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Side story ¦ ルシウス
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しめやかに執り行われたオリヴィアの葬儀の最中、リシェルはただ懸命に立っていた。白いハンカチをきつく握り締めながら、今にも崩折れてしまいそうなか細い両足で。
亡き最愛の妻に縋り付いて離れようとしないアルベルトを前にすれば、彼女がいつも以上に様々なものを堪えなければならないのは、しかたがなかったのかもしれない。棺の中で、薔薇の花に囲まれて眠る姉を見つながら、それでもリシェルは泣くことはなかった。縋りつきたかっただろう。泣き喚きたかっただろう。けれども彼女は、唯一無二の存在である姉が、冷たい土の下に埋まるまで、一滴の涙もこぼすことはなかった。アルベルトのように取り乱すことも、両親たちのよう肩を寄せて支え合うことも。
だから俺は、ずっと彼女の傍にいた。埋葬を終え、参列者が散り散りになっていくその間も、ずっと。リシェルの傍を離れることなんて、出来るはずがなかった。今にも倒れてしまいそうなほど蒼白い顔をした彼女を。今にも血が滲みそうなほど唇を噛み締め続ける彼女を。放っておくことなんて、俺には到底出来なかった。
――ずっと、あの子の傍にいてあげて。誰よりも、一番近くに。
オリヴィアに頼まれるまでもない。どんなことがあっても、リシェルの傍から離れるつもりなど微塵もなかったのだから。彼女がアルベルトを想い続けようが、別の男と結婚しようが、それでも俺は彼女の“友”として傍に居続けることを、疾うの昔に誓っていた。無論リシェルに打ち明けたことはないけれど。魔法師になる為の学校へ入学を決めた時にはもう、胸の内でかたく決めていたのだ。何があっても彼女だけは護ろう、と。傍にいて、彼女が幸せになる為なら何だってしてやろう、と。――たとえ彼女への想いが実らなくとも、リシェルが笑っていてくれるなら、それだけで良かった。俺はただただ、彼女の全てを護りたかった。どんな手を使ってでも。
妻を失ったアルベルトの憔悴ぶりは言うまでもなかったが、それはリシェルもまた同じことだった。アルベルトや両親の前では、疲労も悲しみも、何もかも隠そうと取り繕っていた彼女だが、ぎりぎりのところで踏ん張っているに過ぎないのは、誰の目にも明らかだった。少なくとも、俺の目には。
大切な娘を亡くして自室に引き籠もりがちになった母親。そんな彼女を気遣い、常に寄り添う父親。独りぼっちの食事が多くなった、と、屋敷の使用人に聞いてから、俺はなるべく頻繁に彼女のもとを訪ねるようにした。徹夜をして仕事を片付けたり、短いスケジュールの間に無理矢理用事を詰め込んだりして。どうにか時間を捻出し、俺は足繁く彼女の顔を見に通った。同僚や部下からは呆れられ、今や「君は俺の専属だろう?」などとのたまう王太子には苦笑を漏らされもしたけれど。周りがどう思おうと、俺は一切気にしなかった。そもそも周りのことなど関係がない。リシェルさえ支えられれば、他のことはもうどうでも良かった。
亡き最愛の妻に縋り付いて離れようとしないアルベルトを前にすれば、彼女がいつも以上に様々なものを堪えなければならないのは、しかたがなかったのかもしれない。棺の中で、薔薇の花に囲まれて眠る姉を見つながら、それでもリシェルは泣くことはなかった。縋りつきたかっただろう。泣き喚きたかっただろう。けれども彼女は、唯一無二の存在である姉が、冷たい土の下に埋まるまで、一滴の涙もこぼすことはなかった。アルベルトのように取り乱すことも、両親たちのよう肩を寄せて支え合うことも。
だから俺は、ずっと彼女の傍にいた。埋葬を終え、参列者が散り散りになっていくその間も、ずっと。リシェルの傍を離れることなんて、出来るはずがなかった。今にも倒れてしまいそうなほど蒼白い顔をした彼女を。今にも血が滲みそうなほど唇を噛み締め続ける彼女を。放っておくことなんて、俺には到底出来なかった。
――ずっと、あの子の傍にいてあげて。誰よりも、一番近くに。
オリヴィアに頼まれるまでもない。どんなことがあっても、リシェルの傍から離れるつもりなど微塵もなかったのだから。彼女がアルベルトを想い続けようが、別の男と結婚しようが、それでも俺は彼女の“友”として傍に居続けることを、疾うの昔に誓っていた。無論リシェルに打ち明けたことはないけれど。魔法師になる為の学校へ入学を決めた時にはもう、胸の内でかたく決めていたのだ。何があっても彼女だけは護ろう、と。傍にいて、彼女が幸せになる為なら何だってしてやろう、と。――たとえ彼女への想いが実らなくとも、リシェルが笑っていてくれるなら、それだけで良かった。俺はただただ、彼女の全てを護りたかった。どんな手を使ってでも。
妻を失ったアルベルトの憔悴ぶりは言うまでもなかったが、それはリシェルもまた同じことだった。アルベルトや両親の前では、疲労も悲しみも、何もかも隠そうと取り繕っていた彼女だが、ぎりぎりのところで踏ん張っているに過ぎないのは、誰の目にも明らかだった。少なくとも、俺の目には。
大切な娘を亡くして自室に引き籠もりがちになった母親。そんな彼女を気遣い、常に寄り添う父親。独りぼっちの食事が多くなった、と、屋敷の使用人に聞いてから、俺はなるべく頻繁に彼女のもとを訪ねるようにした。徹夜をして仕事を片付けたり、短いスケジュールの間に無理矢理用事を詰め込んだりして。どうにか時間を捻出し、俺は足繁く彼女の顔を見に通った。同僚や部下からは呆れられ、今や「君は俺の専属だろう?」などとのたまう王太子には苦笑を漏らされもしたけれど。周りがどう思おうと、俺は一切気にしなかった。そもそも周りのことなど関係がない。リシェルさえ支えられれば、他のことはもうどうでも良かった。
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