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第二章
第五十三話 さよなら
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「姉さん!! 逃げて――!」
私の叫びと同時だった。
トリスタンは剣を振り上げたまま、ぐっと一歩、踏み出す。
エリアスもバルドも低く構え、空気が張り詰める。
けれど――
濡れた金の髪が額に貼りつき、彼はまっすぐにヴェルネを睨み据えた。
その瞳の奥で、かすかな光が揺れる。
(彼は――抗っている!!)
「……それ以上は、させない」
低く、震える声。
自らに刻まれた“運命”に抗うように肩がびくりと痙攣する。
それでも、彼は一歩、また一歩と前へ進む。
鎧の継ぎ目から黒い瘴気が滲み、震える身体がぎしぎしと軋む。
濁流に抗うように――それでも、足は止まらなかった。
「トリスタン……!」
姉の喉から、かすれた声が漏れる。
トリスタンは唇を強く噛み、血を滲ませながら剣を構えた。
その瞳は澄み渡り、“あの懐かしい瞳”だった。
「……お前の好きには、させない!」
噛みしめるように吐き出した言葉。
そして――彼は自らの剣を逆手に取り、全身をひねって力任せに――ヴェルネへと投げ放つ。
銀の閃光が闇を裂き、空気を切り裂く唸りが戦場を駆け抜ける。
稲妻のような一投。
全身を蝕む“主の命令”を、力ずくで振り払いながら放たれた一撃――。
空を切り裂く風鳴りが、戦場を震わせた。
一直線に、無邪気に笑う幼い悪魔の心臓を――撃ち抜かんとする一閃だった。
「――あら」
ヴェルネが小首を傾げ、指をひとつ、ぱちんと鳴らす。
空を飛ぶ剣は、ぴたりと不自然に静止し――嘲笑うように、くるりと向きを変える。
「うふふ……これなら、どうかしら?」
幼い唇から落ちた声は、氷のように冷たかった。
ほんの一瞬の出来事だった。
剣は、まるで矢のように放たれた――立ちすくむ姉へと。
刹那、エリアスとバルドが飛び出す。
「姉さん――!!」
喉が裂けるほどの声。
同時に、杖を握り、詠唱を走らせる。
『回避率上昇』!
『防御上昇』――!
光の術式が重なり、姉の足元に魔法陣が結ばれる。
でも、遅かった。
魔法陣が光を放つより早く、剣の軌跡が姉の胸へと吸い込まれ――
「……だめ――!」
魔力の奔流が指先で霧散する。
祈るように手を伸ばした瞬間――
ぐさり――。
姉の前に立ちはだかったトリスタンの胸を、剣が正面から貫いていた。
「――!」
トリスタンの口から、ごぼごぼと黒い血が溢れる。
見上げる姉の頬に、衣に、一滴……二滴と飛び散る。
雨に混じって、地面に黒い筋が描かれた。
トリスタンの視線が、エリアス、バルド、フィーネ、そして私と順番に交差した――
血に濡れた唇が、ほんの少し緩む。
――その瞳は「任せた」と言っているように思えた。
剣がするりと抜け、騎士は静かに膝をつく。
「……トリスタン――!」
姉は駆け寄ると、真っ黒な血に濡れた背に腕を回し、彼の手を必死に握った。
姉さん、早く! 癒しの技で――姉さんの、”聖女”の力で!
姉はただ、涙をとめどなく流しながら彼の手を握り、
光を失っていく瞳を見つめるだけだった。
そして気付いた。
――光の癒しは、生きている者にしか届かない。
死霊騎士――既に死んでいる者には、光は二度と届かない――。
直感した。彼は……もう”救えない”、と。
トリスタンは姉の瞳を見つめ、振り絞るように呟いた。
「……ああ……君がいる……あたたかい……」
姉の瞳が大きく揺れる。
「うん……いるよ、ずっと……」
彼は震える指先で、姉の手首の組紐をぎゅっと握りしめた。
彼の瞳から、たった一筋、涙が零れる。
「――さよなら……アリシア……」
彼は、最後の力を振り絞るように、小さく微笑んだ。
――目が光を失い、元の淀んだ色に戻る。
そして、静かに瞼が閉じた。
手はぱさりと落ち、姉の腕の中の力が失われる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雨を突き破る姉の悲鳴。
それは戦場のすべてを一瞬だけ静止させるほど、強く、激しく、真っ直ぐだった。
「きゃははははははははははっ!!」
ヴェルネの笑い声が夜空を切り裂く。
両手を打ち鳴らし、まるで舞台を見終えた観客のように、涙を拭うふりをする。
「すっごく素敵な余興でしたわ!
わたくし、きゅんきゅんしっぱなしでしたわぁ! もうっ、最高っ!」
「貴様ぁぁぁぁぁっっ!!」
「許さぬ!!」
エリアスとバルドが叫び、ヴェルネへと突撃する。
フィーネは無言で弓を引き絞った。
怒りと殺意が、雨の中に満ちる。
でも――私は世界から取り残されたように、一歩も動けなかった。
声も、涙も、何も出ない。
ただ、熱の引いた雨の音だけが遠くに聞こえた。
――ヴェルネは余裕の微笑を崩さない。
つぼみのような唇に、ぷるん、と小さな指を当てる。
「あら、どうして? 喜んで頂けると思ってましたのに……
でも、礼儀知らずな人間には慣れてますの。
ぜ~んぜん、気にしてませんわぁ」
裾を摘まみ、優雅に一礼してみせた。
「では、素晴らしい宴となりましたこと、心より感謝いたしますわ」
彼女の背後に、静かな水面のような魔法陣が展開される。
足元から黒い霧が立ち昇り、世界が闇に飲み込まれるようだった――。
「素敵なプレゼントをご用意しておきますわ。
また――遊びましょうね♪」
ヴェルネは不穏な言葉と共に、ご丁寧に投げキッスまで残し――
壁のような水面にぽちゃんと滑り込む。
その姿が水面の向こうに消えると、波紋だけを残し、雨の帳の中、魔法陣は小さく消えていった。
走り込んだエリアスとバルドは、揺らめく魔法陣の残滓の中、立ち尽くす。
フィーネは弓を下ろした。
私は夜空を見上げる。
雨が――いつの間にか、上がっていた。
戦いの残響も、ヴェルネの嬌声も消え失せ、残ったのは、濡れた土と血の匂いだけ。
姉の嗚咽だけが――夜空に溶けていく。
雲間に浮かぶ月。
あの時と同じ、銀色の月。
この夜空のどこかに、彼がいる気がした。
*
動かぬトリスタンは、微笑んだまま安らかだった。
「さよなら」――それを伝えられた彼は、確かに”救われた”のだと思う。
そのおだやかな顔に、私は思う。
「殺意がない」――そう、エリアスは言っていた。
きっと、彼はあの時、馬車の前で立ち上がった瞬間から、誰も傷つける気はなかった。
姉は、どこまでも彼を信じていた。
最初の一閃。姉が動かなかったのは、当たらないと信じていたから。
じっと彼を見つめ続けていたのは、ただ過去に囚われていたのではなく、
――彼の中に残る“人間”を、見極めていたからに違いなかった。
やっぱり、姉さんは姉さんだった。
そして、紛れもなく――”聖女”だ。
姉は、トリスタンの亡骸を抱いたまま、微動だにしない。
濡れた銀の髪は頬に貼りついたまま、白かった聖衣は泥と血に染まっている。
それでも背筋はまっすぐで、揺らがなかった。
私は――膝をつき、そっとその背に寄り添い、しがみつくように抱きしめた。
姉の肩は、思っていたよりもずっと細く、儚かった。
冷たい布越しに、姉の体温と鼓動が確かに伝わってくる。
姉は睫毛を震わせながらも、ゆっくりと私の手を握り返した。
森の向こうが、わずかに白み始める。
夜明け前の、淡い光。
雨上がりの空気は澄み、すべてが静まり返っていた。
立ち尽くす仲間たちは、誰も言葉を発しない。
ただその場で、見守っていた。
――まるで、トリスタンの魂を送り出す、ひとときの沈黙のように。
***
城に戻った私たちは、トリスタンの亡骸を荼毘に付した。
炎が立ち上るたびに、雨に濡れた鎧が静かに光を返す。
私たちも、ロベールも、騎士たちも――かつての勇士に、黙して祈りを捧げた。
やがて、近くの丘の上に小さな墓が作られた。
粗削りな石の墓標と、周囲に咲く白い野の花。
派手な装飾はない。ただ、穏やかな風が吹き抜ける場所。
私と姉は、二人並んで墓前に跪く。
姉は腕に巻いていた組紐を外し、両手でそっと胸に抱いて目を閉じた。
やがて――静かに、墓の前に埋める。
「……さよなら」
たった一言。
風に溶けるような声だった。
風が丘を渡り、姉の銀の髪をふわりと揺らす。
それはまるで、トリスタンがもう一度だけ、姉の髪を撫でたようだった。
「……姉さん、いいの?」
思わず、声が漏れる。
くるりと振り向いた姉は、泣いていなかった。
「……いいの。もう、大丈夫」
瞳には確かな痛みがあったけれど、その表情は――いつもの姉の顔だった。
「セレナが一緒にいてくれる。みんなもいる」
小さな微笑み。
姉の胸には空色のペンダントがきらりと光り、
その声は、雨上がりの空のように澄んでいた。
姉は私の手をしっかりと握り、一緒に歩き出す。
姉はもう振り返らない。
けれど、私は――たった一度だけ振り返った。
(うん、任せて。トリスタン――)
墓前で風に揺れる白い花と、青空の向こう――
どこか似ているこの丘には、あのサン・クレールの丘と同じ優しい光が、確かに降り注いでいた。
私の叫びと同時だった。
トリスタンは剣を振り上げたまま、ぐっと一歩、踏み出す。
エリアスもバルドも低く構え、空気が張り詰める。
けれど――
濡れた金の髪が額に貼りつき、彼はまっすぐにヴェルネを睨み据えた。
その瞳の奥で、かすかな光が揺れる。
(彼は――抗っている!!)
「……それ以上は、させない」
低く、震える声。
自らに刻まれた“運命”に抗うように肩がびくりと痙攣する。
それでも、彼は一歩、また一歩と前へ進む。
鎧の継ぎ目から黒い瘴気が滲み、震える身体がぎしぎしと軋む。
濁流に抗うように――それでも、足は止まらなかった。
「トリスタン……!」
姉の喉から、かすれた声が漏れる。
トリスタンは唇を強く噛み、血を滲ませながら剣を構えた。
その瞳は澄み渡り、“あの懐かしい瞳”だった。
「……お前の好きには、させない!」
噛みしめるように吐き出した言葉。
そして――彼は自らの剣を逆手に取り、全身をひねって力任せに――ヴェルネへと投げ放つ。
銀の閃光が闇を裂き、空気を切り裂く唸りが戦場を駆け抜ける。
稲妻のような一投。
全身を蝕む“主の命令”を、力ずくで振り払いながら放たれた一撃――。
空を切り裂く風鳴りが、戦場を震わせた。
一直線に、無邪気に笑う幼い悪魔の心臓を――撃ち抜かんとする一閃だった。
「――あら」
ヴェルネが小首を傾げ、指をひとつ、ぱちんと鳴らす。
空を飛ぶ剣は、ぴたりと不自然に静止し――嘲笑うように、くるりと向きを変える。
「うふふ……これなら、どうかしら?」
幼い唇から落ちた声は、氷のように冷たかった。
ほんの一瞬の出来事だった。
剣は、まるで矢のように放たれた――立ちすくむ姉へと。
刹那、エリアスとバルドが飛び出す。
「姉さん――!!」
喉が裂けるほどの声。
同時に、杖を握り、詠唱を走らせる。
『回避率上昇』!
『防御上昇』――!
光の術式が重なり、姉の足元に魔法陣が結ばれる。
でも、遅かった。
魔法陣が光を放つより早く、剣の軌跡が姉の胸へと吸い込まれ――
「……だめ――!」
魔力の奔流が指先で霧散する。
祈るように手を伸ばした瞬間――
ぐさり――。
姉の前に立ちはだかったトリスタンの胸を、剣が正面から貫いていた。
「――!」
トリスタンの口から、ごぼごぼと黒い血が溢れる。
見上げる姉の頬に、衣に、一滴……二滴と飛び散る。
雨に混じって、地面に黒い筋が描かれた。
トリスタンの視線が、エリアス、バルド、フィーネ、そして私と順番に交差した――
血に濡れた唇が、ほんの少し緩む。
――その瞳は「任せた」と言っているように思えた。
剣がするりと抜け、騎士は静かに膝をつく。
「……トリスタン――!」
姉は駆け寄ると、真っ黒な血に濡れた背に腕を回し、彼の手を必死に握った。
姉さん、早く! 癒しの技で――姉さんの、”聖女”の力で!
姉はただ、涙をとめどなく流しながら彼の手を握り、
光を失っていく瞳を見つめるだけだった。
そして気付いた。
――光の癒しは、生きている者にしか届かない。
死霊騎士――既に死んでいる者には、光は二度と届かない――。
直感した。彼は……もう”救えない”、と。
トリスタンは姉の瞳を見つめ、振り絞るように呟いた。
「……ああ……君がいる……あたたかい……」
姉の瞳が大きく揺れる。
「うん……いるよ、ずっと……」
彼は震える指先で、姉の手首の組紐をぎゅっと握りしめた。
彼の瞳から、たった一筋、涙が零れる。
「――さよなら……アリシア……」
彼は、最後の力を振り絞るように、小さく微笑んだ。
――目が光を失い、元の淀んだ色に戻る。
そして、静かに瞼が閉じた。
手はぱさりと落ち、姉の腕の中の力が失われる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雨を突き破る姉の悲鳴。
それは戦場のすべてを一瞬だけ静止させるほど、強く、激しく、真っ直ぐだった。
「きゃははははははははははっ!!」
ヴェルネの笑い声が夜空を切り裂く。
両手を打ち鳴らし、まるで舞台を見終えた観客のように、涙を拭うふりをする。
「すっごく素敵な余興でしたわ!
わたくし、きゅんきゅんしっぱなしでしたわぁ! もうっ、最高っ!」
「貴様ぁぁぁぁぁっっ!!」
「許さぬ!!」
エリアスとバルドが叫び、ヴェルネへと突撃する。
フィーネは無言で弓を引き絞った。
怒りと殺意が、雨の中に満ちる。
でも――私は世界から取り残されたように、一歩も動けなかった。
声も、涙も、何も出ない。
ただ、熱の引いた雨の音だけが遠くに聞こえた。
――ヴェルネは余裕の微笑を崩さない。
つぼみのような唇に、ぷるん、と小さな指を当てる。
「あら、どうして? 喜んで頂けると思ってましたのに……
でも、礼儀知らずな人間には慣れてますの。
ぜ~んぜん、気にしてませんわぁ」
裾を摘まみ、優雅に一礼してみせた。
「では、素晴らしい宴となりましたこと、心より感謝いたしますわ」
彼女の背後に、静かな水面のような魔法陣が展開される。
足元から黒い霧が立ち昇り、世界が闇に飲み込まれるようだった――。
「素敵なプレゼントをご用意しておきますわ。
また――遊びましょうね♪」
ヴェルネは不穏な言葉と共に、ご丁寧に投げキッスまで残し――
壁のような水面にぽちゃんと滑り込む。
その姿が水面の向こうに消えると、波紋だけを残し、雨の帳の中、魔法陣は小さく消えていった。
走り込んだエリアスとバルドは、揺らめく魔法陣の残滓の中、立ち尽くす。
フィーネは弓を下ろした。
私は夜空を見上げる。
雨が――いつの間にか、上がっていた。
戦いの残響も、ヴェルネの嬌声も消え失せ、残ったのは、濡れた土と血の匂いだけ。
姉の嗚咽だけが――夜空に溶けていく。
雲間に浮かぶ月。
あの時と同じ、銀色の月。
この夜空のどこかに、彼がいる気がした。
*
動かぬトリスタンは、微笑んだまま安らかだった。
「さよなら」――それを伝えられた彼は、確かに”救われた”のだと思う。
そのおだやかな顔に、私は思う。
「殺意がない」――そう、エリアスは言っていた。
きっと、彼はあの時、馬車の前で立ち上がった瞬間から、誰も傷つける気はなかった。
姉は、どこまでも彼を信じていた。
最初の一閃。姉が動かなかったのは、当たらないと信じていたから。
じっと彼を見つめ続けていたのは、ただ過去に囚われていたのではなく、
――彼の中に残る“人間”を、見極めていたからに違いなかった。
やっぱり、姉さんは姉さんだった。
そして、紛れもなく――”聖女”だ。
姉は、トリスタンの亡骸を抱いたまま、微動だにしない。
濡れた銀の髪は頬に貼りついたまま、白かった聖衣は泥と血に染まっている。
それでも背筋はまっすぐで、揺らがなかった。
私は――膝をつき、そっとその背に寄り添い、しがみつくように抱きしめた。
姉の肩は、思っていたよりもずっと細く、儚かった。
冷たい布越しに、姉の体温と鼓動が確かに伝わってくる。
姉は睫毛を震わせながらも、ゆっくりと私の手を握り返した。
森の向こうが、わずかに白み始める。
夜明け前の、淡い光。
雨上がりの空気は澄み、すべてが静まり返っていた。
立ち尽くす仲間たちは、誰も言葉を発しない。
ただその場で、見守っていた。
――まるで、トリスタンの魂を送り出す、ひとときの沈黙のように。
***
城に戻った私たちは、トリスタンの亡骸を荼毘に付した。
炎が立ち上るたびに、雨に濡れた鎧が静かに光を返す。
私たちも、ロベールも、騎士たちも――かつての勇士に、黙して祈りを捧げた。
やがて、近くの丘の上に小さな墓が作られた。
粗削りな石の墓標と、周囲に咲く白い野の花。
派手な装飾はない。ただ、穏やかな風が吹き抜ける場所。
私と姉は、二人並んで墓前に跪く。
姉は腕に巻いていた組紐を外し、両手でそっと胸に抱いて目を閉じた。
やがて――静かに、墓の前に埋める。
「……さよなら」
たった一言。
風に溶けるような声だった。
風が丘を渡り、姉の銀の髪をふわりと揺らす。
それはまるで、トリスタンがもう一度だけ、姉の髪を撫でたようだった。
「……姉さん、いいの?」
思わず、声が漏れる。
くるりと振り向いた姉は、泣いていなかった。
「……いいの。もう、大丈夫」
瞳には確かな痛みがあったけれど、その表情は――いつもの姉の顔だった。
「セレナが一緒にいてくれる。みんなもいる」
小さな微笑み。
姉の胸には空色のペンダントがきらりと光り、
その声は、雨上がりの空のように澄んでいた。
姉は私の手をしっかりと握り、一緒に歩き出す。
姉はもう振り返らない。
けれど、私は――たった一度だけ振り返った。
(うん、任せて。トリスタン――)
墓前で風に揺れる白い花と、青空の向こう――
どこか似ているこの丘には、あのサン・クレールの丘と同じ優しい光が、確かに降り注いでいた。
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