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「父に言われているの、お金は持っているけど彼だけはやめておけって。だから事前に顔を覚えて避けておこうと思って」
そう告げたら、馬に噛まれでもしたかのような、そんなポカンとした顔をした。その後堪えきれない、と腹から声を出して笑い始めた。
どうしてそんなにも笑うのか、彼の笑いが止まらない様子に私はムッとした。
口を尖らせて笑い転げる彼を横目で見た。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「ふ、くくっ、すまないね。予想外のことを言われて、……ふふっ」
まだ笑っている。何がそんなにおかしいのかしら。
眉間に皺を寄せて両腕を組んだ。
「もういいわよ。他の方に聞くから」
フン、と鼻を鳴らして彼が向いている方向と反対側を向く。
笑ってばかりいるこの人を放って、新しい男性に声をかけようと彼に踵を返した。
「待って」
ぎゅっと手首を掴まれた。力強くて大きな手だった。
「教えてあげよう。プロミネンス伯爵が誰か。お手をどうぞマイ・レディ」
掴まれた腕を離されて改めて手を差し出された。最初はその手を跳ね除けていってしまおうと思っていた。
けれど私はその手を迷わず取った。自分でも何を考えているのかわからない。慣れない華やかな会場に浮かれているのかもしれない。
彼はそのまま私を誘い、ダンスフロアの真ん中まで連れて行く。
私は周りの目が急に気になってきて、そわそわと当たりを見渡す。
「待って、私……踊れないわ」
「大丈夫、俺がリードするから」
そうして曲に合わせて踊り始めた。彼のリードは完璧で、全くダンスの経験がない私でもついていくことができた。
でも足がもつれそうになって、足元ばかりに気を取られていた。
あごを取られて上を向かされる。
「俺に集中して、俺だけ見ていればいい」
曲が進むにつれ、周りの視線は気にならなくなった。
ただ目の前のこの人しか見えなくなっていく。
私を見つめる視線が近距離にきて、その瞳の奥には熱がこもってる。吐息が感じられる距離に、太い腕が、熱い手のひらが私の体を支えている。
私の体もだんだんと熱くなっていった。ダンスを踊っているせいだけではないことは明白だった。
一曲、二曲、と続けて踊り、さらに三回目のダンスが始まろうとしていた。
連続で三回目のダンスを踊る意味をこの男性が知らないはずはない。私でもわかる。
目の前の男性は私に気があるのだと、そう言っていることと同じだ。そして、それを周りに知らしめようとしている。
私は彼の手を離そうとした。だがその手は力強く、私を離そうとしない。指を絡め取られ、逃げることもできない。
彼は私に興味があることを周りに隠したりはしなかった。むしろ、周りが知ることを望んでいた。
いつのまにか2人だけの世界がそこにあった。顔を合わせて、視線が絡み合う。お互いに秘めたる熱を感じ取っていた。これはもう、運命としかいいようがないほどに惹かれ合っていることを、私は否定できなかった。
3回目のダンスが終わった時、彼の唇が触れそうなくらい近くにあって、口付けされるかと思うほどだった。
彼の唇は触れることなく離れていった。
私はじっと彼の口元に見入ってしまっていた。
「私の名はランドルフ・プロミネンス。あなたの探していた伯爵ですよ、レディ」
私の頬をそっと撫でる優しげな指先。
その場に跪き、私の右手を取ってキスをした。
キスをした瞬間、わっと会場が沸いて熱気が込み上げる。周りが息を呑むように私たちを見つめていた。
ああ、この人がプロミネンス伯爵。
驚いたと同時に納得してしまった。圧倒的な魅力と危険な香りのする男性。
そんな男性に私は惹かれてしまったのだ。もう、引き返せないところまで。
そう告げたら、馬に噛まれでもしたかのような、そんなポカンとした顔をした。その後堪えきれない、と腹から声を出して笑い始めた。
どうしてそんなにも笑うのか、彼の笑いが止まらない様子に私はムッとした。
口を尖らせて笑い転げる彼を横目で見た。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「ふ、くくっ、すまないね。予想外のことを言われて、……ふふっ」
まだ笑っている。何がそんなにおかしいのかしら。
眉間に皺を寄せて両腕を組んだ。
「もういいわよ。他の方に聞くから」
フン、と鼻を鳴らして彼が向いている方向と反対側を向く。
笑ってばかりいるこの人を放って、新しい男性に声をかけようと彼に踵を返した。
「待って」
ぎゅっと手首を掴まれた。力強くて大きな手だった。
「教えてあげよう。プロミネンス伯爵が誰か。お手をどうぞマイ・レディ」
掴まれた腕を離されて改めて手を差し出された。最初はその手を跳ね除けていってしまおうと思っていた。
けれど私はその手を迷わず取った。自分でも何を考えているのかわからない。慣れない華やかな会場に浮かれているのかもしれない。
彼はそのまま私を誘い、ダンスフロアの真ん中まで連れて行く。
私は周りの目が急に気になってきて、そわそわと当たりを見渡す。
「待って、私……踊れないわ」
「大丈夫、俺がリードするから」
そうして曲に合わせて踊り始めた。彼のリードは完璧で、全くダンスの経験がない私でもついていくことができた。
でも足がもつれそうになって、足元ばかりに気を取られていた。
あごを取られて上を向かされる。
「俺に集中して、俺だけ見ていればいい」
曲が進むにつれ、周りの視線は気にならなくなった。
ただ目の前のこの人しか見えなくなっていく。
私を見つめる視線が近距離にきて、その瞳の奥には熱がこもってる。吐息が感じられる距離に、太い腕が、熱い手のひらが私の体を支えている。
私の体もだんだんと熱くなっていった。ダンスを踊っているせいだけではないことは明白だった。
一曲、二曲、と続けて踊り、さらに三回目のダンスが始まろうとしていた。
連続で三回目のダンスを踊る意味をこの男性が知らないはずはない。私でもわかる。
目の前の男性は私に気があるのだと、そう言っていることと同じだ。そして、それを周りに知らしめようとしている。
私は彼の手を離そうとした。だがその手は力強く、私を離そうとしない。指を絡め取られ、逃げることもできない。
彼は私に興味があることを周りに隠したりはしなかった。むしろ、周りが知ることを望んでいた。
いつのまにか2人だけの世界がそこにあった。顔を合わせて、視線が絡み合う。お互いに秘めたる熱を感じ取っていた。これはもう、運命としかいいようがないほどに惹かれ合っていることを、私は否定できなかった。
3回目のダンスが終わった時、彼の唇が触れそうなくらい近くにあって、口付けされるかと思うほどだった。
彼の唇は触れることなく離れていった。
私はじっと彼の口元に見入ってしまっていた。
「私の名はランドルフ・プロミネンス。あなたの探していた伯爵ですよ、レディ」
私の頬をそっと撫でる優しげな指先。
その場に跪き、私の右手を取ってキスをした。
キスをした瞬間、わっと会場が沸いて熱気が込み上げる。周りが息を呑むように私たちを見つめていた。
ああ、この人がプロミネンス伯爵。
驚いたと同時に納得してしまった。圧倒的な魅力と危険な香りのする男性。
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