『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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114話『深層ミラールームと、映し出される記憶』

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 “深層ミラールーム”。
 その名前に導かれるように、麻衣と雄一は共鳴都市の新たなエリアに足を踏み入れた。

 薄い靄が立ちこめる空間の中央には、無数の鏡が円を描くように立っている。
 それぞれの鏡には、過去の記憶や感情がかすかに揺らめいているように見えた。

 

 「……なんか、ここだけ雰囲気違うね」

 「うん。静かすぎて、ちょっと怖いくらい」

 ふたりは、そっと中央の円に近づく。
 そのとき――ひとつの鏡が、ぼんやりと光り始めた。

 

 《対象:麻衣》
 《記憶アクセス:準備完了》
 《確認しますか?》

 

 「……これ、私の記憶?」

 「無理に見る必要はないよ。やめてもいい」

 雄一が気遣うように声をかけるが、麻衣は首を振った。

 「見てみたい。“どうしてスキルが手に入ったのか”、ずっと気になってたから」

 

 確認を選ぶと、鏡が淡い光を放ち、麻衣の前に“過去の映像”が映し出された。

 

 それは――数年前、ひなのが生まれる少し前のこと。

 季節は春。麻衣は書店で、育児本や料理本を手に取りながら、ふと一冊の本に目を留めた。

 『あなたにぴったりのスキル、あります』

 表紙には小さなスマホアイコンと、不思議なQRコード。

 

 (あれ……? 本じゃなくて、あのスマホゲーム……)

 思い出した。
 その場で興味本位にQRコードを読み取り、なんとなくインストールしたアプリ。
 始まりは、まさにその瞬間だった。

 

 「スキルって、選ばれるものじゃなくて、“手に取った瞬間から変わっていく”ものなのかもね……」

 麻衣はぽつりとつぶやいた。

 

 「でも、それをちゃんと育ててきたのは、麻衣自身だと思う」

 鏡に映る“過去の自分”を見ながら、雄一がそっと言う。

 

 ふたりが立ち去ろうとしたそのとき――
 鏡の奥に、もうひとつの影が浮かび上がる。

 「……これは、誰?」

 

 そこには、見覚えのあるシルエットがあった。
 ゆっくりと振り返るその女性の顔には、微笑みが浮かんでいた。

 「スミレ……さん?」

 

 《関連プレイヤーとの記憶共鳴が検出されました》

 

 「えっ、スミレさんとも共鳴……?」

 戸惑う麻衣の前に、新たな通知が浮かぶ。

 《スキル“ゆるやかな共鳴”が進化条件を満たしました》
 《進化候補:選択中》
 《次のステージに進みますか?》

 

 麻衣は画面を見つめながら、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 (スミレさんとも、なにか深い“つながり”があるのかもしれない)

 

 「……行ってみよう。もっと知りたい。私のスキルのこと、つながりのこと――それから、“これから”のことも」

 

 雄一が隣でうなずく。

 「一緒に行こう。どこまでも」

 

 そうしてふたりは、新たなステージ――“共鳴の回廊”へと進む扉を開けた。


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