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Main story ¦ リシェル
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思えば、こんなふうにして泣く時、傍には決まってルシウスがいた。或いはもしかしたら、彼が傍にいてくれるから、私はこんなふうにして泣けるのかもしれない。伯爵家の娘という身分も、しっかりと叩き込まれたはずの“淑女”の所作も、何もかもを忘れて。“リシェル”という名前を持つ、ただひとりの生身の人間として。全てを曝け出した、まっさらな姿で。
そう出来るのが、大切な姉でも大好きなアルベルトでもなく、ルシウスの傍だけなのは、どうしてだろう。彼の傍でだけ、ありのままでいられるのは。
ルシウスと出会った時のことは、今でもはっきりと憶えている。輝かしく、鮮やかに。“リシェル”としての私の人生を大きく変えた出来事のひとつとして。
私たちが街の外れで偶然出くわした時、彼も私も、まだ十にも満たない小さな子どもだった。だからルシウスとの関係は、友人であり、幼馴染であるとも言えるだろう。アルベルトと同じくらい長い年月を共にしてきた、大事な大事な幼馴染。
彼は礼拝者の少ない教会の、更にひと気の殆ど無い建物の裏側で、乱雑に置かれた丸太にひとり座っていた。まるで身を潜めてでもいるみたいに、じっと。
目があった瞬間私は息を呑み、そして不思議なことに、彼もまた息を呑んだことが何となく分かった。多分、第六感的な何かで。
私は思わず間の抜けたような声を漏らしてしまったけれど、ルシウスは驚きつつも、声をこぼすことも、目を見開くこともしなかった。ただただ無表情に私の双眸を凝視するだけ。半ば睨め付けるような視線で。しかしそれにすぐ飽きると、彼は小さな舌打ちとともに早々と顔を背けてしまった。
当時から既に、子どもとは思えないほど整っていた、色の白い小さなかんばせ。凹凸のくっきりとしたその顔に、所々傷や処置の痕があるのに気付いて、私はなんとも言えない気持ちになった。見てはいけないものを見てしまった気まずさのような、或いは、ぎゅっと胸を締め付ける切なさのような。
そう出来るのが、大切な姉でも大好きなアルベルトでもなく、ルシウスの傍だけなのは、どうしてだろう。彼の傍でだけ、ありのままでいられるのは。
ルシウスと出会った時のことは、今でもはっきりと憶えている。輝かしく、鮮やかに。“リシェル”としての私の人生を大きく変えた出来事のひとつとして。
私たちが街の外れで偶然出くわした時、彼も私も、まだ十にも満たない小さな子どもだった。だからルシウスとの関係は、友人であり、幼馴染であるとも言えるだろう。アルベルトと同じくらい長い年月を共にしてきた、大事な大事な幼馴染。
彼は礼拝者の少ない教会の、更にひと気の殆ど無い建物の裏側で、乱雑に置かれた丸太にひとり座っていた。まるで身を潜めてでもいるみたいに、じっと。
目があった瞬間私は息を呑み、そして不思議なことに、彼もまた息を呑んだことが何となく分かった。多分、第六感的な何かで。
私は思わず間の抜けたような声を漏らしてしまったけれど、ルシウスは驚きつつも、声をこぼすことも、目を見開くこともしなかった。ただただ無表情に私の双眸を凝視するだけ。半ば睨め付けるような視線で。しかしそれにすぐ飽きると、彼は小さな舌打ちとともに早々と顔を背けてしまった。
当時から既に、子どもとは思えないほど整っていた、色の白い小さなかんばせ。凹凸のくっきりとしたその顔に、所々傷や処置の痕があるのに気付いて、私はなんとも言えない気持ちになった。見てはいけないものを見てしまった気まずさのような、或いは、ぎゅっと胸を締め付ける切なさのような。
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