嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第2-1節:公務に参加となった真意

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 翌日の午前中、私はいよいよ本格的に公務に参加することにした。すでに机の片付けはほぼ終わり、これなら以後は公務の勉強に集中できるという判断をしたから。

 ジョセフさんはリカルド様の右隣に立ち、ふたりで書類に目を通したり何かを記入したり話をしたりしながら作業を進める。それはまさに阿吽あうんの呼吸で、流れるように事案が処理されていく。

 もちろん、私にはちんぷんかんぷんなことがほとんどだけど、分からないなりに色々と考えながらリカルド様の左隣に立ってそれを見守る。

 やがてとあるひとつの事案の処理が終わりかけたところで、ジョセフさんが私に視線を向けて問いかけてくる。

「シャロン様、何かご意見はありませんか?」

「いえ、ありません」

「遠慮なさらずとも構いません。これはリカルド様のご指示でもあるわけですから」

「私はフィルザードに来たばかりで、領内や周辺の事情を詳しく知りません。一方、ずっとこの地で暮らして来たリカルド様やジョセフさんは何もかもご存知のことでしょう。そんなおふたりが様々な状況を把握した上でお決めになったことなのですから、それが最善なのではないかと思います」

「……っ……承知しました。では、次の事案の処理に入らせていただきます」

 ジョセフさんはリカルド様の方へ向き直り、持っていた書類の束をめくってそちらに目を落とした。

 ちなみに私が返答した直後、彼は一瞬だけ息をんだような気がするんだけど、実際のところはどうなのだろうか? その理由も心境も見当がつかないし、あるいは単に私の思い過ごしだった可能性もあるけれど。

 それにしても緊張の連続で、さすがに心も体も疲労してきている。まだ慣れていないということもあるし、それを差し引いて考えたとしても公務というのは精神がゴリゴリと削られる仕事だとつくづく思う。

 毎日これを淡々とこなしているリカルド様とジョセフさんには脱帽する。

 ――と、ほんのわずかに気を抜いて小さく溜息ためいきいた瞬間、その姿をリカルド様に目撃されてしまった。思わず私が目を丸くしてドギマギしていると、彼はクスッと微笑む。

「シャロン、疲れたのなら無理せず休んで良いのだぞ?」

「お、お気遣きづかいいただき、ありがとうございます! まだまだ大丈夫です!」

「そうか? それなら良いのだが、もしかして意見を出さないのは疲れていることも原因なのではないか?」

「いえ、本当にどの事案に関する手続きもうなずけるものばかりで、私が口を挟めるようなことがないのです。あらためてリカルド様とジョセフさんのすごみを感じております。これは決してお世辞せじではありません」

「そう言ってもらえると僕も嬉しい。ただ、領内に詳しくないからこそ見える景色もあることだろう。僕は今後のことを見据えてというだけでなく、それも期待してキミをこの場に同席させている。そのことも忘れないでくれ」

「はい、心得ております」

 私に期待してくれて嬉しい反面、やっぱりプレッシャーも感じる。でもそれは決してネガティブなものじゃなくて、奮起や勇気を沸き立たせてくれるポジティブな面の方がむしろ大きい。

 確実かつ速やかに公務に関する知識や経験を積んで、一刻も早くリカルド様の力になりたい。そしていつか必ず夢を叶えて、領民の皆さんと楽しく笑うんだ。幸せな気持ちを共有するんだ。

 私はその想いをあらためてめる。

「――なんにせよ僕がスムーズに公務を処理できるのも、全ては幼い頃から分かりやすく教育してくれたジョセフのおかげだ。お前には感謝してもしきれん」

「リカルド様は相応そうおうに努力を積み重ねてこられました。その結果であって、私の力など微々びびたるものに過ぎません」

 ジョセフさんは浮ついた様子を微塵みじんも見せることなく、あくまでも冷静に返答する。しかも視線は書類に向けたままで、脳内では公務に関する情報の処理をとどこおりなく進めているといった感じだろうか。

 さすが宰相さいしょうとしてリカルド様を支えている右腕。安定感や信頼感は他を寄せ付けないほど突出していて、まさに『いぶし銀』という印象を受ける。

謙遜けんそんするな、ジョセフ。お前がいなければフィルザードはとっくの昔に崩壊ほうかいしていたに違いない」

「恐縮です。ところで、リカルド様にひとつおたずねしてもよろしいでしょうか?」

「うん、構わん。言ってみろ」

 その言葉を聞くとジョセフさんは顔を上げ、真摯しんしな表情で真っ直ぐにリカルド様を見た。見開かれた瞳には気迫と強い意思の力が宿っている。

「今、シャロン様に対しておっしゃった『今後のことを見据えて』というのは、どういう意味なのでしょうか?」

「あぁ、そのことか。僕に万が一のことがあれば、公務に関してはお前だけに負担が掛かることになる。もちろん、姉上もいらっしゃるが無理はさせられない。そんな時、シャロンが僕の代わりを務められるよう、今から勉強してもらおうというわけだ」

「なっ!? シャロン様にっ?」

「私がリカルド様の代わりをっ?」

 ジョセフさんと私はほぼ同時に驚愕きょうがくの声を上げた。その反応から察するに、私だけでなく彼にとってもリカルド様の考えていたことが全く想像もつかないものだったのだろう。


(つづく……)
 
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