『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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115話『予想外の再会と、閉じたはずの扉』

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「ただいま~!」

玄関のドアが開く音に、リビングで洗濯物をたたんでいた麻衣は顔を上げた。ひなのと悠翔が、習い事のバッグを抱えて元気よく帰ってきたのだ。

「おかえりなさい。ふたりとも、今日はどうだった?」

「ひなのね、縄跳び三回とべたの!」

「えらいじゃん!悠翔くんは?」

「え? ……まあまあ」

どこか気恥ずかしそうにそっぽを向く悠翔に、麻衣はくすっと笑った。何気ない日常。でも、心の奥にほんの少し、ざらついた感覚が残っていた。

あの“深層ミラールーム”で見た映像。

スキルが見せた、自分自身の記憶――そして、映っていたスミレの表情。

(あれは、スキルの未来予測だった? それとも……過去の片鱗?)

深く考えすぎないようにしようと思っていた。けれど、あの鏡の中のスミレが放った一言が、胸の奥に残って離れなかった。

> 「いつか、麻衣さんは自分の“はじまり”を知ることになると思うの」



はじまり、という言葉。
スキルの? この“ゲーム”の? それとも――麻衣という存在の?

その疑問の答えが、思いもよらないかたちでやってくるとは、この時点ではまだ知らなかった。

 

◆  ◆  ◆

「いらっしゃいませ~」

いつものようにカフェのレジに立っていた麻衣は、その人物の姿に、一瞬言葉を失った。

「……え?」

「こんにちは。久しぶり……だね?」

その女性は、落ち着いたネイビーのワンピースに身を包み、髪をすっきりとまとめていた。大人びた佇まい。でもその目元には、かつての少女の面影があった。

「……えっ、嘘。篠原……あやの?」

「そう。びっくりした?」

「え、うそ……中学の時の、クラスメイトの……?」

「そうそう。突然来てごめんね。でも、どうしても話したいことがあって」

麻衣は、しばし呆然としながら、あわてて手にしていたメニューを戻し、あやのを奥の席に案内した。

 

◆  ◆  ◆

「でね、偶然こっちの方面に仕事で来ることになって。地図アプリ開いたら、“この店”がふっと出てきたの。不思議だよね」

「それって、うちのカフェの名前を……検索したの?」

「ううん。検索してないの。“おすすめスポット”に急に出てきて……なんとなく入ってみたら、まさか麻衣がいるなんて」

麻衣は背筋にぞわっとしたものを感じた。

(スキルの反応? いや……もしかしてこれも“導かれて”る?)

「ところでさ……麻衣、もしかして、“アプリ”まだやってる?」

その問いに、麻衣は一瞬呼吸を止めた。

「アプリ……って?」

「……ほら。あのスマホにだけ出てくる、ゲームみたいなやつ。私もね、ある日ふと気づいたらインストールされてて」

あやのがカバンから取り出したスマホには、見慣れたアイコンが表示されていた。

“日常スキル・サポートシステム”
通称「NSSS」と表示された、あの不思議なアプリ。

「……それ、まだ動いてるの?」

「うん。でも変なの。スキルっていうより、“記憶の整理”とか“直感強化”とか、そんな能力が時々発動してる気がする。昔のことも、最近は妙に鮮明に思い出すの。……麻衣は?」

「……私も」

言いながら、ふたりは同時にスマホを開いた。

《ユーザーID:篠原あやの》
《スキル:記憶のトリガー/レベル2》
《共鳴対象:田仲麻衣(レベル6)》
《共鳴状態:一時安定/相互記憶リンク(低)》

「共鳴……?」

「たぶん、私たち、“どこかで繋がってた”んだよ、昔から」

そう言うあやのの目が、すこし潤んでいた。

 

◆  ◆  ◆

あやのが帰ったあと、麻衣はカフェの片隅でそっとスマホを確認した。

《イベントクエスト更新:古き記憶の扉を開く》

(……扉?)

(やっぱり、あの“ミラールーム”はまだ終わってなかったんだ)

扉の先には、何が待っているのだろう。
麻衣は、自分でも気づかないうちに――わくわくしていた。

(私、まだまだ“この世界”を知らなさすぎるのかもしれない)

でも、怖くない。
だって、今の自分には“スキル”がある。家族がいて、支えてくれる人がいて――

そして、同じようにスキルを持つ人たちと、少しずつつながっている。

(どんな扉が開いても、私らしく、やっていこう)

麻衣は静かに、深呼吸をひとつした。

――小さな“日常”の裏に、またひとつ、物語が動き出していた。


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