79 / 88
第十二話【金平糖の想い出】雨と紫陽花とあの日の追憶
[4]ー1
しおりを挟む
[4]
雨が降っている―――
ぱらぱらと窓や地面や枝葉をたたく雫の音。
ひっきりなしに落ちてくる雨だれの音が、閉じた瞼の向こう側から聞こえていた。
「美寧」
誰かが呼んでいる。
ザーザーと降る雨に混じって聞こえてくる声。少し雨音に似ている。
優しくて静かで包み込むような。大好きな声。
眠りの底から浮上したばかりの意識は、さっきまで見ていた夢と現実をすぐに分けることができない。
けれどその声は、時間も場所も忘れた美寧を“今”へと呼び戻す。
「美寧」
瞼が持ち上がらない。
呼ぶ声は音程も音質もまったく違っているのに、なぜか大好きな祖父が思い出される。
その声の主を見たくて、重たいそれを何とか持ち上げようと睫毛を震わせ、美寧は必死で瞼を持ち上げた。
「ミネ―――」
開かれた双眸に映ったのは、涼しげな瞳の端正な顔。
整い過ぎた顔に表情乗せないため、一見クールに見られがちな彼が、本当はとても優しい人だということを、美寧は最初から知っていた。
あの雨の日に、美寧を拾ってくれた人。
そして、今の美寧になくてはならない人。
「―――ミネ?」
目を開けたのに何も言わない美寧の顔を、少し心配そうな怜が覗き込んでくる。
「どうかし、」
「どうかしたのですか」と怜がすべてを言い終わる前に、美寧は怜の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「っ、……ミネ?」
戸惑った声が聞こえてくる。
そんな声すらも胸の底をじわりと熱くさせて、瞼にも熱が集まってくる。
下瞼にみるみる溜まっていくしずくが、あともう少しでこぼれ落ちそうで―――
何か言いたそうな気配を怜から感じたが、美寧の口から言葉がこぼれ落ちる方が早かった。
「好き…………」
「え?」
「……れいちゃんのことが、好き」
美寧の瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。
【第十二話 了】
雨が降っている―――
ぱらぱらと窓や地面や枝葉をたたく雫の音。
ひっきりなしに落ちてくる雨だれの音が、閉じた瞼の向こう側から聞こえていた。
「美寧」
誰かが呼んでいる。
ザーザーと降る雨に混じって聞こえてくる声。少し雨音に似ている。
優しくて静かで包み込むような。大好きな声。
眠りの底から浮上したばかりの意識は、さっきまで見ていた夢と現実をすぐに分けることができない。
けれどその声は、時間も場所も忘れた美寧を“今”へと呼び戻す。
「美寧」
瞼が持ち上がらない。
呼ぶ声は音程も音質もまったく違っているのに、なぜか大好きな祖父が思い出される。
その声の主を見たくて、重たいそれを何とか持ち上げようと睫毛を震わせ、美寧は必死で瞼を持ち上げた。
「ミネ―――」
開かれた双眸に映ったのは、涼しげな瞳の端正な顔。
整い過ぎた顔に表情乗せないため、一見クールに見られがちな彼が、本当はとても優しい人だということを、美寧は最初から知っていた。
あの雨の日に、美寧を拾ってくれた人。
そして、今の美寧になくてはならない人。
「―――ミネ?」
目を開けたのに何も言わない美寧の顔を、少し心配そうな怜が覗き込んでくる。
「どうかし、」
「どうかしたのですか」と怜がすべてを言い終わる前に、美寧は怜の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「っ、……ミネ?」
戸惑った声が聞こえてくる。
そんな声すらも胸の底をじわりと熱くさせて、瞼にも熱が集まってくる。
下瞼にみるみる溜まっていくしずくが、あともう少しでこぼれ落ちそうで―――
何か言いたそうな気配を怜から感じたが、美寧の口から言葉がこぼれ落ちる方が早かった。
「好き…………」
「え?」
「……れいちゃんのことが、好き」
美寧の瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。
【第十二話 了】
0
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる