傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

文字の大きさ
14 / 55

5 父との決別 過去編

しおりを挟む

 パーティーが終わった後、2人で会ってデートを重ねた。どんどん距離は縮まり、私たちの情熱は燃え盛った。


「遠乗りに行こう」

 馬が好きなランドルフの提案で、2人で遠乗りに出かけた。私は牧場育ちのため、当然乗馬はお手のものだ。ランドルフも貴族の嗜み以上の腕前を見せてくれた。

 彼は愛馬のアルフィーに乗って、私は牧場で飼っている馬のラッキーに乗っていった。

 牧場のそばにある丘の上まで競争した。接戦だったがランドルフが勝ち抜いた。

「なかなかやるじゃないか」

 馬を撫でながら上から目線のその口調だ。子供っぽい眩しい笑顔だった。

 ちょっと憎たらしいけれどやはりかっこいい。

「あなたもね」

 やはり負けたのは悔しいのでツンケンした態度をとった。
 だが彼はそれも面白かったのか、心底楽しそうに手綱を握る。少し先まで馬を走らせて、川があるところで馬を休ませることにして私たちも休憩することにした。

 馬たちに川の水を飲ませて手綱を大きな木の幹にくくりつけた。

「いい子だな、アルフィー」

 ランドルフが愛馬アルフィーの首を撫でて褒めてやると、アルフィーの尻尾が弾んだ。アルフィーは首をランドルフにすり寄せて、ランドルフは優しそうな眼差しで愛馬を撫で続けた。
 
 ランドルフはポケットに入れていた小さな白い固まりを取り出すと、アルフィーの口元にもっていく。
 するとアルフィーはそれを嬉しそうに口をはむはむと動かしてランドルフの手から食べた。

 それに気づいた私の馬のラッキーもランドルフの方に擦り寄った。

「おい急かすんじゃない。お前の分もちゃんとあるから」

 ランドルフは擦り寄ってきたラッキーの頭を撫でた。

「角砂糖をおやつにあげてるの?」

 馬は甘いものが大好きで、特に砂糖が大好きだ。けれど干し草と比べたら高価だから、うちはせいぜいにんじんを与えるくらいしかしていない。

「ご褒美の時だけだがな」

 パーティーの時とは全く印象が違って見える。少年のように爽やかな笑顔にドキリとする。

「ほら、ジュリアもラッキーにあげてごらん」

 私の手のひらに角砂糖を置いた。いつもあげていないので、ちょっと戸惑ってしまった私に気づいたのか、ラッキーが力強く頭を擦り付けて催促してくる。

「わかった、わかったよラッキー。今日だけよ」

 アルフィーにあげて、ラッキーにあげないのかわいそうだし、仕方なく角砂糖をあげた。
 ものすごく美味しそうに口を動かして食べているラッキーがいつにも増して可愛い。ぶるぶると体を動かして、尻尾もふるふると忙しなく軽快に動いていた。

 ご褒美を食べ終えた2頭は地面にある草を食べ始めた。ランドルフはアルフィーの体全体を撫でており、アルフィーも満足げだ。
 アルフィーの体は艶があって傷一つない。自分で馬の世話をしている、というのは嘘ではなそうだ。

「本当に馬が好きなのね」

「馬は人間と違ってこちらの期待を裏切らないからな」

 自嘲気味な笑みを浮かべてランドルフは言った。

「そうかしら?」

「アルフィーが俺の期待を裏切ったことは一度もないし、これからもないはずさ」

 ランドルフはただの馬好きではなさそうだ。

「ちゃんと敬意を持って接し、信頼関係を築くことができたら、馬もこちらを信用してくれるんだ」

 ランドルフはアルフィーをペットや家畜ではなく、パートナーとして馬を見ているのかもしれない。

 私は別の木のそばの地面に足を伸ばして座った。ランドルフも隣に腰を下ろしたと思ったら、私の膝の上に遠慮なく頭を乗せて横になった。
 ずしっと重たい彼の精悍で整った顔が私の腿にある。

 私は彼の図々しさに呆れ返った。

「あなたは遠慮というものを知らないのかしら」

「この絶景スポットに来るためにわざわざアルフィーを走らせたんだ」

 私は下を向いて彼の顔を覗き込むと、はらりと乱れた横髪が落ちてきた。それを彼は私の耳にかけてくれた。

 絶景スポットなんて言っているが、少しも周りの景色を見ようとはしていなかった。

「人間なんて信用できないと思ったのに、君のことがこんなにも気になるのはなぜなんだろうな」

 彼はすでに目を瞑っていた。気持ちよさそうに私の膝の上で寝ようとしている彼に、ちょっと悪さをしてみた。

 体をかがめて、彼の唇にそっと自分のを重ねたのだ。初めてのキスを自分からするなんて、なんて私ったら大胆なのかしら。
 彼の勢いに飲まれていることもあったかもしれない。でも、彼にはその価値があった。

 してやったわ、と笑っていると、彼は真剣な眼差しで私を下から見上げていた。

「結婚しよう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆
恋愛
「ヴィクトリア、紹介するよ。彼女を私の妃として娶ることにした」 (……この人はいったい誰かしら?)  皇后ヴィクトリアは愛する夫からの突然の宣言に混乱しながらも――――心の片隅でどこか冷静にそう思った。  数多の獣人国を束ねている竜人の住まう国『ドラゴディス帝国』。ドラゴディス皇帝ロイエは外遊先で番を見つけ連れ帰るが、それまで仲睦まじかった皇后ヴィクトリアを虐げるようになってしまう。番の策略で瀕死の重傷を負うヴィクトリア。番に溺れるロイエの暴走で傾く帝国。  そんな中いつの間にか性悪な番は姿を消し、正気を取り戻したロイエは生き残ったヴィクトリアと共に傾いた帝国を建て直すために奔走する。  かつてのように妻を溺愛するようになるロイエと笑顔でそれを受け入れるヴィクトリア。  復興する帝国。愛する妻。可愛い子供達。  ロイエが取り戻した幸せな生活の果てにあるものは……。 ※第17回恋愛小説大賞で奨励賞を受賞しました。ありがとうございます!!

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?

基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。 彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。 仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。 王は今日も愛妾のもとへ通う。 妃はそれは構わないと思っている。 元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。 しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。 廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。 王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。 しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。 虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。 ※初っ端から乳弄られてます

処理中です...