私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ

文字の大きさ
4 / 7

 やっと村に帰って来た時はもう夕暮れだった。
 村の伝達網の早さで、馬車が家に着く頃にはジェイクの馬も着いていた。

「アイリス! 無事だったか!」
「大丈夫よ、私はただの没落貴族って分かってもらったから」
「あの~、せっかくの再会の場面にすみませんが…」
「はい?」
「今晩、私と御者をここの庭に泊めてもらえませんか?」
「何だと!?」
 ジェイクが怒りの声をあげる。

「これからまた帰るとしたら、途中で真っ暗になるんで危ないんですよ。それに、馬も夜明けから働いているんで休ませてあげたくて…」
「ふざけるな! 女性の一人暮らしの家に男を入れられるか!」
「家には入りません! 庭でいいですから!」
 確かにここら辺の道は細くて足元が悪いので、暗くなってから走るのは危険だ。

「お食事はどうするのですか? 近くに食事をできるお店はありませんわ」
「携帯食があります」
 いや、庭で携帯食食べてる人がいるのに自分だけ料理できないでしょう。
「……ふう。食事は提供しますが、ベッドは無いので寝るのは馬車にしてくださいね。馬への水は、裏庭の井戸からどうぞ。飼い葉は無いので、森の草を与えてください」
「ありがとうございます!」
 早速、騎士様と御者が馬車から馬を外し始める。

 納得してない顔のジェイク。
「……アイリス」
「分かってる。食事だけだから」
「気を付けろよ」
「大丈夫。ところで、今夜と明日の分のパンを買って来てくれない? 一人分しか無いのよ。あと、余ってる食器も貸して?」
と、パン代をジェイクに渡すと
「お金を取るのか!」
後ろから騎士様の責めるような声がした。
 あー。『女性にお金を払わせない』は貴族だけの常識だと知らないんだ。平民はおかみさんが財布のひもを握ってるから女性がお金を払うんですよー。

 なんて喧嘩を売るわけにいかないので
「騎士様は、私がこの男から施しを受けろとおっしゃるので……?」
と、思いっきり冷たい声で言ってやった。

「ん? そうだな。施されるわけには……」
 うんうんと納得して馬を引いて裏庭に行く騎士様たち。

「じゃあ、私は料理に取り掛かるからパンと食器をお願いね」
「本当にあんなのを泊めるのか」
「泊めるって、庭よ。他に手は無いし」
 ジェイクはパンと食器を渡す時まで「気を付けろ」と言っていた。



 準備が終わったころにはすっかり暗くなっていた。馬車の中で休んでいる騎士様と御者様を家に招く。
 二人は、皺にならないよう部屋のあちこちに掛けてある刺繍された服に驚いたようだ。

「これは、ベータムの山岳民族の……」
「はい、そちらをヒントにしています」
「手間が掛かり過ぎると、もうベータムでも作る人がいないのに」
「実はかなり簡略化してるんですよ。他に、モチーフの繋ぎ目を、こっちは凹、こっちは凸にして、デザインのようにしたり」
「すごいな…」
「他にも刺繍を覚えたい人がいますから、そのうちアルファス産の服がベータムで売られるかもしれませんよ。それよりお食事にしましょう」

 食器もカトラリーもバラバラな質素な食事だけど、携帯食よりはマシだろう。
 それなりに話もはずんで食事をしていると、カラカラカラ…と、木片がぶつかり合う音がした。まさか、獣除けの罠に引っかかってくれるとは。

 固まった二人に、
「お待ちかねのお客様がいらっしゃいましたよ」
と声をかける。
「お庭でお迎えしてください。絶対に家の中に入れないでくださいね」
 最後まで聞かずに、剣を取って御者が外に飛び出す。何か言いたそうな騎士様も後を追い、私はドアの鍵を閉めた。

 外から男の怒号と剣のぶつかる音が聞こえてくる。

 こっそり裏口から出て庭を覗くと、庭には黒装束の人が五人もいた。五人という事は、私たち三人全員を殺すつもりで来たのだろう。
 私は用意しておいた松明たいまつに次々と火を付けて、庭のあちこちに突き刺す。火で明るくなった庭では黒装束も意味が無い。隠し持ったナイフもバレバレだ。
 私に気付いた男が私に剣を向けるが、ひょいひょいとかわして松明で押し返す。

 そこに、森から騎士様と同じ騎士服を着た男たちがなだれ込んで来た。その隙に裏口から家に入って鍵をかけた。

 王太子妃教育で、騎士団長に「防御のために、剣筋を見切って剣尖けんせんを躱せ」という授業をやらされた時は「無理無理、絶対無理~!」だったけど、今回は素人に毛が生えたレベルの、剣を大きく振り回すタイプの相手だったので私にも切っ先を見切れた。

 勉強というのは何でも無駄にはならないものなのね~、と思いつつ家中のドアや窓の鍵をしっかり確認して、家の中に引き篭もる。

あなたにおすすめの小説

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

婚約破棄は大歓迎! 悪役令嬢は辺境でぐうたらスローライフを送りたい ~二度寝を邪魔する奴は、王太子でも許しません~

小林 れい
ファンタジー
煌びやかな夜会で、婚約者であるジークフリート王太子から「婚約破棄」を突きつけられた公爵令嬢ユーラリア。 「身に覚えのない罪」で断罪される彼女に、周囲は同情の視線を向けるが——。 (((きたぁぁぁ! 自由だ! これで毎日、お昼過ぎまで寝られる!!))) 実は彼女、前世の記憶を持つ転生者。 過労死した前世の反省から、今世の目標は「絶対に働かないこと」。 王妃教育という名の地獄から解放されたユーラリアは、慰謝料として手に入れた北の果ての別荘へと意気揚々と旅立つ。 待っていたのは、フカフカの羽毛布団と、静かな森。 彼女はただ、お菓子を食べて、二度寝をして、ダラダラ過ごしたいだけだった。 しかし——。 「眩しいから」と魔法で空を曇らせれば、**『干ばつを救った聖女』と崇められ。 「動くのが面倒だから」と転移魔法でティーカップを寄せれば、『失伝した超魔法の使い手』**と驚愕される。 さらに、自分を捨てたはずの王太子が「君の愛が恋しい」と泣きつき、隣国の冷徹な軍事公爵までが「君の合理的な休息術に興味がある」と別荘に居座り始めて……!? 「お願いですから、私の睡眠を邪魔しないでいただけますか?」 勘違いと怠惰が加速する、最強ニート令嬢のスローライフ(?)物語!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね

ともボン
恋愛
 伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。 「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」  理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。  さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。  屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。 「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」  カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。  気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。  そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。  二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。  それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。  これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。