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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第3-6節:ポプラの決断と異変
しおりを挟むそんな私たちに対し、旗色が悪くなったことを感じた暗殺者は慌てふためきながらポプラに向かって叫ぶ。
「ま、惑わされるな、ポプラっ! コイツの話はデタラメだ! お前の家族がそんなに簡単に助け出されるわけがないだろう! もし俺たちを裏切れば確実に家族は皆殺しになるんだぞ! いいのかっ?」
「もうお前を縛るものはない。シャロンを解放してくれ。もちろん、僕の話が真実かどうか、どう捉えるかはお前次第だ。判断はポプラ自身に任せる」
暗殺者の言葉に続き、すかさずリカルドは冷静かつ真顔でポプラに問いかけた。対照的な意見と態度が彼女に向けられ、その場にいる全員が固唾を呑んで推移を見守る。
でもその沈黙の間は刹那のことで、私が瞬きをした直後には事態が動く。
ポプラは私を解放し、リカルドの方へ突き飛ばしたのだ。そしてナイフの切っ先を暗殺者たちに向けつつ、私を庇うような位置に素早く移動して彼らと対峙する。
体がよろめいた私をしっかりと抱き締めて受け止めてくれるリカルド。さらにこの状況を見て、阿吽の呼吸でナイルさんやゼファルさん、リーザさんが動いて暗殺者たちの身柄を拘束する。
それからわずかに遅れて兵士さんたちが詰め寄り、彼らをロープで縛り上げた。
「く……くそ……」
ロープで体を縛り上げられ、床に伏せった暗殺者たちはもはや何も出来ず、悔しそうに歯ぎしりをするばかりだった。
その様子を見て安心したのか、ポプラは持っていたナイフを落としてその場にへたり込んだ。きっと張り詰めていた緊張の糸が切れたんだろう。心も体もこの上なく疲弊しているだろうからそれも無理もない。
私がリカルドと視線を合わせると、彼は精悍な顔つきで頷き、彼女の方へとそっと背中を押してくれた。その優しくて寛大な気持ちに感謝しつつ、私はポプラに歩み寄ってその傍らにしゃがみ込む。
「もう安心していいよ、ポプラ」
「シャロン様……」
「今まで辛かったね。でもそれも終わり。これからは心の底から笑える毎日を一緒に送っていこう。ポプラのご家族もフィルザードに呼び寄せて、ね」
「怒って……ないのですか……? それに私の罪だって……」
ポプラは眉を曇らせ、悲しげな瞳を横に逸らした。
それに対して私はクスッと笑いつつ、彼女の肩を軽く叩く。
「怒ってるわけないでしょ。そもそも私はずっとポプラを信じてたから。それに罪なんて、何度も私を助けてくれた功績で恩赦だよ。――それでいいよね、リカルド?」
私がリカルドの方へ振り向いて問いかけると、彼は苦笑しながら無造作に頭を掻いた。そして大きく息を吐く。
「……やれやれ、キミは言い出したら聞かないからな。ま、ポプラの置かれていた事情を考えれば酌量の余地はある。今後もシャロンの専属メイドとして、しっかり働いてくれるなら全てを許そう」
「うんっ、それでいい! ありがとっ、リカルド!」
「お二方とも……本当に……ありが……とう……ございますぅ……。うぅ……ううう……うわぁああああぁーん!」
ポプラは様々な感情が堪えきれなくなったようで、大粒の涙をボロボロと零しながら号泣した。短い時間の間に色々なことがありすぎて、頭も心も情報を処理しきれないんだろうな。まるで無邪気な子どもみたい。
そんな彼女を愛おしく思いつつ、私も周りのみんなもその様子を優しく見守る。
――でも!
「……あぐっ! が……ぁ……」
不意にポプラは全身をビクッとさせ、泣き止んで目を丸くした。その瞳に涙の粒を残しつつ、何かを訴えかけようとする顔で私を凝視する。
さらに左手で喉元を押さえ、右手を弱々しくこちらへ伸ばしてくる。
言葉は何も出てきていない――いや、発したくてもそれが出来ないのか!?
次第に表情は真っ青で苦しそうなものに変わり、わずかに開いた口元からヨダレが垂れたままになっている。
「っ! っ……は……ぁ……っ……く……!」
「ど、どうしたのっ、歩プラっ!」
「か……ぁ……」
私は慌ててポプラの上半身を抱き留め、必死にその体を揺らした。でも彼女の反応は変わらない。それどころか全身が徐々に弛緩していって、目つきも虚ろなものになっていく。
まさかっ、これは呼吸がうまく出来ていないっ!?
彼女の身に何が起きたのか分からず、私も周りのみんなも戸惑いながら騒然とする。
(つづく……)
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