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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第2-2節:複雑に絡む思惑
しおりを挟むもちろん、リカルド様は公務に関することを学ばせるため、私に対してこの場に同席するようおっしゃった。ただ、その目的はいずれ公務の一部分を私に任せるなど、あくまでも彼を支える立場の役割を想定しているのだと私は思っていた。
それがまさかリカルド様の代行という、もっと重大なことだったなんて……。
動揺する私たちを他所に、彼は真顔で話を続ける。
「正直、僕の身はいつどうなるか分からない。それは長く政務に携わり、他の貴族たちも見てきたジョセフならよく分かっているだろう。シャロンも僕が何を言っているのか、想像がつくのではないか?」
「リカルド様のお命が狙われている……ということですか……?」
「正解だ、シャロン。ただし、あくまでも可能性の話だがな。直ちにというわけではない。だからといって平和ボケしているのも問題だ。治に居て乱を忘れず。最悪の事態を想定し、備えておく必要がある。――そうだろう、ジョセフ?」
「…………。……はい、おっしゃる通りです」
ジョセフさんはなぜか緊張が走ったように、表情を強張らせながら返事をした。
彼には何か思い当たることでもあるのだろうか? もちろん、私の思い過ごしかもしれないし、確たる根拠がない状態で訊くのも変な話なので黙っておくことにするけど。
治に居て乱を忘れず、か……。
大地は痩せ、目立った産業もないフィルザードは一般的に見れば侵略価値のない領地。でも昔と比べて軍事衝突の危険性が低くなったとはいえ、隣国と接した戦略上の要衝であることに変わりはない。
ひとつ歯車が狂えば、たちまちリカルド様も領地も危険に晒される。
それを考えると、領主である彼が日頃から有事に備え、一定の緊張感を持ち続けているのは当然のことかもしれない。
「フィルザードは皆が考えている以上に脆い面がたくさんあります。兵力や財政力が乏しいということはもちろんですが、リカルド様のお命も非常に危うい急所のひとつ。ゆえに私やナイルはリカルド様を死守せねばなりません」
「現時点でフィルザード家には後継者がいないからな。もし僕に何かがあれば、領内は混沌とするだろう。そうなればフィルザードを掌握するのは容易い。ゆえに敵は最初に僕の命を奪おうとする可能性は充分にあり得る」
「はい……。そしてこの地を足がかりにして侵略や反乱、革命など大きな動きに繋がっていく可能性があります。フィルザードの兵力が貧弱であろうと『領地のひとつが落ちた』という事実はインパクトがありますから」
「だからこそ王様は僕とシャロンの政略結婚を強く推し進め、当地と王家の強い繋がりを内外に示したかったのだと思う。それは隣国のトレイル王国だけでなく、国内に存在しうる不穏な勢力に対しても牽制になるからな」
私はリカルド様たちの話を聞いていて、心の中では衝撃を受けていた。だって私の婚姻には想像以上に複雑な思惑が絡んでいたのだと気付かされたから。
もちろん、トレイル王国に対しての牽制についてはなんとなく想像がついていたけど、まさかイリシオン王国内に対しても牽制する意味合いがあったなんて……。
そもそも国内に不穏な勢力が存在していて、しかもそういう人たちの野心のためにフィルザードが利用される可能性があるとは考えもしなかった。
「だが、そのおかげで僕はシャロンという素敵な伴侶を得ることが出来たわけだがな。今となっては王家からの援助金など、オマケのようなものに感じているくらいだ」
「なっ!? わ、私が素敵な伴侶だなんてっ、戯れはおやめくださいっ!」
私は照れくさくて、瞬時に頬が熱くなった。ただでさえ内心は話の深刻さに動揺しているのに、急にそんな虚を衝くような冗談を投げかけられたら当惑するに決まっている。
そんな私の姿を見て、リカルド様は穏やかな瞳をこちらに向けてくる。
「ふふっ、僕は本気で言っているんだがな」
「っっっ……」
「まぁ、そういうわけだ。内政をより安定させるためにも、シャロンにはそれなりの重荷を背負ってもらわなければならない。こんな運命を辿らせてしまい、本当に申し訳ない」
私に向かって深々と頭を下げるリカルド様。その言動から察するに、この先の私の人生に制約をかけてしまったことに対する決まりの悪さを感じているのだと思う。もうそんなことは気にしなくていいのに……。
(つづく……)
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