので、ドアの鍵を開けてそっと外を覗くと、捕縛された黒装束の男たちが馬車に詰め込まれる所だった。

 騎士様が私に気付く。
「アイリスさん、ご無事ですか」
「はい、皆様もご無事でしたか」
「おかげさまで、無事に全員捕らえる事ができました」
「それは良かったです」

 騎士様の前に一歩踏み出して、深くカーテシーをする。
「カーライル王弟殿下におかれましては、此度こたび懸案けんあんの完遂、神以しんもっ重畳ちょうじょう豊寿とよほく申し上げます。残りうる憂惧ゆうぐの晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします」

 目を見開いてる騎士様に背を向けて、最後に注意する。
「早く行かないと、シモンズ伯爵が計画失敗に気付いて逃げ出しますわよ」
 騎士達の目が私に集中するが、私はさっさと家に入る。その時、
「ケリー! 後は任せた!」
と言って、騎士様、いえカーライル王弟殿下がドアから滑り込んできた。

 ドアの外で、馬車や馬が走り出す音が聞こえる。それらが遠ざかっても馬のいななきが聞こえるので、一頭残して行ったのだろう。

 ドアの前で立っていても仕方ないので、元いた椅子に座ってもらう。私たちは、冷めた夕食を挟んで見つめ合った。

「……いつから気付いてた……?」
「最初にお会いした時、眼鏡をかけていらっしゃいませんでしたわね。その金色に光るサファイアの瞳は、ベータムの王族に現れると聞きました。年齢から、ベータム国王の末の弟のカーライル殿下だと」
「そう…だったのか」
「なので、最初、あの派手な馬車はあなたの警護のためなのだと思いましたわ。でも、王城の皆はあなたの正体を知らないご様子。ただの騎士を警護する必要はありませんわね。じゃあ、何のためにわざわざ派手な馬車を用意したのでしょう?」
「……」

「私を守るため? いえ、平民を護衛する必要など無い。なら考えられるのは、わざわざアルファス王家の馬車で迎えに行った女性だと、私を目立たせるため。案の定、城に着いたら応接室では無く執務室に案内され、皆の前で私がアズール様の婚約者だったとか、王家の血を引いてるとか、ベータムの王族と結婚しろとか言われて、ああ、これは部屋にいる誰かに聞かせようとしているんだと確信いたしましたの」
「いや……」
「あなた方が直接話せない人と言えば、終戦後逃走しているシモンズ伯爵でしょう。アズール様を洗脳して思い通りにしてこの戦争を引き起こしたのに、真っ先に姿を消して処刑からまぬがれた男」

「洗脳だと気付いてたのか……」
「分かってはいても、渦中にいると何も出来ませんでしたわ。ただ、婚約破棄されてから、『何故アズール様はもっと早く婚約破棄しなかったのだろう』と疑問に思ったのです。その答えは、『シモンズ伯爵が、私を敵に設定して、アズール様をどれだけ操れるか試していた。つまり、シモンズ伯爵は、パトリシア様をアズール様と結婚させる事が最終目的では無い』……」
「そこまで分かっていたのか」
「私が思いつくのですから、他にも気付いた方はいらっしゃるでしょう。シモンズ伯爵はアズール様が王位に就いたら何かするだろう、と。父はこの国を出る準備を始めましたし、宣戦布告後、ベータムに寝返った貴族も多かったのでしょうね」

 だから、戦争はあっという間に敗戦になって被害が少なくてすんだ。

「それはちょっと言えないな」
「ええ、平民が知らなくてもいい事ですね。とにかく、どこかに隠れて反撃を狙っているシモンズ伯爵が、アズール様の婚約者の座から蹴落としたはずの私が王妃になると知ったら手を下さずにいられないだろうという計画だと推察しました。だから、食堂ではベータムのヒキンジェさんに取り入っているように振る舞いましたわ。きっとシモンズ伯爵に報告が行くと思って」

「そ…、そんなつもりで誘ったんじゃなかった…」

 そんなつもりが無いというのも、詰めが甘いと言うか…。


 ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


此度こたび懸案けんあんの完遂、神以しんもっ重畳ちょうじょう豊寿とよほく申し上げます。残りうる憂惧ゆうぐの晴れん事を祈念いたします。それでは、御前失礼いたします。


訳「今日の計画が上手く行って本当に良かったね! おめでとう! 残ったシモンズ伯爵が捕まるといいですねってお祈りしてるよ! じゃあバイバイ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

婚約破棄して支援は継続? 無理ですよ

四季
恋愛
領地持ちかつ長い歴史を持つ家の一人娘であるコルネリア・ガレットは、婚約者レインに呼び出されて……。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...