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5 父との決別 過去編
しおりを挟むパーティーが終わった後、2人で会ってデートを重ねた。どんどん距離は縮まり、私たちの情熱は燃え盛った。
「遠乗りに行こう」
馬が好きなランドルフの提案で、2人で遠乗りに出かけた。私は牧場育ちのため、当然乗馬はお手のものだ。ランドルフも貴族の嗜み以上の腕前を見せてくれた。
彼は愛馬のアルフィーに乗って、私は牧場で飼っている馬のラッキーに乗っていった。
牧場のそばにある丘の上まで競争した。接戦だったがランドルフが勝ち抜いた。
「なかなかやるじゃないか」
馬を撫でながら上から目線のその口調だ。子供っぽい眩しい笑顔だった。
ちょっと憎たらしいけれどやはりかっこいい。
「あなたもね」
やはり負けたのは悔しいのでツンケンした態度をとった。
だが彼はそれも面白かったのか、心底楽しそうに手綱を握る。少し先まで馬を走らせて、川があるところで馬を休ませることにして私たちも休憩することにした。
馬たちに川の水を飲ませて手綱を大きな木の幹にくくりつけた。
「いい子だな、アルフィー」
ランドルフが愛馬アルフィーの首を撫でて褒めてやると、アルフィーの尻尾が弾んだ。アルフィーは首をランドルフにすり寄せて、ランドルフは優しそうな眼差しで愛馬を撫で続けた。
ランドルフはポケットに入れていた小さな白い固まりを取り出すと、アルフィーの口元にもっていく。
するとアルフィーはそれを嬉しそうに口をはむはむと動かしてランドルフの手から食べた。
それに気づいた私の馬のラッキーもランドルフの方に擦り寄った。
「おい急かすんじゃない。お前の分もちゃんとあるから」
ランドルフは擦り寄ってきたラッキーの頭を撫でた。
「角砂糖をおやつにあげてるの?」
馬は甘いものが大好きで、特に砂糖が大好きだ。けれど干し草と比べたら高価だから、うちはせいぜいにんじんを与えるくらいしかしていない。
「ご褒美の時だけだがな」
パーティーの時とは全く印象が違って見える。少年のように爽やかな笑顔にドキリとする。
「ほら、ジュリアもラッキーにあげてごらん」
私の手のひらに角砂糖を置いた。いつもあげていないので、ちょっと戸惑ってしまった私に気づいたのか、ラッキーが力強く頭を擦り付けて催促してくる。
「わかった、わかったよラッキー。今日だけよ」
アルフィーにあげて、ラッキーにあげないのかわいそうだし、仕方なく角砂糖をあげた。
ものすごく美味しそうに口を動かして食べているラッキーがいつにも増して可愛い。ぶるぶると体を動かして、尻尾もふるふると忙しなく軽快に動いていた。
ご褒美を食べ終えた2頭は地面にある草を食べ始めた。ランドルフはアルフィーの体全体を撫でており、アルフィーも満足げだ。
アルフィーの体は艶があって傷一つない。自分で馬の世話をしている、というのは嘘ではなそうだ。
「本当に馬が好きなのね」
「馬は人間と違ってこちらの期待を裏切らないからな」
自嘲気味な笑みを浮かべてランドルフは言った。
「そうかしら?」
「アルフィーが俺の期待を裏切ったことは一度もないし、これからもないはずさ」
ランドルフはただの馬好きではなさそうだ。
「ちゃんと敬意を持って接し、信頼関係を築くことができたら、馬もこちらを信用してくれるんだ」
ランドルフはアルフィーをペットや家畜ではなく、パートナーとして馬を見ているのかもしれない。
私は別の木のそばの地面に足を伸ばして座った。ランドルフも隣に腰を下ろしたと思ったら、私の膝の上に遠慮なく頭を乗せて横になった。
ずしっと重たい彼の精悍で整った顔が私の腿にある。
私は彼の図々しさに呆れ返った。
「あなたは遠慮というものを知らないのかしら」
「この絶景スポットに来るためにわざわざアルフィーを走らせたんだ」
私は下を向いて彼の顔を覗き込むと、はらりと乱れた横髪が落ちてきた。それを彼は私の耳にかけてくれた。
絶景スポットなんて言っているが、少しも周りの景色を見ようとはしていなかった。
「人間なんて信用できないと思ったのに、君のことがこんなにも気になるのはなぜなんだろうな」
彼はすでに目を瞑っていた。気持ちよさそうに私の膝の上で寝ようとしている彼に、ちょっと悪さをしてみた。
体をかがめて、彼の唇にそっと自分のを重ねたのだ。初めてのキスを自分からするなんて、なんて私ったら大胆なのかしら。
彼の勢いに飲まれていることもあったかもしれない。でも、彼にはその価値があった。
してやったわ、と笑っていると、彼は真剣な眼差しで私を下から見上げていた。
「結婚しよう」
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