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Main story ¦ リシェル
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私が打ち拉がれたのは、でもそんなことではなかった。アルベルトからの贈り物も、力いっぱいの抱擁も、両親からの祝福も。それらはきっかけであれど、原因ではない。
偽りの幸福を演じれば演じるほど。笑顔を浮かべれば浮かべるほど。身体の底の方から、徐々に罅が広がってゆくのに気付いた時、私は全ての終わりを悟らざるを得なかった。もう限界なのね、と。身も心も。何もかも全てが終わりを望んでいるのね、と。
この世に生まれ落ちた時、私たちは確かにふたりだったはずなのに。数十分の差こそあれど。それでも私たちは双子の姉妹として、ともに産まれてきたはずなのに。同じ両親のもとに。母曰く、ふたりともそっくりな産声をあげて。
それなのに――。ほんの僅かでもそう思ってしまった瞬間に、足元から闇が広がってゆくのを感じた。轟々と音を立ててあらゆるものが崩れ落ち、そして、ぽっかりと口を開けた暗闇に引きずり込まれてゆくのを。
奈落へ落ちながら、私は力なくもがいた。辛かったから。胸を引き裂かれたみたいに、或いは、溺れているみたいに。苦しくて、痛くて、たまらなかった。“オリヴィア”だけが祝福され、“オリヴィア”だけが愛されていることそのものよりも、それに心がもう堪えられなくなってしまっている、と気付いてしまったことに、私はひどく絶望したのだ。今日で終わにしよう、と、そう踏み切るくらい。“リシェル”としての自分を、最後の最後まで捨てられなかった自分自身に、私は何より失望し、悲観し、そして憤慨した。どうして私はこんなにも駄目な人間なのだろう、と。大切な人を守りたかったはずなのに。愛する人が幸せならそれで良いと思っていたはずなのに。
これはやっぱり罰だったのだ。みんなは疾うに“ない”ものにしてしまっていたのに。私自身がいつまでもいつまでも“リシェル”にしがみついてしまっていたから。だからこれは、“リシェル”をついぞ殺せなかったことへの、罰。
短剣を手にとった時、私が考えていたのはそんなことだった。絶望と諦念と、そして妙にすっきりとした開放感と、軽やかな安堵の間で。
けれども私は今、こうして生きている。神秘的で、息を呑むほどに麗しい世界の中に佇んで。たくさんの蝶と、たくさんの白いチューリップと、そして大きくて丸い月に見守られながら。
もしかしたら、貴方は憶えていないかもしれないけれど――。静かに瞬き、ゆっくりと振り返りながら、懐かしい記憶を脳裏に思い浮かべる。見つめたアイスブルーの瞳は、相も変わらず美しい。歳を重ねるに連れ、その瞳は大人びた雰囲気を纏うようになったけれど。でも、その奥に湛えられた輝きは、あの時と全く変わっていない。やさしくて、あたたかくて。今も、まるであの時のままだ。誕生日プレゼントとして、初めて贈り物をしてくれたあの時と、少しも変わらない。
もしかしたら、貴方は憶えていないかもしれないけれど。あの時、まだ十歳になりたてだった貴方がくれたのは、マーケットの露店で買ったのだという、一輪の赤いチューリップだった。
偽りの幸福を演じれば演じるほど。笑顔を浮かべれば浮かべるほど。身体の底の方から、徐々に罅が広がってゆくのに気付いた時、私は全ての終わりを悟らざるを得なかった。もう限界なのね、と。身も心も。何もかも全てが終わりを望んでいるのね、と。
この世に生まれ落ちた時、私たちは確かにふたりだったはずなのに。数十分の差こそあれど。それでも私たちは双子の姉妹として、ともに産まれてきたはずなのに。同じ両親のもとに。母曰く、ふたりともそっくりな産声をあげて。
それなのに――。ほんの僅かでもそう思ってしまった瞬間に、足元から闇が広がってゆくのを感じた。轟々と音を立ててあらゆるものが崩れ落ち、そして、ぽっかりと口を開けた暗闇に引きずり込まれてゆくのを。
奈落へ落ちながら、私は力なくもがいた。辛かったから。胸を引き裂かれたみたいに、或いは、溺れているみたいに。苦しくて、痛くて、たまらなかった。“オリヴィア”だけが祝福され、“オリヴィア”だけが愛されていることそのものよりも、それに心がもう堪えられなくなってしまっている、と気付いてしまったことに、私はひどく絶望したのだ。今日で終わにしよう、と、そう踏み切るくらい。“リシェル”としての自分を、最後の最後まで捨てられなかった自分自身に、私は何より失望し、悲観し、そして憤慨した。どうして私はこんなにも駄目な人間なのだろう、と。大切な人を守りたかったはずなのに。愛する人が幸せならそれで良いと思っていたはずなのに。
これはやっぱり罰だったのだ。みんなは疾うに“ない”ものにしてしまっていたのに。私自身がいつまでもいつまでも“リシェル”にしがみついてしまっていたから。だからこれは、“リシェル”をついぞ殺せなかったことへの、罰。
短剣を手にとった時、私が考えていたのはそんなことだった。絶望と諦念と、そして妙にすっきりとした開放感と、軽やかな安堵の間で。
けれども私は今、こうして生きている。神秘的で、息を呑むほどに麗しい世界の中に佇んで。たくさんの蝶と、たくさんの白いチューリップと、そして大きくて丸い月に見守られながら。
もしかしたら、貴方は憶えていないかもしれないけれど――。静かに瞬き、ゆっくりと振り返りながら、懐かしい記憶を脳裏に思い浮かべる。見つめたアイスブルーの瞳は、相も変わらず美しい。歳を重ねるに連れ、その瞳は大人びた雰囲気を纏うようになったけれど。でも、その奥に湛えられた輝きは、あの時と全く変わっていない。やさしくて、あたたかくて。今も、まるであの時のままだ。誕生日プレゼントとして、初めて贈り物をしてくれたあの時と、少しも変わらない。
もしかしたら、貴方は憶えていないかもしれないけれど。あの時、まだ十歳になりたてだった貴方がくれたのは、マーケットの露店で買ったのだという、一輪の赤いチューリップだった。
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