傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

文字の大きさ
5 / 55

2-2

 外に出る時はずっとランドルフの隣に立ち、屋敷にいる時だってクリスティーナがいた。
 アガトンや他の客人が同席する時は必ずクリスティーナが側に控えてくれていた。

 ランドルフが私をそばに置いて、片時も目を離さないようにしていた。

 だから、不貞をするそんな隙など私にはなかった。それを、クリスティーナはよく知っているし、ランドルフだってわかっているはずだ。

 ただあの時のランドルフは頭に血が上った状態だっただけ。
 
 何の行き違いか勘違いがあったかは知らないが、すぐに落ち着いて、また元のように私たちの子どもを心待ちにしてくれる。私ともうすぐ生まれてくる子どもを愛してくれる。

 私は盲目的にもそう信じていた。

「ですが、奥様だって知っているでしょう。旦那様は一度思い込んだら滅多なことでは自分の意見や考えを変えないお方です。このままではお子は堕胎《だたい》されてしまいます!」

「そんなこと、あの人がするはずないわ」

 ふるふると首を横に振った。クリスティーナの言葉を頭から追い出したかった。

 お腹に当てていた手に力がこもる。

 この子はランドルフとの子ども。愛する人との大切な宝物なのだ。この子がアガトンとの子どもだなんてそんな誤解はきっとすぐに勘違いだったとわかるはず。そう信じているはずなのに、どうしてこんなにも不安な気持ちにさせられるのだろうか。

「私だってこんなこと言いたくはありません。ですが現実を見てください奥様。こんなに体中あざだらけになって……」

 そう言われてハッと私は自分の腕を見た。階段から転げ落ちていく時に打ちつけたせいで全身赤黒いアザだらけになってしまっていた。私は恥じるような気持ちになってシーツをたぐりよせ、体のアザを隠した。
 
「これは、私が階段から足を踏み外したからで、彼が悪いわけではないのよ」

「それでも、こんな状況に陥ってしまったのは旦那様のせいです!」

「この子はあの人の子どもなのよ。父親から離していい訳がないわ。家族は一緒にいなくては」

「いい加減にしてください奥様!」

 クリスティーナは主の妻である私を大声で怒鳴った。
 こんなに感情的なクリスティーナを見るのは初めてのことだった。

 けれど私の意思は変わらない。夫婦は一緒にいるべきで、生まれてくる子どもと3人一緒に過ごすべきなのだ。子どもが生まれれば、ランドルフだってきっと可愛がる。その確証が私にはあった。

「クリスティーナさん、落ち着いてください。そんなに感情的に訴えても夫人のお気持ちは変わりませんよ」

「ですが先生……!」

 クリスティーナの後ろからお医者様が口を出す。

「それに、伯爵様にお腹の子どものことを隠すなんてことは許されませんな」

「このまま黙って見ていろというのですか?! 奥様のお子は旦那様に殺されてしまいます!」

「落ち着いてクリスティーナさん。私の方で様子を見ながら伯爵様には状況をお伝えしますから」

「そんな先生!」

「クリスティーナさん。夫人のお腹にいるのはプロミネンス伯爵家の血筋です。伯爵当主であるランドルフ様にお伝えしない訳にはいきません」

 興奮したクリスティーナを落ち着かせるようにゆっくりと話す。

「そ、それは……そうですがっ」

「もし、隠すとしたら、お腹の子と母体に危険を感じた時だけです。安全を確保する目的以外で夫で父親であるプロミネンス伯爵様に伝えない選択肢はありません」

「先生が安全を確保する必要性を感じた時は、ランドルフ様に隠していただけるんですね?」

「ええ、もちろん夫人の意見を尊重の上ですが」

 ちらりとお医者様は私を見た。私はこくり、と先生を見て頷いた。

「先生の指示に従いますわ」

 先生は部屋を出ていく。

「では、伯爵様を呼んでまいります」

 
 

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル
恋愛
王太子の仕打ちに耐えられず自ら死を選んだセシリアは、気づくと昔の自分に戻っていた。 今回は王太子妃になどならない。絶対に。 そう決意したのに、なぜか王太子が絡んでくる。前回との違いに戸惑いを隠せないセシリアがいつの間にか王太子の手中に収められてしまう話。…になる予定です。一応短編登録にしていますが、変わるかもしれません。 設定は雑ですので、許せる方だけお読みください。

どうぞ、お好きに

蜜柑マル
恋愛
私は今日、この家を出る。記憶を失ったフリをして。 ※ 再掲です。ご都合主義です。許せる方だけお読みください。

年下夫の嘘

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
結婚して三ヶ月で、ツェツィーリエは一番目の夫を亡くした。朝、いつものように見送った夫は何者かに襲われ、無惨な姿で帰ってきた。 それから一年後。喪が明けたツェツィーリエに、思いもよらない縁談が舞い込んだ。 相手は冷酷無慈悲と恐れられる天才騎士ユリアン・ベルクヴァイン公爵子息。 公爵家に迎え入れられたツェツィーリエの生活は、何不自由ない恵まれたものだった。 夫としての務めを律儀に果たすユリアンとの日々。不満など抱いてはいけない。 たとえ彼に愛する人がいたとしても……

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。