傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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3 出て行け ランドルフ視点

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「まだ終わらないのか」

 俺は、部屋の外で妻の容態が確認できるのを今か今かと待っていた。

 部屋の中には階段から落ちてしまった身重の妻ジュリアと、医者、そしてメイド長のクリスティーナがいる。同席をしようと思っていたが、医者とクリスティーナに止められてしまった。

「はぁ、くそ」

 そわそわと落ち着きのない足で廊下をうろうと歩くことしかできない。時折止まって足先を揺すった。

 けれどどうしても落ち着くことができない。妻のジュリアの無事が確認できるまで、俺はこのままだろう。
 胸ポケットに葉巻を入れていたことを思い出し、おもむろにシガーケースを取り出した。右手の拳はガラス窓を殴ったせいで血だらけだったのに今気がついた。
 まだアドレナリンが出ているのか、全く痛みがない。その右手でいつものように葉巻に火をつけようとするがなかなかつかない。

「チッ」

 舌打ちをしてもさらにイラついただけだった。やっと火がついて葉巻の煙を吸うと、少しだけ落ち着いた気分になった。

 どうしてこんなことになってしまったのか。頭を抱えながら考えた。

 それは深夜に、弟のアガトンから俺の妻であるジュリアと不貞行為を働いたと彼から告白されたことから始まった。


 ◇


「兄さん、話があるんだ」

 朝一、至極真剣な顔つきで、相談があると持ちかけられた。伯爵家を継ぎたいという話かもしれない。もうアガトンも18歳だ。そろそろ、伯爵家の任せてもいい年だろう。

「後で聞く。俺の仕事が落ちついてから執務室へ来い」

 視線を目の前の書類に落として、アガトンを追い払おうとした。

「兄さん……」

 それでも食い下がろうと一歩前に出てきたガトンに、俺は何も言わずに目線だけで圧力をかける。

「っ……」

 きゅっと口元を固く閉ざしてアガトンは怯えた目をする。
 威圧されてしまったことを恥じたのか、何も言わずにそのまま部屋を出て行った。

 俺は現在、プロミネンス伯爵当主ではあるが、本来であれば後継とはなりえない。なぜなら俺は庶子であり、父がふらりと訪れた町で出会った娘との間にできた子だからだ。

 父と本妻との間にできた子がアガトンであり、次期当主である。亡くなった父の跡を継ぐには幼過ぎたため、俺が中継ぎとして引き受けているに過ぎないのだった。

 本来の後継であるアガトンに伯爵家を譲ったら、あとは自分の愛馬とジュリアを連れて、のんびり牧場経営でもしようなんて考えを巡らせていた。

 午後の夜遅い時間、仕事が一段落したところで執務室のドアが叩かれた。アガトンだろう。

「入れ」

 短く返答すると、部屋の中に少し緊張した面持ちでアガトンが入ってくる。

 昔から病弱で、あまり外に出なかったためアガトンの肌は色白だ。そしてあることがきっかけで、俺は彼を屋敷の外に出すことを制限した。だが今はそんなことは重要じゃない。

「兄さん、僕は……」

 弟の言葉を遮って、俺は言葉を被せに行った。

「わかっている。伯爵家の跡を継ぎたいという話だろう? 俺もそろそろかと思っていたところだ。なに、心配はいらないさ。お前に継ぐために優秀な執事たちを雇って俺が教育した。今からでもお前に引き継いでも何の問題もな……」

「兄さん!」

 
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