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陸
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「ここに泊まるというのも、私が狙われると知っての事でございましょう? ならば、絶対に捕まえていただこうと私も色々と準備をいたしましたの」
「何も伝えなかったのに、全てお見通しだったのか…。怖がらせないよう気を遣ったつもりが、逆に手を貸してもらっていたなんて…。アイリスさんは素晴らしい方だ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「あ…あの、今回のアルファスとの戦はベータムには本当に想定外で、まさかアルファスが手に入るなんて誰も考えていなくて」
「そうでしょうね……」
「だから、兄たちは今すぐには国を離れられなくって、私にアルファスを治めるようにって言うんだ」
「まあ、殿下が国王になるのですか」
「な、なので、アイリスさんに、王妃になって私を支えて欲しい…って思うんだ」
「……申し訳ありませんが、お断りいたします。私は平民ですわ」
「アルファス人の身分など、どうにでも出来る」
そうでしたー。
「婚約破棄されたキズモノですわ」
「そんなことを言う奴がいたら破滅させてやる」
怖い、怖いですわー。
「す、好きな人がいます」
「どうせ農民だろう」
ブッチーーーーーーーーン
「ジェイクは、私を囮にしたりしねーよ!!」
お嬢様アイリス、終了です!
「囮だなんて、そんなつもりは」
「じゃあエサ? シモンズ伯爵に食い付かせるための犠牲でしょう?」
「違う! あなたの安全は必ず守るはずだった」
「“はず”ね? 失敗したら『残念な事をした』とか言って終わりでしょう?」
「いや、そんな」
「とにかく、私はもう平民なの! 貴族なら、国のために囮にならなくちゃいけない事もあるでしょう。好きでも無い王子からプロポーズされたら『光栄です』って受けないといけないでしょう。でも平民だからお断りなの!」
ソルドレイル様は「五年なんてちょっと前」と言っていたが、私には、やはり五年は大きい。
私は五年で感情を取り戻した。
もう、悔しかったら怒れる。悲しかったら泣ける。嬉しかったら笑える。
“王太子の婚約者”だった時代に失った物を取り戻したのだ。揚げ足取りや言葉尻を気にせず、言いたい事を言ってやる。
「私は自分が殺されないために計画が上手く行くよう動いたの! 王妃になるためじゃ無い!!」
早朝、ドアを叩く音と私の名を呼ぶジェイクの声に起こされた。
「アイリス! アイリス!」
いつまでもドンドンとドアを叩き続ける。しつこいなぁ、と思ってから、昨日庭で大騒ぎがあった事を思い出した。騎士様たちが泊まるのを心配して様子を見に来たジェイクが、庭を見て驚いたのだろう。
慌てて飛び起き、玄関に向かう。
ドアから顔を出した私に、ジェイクがホッとしたのと反対に、ジェイクの後ろに見える庭の惨状に私は凍りつく。
踏み荒らされ、ブーツや剣で土が削られ、咲いていた花は踏みにじられ、柵が傾いて、燃え尽きた松明が点々と倒れて、風に揺れているのは血の付いた服の切れ端だ。水桶があちらに、柄杓がそっちに、草刈り鎌は向こうに飛んで行ってる。
「あいつら、人の家だと思って何て事しやがるー! 場所を弁えろ! ってか二度と来んなー!!」
プンスコな私をジェイクが楽しそうに見てる。
「何よ!」
「いや、元のアイリスに戻ったなって」
「…あんな私は二度とやらないわ。もうウンザリ!」
心底嫌そうな私にジェイクは笑う。
昨夜、王妃にならないと私がブチ切れて、「令嬢が王妃になりたくないわけがない」と思い込んでいたカーライル殿下はショックを受けていたようだ。
農民に負けたとしょんぼりして帰ろうとしたら、部下がカンテラを置いて行くのを忘れたようで
「松明を一つ借りていい?」
と言うので
「差し上げます」
と答え、村の真っ暗な道を蹄の音と松明の灯りが遠ざかって行くのを見送った。結婚はしたくないが、憎めない人だ。
その後私はベッドにダイブして、一瞬で眠ってしまったらしい。
カーライル殿下たちは、今頃シモンズ伯爵の居場所を突き止めているのだろうか。
「あーあ、庭を片付けなくちゃ」
本当、面倒くさい。
「こんな事があって、大丈夫なのか? 今日も来るんじゃないか?」
確かに、シモンズ伯爵の残党が来ないとも限らない…。
「アイリス、俺の家に来ないか」
「そうね。二、三日お世話になろうかな」
私はもう、悔しかったら怒れる。悲しかったら泣ける。
「いや…、結婚しないか?」
嬉しかったら…
「するっ!!」
嬉しかったら、抱きつくのだ。
「何も伝えなかったのに、全てお見通しだったのか…。怖がらせないよう気を遣ったつもりが、逆に手を貸してもらっていたなんて…。アイリスさんは素晴らしい方だ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「あ…あの、今回のアルファスとの戦はベータムには本当に想定外で、まさかアルファスが手に入るなんて誰も考えていなくて」
「そうでしょうね……」
「だから、兄たちは今すぐには国を離れられなくって、私にアルファスを治めるようにって言うんだ」
「まあ、殿下が国王になるのですか」
「な、なので、アイリスさんに、王妃になって私を支えて欲しい…って思うんだ」
「……申し訳ありませんが、お断りいたします。私は平民ですわ」
「アルファス人の身分など、どうにでも出来る」
そうでしたー。
「婚約破棄されたキズモノですわ」
「そんなことを言う奴がいたら破滅させてやる」
怖い、怖いですわー。
「す、好きな人がいます」
「どうせ農民だろう」
ブッチーーーーーーーーン
「ジェイクは、私を囮にしたりしねーよ!!」
お嬢様アイリス、終了です!
「囮だなんて、そんなつもりは」
「じゃあエサ? シモンズ伯爵に食い付かせるための犠牲でしょう?」
「違う! あなたの安全は必ず守るはずだった」
「“はず”ね? 失敗したら『残念な事をした』とか言って終わりでしょう?」
「いや、そんな」
「とにかく、私はもう平民なの! 貴族なら、国のために囮にならなくちゃいけない事もあるでしょう。好きでも無い王子からプロポーズされたら『光栄です』って受けないといけないでしょう。でも平民だからお断りなの!」
ソルドレイル様は「五年なんてちょっと前」と言っていたが、私には、やはり五年は大きい。
私は五年で感情を取り戻した。
もう、悔しかったら怒れる。悲しかったら泣ける。嬉しかったら笑える。
“王太子の婚約者”だった時代に失った物を取り戻したのだ。揚げ足取りや言葉尻を気にせず、言いたい事を言ってやる。
「私は自分が殺されないために計画が上手く行くよう動いたの! 王妃になるためじゃ無い!!」
早朝、ドアを叩く音と私の名を呼ぶジェイクの声に起こされた。
「アイリス! アイリス!」
いつまでもドンドンとドアを叩き続ける。しつこいなぁ、と思ってから、昨日庭で大騒ぎがあった事を思い出した。騎士様たちが泊まるのを心配して様子を見に来たジェイクが、庭を見て驚いたのだろう。
慌てて飛び起き、玄関に向かう。
ドアから顔を出した私に、ジェイクがホッとしたのと反対に、ジェイクの後ろに見える庭の惨状に私は凍りつく。
踏み荒らされ、ブーツや剣で土が削られ、咲いていた花は踏みにじられ、柵が傾いて、燃え尽きた松明が点々と倒れて、風に揺れているのは血の付いた服の切れ端だ。水桶があちらに、柄杓がそっちに、草刈り鎌は向こうに飛んで行ってる。
「あいつら、人の家だと思って何て事しやがるー! 場所を弁えろ! ってか二度と来んなー!!」
プンスコな私をジェイクが楽しそうに見てる。
「何よ!」
「いや、元のアイリスに戻ったなって」
「…あんな私は二度とやらないわ。もうウンザリ!」
心底嫌そうな私にジェイクは笑う。
昨夜、王妃にならないと私がブチ切れて、「令嬢が王妃になりたくないわけがない」と思い込んでいたカーライル殿下はショックを受けていたようだ。
農民に負けたとしょんぼりして帰ろうとしたら、部下がカンテラを置いて行くのを忘れたようで
「松明を一つ借りていい?」
と言うので
「差し上げます」
と答え、村の真っ暗な道を蹄の音と松明の灯りが遠ざかって行くのを見送った。結婚はしたくないが、憎めない人だ。
その後私はベッドにダイブして、一瞬で眠ってしまったらしい。
カーライル殿下たちは、今頃シモンズ伯爵の居場所を突き止めているのだろうか。
「あーあ、庭を片付けなくちゃ」
本当、面倒くさい。
「こんな事があって、大丈夫なのか? 今日も来るんじゃないか?」
確かに、シモンズ伯爵の残党が来ないとも限らない…。
「アイリス、俺の家に来ないか」
「そうね。二、三日お世話になろうかな」
私はもう、悔しかったら怒れる。悲しかったら泣ける。
「いや…、結婚しないか?」
嬉しかったら…
「するっ!!」
嬉しかったら、抱きつくのだ。
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