70 / 102
第8章 世界を揺らす黒雲
第71話「不穏な空、静かな決意」
しおりを挟む
朝焼けが東の空を照らす頃、天城悠翔は、いつものように牧場の見回りを終えたところだった。
「よし、牛たちも元気そうだし、鶏も卵をちゃんと産んでくれてる……朝のルーチンは問題なしっと」
軽く手を伸ばし、乾いた空気の中に広がる風を感じた。だが、その風の中には、どこかひんやりとした、妙な気配が混じっている。まだ秋の名残を感じさせる季節だというのに、どこか焦げたような、土埃の混じった匂いが鼻をかすめた。
「……何か、変だな」
ふと振り返ると、遠く西の空に、灰色がかった雲の帯が低く垂れ込めているのが見えた。雲の動きは早く、風向きもいつもと逆だ。
「……嵐?」
だが、それは自然のものとは思えなかった。悠翔の中の“加護”が、無言の警鐘を鳴らす。
──これは、ただの天気の変化じゃない。
異変はすぐに表面化した。
午後、いつものように訪れた村の市場で、数人の村人が騒然としていた。
「黒い霧が、西の森から広がってきてるって!」 「昨日、見回りに行ったハンスが戻ってないんだ」 「魔獣が……また活性化し始めてるんじゃないかって話だ」
悠翔は耳を傾けながら、心の奥に冷たいものが流れ込むのを感じた。
「まさか……“黒い雲”って、あの時、北の山で見かけたやつと……」
あの時、ただの魔獣ではない“何か”を感じ取った。女神の加護によって助けられたが、あの黒雲の中には、意志のようなものが宿っていた。
悠翔は市場を後にし、急ぎ自宅兼牧場へ戻ると、ひなのの姿を探した。
「ひなの、いる?」
「うん、ここにいるよ、おにいちゃん」
妹はいつも通りのんびりと布で人形を作っていた。その無垢な表情に、少しだけ救われる。
「しばらく外に出ないで。いいか、今日は絶対、俺の目の届く場所にいてくれ」
「……うん?」
何かを感じ取ったのか、ひなのは小さくうなずくと、素直に従ってくれた。
その夜、悠翔は久々に“ジゼル”と連絡を取った。
《久しぶりね、悠翔。どうしたの?》
「西の空に……黒い雲が出た。村の方でも、魔獣が活発化してきてる」
《そう……そちらにも現れたのね。あれは、“闇の根”の影響》
「闇の根……?」
《古い話よ。この世界の大地の奥深くには、まだ“魔力”とは別の、もっと深い力が眠っているの。それが、少しずつ目覚めかけている》
悠翔は言葉を失った。ジゼルの声も、どこか沈んでいた。
《あなたの“加護”は、そうした変化にも反応する。きっと、これから先、あなたが必要になる》
「俺が……」
《けれど、戦うだけが役割じゃない。あなたには、あなたのやり方で、この世界を守る道がある》
静かに通信は切れた。悠翔は目を閉じ、胸に手を当てる。
──俺に、できることを。
翌朝、村の長老たちが会議を開いた。そこへ招かれた悠翔は、重い口を開いた。
「このままだと、黒雲は村にも届きます。俺の加護がそう告げています。……準備を始めてください。避難のための」
「……避難、か……」
「でも悠翔くん、あんたの牧場がなきゃ、村は越冬できないよ?」
「分かってます。だから、まずはこの牧場を中心に、避難所を整備します。必要な物資は俺が用意する。加護を使って、時間稼ぎもできると思う」
村人たちの目が、真剣に彼を見つめる。
「皆を守る。……だから、信じてほしい」
その言葉に、静かにうなずく者が一人、また一人と増えていった。
こうして、天城悠翔の決意のもと、村は“黒雲の時代”へと備えを始めた。
そして彼自身もまた、見えぬ脅威に向けて、心の準備を固めていく。
彼のそばには、変わらず妹のひなのと、育てた命たちがいた。
---
【イベントログ】
イベント達成:村人会議にて「避難計画」提案成功
新たな兆候:西の空に「黒雲」出現、魔獣活性化
ジゼルからの通信:「闇の根」の存在確認
次の目標:「黒雲」の影響を防ぐため、牧場を中心に避難所を構築
---
「よし、牛たちも元気そうだし、鶏も卵をちゃんと産んでくれてる……朝のルーチンは問題なしっと」
軽く手を伸ばし、乾いた空気の中に広がる風を感じた。だが、その風の中には、どこかひんやりとした、妙な気配が混じっている。まだ秋の名残を感じさせる季節だというのに、どこか焦げたような、土埃の混じった匂いが鼻をかすめた。
「……何か、変だな」
ふと振り返ると、遠く西の空に、灰色がかった雲の帯が低く垂れ込めているのが見えた。雲の動きは早く、風向きもいつもと逆だ。
「……嵐?」
だが、それは自然のものとは思えなかった。悠翔の中の“加護”が、無言の警鐘を鳴らす。
──これは、ただの天気の変化じゃない。
異変はすぐに表面化した。
午後、いつものように訪れた村の市場で、数人の村人が騒然としていた。
「黒い霧が、西の森から広がってきてるって!」 「昨日、見回りに行ったハンスが戻ってないんだ」 「魔獣が……また活性化し始めてるんじゃないかって話だ」
悠翔は耳を傾けながら、心の奥に冷たいものが流れ込むのを感じた。
「まさか……“黒い雲”って、あの時、北の山で見かけたやつと……」
あの時、ただの魔獣ではない“何か”を感じ取った。女神の加護によって助けられたが、あの黒雲の中には、意志のようなものが宿っていた。
悠翔は市場を後にし、急ぎ自宅兼牧場へ戻ると、ひなのの姿を探した。
「ひなの、いる?」
「うん、ここにいるよ、おにいちゃん」
妹はいつも通りのんびりと布で人形を作っていた。その無垢な表情に、少しだけ救われる。
「しばらく外に出ないで。いいか、今日は絶対、俺の目の届く場所にいてくれ」
「……うん?」
何かを感じ取ったのか、ひなのは小さくうなずくと、素直に従ってくれた。
その夜、悠翔は久々に“ジゼル”と連絡を取った。
《久しぶりね、悠翔。どうしたの?》
「西の空に……黒い雲が出た。村の方でも、魔獣が活発化してきてる」
《そう……そちらにも現れたのね。あれは、“闇の根”の影響》
「闇の根……?」
《古い話よ。この世界の大地の奥深くには、まだ“魔力”とは別の、もっと深い力が眠っているの。それが、少しずつ目覚めかけている》
悠翔は言葉を失った。ジゼルの声も、どこか沈んでいた。
《あなたの“加護”は、そうした変化にも反応する。きっと、これから先、あなたが必要になる》
「俺が……」
《けれど、戦うだけが役割じゃない。あなたには、あなたのやり方で、この世界を守る道がある》
静かに通信は切れた。悠翔は目を閉じ、胸に手を当てる。
──俺に、できることを。
翌朝、村の長老たちが会議を開いた。そこへ招かれた悠翔は、重い口を開いた。
「このままだと、黒雲は村にも届きます。俺の加護がそう告げています。……準備を始めてください。避難のための」
「……避難、か……」
「でも悠翔くん、あんたの牧場がなきゃ、村は越冬できないよ?」
「分かってます。だから、まずはこの牧場を中心に、避難所を整備します。必要な物資は俺が用意する。加護を使って、時間稼ぎもできると思う」
村人たちの目が、真剣に彼を見つめる。
「皆を守る。……だから、信じてほしい」
その言葉に、静かにうなずく者が一人、また一人と増えていった。
こうして、天城悠翔の決意のもと、村は“黒雲の時代”へと備えを始めた。
そして彼自身もまた、見えぬ脅威に向けて、心の準備を固めていく。
彼のそばには、変わらず妹のひなのと、育てた命たちがいた。
---
【イベントログ】
イベント達成:村人会議にて「避難計画」提案成功
新たな兆候:西の空に「黒雲」出現、魔獣活性化
ジゼルからの通信:「闇の根」の存在確認
次の目標:「黒雲」の影響を防ぐため、牧場を中心に避難所を構築
---
11
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる